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習近平・プーチン・トランプの相互関係 トランプはウクライナ問題解決後、対中攻撃を考えているのか?
アメリカ、中国、ロシアの国旗(写真:イメージマート)
アメリカ、中国、ロシアの国旗(写真:イメージマート)

2月24日、プーチン大統領が習近平国家主席に電話をし、中露の緊密さは永遠に変わらないことを誓い合った。トランプ大統領がどんなに対露接近をしても、トランプ政権が終われば、また民主党のNED(全米民主主義基金)を駆使した「民主を掲げながら親米的でない国家や政府を倒す方針」に戻ることが考えられるからだ。したがって中露の緊密度が変わることはない。

 一方のトランプは「習近平が大好きだ」と公言している。大統領就任式にも習近平を招待したほどだ。実現はしなかったが大統領選挙中に主張した「対中一律60%関税」は無期延期に近い措置を連邦政府に指示した。

 加えてトランプは「ウクライナ問題の解決には中国の協力が必要だ」とさえ言っている。

 このような中、「トランプがプーチンに急接近しているのは、ウクライナ問題を解決した後、対中攻撃に集中するためだ」という言説がまかり通っているが、それは正しいのだろうか?

 ハーバード大学教授の見解も引用しながら考察する。

 

◆ウクライナ侵攻3周年の日にプーチンが習近平に電話

 プーチンによるウクライナ侵攻3周年に当たる2月24日午後、プーチンが習近平に電話をして会談を行った。

 中国外交部の報道によれば、主として以下のようなことを話し合ったとのこと。

 ●習近平:中露両国は、中国人民抗日戦争勝利80周年と世界反ファシズム戦争勝利80周年を記念する活動の実施を含め、各分野での協力を着実に進めている。歴史と現実は、中露は決して引き離すことのできない良き隣国であり、苦楽を共にし、支え合い、共通の発展を目指す真の友人であることを示している。

 ●習近平:中露関係は独自の戦略的価値を有しており、いかなる第三者に向けられたものではなく、いかなる第三者からも影響を受けるものではない。

 ●習近平:国際情勢がどのように変化しても、中露関係は冷静に前進し、互いの発展と活性化に貢献し、国際関係に安定とプラスのエネルギーを注入するだろう。

 ●プーチン:「ロシアは中国との関係を非常に重視している」、「中国との関係発展は、ロシアが長期的視点から行った戦略的選択であり、決して一時的な措置ではなく、一時的な出来事によって左右されることも、外部要因によって妨げられることもない。現在の状況下で、ロシアと中国が緊密な意思疎通を維持することは、新時代の両国の包括的戦略的協調パートナーシップの精神に合致しており、ロシアと中国が国際情勢において安定的な役割を果たしていることを示す前向きなシグナルを送ることにもなる。

 ●プーチン:米露接触に関する最新状況とウクライナ危機に関するロシアの原則的な立場について説明し、「ロシアはウクライナ紛争の根本原因を排除し、持続可能で長期的な和平計画に到達することに尽力している」と述べた。

 ●習近平:昨年9月、中国、ブラジル、南半球のいくつかの国は、ウクライナ危機の政治的解決を促進するための雰囲気を醸成し、条件を蓄積するために、共同でウクライナ危機に関する「平和の友人」グループを設立した。中国は、危機解決に向けてロシアとその他の関係国が行った積極的な努力を歓迎する。

 ●中露双方:今後もさまざまな手段を通じて意思疎通と調整を維持していくことで合意した。(以上)

 

 これらから読み取る限り、中露双方とも、「(米露接近など)いかなる国際情勢の変化があろうとも、中露関係は永遠に不滅である」ことを強調しているように見える。現実問題として中国は石油や天然ガスなどを大量にロシアから輸入し、ロシアは広範囲にわたる製品を中国から輸入している。この日常生活における相互依存は、ちょっとやそっとの外圧によって崩れるものではないだろう。

 中露首脳電話会談に関してロシア側の発表もあるが、そこには「習近平の5月9日の訪露」や「プーチンの9月3日の訪中」そして「上海協力機構サミット(今年は中国が主催国)のスケジュールを再確認」などの具体的な日程の記述があり、プーチンが習近平に、最近の米露接触に関する報告をしたとも書いてある。そして習近平が「米露間で対話が開始されたことを支持し、ウクライナ紛争の平和的解決に向けた道筋を見出すために中国には協力する用意がある」ことを表明したとある。

 最後に「中露両首脳は、中露の政治的つながりは世界情勢を安定させる上で不可欠な要素であると強調した。この関係は戦略的な性質を持ち、政治的偏見に左右されず、誰かを標的にするものでもない」と強調されている。

 

 ロシア側からの視点を見ても、米露接触による中露関係はさらなる高みへと進展していくことを強調している。「米露接近」という言葉を使わず、「米露接触」という言葉に徹しているのも見どころか。

 トランプ政権のときのみ、トランプがプーチンに接近しているのであって、その期間は非常に短く、すぐにロシアを最大の敵とみなしてきた民主党政権に変わるのは分かっているので、プーチンが安全弁として習近平を手放すはずはないだろう。

 

◆トランプは対中攻撃を用意しているのだろうか?

 トランプ側からしても、トランプの「習近平愛」と「プーチン愛」は尋常ではない。何度も書いて申し訳ないが、トランプは就任直後の1月23日に開催されたダボス会議にオンライン参加し

 ●But I like President Xi very much.(しかし私は習主席が大好きだ)

 ●I’ve always liked him.(私はずーっと彼が好きだった)

 ●We always had a very good relationship.(私たちの関係はいつも素晴らしかった)

と言っている。それはホワイトハウスのウェブサイトに書いてあるので、間違いがないだろう。彼の肉声を確認したい方は、こちらのリンク先を、ぜひともクリックしてご覧いただきたい。まぎれもない事実だ。

 なぜトランプがこのようなことを、就任3日後の1月23日に言ったのかに関しては、2月22日のコラム<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>が理由の一つとして考えられる。ウォールストリート・ジャーナルの報道から推測すると、トランプの大統領当選がわかった11月5日以降辺りから習近平は「深い深い水面下で」、「ウクライナを外したプーチンとトランプだけの和平交渉を進めてはいかがですか?」という「甘い言葉」をトランプ側に投げかけていたことになる。

 トランプとしては、もともとからバイデンによるNEDを使った他国干渉を非難し、「民主」を掲げて非親米政府を転覆させては紛争を巻き起こし戦争ビジネスで国家運営をしていく米政府のやり方に不満を抱いていた。だからNEDの資金支援をしているUSAIDを解体しようと動いているのである。

 2月12日のコラム<習近平驚喜か? トランプ&マスクによるUSAID解体は中国の大敵NED瓦解に等しい>に書いたように、USAID解体はNEDの活動を抑え込むので、習近平としてはありがたくてならない。

 現にトランプが対中強硬でない証拠に、フェンタニルに関する「中国10%、カナダ・メキシコ25%」関税に関しては断行しているが、選挙中に叫んでいた「対中輸入品一律60%」に関しては、トランプ1.0の時の「第一段階合意」(2020年)の実績検証をするよう連邦政府機関に指示しただけだ。実績検証など「まだ検証中です」と言えば、いくらでも延期できる。60%は無期延期したに等しい。

 したがって、<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>に描いた相関図(図表2)には、それなりの信ぴょう性があると考えていいのではないだろうか。 

 その他さまざまなトランプの「習近平愛」現象は、拙著『米中新産業WAR』の【終章 習近平とトランプとイーロン・マスクと】で詳述した。

 

 トランプの「プーチン愛」もまた尋常ではない。トランプは初めての大統領選を戦おうとしていた時に、2016年5月に、キッシンジャー(元国務長官)に師事して外交戦略を学んだ。キッシンジャーは2016年2月3日に、プーチンの招待でモスクワを訪問し、5月18日にトランプを自宅に招いたのである。このときトランプにとっては「キッシンジャーがベトナム戦争終結に貢献したとして、1973年に平和賞を授与された」ことが何より印象的だったのだと、トランプ1.0の時の元側近から聞いている。筆者はその元側近と、日々メールを交換したり国際電話をかけたりなどして、非常に仲良くしていた。

 2016年11月に大統領に当選したトランプは、プーチンと電話会談をし、盛んに「プーチンはいい奴だ」と言うようになった。中国では「トランプとプーチンが口づけしているイラスト」がネットに出回ったほどだ。しかしトランプのその「熱い思い」はロシアゲート疑惑によって裂かれてしまった。

 トランプ2.0では、トランプは「憎きバイデンが起こしたウクライナ戦争」と位置づけ、プーチンとトランプを再度近づけさせたという流れだ。

 

●ハーバード大学教授:トランプは対中強硬派か?

 一方、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院ダグラス・ディロン行政学のグラハム・アリソン教授は、2月5日にワシントン・ポストに<トランプは対中強硬派か? トランプはニクソンのように中国とどのように協力関係を築くことができるのか>という見出しの論考を書いている。

 その要旨だけを拾い上げると、以下のようになる。

 ●共和党の80%が嫌中の中、ドナルド・トランプは以下のように言っている。

  「私は中国を尊敬している」

  「私は習近平国家主席を非常に尊敬している」

  「習近平国家主席は素晴らしい。私が習近平国家主席を素晴らしいと言うとマスコミは嫌がるが、まあ、彼は素晴らしい人だ」

  「私は中国が素晴らしいことを成し遂げてほしい。そう願っている」

  「私は中国を愛している」

 ●大統領選の勝利直後、トランプは習近平を就任式の特別ゲストとして招待しただけでなく、国際的なゲストの中で習近平が第一の地位を占めると保証した。

 ●12月7日、ノートルダム大聖堂の再開に際し、ウクライナのゼレンスキー大統領とフランスのマクロン大統領と三者会談した後、トランプ大統領は会話を要約した投稿を(Truth Social)にしているが、そこには奇妙な一文が含まれていた。ウクライナ和平の見通しについて、トランプ大統領は「China can help(中国が助けてくれる)」と書いたのだ。これは興味深い。国連でも、NATOでも、ローマ法王でもなく、中国だ。トランプ大統領と習近平主席、そして習近平主席とプーチン大統領との最近の電話会談に関する公式報告書の行間を読むと、トランプ大統領はウクライナ戦争を終わらせるための停戦交渉または停戦の実施に習近平主席をパートナーとして関与させようとしているように私には思える。(以上)

 

 その通りである。

 さすがに、鋭い勘だ。

 トランプの投稿はTruth Socialにあるが、そこにはI know Vladimir well. This is his time to act. China can help. The World is waiting! (私はウラジミールを良く知っている。今こそ彼が動くべき時だ。中国が助けてくれる。世界は待っている!)と書いてある。このウラジミールは言うまでもなくウラジミール・プーチンのことだ。二人はファーストネームで呼び合う。

 世界の誰も気にしていないChina can helpの3つの単語に、よくぞ注目したものだと、ハーバード大学のグラハム・アリソン教授に敬意を払わずにはいられない。もし彼が拙稿<史上最大のディール! ウクライナ停戦「米露交渉」案は習近平の「トランプへのビッグプレゼント」か?>を読んでくれたら、きっと、すべてのジグゾーパズルが綺麗に填め込まれるのを発見することができるのではないかと期待する。

 結論を言えば、トランプがウクライナ問題解決を急ぐのは、決して対中強硬策に集中したいからではない。トランプはむしろ、ウクライナ問題を習近平の水面下での協力を得ながら、プーチンに接近し解決しようとしていると言っていいのではないだろうか。

 ノーベル平和賞を貰いたがっているトランプの心理を、習近平とプーチンが思う存分「活用」していると表現してもいいのかもしれない。

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。『米中新産業WAR』(仮)3月3日発売予定(ビジネス社)。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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