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中国「反日」のジレンマ なぜ「短期滞在ノンビザ」日本はダメで韓国はいいのか?
JAPAN PASSPORT(写真:吉原秀樹/アフロ)
JAPAN PASSPORT(写真:吉原秀樹/アフロ)

中国は11月2日、韓国など9カ国を15日以内の短期滞在のビザ免除(ノンビザ)対象にすると発表した。日本は対象となっていない。韓国は良くて日本がダメな理由はどこにあるのか?考察を深めると、そこには中国「反日」のジレンマが垣間見える。

◆中国政府ノンビザ対象国追加を発表

 中国政府は11月2日、<中国はスロバキアを含む9カ国に対してビザ免除政策を試験的に実施している>という見出しで9ヵ国のビザ免除を追加的に発表している。内容は以下の通り。

 ――中国外交部領事司は、中国と諸外国との人材交流をさらに促進するため、中国はビザ免除国の範囲を拡大し、「スロバキア、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、アイスランド、アンドラ、モナコ、リヒテンシュタイン、韓国」の一般パスポート保有者に対するビザ免除政策を試行することを決定した。2024年11月8日から2025年12月31日まで、上記の国の通常のパスポートを保有する者は、ビジネス、観光、家族、親族や友人訪問、乗り継ぎなどのために15日を超えない範囲内でビザなしで中国に入国できる。ビザ免除の条件を満たさない者は、入国前に中国渡航へのビザを申請する必要がある。(以上)

 日本にとって気になるのは、なぜ韓国に対して免除するのに、日本がその対象から除外されたかだ。韓国メディアは、韓国が中国のビザ免除対象になるのは初めてだと、驚きを以て伝えている。

 中国は実は、2020年のコロナ禍以前は日本に対しても短期のビザなし渡航を認めていたが、コロナ禍を受けてすべての国に対してノンビザを停止した。コロナ終了に伴い中国は短期ノンビザ対象国を広げているが、日本はこれまでのところ対象となっていない。日本側は再開を要望しているが、中国政府は中国人の訪日でも同様に免除する「相互主義」を求めて応じていないと一般に言われている。果たしてそうだろうか?

◆日中双方にない外交・公用ビザ「相互免除」

 2024年5月28日、中国領事服務網は<中国と外国の相互ビザ免除協定一覧表>を公開している。

 この中に「日本」はない。

 G7が全てないのかと言ったらそうではなく、「ドイツ、フランス、イギリス、イタリア」は入っている。しかし、日本以外に、「アメリカとカナダ」も入っていない。G7以外でクワッドなどの対中包囲網に参加している国を見てみると、インドやオーストラリアも免除されていない。

 しかし、たしかに「韓国」は入っている。中国と韓国の間では

    2013年8月10日に外交旅券保持者に対して、

    2014年12月25日に中国側公務旅券に対して、
    2014年12月25日に韓国側官用旅券に対して、

それぞれビザを免除することが取り決められた。

 それなら日本はどうなのかを確認してみよう。

 日本の外務省の令和6年(2024年)10月1日時点における<外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国>を見ると、たしかに中国が入っていない。

 しかし、日本はコロナ前も中国を外交・公用旅券免除国にしていないのに、中国は日本に対して短期ビザ免除を実施していた。

 したがって、「外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国」の対象国にしないことが理由ではないことが明白だろう。

  その証拠に、オーストラリアの場合、「外交・公用旅券所持者に対する外交・公用旅券免除国」の対象ではないのに、今年6月には短期ビザが免除された

◆では、なぜ日本は免除されないのか?

 今年7月30日、駐日本国の呉中国大使は記者会見で<ビザ免除再開しないのは「日中関係が原因」>と述べ、日本に対して改善を求めた。報道によれば、日本人が訪中する際のビザ免除が再開されない理由について、呉大使は「中日関係の全体の雰囲気や、直面している困難、立場の違いが関係している。条件面の調整ではなく、停滞する日中関係が影響している」という認識を示したとのこと。

 日中関係がコロナ前とコロナに入ってからでは、どのように違っただろうか?

 考えられるのはバイデン政権になったあと、日米豪印による「クワッド」や米英豪による「オーカス」などの小さなグループを最大限に活用して対中包囲網を形成し始めたことだ。

 それでもオーストラリア(豪)などがグループのメンバーであっても短期ビザ免除になったのは、「日本ではないから」である。

 韓国など、米韓軍事同盟により激しい軍事演習をやっていても、ノンビザの対象になる。それもやはり「日本ではないから」だ。

 なぜ「日本」だといけないのか。

 それは中国から言わせれば「中国を侵略したから」以外のなにものでもない。

 毛沢東はそもそも日中戦争時代に日本軍と共謀して国民党軍の蒋介石をやっつけようとしたくらいだから、プロパガンダでは「抗日戦争を戦っているのは共産党軍だ」と主張して民衆を惹きつけるために激しく「抗日」を叫んだが、実際は1956年に遠藤三郎(元大日本帝国陸軍中将)などを中南海に招聘して「皇軍に感謝する」と言ったくらいだ。

 しかし、その毛沢東でさえ、日本が朝鮮戦争の武器弾薬の倉庫となり日米安保条約を結ぼうとしたときには「反対武装日本」運動を全国的に大々的に展開した。街のいたる所に「中国侵略を終えたばかりの日本が、アメリカのポチになって再軍備をしようとしている」ことを表すポスターが掲げられていた。

 江沢民が反日教育を始めたあとは、拙著『中国「反日」の闇 浮かび上がる日本の闇』にも詳述したように、日本が国際社会で現在どのような動き方をしているかをつぶさに教える学習指導要領に沿って、若者は時々刻々の日本の動きを日々教えられる。だから日本の政治姿勢を実によく知っている。結果、「日本帝国主義」への怒りは、「現在の日本」へと投影されていく。

 それがネットで拡散して、「反日感情同調圧力」となっているのだ。

 岸田元首相はバイデンに諂(へつら)ってNATOの東京事務所を設置すべく動いていたし、自民党総裁選前の河野太郎氏は9月9日、NATOへの日本の加盟に関し「将来、そういう選択肢があってもいい」と述べ、首相に就任した場合、NATOの連絡事務所を東京に誘致する考えも示した。そして石破首相は今も「アジア版NATO」の考えを否定してはいない。

 「そのような日本を許してなるものか」という憤りが中国社会全体に流れている。かかる状況で、もし日本に甘い顔を見せたら、ネット民がどのような反応をするかは、中国政府は百も承知だ。

 韓国に短期ノンビザを認めただけで、中国のネットは荒れている

 ましてや日本になどノンビザを認めたら、若者がどれだけ習近平を「売国奴」と罵るかわからない。

 だから、今はできないのだ。

◆反日のジレンマ

 習近平としても日本企業には投資してほしいし、特に日本の半導体製造装置関連企業には中国に協力してほしくてならない。多くの観光客にも訪中してほしいからこそ、コロナ後に短期ノンビザ対象国を増やしているところだ。

 しかし、日本が台湾独立や軍事拡大の方向に動き、ましてや徒党を組んで対中包囲網などを試みようとしている限り、絶対に日本に甘い顔をするわけにはいかない。

 そこには「反日教育」を強化するしかないところに追い込まれた習近平のジレンマがあるはずだ。胡錦涛政権初期に胡錦涛は「過度の反日教育はナショナリズムを招き好ましくない」として馬立誠に「対日新思考」を書かせたところ、胡錦涛は売国奴として罵倒され、2008年の時には「現在の李鴻章」とまで言われて危機一髪の状況にまで追い込まれている。

 習近平が中共中央総書記に選ばれることになっていた2012年秋、建国以来最大規模と言ってもいいほどの激しい反日暴動が起きた。だから11月に総書記になった習近平は、江沢民が始めてしまった「反日教育」を強化する以外に選択肢はなかったのだとも言える。

 しかしもし、明日5日の米大統領選で「アメリカ・ファースト」のトランプが当選したら、事態は一気に変わっていく可能性もないではない。なぜなら、高関税はかけても、徒党を組んでじわじわと対中包囲網を形成したり、NED(全米民主主義基金)を暗躍させて台湾独立をそそのかすような動きを、トランプはしないからだ。

 日本が対米追随をしても、そこそことなる。

 明日の米大統領選の結果が待たれる。

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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