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モスクワ・テロ 中国報道とモスクワ便り「又してもヌーランドか?」
モスクワ郊外のコンサート会場で銃撃

 ロシアの首都モスクワ郊外のコンサートホールで3月22日夜、テロが起き、多数の犠牲者を出している。この事件に関して中国には膨大な情報が飛び交っているので、まずは中国側の報道を考察する。

 次にモスクワに戻った昔の教え子から来た貴重な内部情報を基に、「背後にいるのは誰か?」を追跡分析する。

 

◆中国の報道

 中国では事件が起きた夜から激しいほどの報道がくり返され、中央テレビ局CCTVも中国政府通信社の新華網も、それぞれ特集のウェブサイトを立ち上げて、ほとんど分刻みで細かな情報をアップロードしているので、24時間読み続けても読み終わらないほど情報が溢れ出ている。中には動画による解説も多いので、それを整理してご紹介するのは困難だ。

 加えて民間のウェブサイトや個人のブログあるいはSNSなど、絶え間なく湧き出る情報があるため、「中国ではこう考えている」と結論づけるような交通整理ができない。

 そこでやむなく、新華網が3月24日の時点で<ロシアのコンサートホールでのテロ攻撃の背後にいるのは誰か?>という見出しで、動画を交えず主として文字を用いて報道しているので、それを中国政府の代表的な視点と位置付けてご紹介したい。

 そこには主として以下のように書いてある(概略骨子)。

 ●ロシアの首都モスクワ郊外、クラスノゴルスクのコンサートホールで22日夜、テロが発生し、133人が死亡した。現在、テロ攻撃の背後にいる人物の身元については、過激派組織「イスラム国」が事件を引き起こしたと主張する一方で、ロシア側は容疑者がウクライナ側と関係があると考えているなど、さまざまな説がある。

 ●プーチン大統領は23日のテレビ演説で、これは周到に計画されたテロ攻撃だ。テロリストとその背後にいる扇動者が誰であろうと、テロ攻撃の全ての実行犯、組織者、計画者は厳しく罰せられるべきだと強調した。

 ●プーチン大統領はまた、テロ攻撃の捜査の進捗状況を明らかにし、テロ攻撃の直接の責任者である4人を含む合計11人が逮捕されたとした上で「テロ攻撃の直接の加害者4人は、ウクライナの方向に隠れて逃げようとした」と述べた。

 ●暫定的な情報によると、ウクライナ側は国境を越えるための「窓口」を用意していた。 ロシア連邦保安庁(FSB)とその他の法執行機関は、テロリストへの輸送手段の提供、脱出ルートの計画、武器や弾薬の準備と隠蔽における全ての共謀を調査している。

 ●FSBは23日に声明を発表し、容疑者はテロ攻撃を実行した後、ロシアとウクライナの国境に逃亡し、車でウクライナに入国しようとし、最終的にブリャンスク州で逮捕されたと述べた。FSBは、容疑者はウクライナ側と関係があると強調した。

 ●ロシアの新聞「イズベスチヤ」のウェブサイトは、テロ攻撃の目的は人質を取って要求することではなく、「当局と諜報機関の無力さを浮き彫りにする」ためにロシア国民を威嚇することだったと反テロ専門家の発言を引用した。

 ●テロ攻撃の背後にいる首謀者の身元についてさまざまな説がある。CNNによると、過激派組織「イスラム国」がテロ攻撃を引き起こしたと主張している。

 ●RIA「ノーボスチ」は、関連するアメリカメディアの情報は未確認であると指摘した。

 ●「ロシア・トゥデイ・メディア・グループ」のシモニャン編集長は23日、テロ攻撃の容疑者2人を尋問する動画を自身のSNSに投稿した。そのうちの1人は、1ヵ月前にソーシャルメディアを通じて「コンサートホールにいる全員を無差別に撃ち殺し」、武器と資金を提供するよう要求されたと話した。

 ●ロシア内務省は23日、ブリャンスク州で逮捕されたテロ攻撃容疑者4人は全員外国人だと発表した。

 ●ロシアメディアの報道によると、今月7日、在ロシア米国大使館はウェブサイトで声明を発表し、過激派がモスクワの大規模な集会に攻撃を仕掛けようとしていると述べた。また、声明には「コンサートも含まれる」と明記されている。

 ●米国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官は、3月上旬、米国側はモスクワとその周辺地域でのテロ攻撃の可能性を懸念し、米国市民に注意喚起を送ったが、米国側は上記の警告が「22日の銃撃事件」との関連性を現在判断できていないと説明した。カービー氏はまた、米国側は現在、ウクライナ人が何らかの形で事件に関与している兆候は見られないと述べた。

 ●これに対し、ロシア外務省のザハロワ報道官は23日、テロ攻撃に対する米国政府の対応は「疑念に満ちている」と述べた。「米国側は、どのような根拠で、特定の側が関与していないと結論づけるのか」と疑問を呈した。米国側が信頼できる情報を持っているのであれば、ロシア側に提供すべきだと述べた。

 ●ウクライナ外務省は声明を発表し、ウクライナがテロ攻撃に関与した疑いがあるというロシアの非難をウクライナ側は「断固として拒否する」とし、ロシアの非難はロシア社会の反ウクライナ感情を煽ることを目的とした「意図的な挑発」だと述べた。ウクライナ大統領府顧問のポドリャク氏もソーシャルメディアで、キーウがテロ攻撃に関与していることを否定し、「ウクライナは事件とは何の関係もない」と述べた。

 ●近年、ロシアはテロ対策を強化しており、モスクワはおろかロシア全土でも大規模なテロ攻撃はまれだ。昨年12月12日、FSB長官で国家テロ対策委員会のボルトニコフ委員長は、2023年のロシアの対テロ活動の結果を紹介する際に、ロシアは昨年、146件のテロ未遂を含む228件のテロ犯罪を防止したと述べた。ロシア側はまた、73の秘密テロ組織の活動を妨害した。

 ●しかし、このたびのテロ攻撃はロシアの安全保障のギャップを露呈させた。ロシアの政治学者ミハイロフは「ロシア政府が大規模な大衆活動のための組織プログラムを改善する必要がある。テロ攻撃を実行した犯人は非常に専門的であり、建物の内部環境、出入り口の位置、警備員の配置を熟知しており、関係者が事前に事件の場所を詳細に調査している可能性が高い」と指摘した。

 ●ロシアの軍事専門家であるダンディキンは「テロリストがコンサートホールに武器を持ち込めたこと自体、関係省庁が深く反省し検討する必要がある」と指摘した。(新華網の骨子は以上)

 長々と書いて申し訳ないと思うが、中国が如何なる立場からこの事件を見ているかを知るためには、ここまで書かないと十分には浮かびあがって来ない。ここから見えるのは、中国は案外に中立的で、必要不可欠の情報を万遍なく拾っているということだ。

 

◆モスクワは「ヌーランドに焦点を絞っている」

 その一方でモスクワはどう見ているかを、既にモスクワに戻っている昔の教え子に聞いてみた。すると「まだ未解決なので、あくまでも個人の感想ですが」と前置きして以下のような骨子の返事をくれた。

 ●クレムリン筋では、ウクライナ情報総局ブダノフ局長が作戦、実行指揮をした可能性が高い、と現時点では見ていると伝えてきています。ブダノフ氏はナワリヌイ死去についても「これは自然死である」と断言した人です。遠くウクライナにいて、なぜ断言できるのかと思いますが、彼はCIAやMI6に近い人物と言われていて、「とにかくロシア人は軍人、民間問わず全て殺せ」と公言しています。この局長の下で、既にテレビコメンテーターのドウギナに対する自動車爆破殺人、クリミア橋の爆破、右派ブロガー・タタルスキーのサンクトペテルブルクのレストランでの贈呈品に時限爆弾をしかけての爆破殺人など、既に「前科」が十分にあります。

 ●逮捕された4人の実行犯の一部供述は、逮捕現場近くで、撮影され、昨日当地のテレビでも放映されてそれも見ましたが、ほぼ全員が中央アジアのかなり貧しい国々の人間で(おそらくタジク人だと思われます)、ロシア語がかなり下手で、ひとりは全く話せない、宗教的背景というよりも金銭的利益につられて実行した、という感じがありありでした。

 ●彼らは単に利用されただけ、そもそも宗教的背景が強いというのであれば、恐らく自爆するか、「アラー万歳!」とか、もっと言いそうなものですがそんな感じは全くしませんでした。

 ●注目すべきは、犯行者たちは犯行現場から逮捕された現場まで、コンサートホールの真ん前にある幹線道路を3時間以上にわたって、何の問題もなく車で逃走できたことです。逃走した車のナンバーなどはすぐにカメラで追跡できたはずで、しかもロシアの場合、大体州を越える際や都市を超える際には検問所が通常でもあり、何らかの幇助をしたロシア官憲の人物がいるのではないか、とも疑われています。

 ●アメリカが事前にこのテロを知っていたというのは確実で、駐露アメリカ大使館が出していた警告は、私も見ています。

 ●ヌーランドが「近くプーチンを驚かす事件が起きる」などと言っていたこともあって、彼女がCIAやMI6と密接に連携していた可能性はあります。これを追及するのが喫緊の課題だと思われます。ヌーランドは90年代にNATOの米国現地代表を務めていた時期があり、この間多くの欧州の国防関係者と軍事や諜報に関する情報を共有し、CIAやMI6とも親交を深めていったと思われます。マイダンクーデターも指揮・指導はヌーランドだったことは既に明白です。

 ●ノルドストリーム爆破もCIAが実行部隊だったことはほぼ確実ですが、実行提案はヌーランド、実行許可はバイデン、という構図だと思います。

(昔の教え子からの返事の概要はここまで)

 なお、ヌーランドが「近くプーチンを驚かす事件が起きる」と言ったのは今年1月31日にキーウを訪問したときの発言でウクライナ・メディアのUKRINFORMが<プーチンは今年、戦場で“驚くことに”直面するだろう――ヌーランド>という見出しで報道している。以下に示すのは、その報道に載っているヌーランドの写真だ。戦争中なので、どこも「戦場」で、ロシアを戦場にしてやるという意味も含まれているかもしれない。

プーチンに驚きのプレゼントを予告するヌーランドの写真

出典:UKRINFORM

 

◆駐露アメリカ大使館のテロ予告

 以下にその予告の画像を示す。

図表1:駐露アメリカ大使館のテロ予告画面

出典:駐露アメリカ大使館ウェブサイト

 図表1の手書き赤線の部分をご覧いただければ、コンサート(ホール)でもテロが起きる可能性があるので気を付けろ、と書いてあることが読み取れる。

 

◆テロ犯行者の脱出ルート

 新華網やモスクワに戻った昔の教え子などの情報にさらに最新の情報を加えて、テロ犯行者の脱出ルートをGoogleマップを用いて作成してみた。所要時間はGoogleマップに書いてある通りのものが残っているが、犯行者たちは猛スピードで逃げたはずだから、3時間くらいのちに捕まったのだろうと想像される。

図表2:テロ犯行者の脱出ルート

Googleマップを使い筆者作成

 明らかに、犯行後ウクライナに向けて直行しているのが見て取れるので、背後にウクライナがいないというのは難しいかもしれない。

 あるいは3月8日のコラム<ドイツ空軍のクリミア大橋爆撃機密会話漏洩 煽っていたヌーランドは遂に更迭か?>の場合と同じように、ロシアが既に「盗聴」していて、証拠を握っている可能性もなくはない。

 2022年5月1日のコラム<2014年、ウクライナにアメリカの傀儡政権を樹立させたバイデンと「クッキーを配るヌーランド」>でも書いたが、マイダン革命時におけるヌーランドと当時の駐ウ・アメリカ大使との密談を録音してリークしたのもロシアだった。

 読者と共に、今後の事件解明とヌーランドのゆくえを考察し続けたい。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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