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日本の裏金・派閥と中国の政治構造
自民党本部(写真:アフロ)
自民党本部(写真:アフロ)

自民党の裏金・派閥問題が深刻化している。一党支配体制である中国ではどうなのだろうか?民主主義と専制主義における政治体制のメリット・ディメリットを比較考察してみよう。

 

◆日本の自民党の裏金と党内派閥

自民党の裏金と派閥問題に関しては日本で十分に情報提供されているので、今ここで改めて説明することはしない。しかし何かお役に立つかもしれないので、私が実際に経験した模様から少しだけ状況をご紹介してみたい。

2012年3月に江沢民時代と胡錦涛時代における凄まじい権力闘争を描いた『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』を出版すると、たちまち増刷され日本記者クラブで講演したり、NHKの日曜討論に出演したりするようになった。自民党からも声が掛かり、いわゆる「パーティー」への招待状が来たり、安倍政権時代になると「桜を見る会」の招待状が来たりと賑々しくなったものだ。

ここでは「パーティー」だけに話を絞ろう。

パーティーには「御招待」と一般参加の別があるようで、私の場合は「御招待」と書いてあるが、それでも「一口二万円」という文字が載っている資料が同封してあったように思う(資料があまりに多いので捨てているか、捨てていなかったとしても探し出すのは困難なので、同封してあった資料の文言などに関しては、多少正確さを欠いている部分もあるかもしれない)。

送られてきた書類には事務担当者の連絡先があったので、この「一口二万円」に関して「参加費なのか」を尋ねたところ、「いえいえ、先生は御招待客でいらっしゃいますから、ともかくご参加いただけるか否かのお返事のおハガキだけ返送して下されば、それで十分でございます」という回答があった。パーティーには必ず「招待状」を持参するようにと念を押されたので、パーティー会場受付で「招待状」を見せると、「よくぞいらっしゃってくださいました。さあさあ、どうぞ奥へお進みください」とパーティー会場に案内された。

著名な大物自民党議員の派閥のパーティーなので、派閥の長が挨拶をし、満場の拍手で迎えられていた。その後何名かの代表者のスピーチがあって乾杯に入ると、会場はまるで戦場のような熱気に包まれた。

大企業の社長は、その派閥が輩出している関係大臣筋などにご挨拶をするために争って前に出ようとする場面もあれば、あまりに人数が多い場合は長い列を作ったりと、あちこちに「熱い塊」ができ上っていた。議員自身も、デンと椅子に座っている派閥の長の前に列を作り、挨拶する際は跪(ひざまず)いて(膝を床に付けて!)神々しき相手に話をする姿勢だ。

おお――!

何という序列社会――!

のちに関係者から聞いたところによれば、派閥の長の「覚え愛でたい」存在でなければ出世は絶対に無理なので、同じ派閥の議員でも派閥の長に直接話をする機会は少ない場合もあるので、この時ぞとばかりに好印象を与えようと必死なのだという。

また外部からの民間企業の社長などは、仕事の発注の際に便宜を図ってもらうために少なくとも「十口」くらいは出す人が多く、それらがその派閥の活動資金に使われるのだそうだ。

派閥の人数が多くないと、自民党総裁候補の時などに自派から出せないので、ともかく自身の派閥の人数を増やし、その議員が再当選できるように派閥は努力する。それが裏金として還流させる原因を作っているのだろう。

派閥では確かにその派閥独自の学習会を開いていて、私はその学習会にも講師として呼ばれ何度も講演を行ったものだ。それらを通して感じたのは、たとえば対中問題などに関して派閥ごとに違いがあるなど、こんなに主義主張が異なるなら、同じ自民党にいないで、共通の理念だけを持つ派閥が離党して他の政党を作ったらどうなのだろうかということだった。

しかし分党しないのは、同じ自民党にいるからこそ「政権与党」として大臣にもなれれば、時には総理大臣にもなれるわけだから、他党連合のような強固な派閥が党内にあったとしても、当選と立身出世のためにのみ議員になっている政治家が多いので、「自民党」という枠組みは崩さないようだ。ほとんどの議員は選挙の際の当選と、当選後の出世しか考えておらず、決して「日本国民を幸せにしよう」とか「日本国の国益のために頑張ろう」といった動機があるわけでないことも段々にわかってきた。

派閥は新人の教育のためにもあるという言い訳は、タレント議員など、それまで政治と無関係の「人気がありさえすればそれでいい」あるいは「自身の派閥の議員数が増えればそれでいい」といった人数の多寡により党内の力にたよって党が運営されていることが理由の一つにもなっている。統一教会との連携なども、「票数」が増えればそれでいいという「当選」が目的化しているからに他ならない。

 

◆中国の腐敗と派閥

では、中国ではどうなのだろうか。

1月10日のコラム<習近平に手痛い軍幹部大規模腐敗と中国全土の腐敗の実態>でも書いたように、中国の腐敗は一種の文化で、特に江沢民時代に軍部の腐敗がピークに達していた。

なぜなら江沢民は1989年6月4日の天安門事件で、時の最高権力者であった鄧小平が個人的に指名して中共中央総書記&中央軍事委員会主席になったようなものだから、北京に政治や人脈的地盤がない。そこで「カネ」でつながった利害関係のネットワークを構築したものだから「腐敗文化」に火が付き、このまま放置したら中国は腐敗で滅亡する寸前まで来ていた。特に軍部における腐敗の蔓延は軍事力を弱体化させ、米中覇権競争に踏み込み始めた中国にとっては致命的な弱点となっていた。

そのため、2013年に国家主席になった習近平は反腐敗運動を大々的に行って軍部の腐敗の巣窟を徹底して叩き、2015年にはハイテク国家戦略「中国製造2025」と軍事大改革を行ったのである。

何度もくり返すが、反腐敗運動は権力闘争などではなく、腐敗の巣窟を叩いて軍事力のハイテク化と中国の製造業や宇宙開発のハイテク化などを推進させるためのものだった。

胡錦涛政権時代までは、腐敗系列が形成した派閥が激しく、党内は一枚岩どころか江沢民を中心として「反腐敗運動をさせまいとする」強固な派閥が胡錦涛政権を抑え込んでいたが、習近平政権になってからは激しい反腐敗運動を展開したので、「カネ」でつながる派閥が形成される余地が少なくなっていった。

その意味では「習近平独裁」という言葉を使うこともできるが、どちらかというと「中国共産党による専制政治の側面を強化した」という表現も出来る。国務院に与えられていた権限が、中共中央に集中化し、真相を見誤る要素を多分に孕んでいる。これに関して論じ始めるとまた長文になってしまうので、少なくとも「党内に党がある」という危険なまでの派閥というのは無くなったと言っていいだろう。

また日本のように個人が政治家になるために「選挙のための不正」をしなければならないという要素も、中国には基本的にない。選挙がないわけではなく、党内選挙は村レベルから中央レベルまであるし、立法機関である全人代(全国人民代表大会)の代表(議員)や諮問機関である全国政治協商会議の代表を選ぶ選挙も全国津々浦々行われている。但し、立候補者を中国共産党が管理する選挙管理委員会がコントロールしているので、西側諸国のような「普通選挙」が行われているわけではない。

人材育成に関しては、6歳から入隊できる少年先峰隊(1億1467万人)から始まり、14歳から入隊資格を得る中国共産主義青年団(7358万人)、28歳で入党資格を持つ中国共産党員(9804万人)という訓練と評価を経て中央に駆け上っていく。日本のようにタレント議員などという現象が入り込む余地はない。その意味では国家戦略を練るに当たり、日中では比較の対象にさえなり得ないと言っていいだろう。

ただ、14億の人民の心を「中国共産党こそが最高である」という理念でつないでおくことなど出来ようはずもないので、中国には言論の自由がなく、中国共産党は平気で歴史を塗り替え「国家として嘘をつく」

 

◆「日本式一党支配」を招く自民党の裏金派閥問題

そういう国にだけはなって欲しくないが、だからといって日本の政治がこのままでいいことにはつながらない。

野党が育たない、いや正確には「野党が育たないようにしていく」という日本の政治構造は、自民党内の派閥や「当選と出世だけが目的」という自民党の実態を、今般の裏金・派閥問題が炙りだしてくれた。

その結果、まるで「自民党独裁」の中で、派閥だけが時々交代する「日本式一党支配」を招いているという見方もできる。

それは同時に、「日本国民の幸せを中心に考えているのではない政治」の真相を露呈させたということにもなろう。日本の国益を甚だしく損ねている現実を、国民一人一人が自分自身のこととして直視するのに、残念ながら、良い事例なのかもしれない。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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