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えっ? イエレン米財務長官が中国に媚びた? 3回も連続お辞儀!
The Heatの動画からキャプチャー
The Heatの動画からキャプチャー

7月6日から9日まで訪中していたアメリカのジャネット・イエレン財務長官が中国の何立峰(か・りつほう)副首相に会った時に3回もお辞儀をしたことが話題になっている。李強首相と会ったときもへつらうような笑顔を向けているが、米政界から批判されていると中国の環球時報が11日に報じた。

◆何立峰副首相に3回もお辞儀をしたイエレン米財務長官の動画が米ネットで炎上

アメリカのジャネット・イエレン財務長官は7月6日から9日まで訪中し、その間に10時間以上にわたって中国政府高官と意見を交わしたと、帰国時の記者会見で言っている。

7月7日に李強首相に会い、7月8日には何立峰副首相と会談しており、中国の官側の報道はいたって冷静で淡々としている。

ところが、アメリカのメディアで、イエレンが何立峰に会ったときに、3回もお辞儀をしたことが話題になり、「あり得ない話だ!」というトーンで出回った。そのことがまた中国でホットな話題になっているのである。

あまりに多いので、どれを選んでいいか分からないほどだが、たとえばポップなリズムに乗って報道しているbtTV Business Todayの<US Treasury Secretary Janet Yellen Bows To Chinese Counterpart Multiple Times(ジャネット・イエレン米財務長官、中国高官に何度も頭を下げる)>をご覧いただくと、この音楽と動画のタイトルだけで、どれだけイエレンが3回もお辞儀をしたかにアメリカ人が注目しているかがお分かりいただけるだろう。

その動画には「中国の何立峰(He LiFeng)副首相が一度も返礼のお辞儀をしていないのに、イエレンときたら、短時間に素早く3回も続けざまお辞儀をしている」という説明がついている。

つぎにCRUXの動画<US Treasury Secretary Janet Yellen “Bows” To The Chinese(ジャネット・イエレン米財務長官、中国人に「頭を下げる」)>を見ると、アメリカ人がなぜ怒っているかが画面に書いてあるので、動画の一場面をキャプチャーして以下に貼り付ける。

 

 

出典:CRUXの動画

出典:CRUXの動画

 

そこには、「イエレンのボディランゲージは“ぶざまで卑屈”と批判されている」と書いてある。これが全てだと言っていいだろう。アメリカ人の多くは、イエレンの「3回連続お辞儀」は「媚中だ!」と怒っているのだ。

また、鳴り物入りではなく、いくらかおとなしいForbesのBreaking Newsの動画<WATCH: Janet Yellen Bows To Chinese Vice Premier He …>にも、同様の「3回連続お辞儀」が写し出されている。

以上は相手が副首相の何立峰(He LiFeng)の場合だ。

李強首相との会談の時も、お辞儀とは違うが、3回連続で大きくうなずくように頭を下げ、毎回、李強を仰ぎ見るように見るのである。

たとえばThe Heat:の<Yellen visits China(イエレン訪中)>をご覧いただきたい。その時の李強を仰ぎ見る表情が、何とも「媚びている」とアメリカ人には映るのだろう。

これらの批判を、中国がいちいち拡大して報道するので、イエレンの訪中は、どこもかしこもイエレンの「3回連続お辞儀」と「3回連続頭振り」で賑々しい。

その中の一つが冒頭にも掲載した、以下の写真である(動画をキャプチャー)。

 

 

出典:The Heat(CGTNアメリカ)の動画

出典:The Heat(CGTNアメリカ)の動画

 

CGTNは中国の中央テレビ局CCTVの中国グローバル・テレビジョン・ネットワークの英語による国際ニュース放送チャンネルだ。中国国内では、このムードではないので、CGTNアメリカは、アメリカの「乗り」に合わせて英語ではこういう報道をしているようだ。

◆環球時報が「3回連続お辞儀」に関する社評

中国でこのことが大きな話題になり始めたのは、アメリカでの情報を見たからで、たとえば7月10日の中国共産党機関紙「人民日報」姉妹版の環球時報はThe Paperの報道を引用して<イエレンは訪中で3回お辞儀をしたが、アメリカ側には居たたまれない人もいる:米政界はお辞儀すべきではないと>といった動画付きの短文を発表した。翌11日には<どういう人が、イエレンが中国に媚びたと思うのだろうか?>という、本格的な「社評」を発表した。

そこには概ね以下のようなことが書いてある。

●イエレンのお辞儀は、一部のアメリカ人をイラつかせ、まるで「校長室に呼び出されたようだ」、「中国に媚びている」、「弱みを見せている」などと批判している。元アメリカ政府当局者の中には「アメリカ政府当局者は、永遠に、永遠に、決して頭を下げない!」と、奇妙な声を上げた人もいる。

●もしアメリカ社会が、これほどまで強い反応を引き起こさなかったなら、イエレンのこの動作に気づく中国人はほとんどいなかっただろう。

●イエレンに対する米世論の批判は、アメリカの中国に対する考え方が、いかに狭いかを改めて証明した。

●アメリカは今日でも世界で唯一の超大国だが、その傲慢さ、脆弱さ、中国に対する敏感さはすべて、中国の急速な発展に直面して大きく傷ついたアメリカの信頼から派生したものである。(概要以上)

環球時報は基本的にネットユーザーのコメントを排除するが、今回は珍しく600名以上のユーザー・コメントを載せている。コメントも環球時報側で取捨選択するのではあるが、しかし、ここでは「何を言ってるんだ。アメリカなど信用できない」といったアメリカへの罵倒が多く、社評が言いたいこととは必ずしも一致していない。

◆台湾の反応が面白い

台湾には多くのネットTVがあるが、その中でイエレンの「3回連続お辞儀」に関して大笑いしながら解説し、「イエレンが3回もお辞儀しているのに、何立峰は1回もお辞儀しないどころか、後ろに引き下がったよ」というのがあり、「いや、あれはイエレンがもっとお辞儀できるように、その空間を作ってあげたんだよ」などと付け加えている報道がいくつか見られた。台湾の報道はいつも豪快で、しかも大声を出して笑うので、この解説には思わずこちらも声を出して笑ってしまった。

相当にまともだなと思ったのはCtiTv「中天新聞」の<イエレン大陸訪問のアメリカ国債販売の夢は砕けたのか?>で、以下のようなことを言っている。

●中国大陸の方は8ヵ月連続で金を購入し、徐々に米ドル資産の保有を減らし、金準備を増やそうとしている。この後も、その傾向は続くだろう。

●いま中国大陸は米ドルから脱し、人民元と相手国通貨で取引したりしてアメリカの介入や制裁によって経済が乱れないようにしている。

●アメリカはいつも中国の顔をぶん殴り、最近ではアメリカから制裁を受けている中国企業が1,300社にも及んで中国経済が成長しないように必死で動きながら、今さらアメリカの都合で「デカップリングはしません、だからアメリカ国債を買ってくれ」と言ったって、買うはずがないのでは?

その通りだ。

これは6月29日のコラム<米政府高官の北京詣でが続く イエレン米財務長官来月訪中>に書いた中国のネットユーザーのコメントと共通するものがあり、正直でいい。

中国大陸の官側の報道は今ひとつ歯に衣着せた表現でしかなく、面白味がない。

要は、アメリカは中国に数多くの制裁を科したり、中国経済の成長を阻止しようとデカップリングを試みたりしたが、何せアメリカの製造業はほとんど中国に依存しているので、そのフィードバックに苦しんでいる。だから大統領選を闘うには、ウクライナやNATOに関しては勇ましいことを言いながら、一方では実は経済的には中国の協力を必要としているのだ。

イエレンのお辞儀と笑顔には、それが表れているのであり、米政府高官の北京詣では、この後も続く。前に書いた通り、次はケリー大統領特使(気候変動問題担当)が訪中する。米中の力関係の移行に関しては『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』で詳述した。日本は、この地殻変動を見逃さないようにした方がいいだろう。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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