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米政府高官の北京詣でが続く イエレン米財務長官来月訪中
イエレン米財務長官
イエレン米財務長官

イエレン米財務長官が来月訪中するらしい。米国債を購入してくれと頼みに来るのだろう。ブリンケン国務長官訪中に続いて、中国の反応は冷淡だ。ネットには「来るな!」という反発さえ溢れている。

◆イエレン米財務長官に関する環球時報の報道

中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版が6月29日、<いかなるシグナルか?イエレンが取材で米中間には隔たりがあるので訪中して関係を再建したいと言った>という見出しで、イエレン米財務長官の訪中計画に関する情報を流した。情報源はアメリカの主流メディアの一つであるMSNBC(マイクロソフト+NBC)が現地時間6月28日にイエレンを直接インタビューしたときの回答や27日のブルームバーグの情報などの二次情報を含んでいる。同時に、中国側の見解も専門家に言わせている。報道の概要を以下に示す。

●イエレンは米中間に隔たりがあることを認め、北京との関係再構築に向け中国訪問を希望していると述べた。イエレンはまた「たとえアメリカ側に経済的損失があったとしても、アメリカは国家安全保障上の利益を保護するために行動しており、今後も行動するだろう」と主張した。    

●ブルームバーグは6月27日、関係者の話として、イエレンが7月上旬に中国を訪問し、中国財政省当局者らとハイレベル経済会談を行う予定であると報じた。

イエレンをはじめとするバイデン政権の経済・貿易当局者らは中国訪問に意欲を示し続けているが、バイデン政権は依然として経済・貿易問題で中国を抑圧している。   

●ブルームバーグは27日、イエレンの中国訪問のニュースが出たその同じ日に、バイデン政権は「半導体、人工知能、量子コンピューティングの分野において、対中監視を強化、もしくは対中投資を禁止する大統領令」を承認しようとしていたと報じた。関係者らによると、大統領令の草案作成はここ数週間で加速しており、早ければ7月下旬に発令することを目標にしているが、最終的な詳細はまだ詰められていないため、スケジュールは8月に延期される可能性があるという。

●中国WTO研究協会の霍建国副会長は6月27日、環球時報記者とのインタビューで、「バイデン政権が重要な問題に関して立場を変えるとは考えにくいが、しかし米中協力をバイデン政権側が期待している。特に、経済貿易領域における高官同士の直接対話を通して、中米間の戦略的経済対話メカニズムを再開し、なんとか中米経済貿易関係のリスクを抑制したいと考えているのだ」と述べた。(環球時報からの引用はここまで。)

◆この傲慢な女性の要求など、絶対に吞むな!

一方、中国大陸のネットには<この傲慢な女性の要求など、絶対に呑むな!>という類の、一般ネットユーザーによる情報が溢れている。

たとえば、ここに書いてあるのは、おおむね以下のようなことである。

●ブリンケンが中国への旅を終えたばかりなのに、もう次にはイエレンが到着しようとしている。米高官たちの旅は、ずっと前から計画されていたにちがいない。ブリンケンの訪問が米経済界から上がっている中米間の断絶とデカップリングの危機を回避するためであるならば、イエレンの中国訪問はまちがいなく経済的利益と密接に関連しており、米債務を買ってくれという要求に決まっている。

●現在、アメリカの債券市場はますます縮小しており、FRBが大量に米国債を購入しなければならない。しかし、大規模な貨幣発行は必然的にインフレ問題につながる。FRBは困窮し、そこで中国に助けを求めに来るんだ。中国経済を追い詰めようと中国に激しい制裁を加えておきながら、アメリカは身勝手にも、自分が困った時は中国を潜在的な経済パートナーと見なしているのだ。

●アメリカは口先だけでは聞こえの良いことを言うが、米政府の実践的な行動は変わっていない。

それ以外にも、少し前の情報だが、<オースティンも拒絶しろ、ブリンケンも拒絶しろ、イエレンも拒絶しろ、米高官の訪中は全て拒絶しろ>などと、中国大陸のネット空間は激しい嫌米感覚に燃えている。対中制裁ばかりをして中国経済の発展を圧迫しているので、「中国経済が成長しないようにしておきながら、中国に米国債を買えなんて、何を言ってるんだ!」というトーンに満ちている。

◆中国の米国債購入に関する世界的割合と推移

それでは中国はどれくらい米国債を購入しているかを、世界の米国債購入主要国の割合と推移で見てみよう。さまざまなデータがあるが、ここではアメリカ議会図書館に置かれている立法補佐機関であるCRS(Congressional Research Service、議会調査局)リポート(June 9, 2023)を見てみよう。このリポートのFigure2には、「米国財務省証券の外国保有比率(2002年~2022年)」が描いてある。

それを本コラムの図表1として以下に示す。

図表1:米国債の外国保有比率(2002年~2022年)

出典:CRSリポート2023

出典:CRSリポート2023


ちょっと見にくいかもしれないが、たとえば2022年時点で、1位が日本で2位が中国大陸、3位がイギリス・・・という感じになっていて、日本を除けば、アメリカの国債を世界で最も多く購入して米経済を支えてあげていたのは中国なのである。

その中国の経済がアメリカを追い越しそうになったので、何とか中国経済を潰そうと、アメリカはさまざまな手段を講じ始めた。制裁をかけたり、最先端ハイテク製品を製造できないようにするために最先端半導体を中国に輸出してはならないという法律を制定したり、あるいはハイテク分野に関しては中国に投資することも禁止したりと、ともかく中国経済が衰退するように、つぎつぎと新しい政策を打ち出して、必死なのである。

そうやって中国経済の成長を懸命に抑えながら、その中国に「アメリカの国債をもっと買ってアメリカを支えてよ」と頼みに行くというのは、いくら何でも勝手が良すぎるだろう。

いま中国経済はコロナの影響だけでなく、アメリカによる激しい制裁により伸び悩んでいる。それでもなお、アメリカの製造業はほとんど中国に依存していて、パソコンや家電製品などの工業製品は中国から輸入している。

さすがに習近平政権になってからの過去10年間は、中国の割合が少なくなっていることは、図表1を見れば歴然としているだろう。

では次に、ウクライナ戦争が起きてからの、中国のアメリカ国債保有に関する推移のみを取り上げてみよう。

図表2に示すのは、CEIC(世界各国のマクロ経済と産業に関する統計データを提供するデータベース・サービス。1992年に香港で設立)が提供している中国大陸の「2022年4月~2023年3月」の米国債購入推移である。

図表2:中国大陸の米国債購入推移(2022年4月~2023年3月)

出典:CEIC

出典:CEIC

拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【第二章 中国が招いた中東和解外交雪崩が地殻変動を起こす】に書いたように、アメリカが米陣営の関係国に要求した激しい対露制裁の中に、「米ドル取引を規制し、ロシアの海外資産を凍結する」という制裁が入っていた。そのため、非米陣営の多くは、「アメリカと関係のない経済圏を構築しよう」と、中国の周りに集まり始めた。アメリカと関わっていると、いつ制裁を受けるか分からないし、米ドルを使っていたら、金融制裁を受けて資産が凍結されてしまうかもしれない。だから「脱米」と「脱米ドル」が加速し始めたのだ。

そのため「米国債を購入しない」という動きが、非米陣営(全人類の85%)で急激に起きつつある。図表2にそれが如実に表れ、ウクライナ戦争以降は中国の米国債購入も急激に減っているのである。

3月にだけ増加があるのは、アメリカのシリコンバレー銀行など、複数の銀行が倒産し、このまま行くとアメリカ経済が破綻して世界恐慌になるかもしれないので、それは米ドルを今はまだ使っている世界のどの国も困るから、日本と中国という、世界の二大米国債購入国が米国債を購入してあげて、アメリカ経済の破綻を防いだのである。そのため3月だけ増えているが、4月になってから、また同じ減少率で減少に転じている。

このような中でのイエレン訪中がどうなるのか、この視点で読者とともに考察していきたい。

 

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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