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習近平どうする? 日米蘭が対中半導体製造装置輸出規制で合意
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

1月27日、アメリカの呼びかけに応じ、日本とオランダが半導体製造装置に関して対中輸出規制をすることに合意した。軍事利用の可能性がある中国最先端半導体の成長を阻むのが目的だ。中国はこれからどう出るのか?

◆バイデン大統領の呼びかけに従った日本とオランダ(蘭)

バイデン大統領は、中国に最先端半導体の技術が流出し、それが軍事転用されるとして、昨年10月に半導体製造装置などを含む最先端半導体の輸出を規制する措置を発表した。

その後、関係国にも協力を求め、今年1月、アメリカ時間の27日にバイデン政権は日本やオランダの当局者とワシントンで協議した。その結果、日米蘭は半導体製造装置の対中輸出を規制することで合意したと、アメリカのブルームバーグ通信が報道した

なぜ日本とオランダかというと、中国が最も弱い「半導体製造装置」に関しては、アメリカ以外には日本とオランダが強いからだ。

TechInsights Manufacturing Analysis Inc.の2021年データによれば、世界の半導体製造装置メーカーの売上上位10社は以下のようになっている。

図表1:2021年における世界の半導体製造装置メーカー売上上位10社

出典:TechInsights Manufacturing Analysis Inc.

日本が上位10社の中の4社を占めているという分野は滅多にない。

それくらい、日本は半導体製造装置に関しては強い。

オランダの半導体製造装置メーカーであるASMLは「半導体露光装置」を製造する世界最大の会社で、世界中の主な半導体メーカーの80%以上がASMLの顧客だ。中国もその中の一人で、中国はASMLを頼りにしてきた。

一方、ASMLは2003年から「液浸露光技術」を用いて発展していったのだが、その基本特許は日本のニコンが持っているために、今般の対中輸出規制に参加する日本の企業は、図表1にある世界第3位の東京エレクトロンとニコンになっている。上位10位に入ってないニコンが対中制裁の企業の中に入ったのは、このためだろう。

特に今般の肝心な規制対象は193nm波長のArf液浸露光装置(DUVの一種)で、ニコンのNSR-S635EとNSR-S622DASMLの2050i、2000i、1980Di、1970Ciが該当するのでニコンが入った(用語が専門的になるので、ここでは詳細は省略する)。

◆「中国製造2025」の目標はどれだけ達成しているか

習近平国家主席は、2012年11月15日に中共中央総書記に就任するとすぐに、中国のハイテク国家戦略「中国製造2025」に着手すべく、諮問委員会を立ち上げた。

2015年5月に発表された「中国製造2025」は、2025年までに中国で使用する半導体の70%を中国産にしようという目標を立てていた。しかし現時点で、何パーセントが中国産になったかというと、予測値で25.61%でしかない。それというのも、2017年にトランプ前大統領が習近平の「中国製造2025」が持つ危険性に気が付いたからだ。

危険性というのは、このままでは中国はアメリカを追い越してしまうという危惧である。そこで対中制裁を始めた。こうして中国の半導体は、成長しようとした途端にアメリカに阻まれてしまった。以下に示すのはInternational Business Strategiesによるデータである。

図表2:中国大陸の半導体チップ自給率

出典:International Business Strategies

また、不完全統計ながら、中国の半導体製造装置の各製造工程(プロセス)における国産化率(自給率)は以下のようになっている。データはChinabidding 徳邦証券研究所に基づく。

図表3:2022年1-10月の、中国の半導体製造装置各プロセスの国産化率

Chinabidding 徳邦証券研究所のデータに基づき筆者作成

「露光」に関して中国の国産化率は不完全統計ながら、ほぼ0%だ。いかにこのことで習近平が困っているかがわかる。

相手の最も弱いところを狙って輸出規制し、徹底して中国の半導体産業を潰して、中国の経済成長と軍事力強化を阻害しようというのがアメリカの戦略なのである。

もし人間関係から見るならば、これ以上に「意地悪な」やり方はない。しかし、相手を倒そうという「戦争」であるならば、「敵の弱みを突く」のは戦略上、正しいことになろうか。

日本企業に関してはニコンが「露光」に強く、日本の東京エレクトロンは「国産化率がやや低い」にある「塗布・現像」や「活性化(熱処理)」に強い。

◆習近平はどう出てくるか?

ならば、習近平はどう出てくるかだ。

そこが焦点の一つとなる。

それにはいくつかの方法が考えられる。

1.反外国制裁法

中国はアメリカを中心とした西側諸国から多くの制裁を間断なく受けているが、それを受けて、中国は2021 年 6 月 10 日に開催した全人代(全国人民代表大会)常務委員会会議において、「中華人民共和国反外国制裁法」(反外国制裁法)を制定した。したがって、反外国制裁法に基づいて、中国に輸出規制をした国および企業に対して何らかの報復制裁を加えることができる。

たとえば中国は世界最大の太陽光パネル製造国だが、2022年1月、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは、「アメリカで販売されている太陽光パネルの約85%は輸入品で、その多くは中国企業が製造している」と書いている。

また拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第三章では、アメリカの製造業が空洞化し、電子機器のほとんどは中国から輸入していることを、図表を使って詳述した。こういった製品を輸出しないという報復制裁もないわけではない。

2.窮鼠猫を嚙む「逆転の構図」

同じく拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第四章 決戦場は宇宙に――中国宇宙ステーション稼働】に書いたように、中国が中国独自の宇宙ステーションを建設しようと決意したのは、アメリカが、アメリカ主導の国際宇宙ステーションから中国を排除したからだ。中国が何度も「仲間に入れてくれ」と申請しても、それを拒絶し続けてきた。だから中国は「ならば、中国独自の宇宙ステーションを作ってやる!」と闘志を燃やして、遂に成功し、昨年有人飛行を含めて稼働し始めた。

これと同様の動きをするというのが二つ目の可能性だ。

習近平はハイテク国家戦略「中国製造2025」の目標の中に「宇宙開発」を入れ、「軍民融合」を軸にした巨大な宇宙開発ネットワークを創り上げた。その組織図は『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』のp.176-177に掲載した。

追い詰められたら必ず逆転してやる!

日本のお陰で(=天安門事件後の対中経済制裁を日本が最初に解除したお陰で)、世界第二の経済大国にのし上がった中国は、反外国制裁法も活用しながら、「逆転の構図」を断行していくものと推測される。

事実、オランダASMLのCEO、Wennink氏は「手に入らなければ中国は自らの力で開発していくだろう。時間はかかるが最終的にはたどり着くはずだ。追い詰められれば追い詰められるほど、そのスピードは加速していくだろう」と言っている。これまで中国と緊密に連携しながら中国の半導体産業の実力を知り尽くしているASMLのCEOが言っているので、説得力がある。

◆日本の半導体産業はどうなるのか?

現在、日本の最大貿易相手国は中国で、日本の経済界は中国経済に依存して生きているといっても過言ではない。その日本の半導体産業はどうなるのかを見てみよう。

以下に示すのは、上位ランクにある半導体製造装置メーカーの中国依存度を示したものである。

図表4:上位ランクにある半導体製造装置メーカーの中国依存度

筆者作成

ニコンの場合は半導体製造装置の露光装置がメインではないので、ここに示した割合はカメラなど他の製品も含まれている。とはいえ、東京エレクトロンとともに大きな損失を被ることに違いはない。日本の関連企業はサプライチェーンの見直しが必要になるだろう。

中国としては制裁に加わらなかった他の日本企業と組めばいいので、対台湾政策同様、「懐柔」を優先して動くことになろう。

すなわち、「統一戦線」が力を発揮することになる。

だからこそ『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』で書いた全国政治協商会議で統一戦線を主導する王滬寧が必要であり、根っからの技術屋で科学技術振興を信奉する丁薛祥が習近平には不可欠なのである。

1月26日のコラム<台湾有事は誰のためのものか?>に書いたように、その意味からも習近平がいま台湾を武力攻撃することなど考えにくいことがお分かりいただけるだろう。なぜなら台湾には世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)TSMCがあるからだ。これに関しては別途論じる。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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