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怪文書「中国コロナ感染2.48億人」を追いかけて感染爆発の謎が解けた
新たな規制緩和によりコロナが感染拡大する中国(写真:ロイター/アフロ)
新たな規制緩和によりコロナが感染拡大する中国(写真:ロイター/アフロ)

22日、中国のネットに内部資料として現れた怪文書はすぐに削除されたが、転載されて世界が注目している。その真偽は別として、感染爆発の背景を追ったところ、何が起きているかがようやく見えてきた。

◆12月「20日間で約2.48億人がコロナ感染した」という怪文書

12月22日、中国のネットのウェイボー(weibo)に「2022年12月21日に開催された国家衛生健康委員会(議事録)摘要」が貼られたが、オリジナルはすぐに削除された。そのとき貼られた画像はこちらのツイッターで確認することができる。

そこには「12月20日の全国の新規感染者数は3699.64万人」とか、「12月1日から20日までの累計感染者数は2.48億人」あるいは「北京と四川の感染率は50%」などと書いてある。

このような文面は個人が簡単に手作業で作成できるものなので、どれだけの信憑性があるか疑わなければならないが、ウェイボーの文章がすぐに削除されたものだから、このツイッターを転載する者たちが逆に数多く現れて、あたかも信憑性が高いようなムードを醸し出している。

全文は、同日に現れた「財経ヘッドライン」にある「2022年12月21日国家衛生健康委員会摘要」が見やすい。「議事録の摘要」としている全文が、地の文で書いてある。

24日になると香港CNNも<中国保健当局、20日間で2.5億人感染と推計か 内部資料流出と報道>というタイトルで、「米ブルームバーグ通信と英紙フィナンシャル・タイムズが23日に報じた」という形で報道している。

そこで、中国にいる昔の教え子たちに聞いてみると、その多くが「先生、私いまコロナに罹っています」と言うではないか。北京にいる教え子は、「私が大学で感染してしまったものですから、一家4人がみんな罹ってしまいました。もう治りましたが、おそらく私の周辺でも、6から7割ほどは罹っていると思います」と言う。

となると、この2.48億人という数値も、あながちフェイクとも言えず、「北京や四川では50%感染している」というのは、むしろ低く見積もっているのではないかという感さえ否めない。

もっとも、日本の朝日デジタルでは「中国政府が21日に開いた内部会議の議事録が出回り、12月1~20日の国内の新型コロナ感染者数が2億4800万人に達するとの推計が示された」と、本物扱いに切り替わっている。

この辺、CNNは「CNNとしては事実確認ができていない」と非常に良心的で尊敬に値する書き方をしているが、朝日デジタルの場合、「関係者によると」という常套句で既成事実化してしまい、真偽はスルーしている。その姿勢の違いも興味深い。

◆12月6日の中共中央政治局会議が決め手

それにしても、感染爆発が起きているのは確かで、なぜそのようなことになっているのかを見極めないと気が済まない。そこで習近平はどう動いているのかを追いかけてみた。

その結果、12月6日に習近平が中共中央政治局会議を開催し、「2023年の経済活動」や「反腐敗活動における党風清廉化の強化」などを討議しており、会議でコロナに関して以下のようなことを述べていることがわかった。

  • 発展の新局面を加速化し、質的に高い発展を推進するために「防疫措置と経済社会発展に関してより良く統一して計画按排しなければならない」。
  • 来年は「穏」を軸として財政政策や貨幣政策を含めた各種の政策を協調的に推し進め、「防疫措置を最適化し」、各種各領域が力を合わせてハイレベル発展を形成する。

こういった指示は、チャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員)の周りに縦横無尽に張り巡らされた各種各領域の作業グループが何度も緊急会合を開催して現状分析を行い、方向性を出していく。その作業グループの一覧表は『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』のp.79に示した通りだ。今回は特に国家衛生健康委員会の意見を重視したことだろう。

報道された会議内容は「包括的過ぎて」具体的に何を指しているか、一見わからないように見えるが、12月1日に習近平がEUのミシェル大統領と会った際に「いま流行のオミクロン株は以前のデルタ株より死者が少ない」と述べていることなどから考えても、「緩和」の方向に動くことが既に示唆されていた。政治局会議の結果、12月7日に「新しい規制緩和」として出されたのが「新十条」なのである。

◆12月7日に発布された「新十条」――ゼロコロナ政策は解除していない

そこで、その「新十条」に何が書いてあるかを考察してみた。

十項目とは言え、それを全て羅列するのは多くの文字数を占有するので、12月1日のコラム<中央のコロナ規制緩和を末端現場は責任回避して実行せず――原因は恐怖政治>で書いた「20ヵ条の措置」(2022年11月11日発布)と、どこが違うのかだけを抜き出してみた。

違いの中で筆者が最も注目したのは「新十条」の第八項目だ。

そこには以下のようなことが書いてある。

――八つ目は、社会の正常な運営と基本的な医療サービスを確保することだ。非高リスク地域(コロナ感染のリスクが高くない地域)は、人の流れを制限してはならず、作業・生産・ビジネス業務などを停止してはならない。特に、医療関係者、公安、交通物流、スーパーマーケット、供給保証、水・電気・ガスなど社会インフラや基本的な医療サービスおよび正常な社会運営を保証するための人員を「ホワイトリスト」に入れて管理しなければならない。関係者は個人の防疫を守り、ワクチン接種や健康監視を通して、正常な医療サービスや基本的な生活必需品、水・電気・ガスなどを供給し、通常の生産活動の秩序を維持するために最善を尽くさなければならない。以て、大衆によって提起された緊急の問題を迅速に解決し、コロナ処置期間における大衆の基本的な生活ニーズを効果的に満足させること(筆者注:ホワイトリスト=絶対封鎖や大規模隔離をせず、社会インフラを保障する業務に従事していい人々)。

以上が新十条の第八項目に書いてある内容だが、ザックリ表現すると「コロナ感染リスクが高くない地域では、基本的な防疫策を講じてさえいれば、普通に行動しましょう。特に社会インフラに従事するような人たちは生産活動を止めてはなりません」ということだ。

新十条には、コロナ防疫対策第九版と「20ヵ条の措置」を前提とすると書いてあるので、第九版で要求されている「ゼロコロナ政策」は変えてないことになる。おそらく、いつまた緩和した規制を元に戻さなければならないような事態にならないとも限らないので、その基本軸は残してあるのだろう。

しかし、新十条の第八項目は、実質的に「ウイズコロナ」に移行したのも同然だ。これではゼロコロナ政策を解除したのに等しく、感染爆発が起きるのは当然のことだろう。ゼロコロナ政策を解除すれば感染拡大だけでなく、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の【第五章 ゼロコロナ政策を解除すると死者多数】で書いたように、「3ヵ月で160万人の死者」が出る。

春節を前にして、なぜこのような方針を打ち出したのか、天津にいる医者に聞いてみた。

◆規制緩和するには今しかない!

高齢のこの医者は、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』の【第七章 天津の灯はさまよう】で書いた、1950年代初期に通った天津の小学校でのクラスメートで、のちに国家指導層の主治医集団の一人となったことのある友人だ。

第20回党大会における胡錦涛の退席に関しても電話連絡して、胡錦涛の体調などに関して「第三者に漏らしてはならないのですが、70年間の誼(よしみ)で…」と教えてくれた(この詳細は『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第一章で書いた)。

その友人の回答を以下に記す。

――いま中国で流行しているウイルスは、オミクロン株の中でも特に感染力が強く、しかし感染しても軽症である「BF.7」という系統です。上海で急激に広がった「BA.5」系統は、現在主流となっている「BF.7」より感染スピードがやや遅いタイプでした。だから上海では厳重な都市封鎖を重点的に実施することが効果的でした。その結果、中国経済は回復しました。

ウイルスのタイプは次々と変異していって、今後どれくらいの感染力と、感染したらどれくらいの重症になる変異株が現れるのかに関しては予測が難しい。でも少なくとも言えるのは、今この瞬間流行しているのは「BF.7」で、このチャンスを逃したら、二度と中国人民の大多数がコロナに感染して免疫力をつけることのできるチャンスは来ないかもしれないし、その結果、中国経済が回復できるようなチャンスも、もう来ないかもしれないという、ギリギリのラスト・チャンスに差し掛かっているのです。

ですから緊急に新十条を発布する必要がありました。春節を前に「なぜか?」とか、そんなことは言ってられないのです。中国の長い習慣によれば、春節期間は生産活動が一時的に停滞しますから、それを逆利用する考え方もないわけではなく、感染者は増えるでしょうが、これまで予測されていた「解除したら3ヵ月で160万人」という死者が、そこまで増えるかと言うと、これまででは最小限に抑えられるのではないかと予測されます。

いずれにしても、規制緩和するには、今この瞬間しかないのです!

◆最近の経済状況

ならば、最近の中国経済の情況はどうなっているのか、中国国家統計局の11月における社会消費財小売り総額に関するデータと、同時期の「一定規模以上の工業増加成長率」に関するデータを考察してみた。その結果の一部を以下に示す。

図表1:社会消費財小売り総額の昨年同期比増加率推移

中国国家統計局のデータに基づき筆者作成

図表2:一定規模以上の工業企業増加値の昨年同期比増加率推移

中国国家統計局のデータに基づき筆者作成

天津にいるクラスメートの医者が言った通り、たしかに4月に上海における厳しい都市封鎖により中国全国の経済までが落ち込んだが、しかし都市封鎖によりコロナの感染拡大が抑えれて、5月・6月には著しい経済回復を遂げている。それほどまで感染力が強くない「BA.5」系統だったので、完全封鎖が効を奏した証拠だ。

ところがウイルスの主流が、感染力ばかり極端に強く軽症か無症状が多い「BF.7」系統に移ったというのに、これまで通りの規制を続けていれば、規制の効果はないまま、生産活動や消費行動だけは減少していくという悪循環に陥ることになる。図表1,2を見れば、その兆候が歴然と現れている。だから、新十条を発布して規制緩和の方向に切り替えたのは、不可避のことだったという事情が見えてくる。その意味で、これはギリギリのタイミングだったにちがいない。

◆みんなで集まって楽しく食事をしています!

再び北京にいる教え子に電話してみた。電話の向こうは騒がしく、テレビの娯楽番組でも付けているのかと思った。

ところが、「いやに賑々しいじゃない?」と言うと、教え子は「先生、これ、何の声か分かりますか? 実は友人や親戚がみんな集まって食事をしているんですよ」と返す。

「あ、悪かった。そんなときに電話して、ごめんなさいね」と謝ると、「先生、誤解しないでください。つまり、私たちはもう3年間も、こうして気軽に集まって食事をするなんてことはできなくなっていたんです。それなのに今は、こうして楽しく集まっても大丈夫になったということを言いたいのです。私の一家もコロナに罹りましたが、みんな軽症で全快して、これからはもう、コロナ感染の心配はしなくていいようになった、ということなんです! 遂にこんな日が戻ってきたんですよ、先生!」

北京の有名大学で教授をしているその教え子の声は弾んでいた。

日本で騒がれている「習近平が無能であるために、中国は感染爆発により崩壊する」という「少なからぬ日本人が期待する光景」とは、少し違った光景が展開されているようだ。

もっとも、無症状感染者があまりに多いので感染者数の把握がしにくくなっているため、中国当局では感染者数の発表を放棄する傾向にさえあるので、日本人としては、その人たちが日本に入国する可能性もあり得ることに留意しなければならない。日本政府は中国の真相を掌握し、即刻水際対策を考えるべきだろう。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(2022年12月中旬発売。PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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