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反ゼロコロナ「白紙運動」の背後にDAO司令塔
反ゼロコロナ「白紙運動」(写真:ロイター/アフロ)

ゼロコロナに抗議するデモが中国各地で一斉に起き、同じように白紙を掲げた時点で、これは「自発的でない」と直感した。徹夜の追跡の結果、背後にいる組織を突き止めた。全米民主主義基金(NED)も絡んでいたのか。

◆自発的なら同時に白紙を掲げるなど奇異な共通点が多すぎる

11月26日から28日に掛けて、中国各地でほぼ同時に反ゼロコロナ抗議デモが展開されたが、もしこれらが完全に自発的であるならば、どの都市においても同じように白い紙を掲げて抗議意思を表明することに関して違和感を覚えた。

シュプレヒコールも、予め申し合わせていたように類似している。

誰もが類似の閉塞感の中にあるので、類似の言葉を使うのは当たり前だという解釈もあり得るだろうが、長年にわたり中国で発生したデモを考察してきた者として、「何かある」という第六感が働いたのである。

◆ウルムチの犠牲者10人に対する哀悼に関する違和感

20年間ほどにわたり中国の教育部(日本の昔の文部省に相当)と『中国大学総覧』などを編纂するために共に仕事をしてきた者として、少数民族に対する漢民族の「一種の蔑視」のようなものを感じてきた。なぜなら北京大学や清華大学などを受験する時にも、少数民族に対しては優遇策があり、漢民族の合格点よりも低い点数でも合格できるという制度があるからだ。たとえば、(少数民族の)Aさんは北京大学の卒業生だと礼賛したとしても「フン、何言ってるんだい。少数民族じゃないか」という反応があり、「低い点数で、本来なら合格できた漢民族を排除している」という「反感」のようなものがある。

また、もしウルムチでの10人の犠牲者を哀悼するために複数の都市でデモを起こすなら、なぜウイグル族が100万人も強制収容されているということを何年にもわたって聞き及びながら、全く無関心なのだろう。

新疆ウイグル自治区には江沢民政権時代から多くの漢民族を送り込んでウイグル族の血統を追い出し、今では漢民族の方が多くなっており、かつウイグル人女性を強制的に福建などに出稼ぎに行かせて、ウイグル人同士の純粋な血統が薄まるようにしてきたことは周知の事実だ。出稼ぎ地で漢民族とウイグル族の間の紛争が絶えず、それが「テロ」を招いたとして取り締まりを強化してきた経緯もある。また21年5月20日のコラム<ウイグル「ジェノサイド」は本当だった:データが示すウイグル族強制不妊手術数>に書いたように、ウイグル人同士の子供を懐妊した場合には、一人っ子政策を廃止したあとも堕胎手術が増えている事実もデータとしてある。これは中国国内のデータなので、ウイグル族に関心を持っている中国人なら知っているはずだ。

このような漢民族とウイグル民族の間における敵対的な関係を考察してきた筆者としては、新疆ウイグル自治区であるウルムチの犠牲者に漢民族がこれだけ憤ることに、非常な違和感を覚えたのだ。

◆火事の日、ウルムチの封鎖は解除されていた

ウルムチで火事が起きたのは11月24日夜7時頃で、消火されたのは同日の夜10時35分であった。

問題なのは、たしかに今年8月からウルムチの吉祥苑団地は断続的にコロナによる封鎖をされていたが、11月4日には高リスク地域に指定されたものの11月12日には低リスク地域に戻し、11月20日(火事が起きる4日前)から団地内なら外出可能となっていたということだ。

このビルが建っている場所は、コロナ流行の有無に関係なく、もともと道幅が細く、消防車が入るのが困難な場所で、日本で言うならば「建築法違反」であった。コロナなどなくても、火事が起きたら消防車が入るのが困難で、救助活動に支障をきたすような場所だった。

しかし、何者かが「コロナによる封鎖のせいで消防活動ができなかった」という「偽情報」を流したのである。

何の目的で?

誰が?

◆背後で動いていたDAO(分散型自律組織)の正体は?

これらの違和感や疑問に基づき、「何かある」と直感したため、背後に隠れているものを突き止めるべく、徹夜の追跡を続けた。

その結果、遂に背後で動いていた組織を突き止めることに成功したのである。

その組織名は「全国解封戦時総指揮中心」(全国封鎖解除 戦時総指揮センター)である。以下にその画面を貼り付ける。

図表1:全国封鎖解除 戦時総指揮センター

出典:White Paper Citizen DAO

この大元はWhite Paper Citizen DAOで、英語で書かれている。White Paperは文字通り「白紙」で、White Paper Citizenは「白紙公民」と中国語に訳されている。そのウェブサイトには「使命」や「基本原則」などがあり、そこには「白い紙を掲げること」などが要求されている。

DAOというのは“Decentralized Autonomous Organization”の略で、日本語では「分散型自律組織」と訳されている。主としてブロックチェーン上で世界中の人々が協力して管理・運営される組織のことだ。

このような「組織」があったからこそ、中国の主要都市で、一斉に同じ行動に出ることができたのであって、決して「自発的行動」ではなかったことが判明した。

◆DAO【全国封鎖解除 戦時総指揮センター】が指定した都市名

この総指揮センターのTelegramのページを見ると、総指揮センターが指定した都市名には以下のようなものがある。

   满洲 :https://t.me/+0s5bX8W3rVViZjNh

   広東: https://t.me/+fCOsptLO4hNkZmE9

   広西: https://t.me/guangxifuckccp

   江蘇: https://t.me/freedomto8946

   武漢: https://t.me/runrunrun666

   湖北: https://t.me/runrunrun666

   四川: https://t.me/+wQeWFO1ltiIzMjZl

   杭州: https://t.me/+ePDpHZBAaBMxYTM1

   烏鲁木斉(ウルムチ): https://t.me/+qcdUIHgu0D1hM2U1

   山東: https://t.me/+oXbp_4AGvWQ0ODM1

   文宣宣伝活動: https://www.instagram.com/p/CleEb_wgrcG

総指揮センターが指定した都市名と実際にデモがあった都市名をリストアップすると以下のようになる。但し、「アクセス不可」と書いたのは、今コラムを書いている時点では、すでにアクセス先が削除されてアクセスが不可能になっているという意味だ。

図表2:デモが起きた都市名と総指揮センターが指定した連絡グループ名

筆者作成

戦時総指揮センターが指定した連絡グループ名と、実際にデモが起きた都市名はほぼ一致しているが、その後、深圳などが追加され細かな指示が出ているものの、実行された気配はない。

この司令塔はいったい何者なのか。

それをつぶさに調べてみると、最も「怪しい!」と思ったのは「満州」だ。

図表3:総指揮センターが指定した連絡グループ「満州」

出典:White Paper Citizen DAO

ここにある「熱河省」は「満州国にかつて存在した省」で、現在の「河北省・遼寧省・内モンゴル自治区」の交差地域に存在し、日本敗戦と満州国滅亡とともに消滅した行政区分だ。

なぜだ?

ひょっとして「中華民国」(台湾)と関係しているのかと思い、各指定地区のリンク先を調べてみたところ、「ウルムチ」のリンク先に、以下の図表があるのを発見して驚愕した。

「乱民党が台湾を武装統一する」と書いてあるではないか。

しかも、この写真にあるのはアメリカのNED(全米民主主義基金)とも関係している筆者の友人だ。誰かが適当に貼り付けたのかもしれないが、トランプ政権で主席補佐官をしていたスチーブン・バノン氏とともに何度も会っている。ますます興味が湧き、親近感を持ってきた。

図表4:総指揮センターが指定した連絡グループ「ウルムチ」

出典:White Paper Citizen DAO

しかし、ここにある画像がまたコロコロと入れ替わり、もう今この時点では多くの中国大陸のユーザーが登録してTelegramというアプリ内でさまざまな立場から論争をしているのも見受けられるようになったためか、この画像は見ることができなくなっている。筆者が見つけたくらいだから、当然、中国政府の公安も見つけて見張っているだろう。

◆香港が関係している?

総指揮センターの中の「宣伝部」を見ると、もっと不思議な現象にぶつかってしまった。ここではアメリカのコロンビア大学キャンパス内と中国領事館前における反ゼロコロナ「白紙運動」への、以下のような呼びかけが書いてある。

図表5:総指揮センター「宣伝部」にある情報

出典:White Paper Citizen DAO

 

さらに、このページをよくよく見ると、呼びかけの具体名としてnyuhksagというのがある。そこにHong Kong Student Advocacy Group – NYUという言葉があるが、Hong Kong Student Advocacy Group(香港の学生を支援するグループ)は2019年に「ニューヨーク大学の学生が香港の学生たちを支援して、民主や人権など政治問題に関して香港に影響をもたらすために設立した組織」である。

これこそは、香港の学生デモを支援する民主化運動の中心地で、実はニューヨーク大学で国際関係の業務を担っていたクリストファー・ウォーカー氏は今NED(全米民主主義基金)の副会長を務めている

そして言うまでもなく香港の雨傘運動などの神にも近いリーダーであった李柱銘(マーチン・リー)は古くからNEDと深く関わっており、雨傘運動があった2014年の4月2日にワシントンで開催されたNEDとのトークに出演している。トークのタイトルはWhy Democracy in Hong Kong Matters(なぜ香港の民主主義が重要なのか?)だった。

◆台湾の統一地方選挙とNEDのシンポジウム

一方、NEDが中国に関して「民主と独立」を支援しているのは香港だけでなく、「台湾、ウイグル、チベット」を含めた4地区の「民主と独立」を支援してきた。

今年10月25日、NEDや台湾民主基金会などが主催する「世界民主運動」の世界大会が台北で開催された。蔡英文総統が出席して、1ヵ月後の統一地方選挙に向けて、民意が民進党に向かうように力を入れたのだが、11月27日のコラム<台湾地方選で与党敗退 APECで習近平がTSMCに挨拶が影響か>で書いたように民進党が大敗した。

反ゼロコロナ「白紙運動」デモはその直後から起き始めた。もし民進党が勝っていたら、このようなデモは起きなかったかもしれない。国民党に有利だという情報は11月10日の民意調査ですでに出されていた。

NEDがいたのだとすれば、反ゼロコロナ「白紙運動」がウイグル族のウルムチの惨事をきっかけにしたのも、ようやくうなずける。

加えて、この「白紙」を掲げる形式は、2019年に香港デモで先例があり、今般は戦時総司令センターが、香港の先例を学ぶように指示を出したものと思われる。何しろ、香港が「宣伝部」司令塔になっているので、香港形式を踏んだものと考えていいだろう。

日本では今般の反ゼロコロナ白紙運動は「完全に自発的なものだ」と主張する研究者や、中には「サッカーの試合を観て観衆がノーマスクであるのを知ったからだ」などという、奇想天外な見解を発表する研究者もいるようだが、想像や期待ではなく、客観的ファクトから分析しなければならない。

なお、中国は医療資源が乏しいため、もしゼロコロナ政策を解除したら、3ヵ月で160万人の死者が出るというシミュレーションが出されており、習近平としてはそう軽々にゼロコロナ政策を解除するわけにもいかないジレンマに追い込まれている。これに関しては、中国の人口減少という悩みも含めて拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』の第五章で詳述した。

追記:司令塔があっても、ゼロコロナ政策による閉塞感が限界に達していなければ誰も動かないわけで、言論弾圧を含めて限界に達していること自体は事実である。あまりに文字数が多くなったので、そのことに関しては別途書くつもりだ。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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