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ウイグル「ジェノサイド」は本当だった:データが示すウイグル族強制不妊手術数
ウイグル人たちの中国政府への抗議デモ(写真:AP/アフロ)
ウイグル人たちの中国政府への抗議デモ(写真:AP/アフロ)

多くのウイグル人が中国にいる親族友人が強制避妊手術を受けていると訴えてきたが、なかなか客観的データとして示されなかった。このたび不妊手術総数と出生率のデータを入手したので、ここに真実であることを示す。

◆とびぬけて多いウイグルの不妊手術総数割合

まず単刀直入にデータから先に示そう。

2019年の『中国保健衛生統計年鑑』(国家衛生健康委員会編集)には表「8-8-2」として「2018年各地区計画生育手術状況」というのがある。ここには中国の全ての省市自治区の「節育手術総数」が示されている。

用語を説明すると「計画生育」というのは「一人っ子政策を推進するために中国政府が1978年から行ってきた計画懐妊・出産」のことで、一人っ子政策は2015年に撤廃され、「都市では2人」まで、「農村では3人」まで子供を産んでいいという方針に変わった。「節育手術」というのは、「子供を産まないようにするための手術」で、これは「産めないようにするための手術」と「懐妊した後に堕胎する手術」などに分かれる。

年鑑の228頁目にある表「8-8-2」には「産めないようにするための手術の種類」が細かく分類して書いてあるので、表全体をこのページに示すと、文字が小さくなって非常に見にくくなるので、独自の工夫を試みて、「手術数の多いトップ10」の省市自治区だけを示すことにした。

それも表「8-8-2」には、手術を施した絶対数のみが示されているので、各地区の人口との割合を見ないと、中国全土での「トップ10」は出てこないので、国家統計局のデータに基づき各地区の人口を調べ、その人口で割り算した「人口当たりの手術総数」という形で計算し直し、新たにグラフを作成した。

図1

『中国保健衛生統計年鑑』と国家統計局データに基づき筆者が独自に作成


こうしてグラフで示すと、新疆ウイグル自治区の「人口当たりの不妊手術総数」が、飛び抜けて多いことが一目瞭然だろう。2018年データなので、2015年の「一人っ子政策」撤廃後のデータであることを頭に入れておいていただきたい。

解説は最後に回す。

◆「一人っ子政策」撤廃後に急減するウイグルの出生率

次に『新疆統計年鑑2020』(新疆ウイグル自治区統計局と国家統計局新疆調査総隊が編集)から、新疆ウイグル自治区における出生率の推移を、全国平均(国家統計局データ)と比べて示す。

図2

『新疆統計年鑑2020』と国家統計局データに基づき筆者が独自に作成


2015年に「一人っ子政策」が撤廃されたため、全国平均を見ると2016年にわずかながら出生率の増加が見られる。その後増加してないのは、第二子を生む年代が一人っ子政策で育ったために二人以上の子供を持つ生活習慣に慣れていないことと、何よりも高い教育費や家賃(あるいは住宅ローン)などの必要経費に基づく生活設計で生きてきたので、新たな負担を好まないからだ。

そういった全国的要因はあるとしても、「2017年から2019年にかけて」の新疆ウイグル自治区における出生率の激減は顕著であり、特殊な事情がない限り、このような現象を説明することができないのは、誰の目にも明らかだろう。

◆ジェノサイドは起きている

その「特殊な事情」とは、「新疆ウイグル自治区ではジェノサイドが起きている」という現実以外には考えにくい。

拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で詳述したように、中国建国当初、王震は中国人民解放軍を引率して新疆地区でウイグル族を手当たり次第に殺しまくった。その数は30万人以上と言われている。習近平の父・習仲勲が反対したので、それ以降、毛沢東は新疆生産建設兵団という、主として漢族から成る準軍事組織を派遣して、生産を名目に新疆ウイグル自治区に漢族の入植を推進していった。新疆ウイグル自治区の「漢族化」の始まりだ。

その後もウイグル族の暴動があると武力で鎮圧してきたが、1989年6月4日の天安門事件における武力弾圧が西側諸国の非難を浴びると、今度は農民工としてウイグル族を東海岸の各都市に強制派遣し、適齢期のウイグル族を漢族と結婚させる方向に持って行った。

2014年に深圳や福建など、出稼ぎに出た都市でウイグル族と漢族との間に紛争が起き、数々の暴動が発生して、当局は武力や大量逮捕による鎮圧を試みた。

このころは習近平政権に入っており、特に2014年からは「国家城鎮化(都市化)計画」が始まった。農民工の賃金の高騰により、中国が世界の工場としての役割を終えつつあり、一方では拙著『「中国製造2025」の衝撃』に書いたように、中国は「組み立て工場プラットフォーム国家」から抜け出して、ハイテク産業国家としてアメリカにキャッチアップしようとしていた。だから全国的に都市に出稼ぎにきた農民工たちを出身地に戻そうという動きに出ていた。

図2からも分かるように、新疆ウイグル自治区も例外ではなく、2014年には出生率が上がっているのである。2017年にも上昇しているのは、新疆ウイグル自治区では、2016年から「一人っ子政策」撤廃が実施されたためだ。

だというのに2018年と2019年に出生率が激減しているのはなぜなのか?

それこそは4月15日のコラム<ウイグル問題制裁対象で西側の本気度が試されるキーパーソン:その人は次期チャイナ・セブン候補者>に書いたように「少数民族鎮圧の名手」である「陳全国」が2016年に新疆ウイグル自治区の書記に就任したからである。

つまり、出稼ぎ農民工は出身地に戻すが、まさかウイグル族だけを東海岸の都市に残すわけにはいかない。しかしウイグル族を出身地に戻した場合、そこで自由を与えるとウイグル族が増え始め反政府色を強めていく「危険性」がある。そこで習近平政権は、「強制収容所」という形式を採用することにして、100万人から成る強制収容所を数多く作った。

その上でウイグル族が増えないようにするために、男女ともに強制的に不妊手術を施したということになる。それは図1に示した不妊手術数の、新疆ウイグル自治区における異常なまでの数値の大きさを見れば歴然としている。

それが「種族絶滅」というところまで至るか否かは別として、陳全国がチベット族弱体化に成功した程度までには、「ウイグル族という種族を減少させる」ことは確かだろう。

これを「ジェノサイド」と呼ばずして何と称するのか。

拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』を執筆するに当たり、日本ウイグル連盟のトゥール・ムハメット会長を取材し、彼の吐露を記した。

しかし、その時は、ここでお示ししたような、疑義の予知のない客観的データを入手することはできなかったので、私自身の言葉として「不妊手術を強制している」とは書いていない。科学的姿勢を貫くには、「証拠」を手にしない限り断定することを避けなければならないからだ。

しかし今、本コラムで提示したデータを入手できたので、疑義が確信へと変わり、「ジェノサイドはある」という結論に達したことを公開する次第だ。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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