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ペロシ訪台と米中半導体対立 中国政府元高官単独取材
8月9日、半導体産業支援法案に署名したバイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)
8月9日、半導体産業支援法案に署名したバイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)

ペロシ下院議長は訪台した際に半導体の世界最大手のTSMC創業者に会っている。これは中国を半導体市場から締め出そうというバイデン政権の一環だとして、中国政府元高官は激しく非難。米中半導体対立のゆくえは?

◆中国政府元高官が気炎「ペロシはTSMCの創業者と会っている!」

本稿は、8月11日のコラム<中国はなぜ台湾包囲実弾軍事演習を延長したのか?中国政府元高官を単独取材>の文末からの続きである。すなわち、筆者は「中国はなぜ台湾包囲実弾軍事演習を延長させたのか」に関して中国の本音を知りたいと思い、中国政府元高官を取材した時の話の続きだ。憤懣(ふんまん)やるかたない元政府高官は、「なぜか」に関して回答してくれただけでなく、ペロシ訪問と、その陰に隠れているアメリカの「陰謀」に関して気炎を吐き続けたのである。

特に半導体に関して話し始めたので、そのQ&Aを以下に示す。前回同様、Qは筆者、Aは中国政府元高官である。

Q:半導体に関しても、というと、具体的にはどのことを指していますか?

A:蔡英文はペロシとの昼食会で、台積電(TSMC)の創設者や現在の董事長などを招いてるんだよ。バイデンは今年5月20日に、日本よりも先に韓国を訪問しただろ?あれは韓国のサムスン電子半導体をアメリカ側に向かせるためで、「日米韓台」の「チップ4」同盟を作って、中国を追い出そうという魂胆だ(筆者注:たとえば5月20日ブルームバーグの<バイデン米大統領、サムスン電子の半導体施設を視察-結束を強調>などを参照)。世界の自由な経済連携とハイテク産業の発展を許さず、サプライチェーンを破壊してでも、アメリカに有利なように動こうとしている。

Q:たしかに「チップ4」に向けてバイデンは動こうとしていますが、そもそも中国の半導体や宇宙開発に強い関心を向け始めたのはトランプ前大統領からで、習近平が2015年に発布したハイテク国家戦略「中国製造2025」にトランプが目を付けたからだと思いますが、どう思われますか?

A:まったくその通りだ。宇宙開発では中国が今年中に有人宇宙ステーションを稼働させるから、アメリカはもう勝てない。トランプは宇宙軍を創設すると息巻いていたが、どんなに中国の邪魔をしようとしても宇宙開発では中国の発展を阻止することはできなかった。そこでアメリカは何としても中国の経済成長を止めようと、半導体分野で徹底して中国をサプライチェーンから追い出そうとしている。

5Gに関しては徹底してファーウェイを潰すことに専念して、半導体に関してはTSMCが中国本土から出ていくように必死で仕向けて、それだけでは気が済まず、サプライチェーンも切断しようとしているのだ。

◆TSMCはありがた迷惑?

Q:しかし、TSMCの創設者の張忠謀(モリス・チャン)は、あんまりアメリカのアリゾナ工場での操業を高く評価してないようではありませんか?

A:その通りなんだよ。実は、台湾はありがた迷惑してるんだよ!8月6日の台湾のメディ自身が、張忠謀がペロシの目の前で「台湾の半導体がアメリカや日本などの場所に一部移転されることについて楽観的ではない」と言ったと報道している。さすがに張忠謀は大したもんだ。媚びずにストレートにものを言う(筆者注:8月6日の台湾の「中時新聞網」は<ペロシ昼食会の内幕が暴露された!張忠謀が吐露した言葉が、来場の賓客にショックを与えた>と報道している)。アメリカでも日本でもコストが高くて張忠謀は困ってるんだよ。人材も揃ってないし。その点、中国で操業すればコストは安いし人材は長年にわたって培ってきたから揃ってるし、商売をやる人間としては、儲かる方を選びたいに決まってる。

だからTSMCの董事長は「われわれは中国人民解放軍とビジネスをやってるわけではない」と言ったわけだよ。

以下、筆者の説明:実はペロシが台湾に到着する前の7月31日、TSMCの劉徳音董事長がCNNの取材を受けて語ったことを、台湾の「工商時報」が報道している。それによれば、劉徳音は「中国市場はTSMCの収益の約10%を占めており、TSMCはあくまでも中国の一般消費者としての顧客とのみ協力しているのであって、軍事実体(中国軍)と協力しているわけではない。中国は非常に大きく、非常に活発な消費性電子市場なので、消費者に需要があれば、中国市場はTSMCと取引する必要が生じる。これは決して悪いことではない」と語っている。

中国政府元高官の上記の言葉は、この「工商時報」に書かれている内容を指している。

◆「米日韓台チップ4」同盟の韓国の立場に関して

中国政府元高官は、アメリカが日米韓台「半導体同盟」=「チップ4」同盟を結ぼうとしていることに対する韓国の姿勢に関しても、留まるところを知らないと言っても過言ではないほど気炎を上げた。

以下、中国政府元高官が韓国に関して語ったことを略記する。

――そもそも韓国に新しく誕生した尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、文在寅政権と比べて日米寄りだなどと言われているが、まったくそんなことはない。その証拠にペロシが韓国を訪問した時の尹錫悦の態度を見るといい。8月3日午後にペロシは韓国の米空軍基地に到着したんだが、なんと出迎えたのは米国側関係者だけだった。痛快じゃないか!尹錫悦は休暇中だという口実を設けて、会おうとしなかったんだぜ!電話するだけにした。

おまけに、いいかい?

ペロシが韓国を離れた翌日に、朴振(パク・ジン)外交部長の訪中を発表したんだよね!実際には8日に朴振が訪中して9日に王毅と会談しているけど、二人の親密度は何度も報道されているから知っての通りだ(筆者注:中韓外相会談の様子は中国外交部報道にもある。王毅の熱烈さが広げた両腕の勢いにも表れている)。

そんなわけだから、バイデンに誘われて韓国政府は、いやいや「チップ4」の予備会談に「参加する」という意向は表明しているものの、王毅との会談では、「中韓は市場のルールに違反する行為に共同で抵抗し、両国と世界の生産供給とサプライチェーンの安全と安定を共同で維持する」と誓い合っている。

つまり、バイデンが中国をのけ者にしようと企む「チップ4」の目的に従うようなことは、韓国はしないということさ。つまり、実は、台湾も韓国もバイデンの「チップ4」に「お付き合い」しているだけということになるってことだ。 

以上が中国政府元高官の韓国に関する見解だった。

たしかに韓国も台湾も、そして日本も、貿易において中国に首根っこを押さえられている。いずれも貿易最大相手国は中国で、2021年データで「韓国:23.9%、台湾:25.2%、日本:22.9%」が中国によって占められている。

中国政府元高官の熱弁は、それだけ中国が「チップ4」を気にしているということの裏返しだとは思うが、バイデン政権は果たしてもくろみ通りに中国を排除することができるのか、読者とともに考察を続けていきたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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