トランプ前大統領が、ペロシ下院議長がすでにアメリカを発ったアジア歴訪の中に台湾を入れるかもしれないことに対し、酷評を公表すると、中国のネットは大騒ぎになった。回答は目前に迫っているが、どうなるのか?
◆「トランプがペロシ訪台可能性を酷評」と、中国ネットは大賑わい
7月30日朝早くから、筆者のスマホに大量の中国式ツイートのweibo(微博、ウェイボー)が入ってきて、「トランプ前大統領がペロシ下院議長の訪台可能性を酷評している」と知らせてきた。
パソコンを開いてネットで調べてみると、「トランプがペロシ訪台可能性を酷評」という項目が溢れんばかりに湧き出している。あまりに多いので、情報としては信憑性の高い中国共産党機関紙「人民日報」姉妹版「環球時報」の、<トランプ、「ペロシの訪台可能性」批判を公表:彼女はただ事態を悪化させるだけだ>を抜き出して考察してみよう。
環球時報にはおおむね以下のようなことが書いてある。
===
アメリカのメディア「国会山報(THE HILL)」によれば、トランプ前大統領は現地時間7月29日、ペロシ下院議長の台湾訪問の可能性について公けに発言し、ペロシは事態を悪化させるだけだと述べた。
(筆者注:環球時報にはTHE HILLに載っているスクリーンショットが転載してあるが、以下に示すのはTHE HILLそのものからの画面をキャプチャーしたものである。)
トランプ氏はソーシャルメディアに「なぜナンシー・ペロシはインサイダー取引や情報を騙し取るかもしれない夫のために、さらに面倒を起こしながらより多くの金を得るために緊急に走り回ることをせず、わざわざ中国本土や台湾に介入しなければならないのか?」と書いている。トランプはさらに、「ペロシと接触しさえすれば、必ず混乱と破壊につながる」と言い、「彼女が最も手出しすべきでないのは中国の問題だ」と続けている。 トランプはまた、3つの感嘆符を打って「彼女はまったくもって収拾がつかないほど混乱している!!!」と書いている。
ペロシのアジア歴訪に関して、アメリカのNBCは以前、共和党のマイケル・マッコール議員と民主党のアンナ・エス下院議員が、ペロシから台湾訪問の招待を受けたが、どちらも参加できないと述べたと報じた。NBCは、ペロシの台湾訪問の可能性に関して早くから国際的なメディアの注目と厳しい警告を引き起こしていたと書いている。
中国外交部や国防部および国務院台湾弁公室は、いずれも厳しい抗議を示しており、特に国防部の報道官は、「もしアメリカが一方的に強硬な行動に出れば、中国の軍隊は絶対座視せず、必ず強力な措置を以て、外部勢力と台湾独立分裂行動を容赦なく打ち砕くだろう」と宣告している。(中略)
28日のニューヨーク・タイムズは、米中は危機のエスカレーションを何としても止めなければならず、ペロシは訪問を延期すべきであると報じている。一部の批評家が「それは中国に対する軟弱さを示すことになる」と言うかもしれないが、「夢遊病」で危機に陥ってはならない。
===
以上だ。
中国における報道に関して、ネットユーザーからの多くのコメントが見られたが、その中で「おや!」と思わせたのは「トランプってわがままで、やりたい放題だけど、戦争屋ではないんだね!」とか「アメリカは台湾に独立を叫ばせて大陸を怒らせ、なんとか大陸が台湾を攻撃するように仕向けているが、トランプは大陸に戦争を起こさせようとはしてないんだね!」あるいは「トランプを見直した」といった類のコメントだった。
◆アメリカ・メディアのTHE HILLはさらに
7月29日のTHE HILLは<Trump slams Pelosi’s planned Taiwan visit: ‘She will only make it worse’>(トランプはペロシの訪台予定を酷評:彼女は事態を悪化させるだけだ)というタイトルで、中国では伝えられていないことも書いている。いくつかピックアップすると、以下のようなものがある。
- トランプ前大統領が酷評したペロシ下院議長(民主党、カリフォルニア州)が計画している台湾訪問は、中国によって非難されているが、米議会の共和党員によって一般的に賞賛されている。
- 中国政府は「レッドライン」に挑戦しており、「断固たる対抗措置」を受けるだろうと述べているが、中国は主権を主張している台湾近郊での軍事演習を強化している。
- トランプは自身のソーシャルメディア・プラットフォームである「Truth Social(トゥルース・ソーシャル)」で、「中国の混乱は彼女が関与できる最後のものだ――彼女は事態を悪化させるだけだ」と述べた。
- トランプのコメントは、民主主義と人権を守ろうとしているペロシを称賛した彼の党(共和党)の何人かのメンバーとの対立を生んだ。
- 台湾議会コーカスの議長であるスティーブ・シャボット下院議員(共和党オハイオ州選出)は、アメリカは台湾との連帯を示すべきであり、中国政府の希望に「屈服」すべきではないと述べた。
- 一方、ホワイトハウスは、ペロシの台湾訪問を熱狂的に支援してはおらず、バイデン大統領は、軍部は「今は良い時期ではないと考えている」と述べたが、ペロシの行動を止めようとする公的な動きはしていない。
- バイデンは米中首脳電話会談において、ペロシの訪問には言及していない。
- ペロシは議会のメンバーに彼女の訪台に加わるよう招待しているが、たとえばマイケル・マコー下院議員(共和党テキサス選出)は「参加できない」と回答してきた。(ピックアップは以上)
念のためTHE HILLでリンクを張ってあるトランプが創ったTruth Socialにおけるトランプが書いた原文にアクセスしようとしたが、どうやら日本からでは直接閲覧できないようなので、アメリカにいる友人に頼んでメールで送ってもらった。せっかくなので、その画面キャプチャーを以下に貼り付ける。
内容はこれまで述べてきたものとほぼ同じなので、省略する。
◆興味深いアメリカ国内での対台湾ねじれ現象
トランプがペロシのことを憎み、きっかけさえあれば酷評したいという気持ちはわかる。大統領時代に議会における弾劾裁判を主導したのはペロシだからだ。
しかしあれほど戦争ビジネスで世界を席巻しているバイデンが、今はペロシの訪台を煽ろうとはしておらず、やや抑え気味であるというのが、何とも興味深い。
本来なら台湾に独立を促して中国大陸を怒らせ、習近平が武力攻撃という手段に出るしかなくなるところに追い込み、それを待っているはずだが、何せアメリカ国内の問題が深刻過ぎるのだろう。
自分が仕向けたウクライナ戦争で世界の食糧危機を招き、少なからぬアメリカ国民は物価高騰で生活苦にあえいでいる。
7月30日のコラム<米中首脳電話会談――勝敗は「ペロシ下院議長の訪台」次第>に書いた「アメリカのLNG(液化天然ガス)産業関係者と武器製造業者だけはぼろ儲けしていても、物価高騰などによりアメリカ経済は疲弊しているので、ここに台湾衝突が加われば対処しきれず、中間選挙も大統領選も失敗する可能性が高くなるので、ペロシの訪台はバイデン政権にメリットをもたらすとは思えないという側面は否めない」という事実が、まさにTHE HILLに表れていることに驚いた。
ますます目が離せない。
なお、習近平が台湾統一をどのように考え行動しているのかに関しては、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』の「第三章 ウクライナ軍事侵攻は台湾武力攻撃を招くか?」で詳述した。
カテゴリー
最近の投稿
- 中国半導体最前線PartⅣ 半導体微細化「ムーアの法則」破綻の先を狙う中国
- 中国半導体最前線PartⅢ AI半導体GPUで急成長した「中国版NVIDIA」ムーア・スレッド
- 返り咲くトランプ
- 中国半導体最前線PartⅡ ファーウェイのスマホMate70とAI半導体
- 中国半導体最前線PartⅠ アメリカが対中制裁を強化する中、中国半導体輸出額は今年20.6兆円を突破
- 中国メディア、韓国非常戒厳「ソウルの冬」の背景に「傾国の美女」ー愛する女のためなら
- なぜ「日本人の命を人質」にマイナ保険証強制か? 「官公庁の末端入力作業は中国人」と知りながら
- Trump Returns
- フェンタニル理由にトランプ氏対中一律関税70%に ダメージはアメリカに跳ね返るか?
- 中国に勝てず破産した欧州のEV用電池企業ノースボルト トランプ2.0で世界に与える影響