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台湾問題を生んだのは誰だ? 次に餌食になるのは日本
2022 アジア安全保障会議で発言する中国の魏鳳和国防部長(写真:ロイター/アフロ)
2022 アジア安全保障会議で発言する中国の魏鳳和国防部長(写真:ロイター/アフロ)

シンガポールで開催されたアジア安全保障会議では台湾問題が大きなテーマの一つだった。台湾問題を生んだのはアメリカで、中国経済を強大化させたのは日本だ。その責任は戦争以外の手段で取らなければならない。

◆中国国防部長の台湾問題に関する強気な発言

6月10日~12日、シンガポールのシャングリラホテルでアジア安全保障会議(シャングリラ対話)が開催された。12日には台湾問題に関して集中砲火を浴びた中国の魏鳳和国防部長が強気な発言をした。中国政府の発表によれば魏鳳和は概ね以下のように述べている。

――台湾は中国の台湾であり、台湾問題は中国の内政問題で、祖国統一は絶対に達成されるべきだ。「台独(台湾独立)」を行なおうとする分裂主義には悲惨な末路が待っており、外部勢力による干渉は必ず失敗する。和平統一こそは中国人民が最も願っていることで、そのためなら、われわれは最大の努力を尽くす。しかし、もし台湾を分裂させようという魂胆を持つ者が現れたら、戦いを交えることも惜しまなければ、いかなる犠牲をも惜しまない。何人(なんぴと)たりとも、中国軍隊の決意と意志と強大な能力を見損なってはならない。(引用ここまで)

つまり、「中国は平和統一を最大の願望としているが、他国が干渉してきて台独を煽るなら、その時には容赦はしない」ということだ。

◆台湾は「中国の台湾」であり「内政問題だ」の正当性を与えたのはアメリカ

台湾は「中国の台湾」であり、「中国の内政問題だ」というのは、中国政府の常套句だが、この言葉の「正当性」を与えたのはアメリカだ。

1960年代末から70年代初期にかけて、当時のニクソン大統領が「大統領の再選」を狙って、1971年4月16日に「米中国交正常化長期目標」を発表して訪中意向を表明し、当時のキッシンジャー国務長官に「忍者外交」(1971年7月9日)をさせた。これは世界に衝撃を与え、その勢いで国連は1971年10月25日、「中華人民共和国」を「中国を代表する唯一の国家」と認めて、国連加盟させたのである。

第二次世界大戦中からアメリカに協力し、ルーズベルト大統領とカイロ密談などを行なってきた蒋介石率いる「中華民国」は、かくして国連から脱退するところに追い込まれたのだ。

米ソ対立で不利になり、かつ「トンキン湾事件」という口実を捏造して開戦し泥沼化したベトナム戦争からも抜け出したかったアメリカは、「中国共産党が支配する中華人民共和国に近づく」ことによって活路を見い出し、大統領再選を狙ったのである。

1972年2月21日、ニクソン大統領が訪中して(キッシンジャー同伴)、「一つの中国」を受け入れ、「中華民国」と断交し、米中国交正常化の共同声明を発表した。

日本をはじめ、世界の多くの国が競うようにしてアメリカに続き「中華民国」と断交してつぎつぎと「中華人民共和国」との国交を正常化させていった。

こうして形成されたのが、こんにちの、いわゆる「国際秩序」だ。

たかだか一国の大統領再選のために、「中華民国」(台湾)を見捨て、「中華人民共和国」を承認した。戦勝国「中華民国」をメンバー国の一つとして設立された国連から、その「中華民国」を打倒して誕生した「中華人民共和国」が「戦勝国」として国連の安保理常任理事国の席に座っている。

こんなデタラメなことを実現させたのがアメリカなのである。

日本人は、まず、このことから目をそむけてはならない。

◆中国を強大化させたのは日本

そのころの中国は極貧国の中の一つに過ぎないほど貧乏だった。

それを今日のような経済大国に成長させたのは、わが国「日本」だ!

1989年6月4日の天安門事件で、鄧小平は中国人民解放軍に命令して、民主を叫ぶ丸腰の若者に発砲し、武力で民主化運動を鎮圧した。その結果、西側諸国が中国を経済封鎖したにもかかわらず、「中国を孤立させてはならない」として封鎖解除に最初に踏み切ったのが、われらが「日本」なのである。

ベルリンの壁が崩壊し、民主の嵐が世界中に吹き荒れていたとき、アメリカはソ連を無血崩壊させることには細心の注意を払いながら成功しているが、同じ共産党が支配する国家である中国を崩壊させないどころか、日本とともに「中国を豊かにさせていくこと」に貢献している。日本とは同罪で、共犯者と言ってもいいだろう。

ソ連崩壊は「ソ連が経済的に貧困だったから」という要素があるが、中国もあの頃は同じように「貧困だった」ので、言論弾圧をする共産主義国家「中国」をも、同様に崩壊させることが可能だったはずだ。あのときこそが唯一のチャンスだった。

そのチャンスを逃したのは、日本が「中国を孤立させてはならない」という感情論で、「鄧小平が偉い」という「鄧小平神話」を信じていたからである。

その「鄧小平神話」こそが「最大の元凶」であることは、拙著『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』で描き尽くした。日本人は今もまだ、この事実の重大性に気が付いていない。最も罪深いのは、「鄧小平神話の災禍」を全くわかってない政治家が、日本の政治を今も動かしていることだ。日本の対中政策は、まずここから考え直さなければならない。

アメリカがなぜ「ソ連は危険」で「中国は危険でない」と区別して、ソ連は崩壊させ、中国を崩壊させようとは思わなかったのかは明らかで、その当時の「中国の軍事力は弱い」と判断したからである。

ソ連を崩壊させたのは「ソ連の軍事力は強い」と警戒したからだ。

中国共産党とは何かを全く理解していない無知蒙昧さが招いた結果だ。

日本とアメリカ両国のこの決定的な判断ミスにより、中国経済は強大化し、その結果、「軍事力も強大化した」。

だからこそ、いまアメリカは、何としても中国を潰さなければならないと、必死なのである。

◆経済では勝てないので、中国に軍事行動をさせて中国を潰すアメリカの長期戦略

今般のウクライナ戦争でも、だんだんと世界の多くの人が「ウクライナ戦争を起こさせたのはアメリカだ」と認識するようになったが、その認識をしっかり持たないと、次にやられるのは日本であることに対して、正しい警戒心を持ち得ない。

拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』でも書き、また5月31日のコラム<スイス平和エネルギー研究所が暴露した「ウクライナ戦争の裏側」の衝撃 世界は真実の半分しか見ていない>でも考察したように、ウクライナ戦争はバイデンが2009年から周到に練り上げてきた「利己的欲望」に基づいて起こしたもので、ウクライナをNATO加盟へと扇動した結果が招いたものである。

この因果関係を見極めないと、次に餌食になるのが「日本国民」になる論理が見えてこない。

中国は台湾の平和統一を狙っている。

なぜなら中国は中国共産党による一党支配体制の維持を最優先課題としているので、もし武力攻撃によって台湾を統一したら、台湾国民は当然中国を忌み嫌い反中反共が激しくなっていく。そのような国民が中国の中に組み込まれたら、中国共産党の一党支配体制の維持は困難になり、崩壊する危険性が大きくなるからだ。

台湾周辺での軍事演習による威嚇は、民進党になってから激しくなったもので、「独立を叫んだら、どういうことになるか分かってるな」という脅しである。アメリカ政府の高官が台湾を訪問した時なども、この威嚇演習が激しくなる。

威嚇をしているだけで、中国は台湾商人を経済的にからめとって「平和統一」するのを最大の実現目標としている。

しかし、平和統一されては困る国がある。

それこそが、アメリカだ。

なぜなら、平和統一などされてしまったら、中国は台湾の半導体産業TSMCをも自分のものとして、ますます経済発展を遂げて、軽くアメリカのGDPを抜いてしまうだろうからだ。

ならば、中国経済の成長を阻害するにはどうすればいいのか?

それは中国に台湾を武力攻撃させること以外にない。

この「台湾武力攻撃」さえ中国がやってくれれば、アメリカは今ロシアを制裁しているのと同じように全世界に呼び掛けて中国を制裁し、中国を潰すことができると考えている。

だから、何とか台湾に独立を叫ばせ、「中国を最も怒らせる方向」に「じわじわ」と動いている。

◆戦争を仕掛けて自国を有利にするアメリカに意思表明できる勇気を!

もっとも、中国を最大貿易国としている国の数は、世界190ヵ国中128ヵ国なので、経済制裁をすると、世界のほとんどの国の経済が成り立たなくなってしまうので、それは断行しにくい。

その代わりに、ロシアのウクライナ侵略同様、NATOをはじめとした同盟国が軍事的に台湾に協力し、台湾に武器を提供したり軍事費の支援をしたりすることによって、中国を苦戦に追い込むという方法をとるだろう。そのためにバイデンは、日本にも韓国にもNATO加盟させる方向で動こうとしている。

それでいて、米軍兵士自身は参戦しないという計算だ。ウクライナと同じように、相手が中国であるなら、攻撃してくる国が「核兵器」を持っているからという口実を設けることができる。

実際に「人間の盾」となって戦うのは「台湾人」であり、尖閣問題をも抱えている「日本国民」だ。

日本はアメリカに対して「戦争という手段によってアメリカに有利な状況へ持っていくようなことをするな」と堂々と言えなければならない。その勇気を持たなければならない。

まさか日本の政治家が,それを見抜く力を持っていないとは思わない。

分かっていても、アメリカに追随しているように振る舞う政治家が多いのかもしれない。その意味では実は「日本はアメリカに依存しない自立した軍事力を持つべきだ」という点で、筆者と安倍元首相との視点は、案外一致しているところがあるようにも思う(このことに関しては別途考察するつもりだ)。

いずれにせよ、アメリカには「中華人民共和国を、中国を代表する唯一の国として国連に加盟させ、国連安保理常任理事国にした責任」を、戦争という手段ではなく、「外交的政治手段で果たせ」と、堂々と言える日本でなければならない。それがせめてもの、中国の経済繁栄に貢献した日本の罪を償う方法ではないだろうか。戦争以外の方法で解決させる責任が、日本にはある。

筆者が「戦争を起こす者」に拘(こだわ)るのは、日中戦争と国共内戦と朝鮮戦争という3つの戦争を中国で体験したからだ。国共内戦では7歳の時に餓死体の上で野宿させられて恐怖のあまり記憶喪失になり、中国共産党軍の流れ弾を受けて身障者にもなった。中国では「侵略戦争を起こした日本人」としていじめ抜かれ、自殺を試みたこともある。だから戦争を憎む。ひたすら戦争の原因を追究しようと老体に鞭打っている。

日中戦争が始まった時はまだ生まれてさえいなかったのだから何も出来なかったが、しかし「次の戦争が起きようとしている今」、私はまだ何とか生き残っている。生きているからには戦争を防ぐために微力でも警鐘を鳴らさなければならないと、自らに言い聞かせている。日本の一国民として日本を戦争から守りたいのだ。そのための考察であることを、どうかご理解いただきたい。

なお、中国の長春で経験した国共内戦に関しては7月初旬に復刊される『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』で詳述した。これまで出版してきた「チャーズ」関係の本が全て絶版になってしまったので、新たな視点で復刻版を出版する次第だ。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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