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安倍元総理の経済ブレインで米ノーベル賞学者が「アメリカは新冷戦に負ける」
米ノーベル経済学受賞学者ジョセフ・スティグリッツ博士(写真:ロイター/アフロ)
米ノーベル経済学受賞学者ジョセフ・スティグリッツ博士(写真:ロイター/アフロ)

安倍元総理の経済面のブレインで、米ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ博士が、6月22日「アメリカは新冷戦に負ける」とコメントした。消費税も「今は10%に上げてはならない」と忠告したのに日本は上げた。

◆米ノーベル賞学者が「アメリカはいかにして新冷戦に負けるのか」

6月22日、米ノーベル経済学賞受賞者でコロンビア大学の教授でもあるジョセフ・スティグリッツは、米メディアのScheerpostで「アメリカはいかにして新冷戦に負けるのか」と述べている。彼の論理は、おおむね以下のようなものである。論議しやすいように、筆者が適宜番号を付けて抜粋した。

  1. アメリカは中国とロシアを相手とした「新冷戦」で負けるだろう。ソ連崩壊後20年近くの間、アメリカは「明らかにナンバーワンだった」が、中国とロシアを覇権争いの相手とした「新冷戦」では、アメリカに勝ち目はない。
  2. なぜなら、アメリカはソ連が崩壊した後、中東での悲惨な誤った戦争、2008年の金融危機、(アメリカ国内における)不平等の拡大、アメリカの経済モデルの優位性に対する疑問など、その他の危機が起きたからだ。さらに、大統領選挙期間におけるクーデターの試み(米議会議事堂乱入事件)などがあった。これらはアメリカの政治的および社会的生活のいくつかの側面が深く病的になったことを示唆するに十分な証拠だ。
  3. アメリカがが「新冷戦」に乗り出すのであれば、勝つために何が必要かを理解しなければならない。冷戦は最終的には「魅力と説得力のソフトパワー」によって勝つ。世界のトップに立つには、「残りの人々」を説得しなければならない。
  4. アメリカは世界最高の爆撃機とミサイル・システムを作る方法を知っているかもしれないが、トップに立つにはアメリカの製品だけでなく、開発途上国や新興市場国の人々への社会的、政治的あるいは経済的システムをも考慮しなければならない。
  5. アメリカはもちろんトップの座を剥奪されることを望んではいない。しかし、中国が経済的に米国を凌駕することは、どのような公式指標を使用しても避けられない。中国の人口はアメリカの4倍であるだけでなく、その経済はまた、長年にわたって3倍の速さで成長し、実際、2015年にはすでに購買力平価の面でアメリカを上回っている。
  6. 「新冷戦」構造は、ロシアがウクライナに侵攻するずっと前から始まっていた。だからアメリカ高官は戦争が長引くことの脅威に注意せよ、つまり中国から注意をそらしてはならないと警告している。
  7. アメリカはまた、世界の発展途上国や新興市場の何十億人もの人々の心と精神を勝ち取らなければならない。世界の好意を求めるにあたり、アメリカは多くの失われた地盤を埋め合わせなければならないだろう。他の国々を搾取してきたその長い歴史はアメリカの役に立たず、深く根付いた人種差別主義も役に立たない。
  8. 気候変動に関しては、信頼性の格差はさらに大きく、主要な新興市場が温室効果ガス排出の主要な発生源となっているが、アメリカ自身の累積排出量は依然として圧倒的に大きい。
  9. ヨーロッパとアメリカは、道徳的に正しく、経済的に賢明なことについて、他人に講義することに秀でている。しかし、アメリカはもはや道徳的な高みを主張することはなく、助言を分配する信頼性も持っていない。同時に、中国は講義を行っておらず、貧しい国々にハード・インフラを提供することに優れている。言うまでもなく、これらの国々はしばしば多額の借金を負っている。しかし、発展途上国における債権者としての欧米銀行自身の行動を考えると、欧米先進諸国が偉そうに他国に指をさす立場には、ほとんどない。
  10. 欧米は、我々の経済、社会、政治システムを、再び世界の羨望の的としなければならないが、そのためにはアメリカはたとえば銃による暴力、環境規制、不平等と人種差別など、多くのことを改善しなければならない。これらのことにおいて、アメリカが世界のリーダーたる資格があることを証明できるまでは、アメリカが中国やロシアを相手に「新冷戦」に突進するのは賢明ではない。

以上、実に示唆に富む指摘だ。

◆スティグリッツ博士の指摘に関する解釈

A:人類の85%(「3」と「4」と「7」に関して)

これは正に、6月19日のコラム<ロシアが「新世界G8」を提唱_日本人には見えてない世界>に書いた内容を、言葉を変えて言っているようなものだ。

習近平国家主席が6月17日にロシアのサンクトペテルブルク国際経済フォーラムのビデオ演説で言っていた「新興国と発展途上国の声を広め、その発展を促進する必要がある」とロシア側が6月11日に提唱した「新世界G8」を提唱する論理と同じだ。

特にスティグリッツ論の「3」に書いてある「残りの人々」とは筆者が当該コラムで分析した「人類の85%」に相当する。

アメリカを筆頭とする西側先進諸国は、この「人類の85%」を「下等人種」とみなす傾向にある。

日本もその例外ではない。

先進7ヵ国「G7」に入っている「アジアの国は日本だけだ」と岸田首相も何かにつけて「豪語」しており、遥か昔の「脱亜入欧」から出発した「欧米崇拝アジア蔑視」から抜け出していない。これは即ち、筆者がコラムに書いた言葉を使えば、「わが日本国は、残り85%とは違います!」と宣言しているようなものなのだが、日本はこのことにも気が付いていない。

このたびスティグリッツ博士が突いたのは、この盲点である。

B:中国の発展スピードと購買力平価(「5」と「6」に関して)

この問題もやはり6月19日のコラム<ロシアが「新世界G8」を提唱_日本人には見えてない世界>に書いた論理と同じで、ロシアが世界の経済力のランキングに用いた「購買力平価」の米中比較を見てみると、以下の図1のようになる。

図1

IMFデータを基に筆者作成

赤が中国で青がアメリカを表しているが、たしかに2016年データでクロスしている。ということは「2015年」で中国はアメリカを追い抜いているということだ。

ノーベル経済学賞受賞学者が「購買力平価」を用いて「その国の経済力」を判断しているので、ロシアの「新世界G8」発想が、まんざら「新興国が何を言うか」ということにはならないことが見えてくる。

まちがいなく「アメリカに追随せず」、「対露制裁を行わない」という「非西側諸国」=「人類の85%」は「新世界」を形成しつつあり、その「85%」にとって「魅力的な世界のリーダーなのか否か」が問われているのである。

増加率(線の傾き)も2017年からは急激に上がっている。

中国経済は明日にも崩壊するという期待的観測が、日本では今も(一部の人に)もてはやされているようだが、「データは嘘をつかない」。

誰もがよく目にする国内総生産GDP増加率推移の米中比較を図2に念のため示そう。

図2

IMFデータを基に筆者作成

 

いや、これは増加率だけだからと思う人たちのために、誰もが良く見るGDP絶対値推移の米中比較を、これも念のため示そう。

図3

IMFデータを基に筆者作成

まだアメリカが上だが、その差は縮みつつあり、しかも追いかける「傾き」(増加率)が年々大きくなっている。

ウクライナ戦争は総合的な結果として、中国が「非ドルのアジア・ユーラシア経済圏」を実現することに貢献すると、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』第六章にさまざまなデータを上げて詳述した。それは合っていたということになろうか。

C:中国は講義をしない(「9」に関して)

習近平はよく演説の中で「われわれは、あなた(アメリカ)に説教される覚えはない」という言葉を使うが、これはスティグリッツ博士が使うところの「講義をする(lecture)」に相当する。アメリカは他国に「アメリカ流の民主主義」を押し付け、「民主を実行させるために戦争という手段を用いる」。

これが、バイデン政権を支えるネオコン(ネオ・コンサーバティヴ=新保守主義)のやり方で、この手段はその昔のスターリンのコミンテルンのやり方に似ていて「革命を輸出する」の代わりに「民主主義を輸出する」のだが、「平和的手段で民主主義を輸出する」のなら大いに歓迎するが、常に「戦争ビジネス」と連携しながら実行している。アメリカの武器商人が儲かるような構造でアメリカは動いている。

「人類の85%」はそのことを強く認識し、「非西側諸国」として結び付いているが、日本は「アメリカに追随する西側諸国15%」に属しているので、この「事実」が見えない。

この「事実」を指摘した途端に「陰謀論者」と罵倒する精神的環境に日本は汚染(洗脳?)されてしまっているので、ここから抜け出すのは相当に困難なことだろう。

しかし、スティグリッツ博士の指摘なら耳を傾けるだろうか?

◆安倍元総理の経済ブレインだった「消費税反対」のスティグリッツ博士

安倍元総理は経済政策に関して常にスティグリッツ博士にアドバイスを求めていた。たとえば<安倍総理大臣とスティグリッツ・コロンビア大学教授との会談><安倍首相「アベノミクスに意見を」 スティグリッツ氏に 国際金融経済分析会合>など枚挙にいとまがないが、最も注目すべきは2016年3月16日の<米ノーベル経済学者が「消費税引き上げる時期ではない」と安倍首相に直言 スティグリッツ氏「経済情勢の変化に順応しなければならない」と>であると言っていいだろう。タイトルにある通り、スティグリッツ博士は翌年4月の消費税率10%への引き上げは「タイミングでない」と述べたが、結局消費税は引き上げられた。それが日本の庶民の生活にマイナスの影響を与え、参院選に入った今、何やらこんな情報がネットでトレンド入りしているようだ。

ノーベル経済学賞受賞学者スティグリッツ博士の「消費税を10%に上げるな」という忠告を聞き入れていれば、こんなことにならなかったのではないだろうか。

アメリカが中露に仕掛ける「新冷戦」は、「スティグリッツ博士の忠告を聞けばよかった」という結果をもたらすのだろうか?世界を俯瞰的に見る視点を持ちたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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