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スイス平和エネルギー研究所が暴露した「ウクライナ戦争の裏側」の衝撃 世界は真実の半分しか見ていない
2013年末の反政府デモ(マイダン革命)(写真:ロイター/アフロ)
2013年末の反政府デモ(マイダン革命)(写真:ロイター/アフロ)

スイスのガンザー博士がウクライナ戦争に関してアメリカが国際法違反をしていることを証明している。日本はこれを完全に無視し事実の半分の側面だけしか見ていない。戦争はこうして起こる。犠牲になるのは日本だ。

◆スイス平和エネルギー研究所のガンザー所長が語るウクライナ戦争:真実の裏側

2022年4月12日、スイス平和エネルギー研究所の所長であるダニエル・ガンザー博士がRubikon.newsに寄稿し、「8年前のオバマ大統領の国際法違反がなければ、プーチンの違法な軍事侵攻はおそらく起こらなかったでしょう」と語った。

動画のタイトルは<ガンザー博士が語るウクライナ紛争:真実の裏側>で、日本語字幕が付いているので、非常にわかりやすい。

なぜ、この動画にたどり着いたかというと、実は映画監督オリバー・ストーンのトークを見て、彼がドキュメンタリー『ウクライナ・オン・ファイヤー』を制作していたことを知ったからだ。ところがこの映画は、「あまりに真実を語っている」ことからか、アメリカ政府が妨害して見られないようにしているため、規制がかかってなかなかアクセスできない。さまざまなルートがあり、こちらももアクセスしたが、うまくいかない。民主主義国家のはずなのに、偏った事実しか知らせず、もう一方のアメリカ政府にとって都合の悪い事実は知られないようにするという、まるで中国大陸のようなやり方だ。

そこで若手のパソコンに強い人にお願いしてやっとたどり着いたのが、このスイス平和エネルギー研究所の動画である。何時間もかけてようやく文字起こししたのだが、よくよく見ると動画の下に文字による解説があった。しかしせっかくなので、自分で文字起こししたものも参考にしながらガンザー所長が何を語っているかを、概略をご紹介したい。

◆ウクライナ戦争の出発点

2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領は軍隊にウクライナへの侵攻を命じたが、これは国連の暴力禁止規定に違反するため違法だ。一方、そのほぼ8年前の2014年2月20日、アメリカのバラク・オバマ大統領は、ウクライナをNATOに引き込むためにウクライナ政府を転覆させた。このクーデターがウクライナ戦争の出発点だ。 

プーチンの侵略と同じように、オバマの行動は国連の暴力禁止に違反し、したがって違法だ。現在、メディアではプーチンの侵攻について多く報道され、正しく批判されている。しかし、オバマのクーデターについては、ほとんど報じられていない。なぜ、物語の半分しか語られないのか?

ガンザー所長の著作『違法な戦争(ILLEGAL KRIEGE)』でもウクライナのクーデターについて述べている。「欧米が主導したクーデターであることは間違いない」と、元CIA職員のレイ・マクガバンは認めている。

ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦が崩壊した後、ウクライナは1991年にソビエト連邦からの独立を宣言した。ロシア政府の弱体化は、米国の影響力を東欧に拡大し、かつてモスクワが支配していたワルシャワ条約加盟国をNATOに加盟させる最初のチャンスを米政府に与えた。

◆NATOの東方拡大

米国はロシアにNATO不拡大を約束していたにもかかわらず、NATOは拡大され続けた。ロシアは激怒し、米国でも注意喚起の声が上がった。「もし中国が強力な軍事同盟を結び、カナダやメキシコを参加させようとしたら、そのときのワシントンの怒りを想像してみたらよい」と、シカゴ大学の政治学者ジョン・ミアシャイマー氏が警告した。ミアシャイマー氏によれば、欧米が不必要にロシアを刺激したため、ウクライナ危機を引き起こしたとのこと。

◆マイダンでのジョン・マケイン上院議員

2013年末、ウクライナの首都キエフの中央広場「マイダン」では、ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ大統領とニコライ・アザロフ首相の政権に反対するデモが行われていた。元ボクシング世界チャンピオンとして有名なビタリ・クリチコがデモを主導し、米国と緊密に打ち合わせた上で扇動的な演説をした。この緊迫した状況の中、米国の有力上院議員ジョン・マケインがウクライナに飛び、2013年12月15日、クリチコとともにマイダンの抗議者陣営を訪問した。米国の上院議員がデモ隊にウクライナ政府転覆を促した。

もし、ロシアの有名な国会議員がカナダに飛び、首都オタワでカナダ政府を転覆させようとするデモ隊を支援したら、米政府はどれほど怒り狂うだろうか?

米国はまさにそのようなことをウクライナで行ったのだ。

◆駐キエフ米大使館が抗議行動をコーディネート

マイダンのデモのリーダーたちは、米大使館に出入りし、そこで指令を受けていた。一部のデモ隊は武装しており、警察に対して暴力を行使した。キエフの米大使館では、ジェフリー・パイアット米大使がデモ隊を支援し、ウクライナの不安定化を進めた。パイアット大使は、元ボクサーのクリチコと直接コンタクトをとっていた。マイダン広場の組織化されたデモはどんどん大きくなり、キエフの緊張は高まっていった。バイデン米大統領もマイダンのデモを支持し、クーデターに直接関与していた。2013年12月、当時オバマ政権下で副大統領だったバイデンは、夜中にヤヌコビッチ大統領に電話をかけ、「警察がマイダンの群集を排除したら、ただでは済まないぞ」と脅した。その後、ヤヌコビッチは予定していた排除行動を撤回した。

◆ビクトリア・ヌーランドの50億ドル

米国務省でクーデターを担当していたのは、ビクトリア・ヌーランドだ。ヌーランドはブカレスト首脳会議で合意されていたように、ウクライナをNATOに加盟させるため、アザロフ首相とヤヌコビッチ大統領を引きずり落とそうとしていた。マイダンのデモの指導者たちは、米大使館から指令を受けただけでなく、報酬も受けていた。2013年12月、ヌーランドは講演で「我々はウクライナの民主主義を保証するために50億ドル以上を投資してきた」と語った。これには、元米下院議員のロン・ポール氏など、米国でも批判が出た。ウクライナのデモ隊の中にお金をもらっている人がいることは、当時公然の秘密だった。米国の大富豪ジョージ・ソロスのように、革命に資金を提供する人たちがいた。(会話録音に関しては省略した。)

◆2014年2月20日、狙撃手が状況をエスカレートさせる

2月末、マイダンの状況がエスカレートした。2014年2月20日、正体不明の狙撃手が複数の建物から警察官やデモ隊に発砲し、40人以上の死者を出すという大虐殺が発生し、状況は混乱した。ただちに当時のヤヌコビッチ政権とその警察組織は虐殺の責任を負わされたが、彼らには事態をエスカレートさせることに何の得もない。彼らとしては政権の転覆を避けたかったからだ。

しかし政権打倒を目指していたボクサーのビタリ・クリチコはドイツのタブロイド紙『ビルト』に「国際社会は独裁者が国民を虐殺するのを傍観していてはならない!」とコメントし、政権転覆は成功した。ヤヌコビッチ大統領は失脚し、ロシアに亡命した。その後、億万長者のペトロ・ポロシェンコが大統領に就任し、ウクライナをNATOに導くと即座に宣言。

◆プーチンがクーデターについて語る

ロシア人は米国がクーデターを組織したことを知っており、激しい怒りを覚えていた。もし米国と欧州が違憲行為を行った者達に対して、「そんなやり方で政権を取っても決して支持しない」、「選挙をやって勝てばいいんだ」と告げていたら、 状況はまったく違っていただろうとプーチン大統領は語った。

◆クリミアの分離独立

プーチン大統領は、手をこまねいたままウクライナを手放すつもりはなかった。ヤヌコビッチ政権崩壊直後、2014年2月23日未明にクリミアの「奪還」開始を指示した。2014年2月27日、クリミア半島最大の都市シンフェロポリで、記章のない緑の制服を着たロシア兵がすべての戦略地点を占拠し2014年3月16日、クリミアの人口の97%がウクライナから離脱し、ロシアに加盟することに票を投じた。それ以来、クリミア半島はウクライナではなく、ロシアに属している。

ウクライナ戦争では、米国もロシアも国際法を遵守していない。

まずオバマが2014年2月20日のクーデターで国際法を破った。

これに対し、プーチンは2014年2月23日にクリミアを占領して国際法を破った。

ロシアのクリミア占領は「現行の国際法に対する侵犯」であり、「ウクライナの主権と領土保全が侵害された」と、元連邦行政裁判所判事のディーター・デゼーロートは説明している。西側諸国は現在プーチンを厳しく批判しているが、西側諸国も数々のケースで現行の国際法に繰り返し違反している。プーチンを批判する資格に疑問符が付される。

◆ドンバスの分裂

キエフのクーデターとクリミアの分離独立後、ウクライナは内戦状態に陥った。新首相のヤツェニュク氏は、軍、諜報機関、警察の力で国全体を支配下に置こうとした。しかし、兵士、警察、シークレットサービス関係者は必ずしも全員がクーデター政府の指示に従ったわけではない。ロシアと国境を接するウクライナ東部のロシア語圏では、ドネツク地区とルガンスク地区がキエフのクーデター政権を承認しないことを宣言した。「分離主義者たちは警察署や行政庁舎を占拠し、新政府は不法に誕生したものであり正統性がない」と主張した。

ヤツェニュク首相はこれに激しく反発し、分離主義者はすべてテロリストであると断じた。CIA長官ジョン・ブレナンはクーデター実行者に助言するためにキエフに飛んだ。2014年4月15日、ウクライナ軍は米国の支援を得て「対テロ特別作戦」を開始し、ドネツク地区のスラビャンスク市を戦車や装甲兵員輸送車などで攻撃した。

これがウクライナ内戦の始まりで、8年間で1万3千人以上の命が失われ、それが2022年2月24日のプーチンによる不法侵攻につながったのだ。

キエフでのクーデターは、プーチンのウクライナ侵攻を正当化するものではなく、それが国際法の侵犯であることに変わりはない。しかし、私たち西側諸国が2014年のクーデターを無視するならば、ウクライナ戦争を理解することはできないだろう。

(ここまでがガンザー所長の分析の紹介。キエフなどは原文のママ)

◆基本軸で合致していた筆者の見解

このような動画を初めて見て驚き、激しい衝撃を受けた。

なぜなら、筆者の書いてきたものはガンザー所長の動画での分析の足元にも及ばないが、しかしこれまで書いてきたコラム(5月1日の<2014年、ウクライナにアメリカの傀儡政権を樹立させたバイデンと「クッキーを配るヌーランド」>や5月6日のコラム<遂につかんだ「バイデンの動かぬ証拠」――2014年ウクライナ親露政権打倒の首謀者>と一部重なっており、拙著『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』で描いた軸とも一致していたからだ。

私ごときものが主張しても、日本政府は「聞く耳を持たない」かもしれないが、しかしスイス平和エネルギー研究所所長の主張やオリバー・ストーンが描いた映画であるなら、信用してくれるのではないだろうか。

真実はどこから斬り込んでも同じところに点を結ぶ。

日本はこの真実から目を逸らし、戦争に向かってまっしぐらに進もうとしていることに気が付いているだろうか?

今般のアメリカの対応を見れば、日本は自国の軍事力を強化する以外にないのは明らかだ。しかし、日本がどの文脈の中で戦争に巻き込まれようとしているのか、その真相を日本国民は自分自身のために直視しなければならないと思う。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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