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中国に最も痛手なのは日本が外交的ボイコットをすること
2022北京冬季五輪聖火(写真:ロイター/アフロ)
2022北京冬季五輪聖火(写真:ロイター/アフロ)

米英豪加などファイブアイズ国家が外交的ボイコットを表明したが、IOCと共同で173ヵ国が国連決議で北京冬季五輪を支持表明しており中国は強気だ。しかし日本がボイコット表明すれば中国には痛手だ。

◆12月9日の中国外交部記者会見から何が見えるか?

12月9日、中国外交部定例記者会見における汪文斌報道官の回答が公開された

北京冬季五輪の外交的ボイコットに関して4人の記者から質問があり、汪文斌は以下のように回答している(概要のみ記す)。

●ロイター記者:ロシア以外に、中国はほかにどの国の指導者と政府関係者を招聘していますか?

汪文斌:オリンピックのルールでは、各国のリーダーは自国のオリンピック委員会から招待され、IOCのシステムに登録されるという形を取っています。現在、すでに少なからぬ国家元首や政府首脳あるいは王室メンバーが北京冬季五輪に出席すると登録しています。私たちはその人たちに歓迎の意を表します。中国は、国際的オリンピック事業のために、より多くの貢献をするために力を尽くし、シンプルで安全かつ素晴らしく祭典を世界に発信していくつもりです。

●ラジオ香港記者:イギリスとカナダが北京冬季五輪に外交代表を派遣しないと表明したことについて、中国はどのようにお考えでしょうか?報道によれば国連総会で採択されたオリンピック休戦決議に20ヵ国が署名していないとのことですが、中国はドミノ現象が潜在していると考えていますか?

汪文斌:まず指摘したいのは、そもそも中国はどの関係国にもまだ招待状を送っていないということです。その国の政府関係者が来ても来なくても、同じように北京冬季五輪の成功を目にすることになるでしょう。

スポーツは政治とは無関係です。オリンピックは広大なアスリートやスポーツ愛好者たちの祭典であって、政治家がショーを見せるための舞台ではありません。アメリカ、オーストラリア、イギリス、カナダなどの個別の国は、北京冬季大会に関する国連総会におけるオリンピック休戦決議の共同提案を拒否し外交的ボイコットという独自の茶番劇を演出してオリンピック精神を破壊する行動を取っています。私たちは関係国がオリンピック精神を守り実践していくことを願っています。

あなたが先ほど心配していた連鎖反応に関してですが、私たちは連鎖反応を心配していません。12月2日、第76回国連総会は、中国とIOCが共同で起草し、173の国連加盟国が共同提案した「北京冬季五輪におけるオリンピック休戦決議」を総意で採択しました。多くの加盟国の代表者が、北京冬季五輪と休戦決議を支持すると発言をしました。これは、国際社会がオリンピック祭典を支持し、世界平和を維持しようとしていることの表れです。

●AP通信:ニュージーランドの貿易大臣は、記者の質問に対し、「ニュージーランドは人権問題に対して常に強い姿勢で臨んでおり、北京冬季五輪に政府関係者を派遣しません」と述べました。これに対する中国政府の対応は?

汪文斌:北京冬季五輪は全世界のアスリートとアイススポーツ愛好者たちの祭典です。ニュージーランドを含むすべての国のアスリートが北京冬季五輪に参加することを歓迎します。すべての関係者が「より大きな団結」というオリンピック精神を実践し、スポーツを政治的に利用しないことを願っています。

●日本の共同通信社記者:駐カナダ中国大使館は、「カナダ側と真剣に交渉した」という声明を出しています。中国はイギリスにも働きかけているのですか?日本は北京冬季五輪に関してまだ態度を保留していますが、しかし閣僚級の人物を出席させる可能性は低いと思われます。これについて中国はどのように考えていますか?中国はアメリカに対して断固たる対抗措置をとると表明していますが、具体的にどのような対抗措置を取るのか教えてください。イギリス、オーストラリア、カナダなどに対しても対抗措置を取るのでしょうか?

汪文斌:ご指摘の第一の質問については、駐英中国大使館がプレスリリースを発表していますので、そちらをご参照ください。

第二の質問に関しては、いわゆる「人権」や「自由」を口実にスポーツを政治利用しようとする試みは、オリンピック憲章の精神に反するものであり、中国は断固反対します。中国と日本の間には、オリンピック開催においてお互いを支持するという重要なコンセンサスがあります。中国は東京オリンピックの開催に向けて日本を全力を挙げて支援してきましたが、今度は日本が基本的な信義を示すべき番に回ってきました。

第三の質問に関して申し上げたいのは、米英豪加がオリンピックというプラットフォームを利用して政治的操作を行おうとするのは世界の人心を得ることはできません。全世界から見れば孤立しており、いずれ必ずその代償を払うことになるだろうということをお伝えしておきます。(引用ここまで)

以上4人の記者からの質問と回答を見れば明確なように、日本に対してだけは「信義上、北京冬季五輪を支持すべきだ」と明言しており、他の国と区別している。これは12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>における中国外交部報道官・趙立堅の回答でも際立っていた。したがって日中間で約束事がなされていたことだけは、先ず確かだろう。

◆国連における北京冬季五輪を支持する決議

上記の記者会見で香港の記者との質疑応答で提起された国連総会における決議は以下のようなものである。英語版に関してはUNGeneralAssemblyadoptsOlympicTruceforBeijing2022,highlightingthecontributionofsporttothepromotionofpeaceandsolidarity(国連総会が2022年北京大会のオリンピック休戦協定を採択、平和と連帯の促進に向けたスポーツの貢献をアピール)にあり、中国語版はこちらにある。

12月2日にニューヨークで開催された第76回国連総会において、193の全加盟国の内173の加盟国が共同提案した「BuildingapeaceandbetterworldthroughsportandtheOlympicideal(スポーツとオリンピックの理想による平和でより良い世界の構築)」と題した決議案を無投票で採択した。

193-173=20ヵ国が共同提案に加わっていない。

中国外交部報道官・汪文斌が言った「173ヵ国」はこの数値を指しており、中国としては強気なのである。上記の記者会見における中国外交部報道官の回答をできるだけ詳細に書いたのは、これら173ヵ国が、こういったセリフに惑わされていることを知っていただくためだ。

◆ボイコットに対するIOC声明

12月6日、IOCはアメリカの外交的ボイコット表明を受けて、IOCstatementontoday’sannouncementbytheUSgovernment(本日の米国政府の発表に対するIOCの声明)を発布した。

そこには概ね、以下のようなことが書いてある。

――政府関係者や外交官の出席は、各政府の純粋な政治的決定であり、政治的中立性を有するIOCはこれを完全に尊重します。同時に、今回の発表は、オリンピックと選手団の参加が政治を超えたものであることを明確にしており、私たちはこれを歓迎します。

選手とオリンピックへの支援は、ここ数ヶ月の間に何度も表明されており、最近では、先週ニューヨークで開催された第76回国連総会における国連決議でも表明されています。この決議は、2022年北京オリンピック・パラリンピック競技大会において、オリンピック競技大会開始である2022年2月4日の7日前から、パラリンピック競技大会終了の7日後まで、オリンピック休戦を遵守することを求めています。

また、「すべての加盟国に対し、オリンピック・パラリンピック競技大会の開催期間中およびそれ以降において、紛争地域における平和、対話、和解を促進するツールとしてスポーツを活用するための国際オリンピック委員会および国際パラリンピック委員会の取り組みに協力することを求める」としています。(引用ここまで)

中国外交部の発表によれば、国連決議を起草したのは「中国とIOC」であるとのことだ。

◆中国にとって最も痛手となるのは日本がボイコット宣言をすること

上述の国連における共同提案に参加しなかった20ヵ国の中に日本がある。

しかし日本はアメリカの外交的ボイコットに対して即応していない。

ボイコットの理由となっている新疆ウイグル自治区における人権問題に関わった当局者たちを罰することができる日本版マグニツキー法の制定も延期してきた。

12月9日のコラム<北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す>に書いたように、林外相は非常に積極的に日中友好を謳いながら王毅外相に接近し、来年の日中国交正常化50周年記念を中国と協力しながら祝賀したいと、自ら積極的に王毅外相に伝えている。

中国にしてみれば、どんなにアメリカから制裁を受けたり攻撃されたりしようとも、日米同盟で固く結ばれているはずの日本は、常に中国に友好的に動いていることを知っているし、また日本が対中友好的であるように中国は水面下で動いてきた。林外相が会長をしていた日中議連は、日中が国交を正常化する前から日中友好のために貢献してきた組織だ。中国が最も親中的だと位置付けている公明党とも岸田政権は連立を組んでいる。

かてて加えて今般は「東京大会開催時に日本は中国と水面下で互いに協力し支持し合うと約束していた」ことが判明している。

その日本が「中国との信義」を破って外交的ボイコットを宣言することは、中国にとっては大きな痛手となるだろう。日米が足並みを揃えたシグナルにもなるからだ。習近平のメンツも潰れる。

しかし、岸田首相も林外相も「中国に対して言うべきことは言う」と言っているのだから、今こそ明確に「外交的ボイコット」を宣言すべきだろう。

1989年6月4日の天安門事件後の対中経済封鎖を解除させたのは日本で、それにより中国はこんにちのような経済大国に成長した。あの愚を繰り返してはならない。言葉を濁して逃げ切れるものではないことを肝に銘じるべきだ。

日本国民は国際社会とともに、日本がいかなる発信をするかに注目している。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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