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北京五輪ボイコットできない岸田政権の対中友好がクワッドを崩す
岸田首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
岸田首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

アメリカの北京冬季五輪外交的ボイコットに対し、岸田首相は同調していない。人権問題を制裁できる法制定も先送りし、超親中の林氏を外相に据えた岸田政権は対中友好満載だ。日本は又しても対中包囲網を崩壊させるのか。

◆バイデン政権が北京冬季五輪の外交的ボイコットを決定

アメリカのバイデン政権は12月6日、「新疆ウイグル自治区で進行中のジェノサイド(集団殺害)や人道に対する罪への意見表明」として来年2月に北京で開催される冬季五輪に対して(政府関係者などを派遣しないという)「外交的ボイコット」を行うと発表した。

その発表が成される前日、中国外交部の趙立堅報道官は定例記者会見で、ブルームバーグ記者の「CNNが、アメリカが外交的ボイコットをするだろうと言っているし、日本の与党保守派のメンバーが岸田首相にも外交的ボイコットをするよう圧力をかけているが、どう思うか?」という質問に対して、概ね以下のように回答している。

――北京冬季五輪は、主役である選手のためのグローバルイベントだ。IOC(国際オリンピック委員会)をはじめとする国際社会は、その準備作業を高く評価しており、アメリカや日本をはじめとする多くの外国人選手は、中国での競技を熱望している。

冬季五輪は決して政治的なショーや策略のための舞台ではないということを強調したい。招待状も出していないのに外交的ボイコットをするということは、アメリカの政治家たちの自己満足であり、陳腐な政治的操作であり、オリンピック憲章の精神に反する政治的挑発だ。

これは14億人の中国人民に対する侮辱でもあり、もしアメリカがこのようなオリンピック精神にもとる態度を続けるならば、中国は断固とした対抗措置をとる

米国は、スポーツの政治化をやめ、北京冬季オリンピックへの干渉と妨害をやめるべきであり、そうでなければ、さまざまな重要分野や国際・地域問題における両国の対話と協力にダメージを与えることになる。(引用ここまで)

翌12月7日になると、アメリカの正式発表を受けて中国外交部は定例記者会見で同様の質問に対して同様の回答をしている。

◆岸田文雄首相の反応

問題は日本がどうするかだ。

12月7日午前、岸田首相は首相官邸で記者団の取材を受け、日本政府の対応について「国益の観点から自ら判断する」と述べた。その上で、「オリンピックの意義や我が国の外交にとっての意義等を総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断していきたい。これが我が国の基本的な姿勢だ」と述べた。

つまり、必ずしもバイデン政権の望む通りには動かないということになる。

バイデン政権もまた、他の国に強要するものではないと言ってはいるが、当然のことながらバイデン大統領としては自分の威信を保つためにも同盟国や友好国がアメリカの決定に同調してくれるのを望んでいるだろう。何と言ってもバイデンは大統領に就任するなり「国際社会に戻ってきた」と宣言したのだから。おまけにアメリカ国内ではひたすら支持率が低下し続けている。だから国内的にも「ほらね、私はこんなに反中的で人権重視なんだよ」というところを見せなければならない。

したがって岸田首相には「もちろん日本はアメリカと歩みを共にします!」と、即答して欲しかったにちがいない。

しかし岸田内閣は今のところ、アメリカの望む「反中的」方向には動いてない。

◆林芳正外相の反応

12月7日の日本の外務省報道によれば、林外相は外交的ボイコットに関して読売新聞記者の質問に対し以下のように回答している(一部抜粋)。

  • 米国政府の発表については承知をしておりますが、北京冬季大会への各国の対応についてコメントすることは、差し控えたいと思います。北京冬季大会への日本政府の対応については、今後適切な時期に、諸般の事情を総合的に勘案して判断をいたしますが、現時点では何ら決まっておらないということでございます。
  • (諸般の事情に人権が入っているか否かという質問に対して)日本としては、国際社会における普遍的価値であります自由、基本的人権の尊重、法の支配、こうしたものが、中国においても保障されることが重要であると考えておりまして、こうした日本の立場については、様々なレベルで中国側に直接働きかけてきております。北京冬季大会への日本政府の対応については、今後そういったご指摘の諸点も含めて、適切な時期に諸般の事情を総合的に勘案して判断をすると考えております。(引用以上)

なんとも曖昧模糊(あいまいもこ)として、ほぼ「逃げている」としか言いようがない。

◆親中まっしぐらに突き進む岸田政権

そもそも岸田首相は11月16日の時点で、ウイグル問題など人権侵害に関与した外国当局者らに制裁を科せる「日本版マグニツキー法」の制定を当面見送る方針を固めていた。G7の中でマグニツキー法を制定しない方向で動いているのは日本一国だけである。習近平への配慮からであることは言うまでもない。

そこへさらに林芳正氏を外相に充てたということは、もう親中まっしぐらで行くことを示唆している。

私は林氏と何度かテレビ対談をしているが、林氏は人格的には威張ってなく、フランクな感じで好感が持てる。ところが対談を始めてみると、驚くほどの親中ぶりを発揮し、私はナマ放送で思わず「あり得ない!」と言ってしまったという経験がある(2018年10月)。

それもそのはず、林氏はそのとき日中友好議員連盟(日中議連)の会長だった。

2019年5月5日には日中議連の代表として訪中し、北京でチャイナ・セブンの一人である汪洋(全国政治協商会議主席)と会見している

汪洋はこの時、日中議連の長年にわたる中国への貢献を讃え、特に「去年は習近平主席と安倍首相が何度も会い、一帯一路プラットフォームを通して協力と友好を深めている」と礼賛した。

さすがにこのまま外相を務めるのはまずいと思ったのだろう、今年11月11日に外相就任と同時に林氏は日中議連の会長職は辞任したものの、際立った親中派であることに変わりはないだろう。

今年11月18日には中国の王毅外相と電話会談しているが、林氏の方から「来年は日中国交正常化50周年記念なので、日中友好を一層深めたい」と申し出、日本の報道によれば「王毅外相も賛同した」とある。林氏の方が日中友好に積極的なのだ。

また中国側報道では、王毅が林氏に訪中を要請したとは書いてないが、林氏自らが、11月21日に「王毅外相から要請があった」と明らかにしてしまった

◆中国はクワッドを骨抜きにする狙い

中国は東京五輪を支援し参加してきたのだから、日本が北京冬季五輪をボイコットするなどということはできないと思っている。

事実11月25日の外交部定例記者会見で趙立堅報道官は以下のように述べている。

――中国と日本は、互いの五輪開催を支援するという重要なコンセンサスがある。中国は、東京五輪の開催にあたり、既に日本側を全面的に支持してきた。日本側には基本的な信義があるべきだ。(引用ここまで)

「重要なコンセンサス」が出来上がっていたということは即ち、日本は「こっそり」=「水面下で」、「すでに中国と固く約束を交わしていた」ものと解釈することができる。それを気性の荒い趙立堅がばらしてしまったことになろうか。

したがって岸田首相や林外相がどんなに言葉を濁しても、日本が外交的ボイコットをする可能性はないと言っていいだろう。閣僚のレベルを下げるくらいのことはしても、「政府高官」を誰一人派遣しないということはないということだ。

実はインドにしても同じことなのである。

11月26日、「中国・ロシア・インド(中露印)外相第18回会議」がオンラインで開催され、35か条に及ぶコミュニケが発布された

その第34条には「外相たちは中国が2022年に北京冬季オリンピック・パラリンピックを開催することを支持する」と明示してある。

すなわちインドは、決して北京冬季五輪の外交的ボイコットをしないということだ。

念を押すように、ロシアのプーチン大統領が12月6日インドを訪問しモディ首相と対面で会談した。このコロナの中でわざわざインドまで行くというのは、よほどインドを重んじているためと解釈される。

これまで何度も書いてきたが、プーチンとモディは個人的に非常に仲良しだ。

プーチンと習近平の親密さも尋常ではない。

8月15日のコラム<タリバンが米中の力関係を逆転させる>や9月6日のコラム<タリバン勝利の裏に習近平のシナリオ ―― 分岐点は2016年>などでも書いたように、習近平は肝心な分岐点になると、必ずと言っていいほどプーチンに前面に出てもらって中国に有利な方向に国際社会を持って行くべく動いてもらう傾向にある。

今般もまたプーチンに前面に出てもらってインドを中国側に引き付けるべく水面下で動いていると解釈される。

このたびのプーチン訪印では、露印間で99条に及ぶコミュニケが出されたが、それらは軍事やエネルギー面などでの連携を強化する内容になっている。特に軍事領域における両国間の強化は、アメリカに対して非常に不愉快なものだろう。

プーチンにしてみればウクライナがNATO側に付くことだけは許さないという強烈な気持ちがあるので、その意味でも中印との連携を強化したい。

クワッド(日米豪印)からインドが実質上抜け、日本がマグニツキー法や外交的ボイコットにおいてアメリカに同調しないとすれば、中国から見れば、クワッドは骨抜きになったに等しいのである。

岸田政権には中国が世界中で最も親中的だと位置付けている公明党が与党として入っており、中国が最もコントロールしやすいとみなしている日中議連の会長を務めていた自民党きっての親中派である林芳正氏が外相を務めているので、岸田政権は親中満載だと見ているだろう。

特に12月3日のコラム<習近平、「台湾統一」は2035年まで待つ>で述べたように、習近平はあくまでも経済で各国・地域を中国側に引き寄せておけば安泰という外交戦略で動いている。

もともと親中親韓的傾向の強いハト派である宏池会出身の岸田文雄氏が首相を務める岸田政権は経済連携において中国から離れることはない。

習近平にとって、こんなにありがたい政権はないのである。

日本はこのことに目を向けなければならない。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(7月初旬出版予定、実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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