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北京早くも東京五輪を利用し「送夏迎冬」――北京冬季五輪につなげ!
東京2020 閉会式(写真:青木紘二/アフロスポーツ)
東京2020 閉会式(写真:青木紘二/アフロスポーツ)

中国が東京五輪を積極的に支持したのは、コロナが原因で不開催となると北京冬季五輪に影響するからだが、閉会式の日に北京は早速全世界に向けて「送夏迎冬」というメッセージを発信し、北京冬季五輪へといざなった。

◆突然スマホに「送夏迎冬」のメッセージ

日本時間の2021年8月8日夜10時00分、東京五輪の閉会式が終わろうとしていた頃、突然スマホに中国共産党が管轄する中央テレビ局(中央電視台)の「央視新聞客戸端(CCTVクライアント)」から「送夏迎冬!梦想接棒!180天后北京見」(夏を見送り冬を迎える!夢をつなげよう!180日後に北京で会いましょう)というニュースが入ってきた。

おお、来た――!

予感が的中したぞ――!

慌ててクリックすると以下のような画面が目に飛び込んできた

CCTV画面から

CCTVの画面から

画面には「迎冬 BEIJING(北京)」とあって、その下に「東京と別れ 北京で相見える」とある。中国にとって東京の次はパリではなく北京だ。

この画面の下には、以下のような言葉が並んでいる(概略を示す)。

東京から北京へ

真夏から氷雪へ

異なる競技場で同じ夢を

180日後 中国の立春の季節に 北京、この”二つの五輪の都市”は

素晴らしい、並外れた、卓越した冬季五輪を世界にお届けします。

世界のトップアスリートが北京に集結し、再び世界が五輪の熱気に包まれる。

2022 See you in Beijing!(2022 北京で会いましょう!)

“さらに団結した “私たち 不見不散!(必ず会いいしましょう!)

(この「二つの五輪の都市」とは、2008に開催した北京五輪と2022年に開催する北京冬季五輪の二つを指す)

◆「さらに団結した」私たちとは?

これらのフレーズの中で最も気になったのは「更団結」(さらに団結)だ。

これは何を意味しているかというと、「東京は無観客」だったが「北京は有観客」なので、「世界の人々が、さらに団結している」ということである。

これまで何度もコラムに書いてきたように、中国が東京五輪開催を積極的に支持してきたのは、「コロナで開催できなかった」となると、「コロナを発祥させた中国への批難」に焦点が当たるからだ。今やコロナ感染者の累計は世界で2億人という数値にまで達してしまった。人類史上でも稀に見る災禍である。

したがってコロナで五輪が開催できなかったとなると、全人類の批難は中国に向かって集中し、北京冬季五輪のボイコットを叫ぶ声が高まるだろう。

だから習近平国家主席はバッハ会長と緊密に協力し合い、何が何でも東京五輪を開催させる方向に動いていた。

これはちょうど、8月5日のコラム<7000人もの医療関係者を五輪に確保し、「国民の重症者以外は自宅療養」の無責任>で書いたように、日本の自民党の河村建夫議員(元官房長官)が7月31日に「五輪がなかったら、国民の皆さんの不満はどんどんわれわれ政権が相手となる。厳しい選挙を戦わないといけなくなる」と語ったのと同じ構図だ。すなわち

日本:マスコミを総動員して日本選手の活躍に熱狂させ、国民の目をコロナ感染からそらし、選挙に有利な方向に持って行こう!

中国:東京五輪を開催させ、コロナに批難の目が行かないように仕向けて北京冬季五輪を成功させよう(=北京冬季五輪ボイコットを言わせないようにしよう)!

という同じ構図で動いていることがお分かりだろう。その意味で菅政権と習近平は「共犯者だ」と言っても過言ではない。

◆8月8日、中国の「全民健身(国民運動)の日」に習近平のメッセージ

皮肉なタイミングとも言えるが、8月8日はなんと、中国にとっての「全民健身(国民運動)の日」だ。これは2008年8月8日の北京五輪にちなんで、翌2009年に設けられた祝日で、習近平は2016年10月25日に《健康中国2030計画》なるものを発布して、中国人民が健康を保つためにスポーツによって体を鍛えるように呼び掛けている。

CCTVは習近平の「全民健身の日」に関する以前の指示を引用して、その流れの中で前述の「送夏迎冬」を報道した。中国時間で夜7時43分から56分までの間(日本時間8時43分から56分頃)だったので、中国のネットでは「意味が分からない閉会式の余興」から、関心は一気に北京冬季五輪に移っていった。

日本時間の夜10時には全世界のCCTVを観ている者のスマホに冒頭のメッセージが発信されたので、中国国内外の東京五輪への関心もまた、一気に北京冬季五輪へと切り替わっていった。

このスイッチの切り替えは、いかにも東京五輪は北京冬季五輪のための通過点であり、北京冬季五輪を成功に導く「道具」であったかのようなイメージを与えた。

◆日本でデルタ株が爆発するのを中国は見抜いていた

8月7日のコラム<中国デルタ株感染拡大は抑え込めるか?>に書いたように、中国は日本がデルタ株のパンデミックを抑えきれないだろうということを見抜いていた。

8月9日のCCTV国際ニュースの東京五輪に関する報道は、専ら「東京五輪開催と同時に日本ではデルタ株感染が爆発している」ということに重点を置いていた。

それに比べて「中国はコロナ感染をコントロールしている」と言いたいのだろうが、南京禄口空港を出発点としたデルタ株の新規感染者は8月7日に<中国デルタ株感染拡大は抑え込めるか?>を書いた時点とかなり違ってきている。

その考察では8月6日までの統計を拾ってグラフ化したが、7日と8日のデータを加えると、やや増加傾向にある。それを図2として示す。

国家衛生健康委員会のデータよりピックアップ

国家衛生健康委員会のデータよりピックアップ

わずかではあるが、やや増加傾向にあることは確かだろう。

これは江蘇省揚州市にある麻雀荘を中心として広がっているもので、中国は定年が早く、まだ元気な高齢者が暇を持て余して麻雀に耽(ふけ)ることが多い。高齢者はスマホを持っていない場合も手伝い、中国のデルタ株感染拡散もまだ予断を許さない状況だ。おまけに感染力が大きいハイリスク地区は15ヵ所になり中程度のリスク地区は201ヵ所に増えた。この値は時々刻々増えているので、北京はほぼ「厳戒態勢」に入っている。

ハイリスクおよび中リスク地区からの北京入りは原則許さないという非常に厳しい「入京制限令」が出ているのだ。これも時々刻々変わっているので、今後どうなるかは何とも言えない。

いずれにしても北京は2020年初頭の中国におけるコロナ発症が収束して以降、「新規感染者はゼロ」を保ってきたので、デルタ株の突然の広がりに関しては尋常ではない警戒を示している。

特に習近平としては、どんなことがあっても北京冬季五輪を「更団結」に持って行きたいからだろう。

◆首都機能と経済活動の集中度

中国でこれができるのは、行政としての首都「北京」と、経済活動の拠点都市が分離されているからだ。

2021年4月14日のSTATISTAというウェブサイトはWhere Capital Cities Have The Most Economic Clout (最も経済的影響力のある首都はどこか)というタイトルでNiall McCarthy氏の論考を載せている。

そこにはOECD(Organisation for Economic Cooperation and Development、経済協力開発機構)のデータとして、いくつかの首都を取り上げ、その国のGDPの何パーセントに首都の経済活動が寄与しているかを示した図表がある。

それを以下に示す。

図3:最も経済的影響力のある首都はどこか

STATISTAのウェイブサイトから引用

STATISTAのウェイブサイトから引用

これを見ると、東京は日本全国のGDPの33.3%を占めているのに対して、北京の場合は3.3%しか占めていない。したがって北京の人流を完全にブロックしても中国全体の経済活動にあまり影響を与えないので、「北京のコロナ新規感染者ゼロ」という状態を保つことができる。

しかし日本は経済活動も教育も行政も、何もかも東京に一極集中しているので、たとえ法的に許されてもロックダウンをしてコロナ感染を食い止めるということが困難だという側面も否めない。

◆高笑いをするのは習近平か

その東京でコロナ感染の緊急事態宣言が出ている中、世界中からアスリートを招致したのだから、爆発的感染をもたらさない方がおかしいだろう。

このOECDのデータとコロナ下での五輪開催を照らし合わせると、東京の極端な一極集中の抜本的改善がないと、今後もさまざまな問題を生み続けるかもしれないと、ふと思う。

いずれにしても、日本は結局、「更団結」を掲げた習近平の高笑いを許す大事業をしてあげたことにつながる。

グローバルな視点で見ると、そういうことが言える。

無念でならない。

 

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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