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中国デルタ株感染拡大は抑え込めるか?
2021年8月7日
新型コロナ感染症 中国、感染拡大を警戒(写真:AP/アフロ)
新型コロナ感染症 中国、感染拡大を警戒(写真:AP/アフロ)

中国ではデルタ株による感染が南京空港から始まり192ヵ所に広がって緊急対応に追われている。関係都市住民の全員にPCR検査をし、無症状者も隔離入院させているが、果たして抑え込めるか、現状を考察する。

◆中国で突如デルタ株感染拡大

7月10日、江蘇省南京市にある南京禄口空港に着陸したモスクワ発のCA910便にコロナ患者7人が乗っていたことが、着陸直後の空港でのPCR検査で判明した。 

乗客はみな濃厚接触者とみなされて隔離されて隔離施設に送り込まれたが、7月20日の定期的な空港従業員全員のPCR検査を行ったところ、機内清掃員17人が陽性であることがわかった。

CA910便内の清掃は、いつものように防護服を着た清掃員たちが行ったのだったが、どうやら防護服を脱ぐときに注意が行き届かなかったらしい。CA910の乗客の中の感染者が持っていたウイルスがインド由来のデルタ株の強力なものであったため、清掃員に移ってしまったようだ。

これらの清掃員たちは国際便の清掃だけでなく国内便の清掃にも携わっている清掃会社の従業員たちで、おまけに清掃員の多くは南京市に住んでいるため、10日間にわたって家族や知人・友人にも接しており、デルタ株のコロナ感染が一気に広がっていった。

◆感染者の動線追跡

7月20日から8月1日24時までの感染ルートを「人民日報」の電子版である「人民網」のアプリが以下のように描いて公表している

図1:「人民網」のアプリに見る南京禄口空港から発生したデルタ株感染者の動線

図1:「人民網」のアプリに見る南京禄口空港から発生したデルタ株感染者の動線(「人民日報」電子版「人民網」のアプリより)

少しだけ説明すると、この時点で南京市内では215人の感染が確認されたが、空港を利用したかあるいは接触した者が江蘇省揚州にある麻雀屋さんに遊びに行って、そこでクラスターを生ぜしめている。その内の一人(64歳の女性)は南京市から揚州に行っているが、その際「感染状況」などが書いてあるQRコードを自分自身のではなく友人の健康コードを借りて持参していたため、コロナ感染をしていることが発見されなかったという。

揚州におけるワクチン接種率は18歳から59歳までは70%以上で、60歳以上は40%未満という逆転現象が起きている。中国は外部で活発に動き回る若者の方が感染媒体となる可能性が高いことから、若者から先に接種を始めるという方針を採用しているからだ。この64歳の女性は実はワクチンを接種しておらず、かつ高齢者は麻雀遊びなどで暇つぶしをする者が多いので、4万件以上ある揚州市の麻雀荘は全て一時的閉鎖を命ぜられた。

南京禄口空港から遼寧省大連に飛んだ者もおり、そういった人が張家界や四川省成都など、次から次へとデルタ株を運んで行くケースもある。

◆中国全土17の省市に拡大し、全員PCR検査し、無症状者も隔離入院

かくして現時点では17の省市地区にわたって感染が広がり、中国政府はそれらの地区の全ての住民に対してPCR検査を徹底させ、陽性と判定すれば全員を隔離入院させている。

たとえば南京市の場合は、7月21日に南京市市民930万人全員のPCR検査を指示して実行し、隠れている陽性患者を絞り出している。7月29日には3回目のPCR検査に入った。水害があったばかりの河南省鄭州市でも全員にPCR検査を行っており張家界も同様だ

8月6日15時におけるコロナ感染ハイリスク・中リスク区域は192ヵ所になっている。検査技師が足りない地区に関しては、全国から医療関係者を派遣し、一気に検査が終わるようなシステムで動いている。

陽性と判定されれば無症状者でも隔離入院させ、濃厚接触者は特定施設に隔離されて確実に陰性が確認されるまで観察を続ける。

このルールは、2020年2月に中国工程院の院士で伝染病の専門家である鍾南山の「無症状者も、いつ突然重症化するか分からないので、必ず医師がいる隔離病棟に入院させなければならない」などの進言に基づいて規定され、その後改善を重ねながら守られている。

◆中国のコロナ対策基本ルール

中国のコロナ対策は、現時点では基本的に2021年5月14日に改正された『新型冠状病毒肺炎防控方案(コロナウイルス肺炎防御方案) 第八版』に基づいて運営されている。

李克強国務院総理や孫春蘭副総理を始め国家衛生健康委員会が中心となり、すべての中央行政省庁の代表から構成される「国務院コロナウイルス肺炎疫情聯合防疫機構総合組」が総合的情報に基づいて定期的に条例を改正し発布していく。

根幹は以下の二つ。

  • 全員のPCR検査を徹底させること。
  • 無症状者や軽症者だけでなく、濃厚接触者を含めて、全て隔離して医療機関に移送し観察を徹底させること。

日本のようにPCR検査をできるだけ避け、感染者全員を医療機関に隔離入院させず自宅療養を重視するというようなことは絶対にしない。日本のやり方は、ひたすらコロナ感染拡大に寄与するだけで、中国のコロナ対策政策から見ると「日本の感染拡大は絶対に収まらない」ということになるかもしれない。

少なくともコロナ対策分科会の(尾身)会長が知らされていなかったようなコロナ政策が、数名の打ち合わせによって朝改暮令的に、行き当たりばったりで出されるようなシステムとは違う。 

濃厚接触者もすべて拾い上げて隔離観察するという徹底ぶりだ。

だから14億人もの人口を抱えながら、散発的に起きるいくつかの地域における感染発生以外は、平均的には新規発生者数は一桁か二桁程度に抑えることができていた。

◆なぜ南京だったのか――北京空港には着陸させないルール

昨年3月19日から中国では海外から直接北京空港に着陸することを禁止しており、3月20日は「モスクワ‐北京」のフライトCA910は北京ではなく天津空港に着陸するように変更されていた。7月4日になると天津以外に石家庄、瀋陽、蘭州、鄭州、南京・・・などが着陸候補地として指定された。

今般もモスクワ発北京着のはずのフライトCA910は、天津や石家庄、瀋陽など、北京に近い空港に着陸の打診をしたが、どこも受け入れず拒否されたので、最終的に唯一承諾してくれた南京禄口空港に着陸することになったわけだ。

◆中国全土の新規感染者数状況

8月6日現在の中国全土における新規感染者数を国家衛生健康委員会のデータから拾い上げ以下のようにグラフ化してみた。中国で発見された新規感染者数の中には、海外から乗り入れたフライトの乗客の中にいた(空港検疫で発見された)陽性者数と、中国国内におけるPCR検査で発見された陽性者数の両方があるが、下記に示す数値は、乗客陽性者数を除いたデータである。

図2:中国本土国内における新規感染者数の推移

図2:中国本土国内における新規感染者数の推移(国家衛生健康委員会データより筆者作成)

6日に少し減ってはいるものの、まだ増加中であることがわかる。

拡散がどこまで行くのかに関しては、しばらく観察していかなければならないが、以下のような事例は参考になるだろう。

◆広州の場合

6月2日のコラム<中国広州で発生したコロナ新規感染者への対処に見る中国の姿勢>に書いたように、5月21日にデルタ株感染者が発見されたが(24日にデルタ株と確定)、その感染は広州市の近隣で収まり、6月18日に最後の感染者が発見された後、170人の感染で抑え込むことができた。6月26日に安全宣言が出され、7月8日には最後の患者が退院した。

この事例から見られるように、たとえデルタ株でも、他地域に拡散していなければ抑え込むことができるという事は分かっている。

◆台湾の事例

台湾で今年4月末に中華航空のパイロットが感染していたことから始まって、隔離先として使っていたホテル従業員に感染し、市中感染したことがあった。このとき台北市の柯文哲市長が、鍾南山が提案した野戦病院式の「方艙(ほうそう)病院」という「臨時医療施設」設営を指示した

これにより台湾のコロナ拡大第二波は、一か月間ほどで一気に収束している

柯文哲はもともと台湾大学の医学者なので、PCR検査も徹底させ、実に科学的だ。第二波ではデルタ株も相当入っていたので、感染を収束させる手段としてよい事例となるだろう。

◆果たして収束するのか?

8月5日に開かれた記者会見で、国家衛生健康委員会は、南京禄口空港発のデルタ株感染拡大に関して「2~3の潜伏期間で基本的に収束させることができる」と発言している。潜伏期間を最大2週間と見積もった場合、概ね4~6週間後には収束しているだろうと推測したことになる。

果たして今後どうなるか――。

台湾も大陸本土も、「PCR検査の徹底」と「無症状感染者を含めたすべてのコロナ感染者の隔離入院」を基本原則として拡散を抑制してきた。

この基本原則を絶対に守らない日本のコロナ対策は、果たして成功するのか否か。日本政府が、日本国民の命を最優先する政策に転換するために、中国や台湾の事例が役立つことを願い、考察を試みた。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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