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中国広州で発生したコロナ新規感染者への対処に見る中国の姿勢
2021年6月2日
毒性の強いコロナ変異種が出たイギリス(写真:ロイター/アフロ)
毒性の強いコロナ変異種が出たイギリス(写真:ロイター/アフロ)

広州市で新規感染者が数名出ると、当局は周辺住民220万人全員にPCR検査をし、感染者の足跡をスマホで公開して一気に阻止に向かおうとしている。片や日本政府には何としてもコロナを阻止して見せるという意気込みが見られない。

◆新規感染者を発見した経緯

5月18日、最初の新規感染者と見られる中国広東省の広州市茘湾(リーワン)区に住んでいた「患者1」は、体調不良のため風邪薬を服用した。翌19日には近所の「又一間茶点軒」という店で「早茶(ザオ・ツァー)」(お茶を飲みながら取る軽い朝食)を取った。 

5月20日の午後、どうも変だと思って徒歩で発熱検診に行ったところ、PCR検査を受けた。その夜、初歩的段階で「コロナ陽性」と判明。翌21日、本格的な検査の結果「コロナ陽性」と確定し、「患者1」は隔離治療に入った。

一方、「患者3」(おばあちゃん)は孫(小学生)(患者4)を連れて25日に病院に行った。孫が発熱したので病院に行ったのだが、PCR検査をしたところ「コロナ陽性」だったので、「おばあちゃん」も検査したところ、やはり陽性だった。

「患者3」は、5月19日に、「患者1」と同じ店で「早茶」を取っていたことが分かり、この店でクラスターが発生した可能性があるとして、保健衛生当局が5月26日、27日の2日間で、茘湾区の住民120万人に対してPCR検査を行った。茘湾区の人口は約120万人なので、ほぼ全員に対してPCR検査をしたことになる。

感染者がさらに数名増え始めたので茘湾区のすぐ隣にある海珠区の住民100万人全員に対しても5月30日から6月1日にかけてPCR検査を行ったので、合計で220万人に対し検査を完了させた。その結果、無症状者も含めて、「コロナ陽性」は6月1日朝までのデータで24人に上る。

◆新規感染者の足跡をスマホで公開

さらなる濃厚接触者を特定するため、匿名ではあるが当局は患者の行動範囲や軌跡を追跡し、テンセントやアリババなどのIT企業のアプリで公表している。日本人には馴染みが薄いと思われるが、最も信用できるのが「今日頭条」というサイトで、ここではコロナに関しても全てをフォローすることができる。

たとえば患者が行った場所、クラスターが発生した場所などが、以下のようなマップで示されている。

ウェブサイト「今日頭条」に載っている感染者の足跡
ウェブサイト「今日頭条」に載っている感染者の足跡

この場所に近づくとスマホのアラームが鳴り、警告を出してくれる。

たとえば以下の情報は、筆者が日本からアクセスしたので、「あなたは警戒点から何キロ離れています」という情報が数字で示される。

「今日頭条」に載っている、警戒点からのスマホ使用者の距離
「今日頭条」に載っている、警戒点からのスマホ使用者の距離

◆ネット回線確保と封鎖による物資配給体制

1日50万人以上の検査に対応できるようにするため、ネット回線の確保に力を入れ24時間体制で稼働させている

また濃厚接触者がいるエリアは封鎖し、日常生活品は全て地元政府が配送している

◆全員「インド変異株」だが、最初の感染ルートは?

5月31日、広州市政府新聞弁公室は記者発表を行い、広州市の黎明副市長が現況に関する報告をした。それによれば、今般の広州市のコロナ新規感染はほぼ全員が「インド変異株」に由来していたことが判明したとのこと。

しかし「患者1」は海外渡航しておらず、「患者1」の感染ルートに関しては、まだ確定できていないと5月31日の新華社は語っている

一方では広東省の江門市人民政府のウェブサイトが奇妙な推測も行っている。

それは「患者1」の感染ルートは、5月10日に広州市の空港における隔離から解除されて広西チワン族自治区に戻った寧某氏が感染源ではないかという推理だ。寧某氏は4月25日にルワンダからドバイ経由で中国に戻り、広西の最寄りの国際空港である広州空港に入境した。ルワンダを出発した時はコロナ陰性だった。それでも規則により広州空港近く茘湾区にある隔離ホテルで2週間隔離を受けた。2週間後の5月10日に陰性であることが確認され隔離を解かれて広西に戻った。茘湾区で新規感染者が出たため、広州市の健康衛生当局は茘湾区の隔離ホテルから解除された海外からの帰国者全員に対して再度のPCR検査を5月25日にお願いしたところ、寧某氏の陽性が確認されたという。

今のところは、インド変異株が広州市に入ってくる可能性は他にないことから、寧某氏が感染源である可能性が浮上している。ルワンダ出発の時は陰性だったのでドバイで感染したことが疑われている。

だとするとインド変異株の潜伏期間は異常に長いことが考えられる。

感染スピードが速く、毒性も強いとされるが、一方では潜伏期間が長いウイルスも内在しているかもしれないとなると、東京五輪開催にも影響をもたらすだろう。

◆中国でのワクチン接種の進み具合

一方、6月1日の中国人民政府の発表によれば、5月30日までに中国全土におけるワクチン接種の回数は6.39億回に及んでいるとのこと。この中には1回接種や2回接種者も含まれている。5月に入ってからの全国の新規感染者数の累計は50例を超えているため、5月に入ってからは毎日平均1247万回のワクチン接種が行われているとのことだ。4月の平均回数と比べると2.58倍になっているという。

ちなみに広東省のワクチン接種回数は5000万回で、そのうち1200万人がワクチン接種の全プロセスを終えているとのことだ。ちなみに広東省の人口は1.2億人なので、ほぼ日本の全人口に匹敵する。

もっとも、5月26日から大規模PCR検査に入ったので、検査のために「密」を招く可能性もあり、そこにワクチン接種に殺到する住民が加わったので、ワクチン接種会場では雑踏事故が発生しそうな状況に至り、その区域のワクチン接種を一時中断したそうだ。すると「一回目の接種を終わらせ、ちょうど2回目の接種に入ろうとしているのに、ここで中断されたら、一体どうすればいいんだ!」という類のクレームがネットに溢れた。報道では「コロナで死ぬのを免れるために、雑踏事故で死んだのでは本末転倒だろう」などと書いている。

◆一回接種型ワクチンの出現

一方中国では、一回の接種で完了する一回接種型ワクチンが出現している。その接種は5月13日に上海市で始まったのを皮切りに、北京市、天津市、浙江省、河南省、安徽省などでも実施されており、5月30日には河北省石家庄でも実施された(日本語では石家荘だが、ここでは中国での呼称・石家庄を用いる)。

この石家庄では、今年1月5日に新規感染者が発生し(54人)、6日から3日間かけて1100万人にPCR検査を行ったことで知られている。新規感染者は1月15日にピークに達したが、2月1日には0人に戻ったという記録がある。

石家庄は北京に近いこともあり、中国当局としては神経質になったものと推測されるが、「3日間で1100万人にPCR検査を行った」という事実は大きい。コロナ感染の初期対応に関する隠蔽工作の罪は許されるものではないものの、何としても感染拡大を徹底して阻止しようと全力を傾ける緊急対応のやり方は注目に値する。

◆日本政府には何としてもコロナを阻止するという強烈な姿勢があるのか?

今年3月1日現在の東京都の人口は、推計で1390万人となっている。23区内の人口が960万で、「石家庄では3日間で1100万人にPCR検査を完遂した」事実だけを考えても、なぜ日本ではここまでPCR検査が成されないのか、疑問を持つ日本国民は少なくないだろう。

そもそも菅総理の「コロナ阻止」に対する燃えるような絶対的信念を披露したスピーチや記者会見の回答を一度も見たことがない。東京五輪開催に関しては、執拗な意欲を「じわーッ」と持ち続けているようで、それも呪文のように「安心安全を第一に開催する」をくり返すだけだ。

ただの一度も、「私は日本国民の命に全責任を持っている。どんなことがあってもコロナ禍から日本国民を守ってみせる!それが私の最優先課題だ!」という、ほとばしるような言葉を聞いたことがないし、そのような熱情も「目の勢い」や「表情」から感じたことがない。

それがあったら、国民は拍手喝采して応援するだろう。しかしほぼ皆無だ。

日本国民の「安心安全」は、東京五輪の「安心安全」開催のための、付随的なものでしかないように映る。

ワクチン接種も、東京五輪が目前に迫った今になって、初めて加速に号令をかけるような始末で、どの国よりもスタートが遅い。そもそも医療先進国であったはずの日本なのだから、どの国よりも先にワクチン開発に力を入れ、政府が投資して開発を促進させるべきだった。それさえも副反応や過去の訴訟に怖気づいて進めず、今になって動き始めるという後進国ぶりだ。

コロナは変異するごとに毒性化が増し伝染するスピードも加速化している。ウイルス専門家が「本来ウイルスは宿主(人間)を全滅させると生きていけなくなるので、宿主を維持するために弱体化していくものだが、今回のコロナはその原則と違い、毒性を強めながら変異していく傾向にある」と述べておられたことがある。

昨日も神戸で新しい変異株が見つかったようだという情報があった。

世界各国から、誰がどのような潜伏期間の長い型のウイルスを運んでくるか知れない。   

それでも五輪開催の方が重要なのか。

国家の理念を問いたい。 

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.