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中国の対米報復制裁は北京冬季五輪ボイコットを招くか?
大論争を行ったアラスカ会談(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
大論争を行ったアラスカ会談(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

7月23日、中国は対米報復制裁を発表したが、これは25日の米国務副長官訪中に際して、3月のアラスカ会議直後の対中制裁に対するお返しのつもりだろう。中国の報復制裁に対し、バイデン政権は北京冬季五輪ボイコットに踏み切れるか?

◆中国が「反外国制裁法」に基づいて対米報復制裁を発表

東京では東京2020大会の開会式が開かれている最中の7月23日、中国外交部は定例記者会見で記者の質問に対して「反外国制裁法」に基づき、対米報復措置を発表した

これは7月16日(アメリカ時間15日)にバイデン政権が「米企業に対し香港で事業を展開するリスクについて警告する文書」を公表し、香港に駐在する「香港中聯弁公室(中国人民政府駐香港特別行政区聯絡弁公室)」の副主任7名(陳冬、何靖、盧新寧、仇鴻、譚鉄牛、楊建、尹宗華)に対して制裁を科すと発表したことへの報復措置である。

中国外交部の趙立堅報道官は当日直ちに定例記者会見で「中国政府はアメリカによる香港問題への干渉に断固として反対する。香港の問題は純粋に中国の内政問題であり、如何なる国にも内政干渉する権利はない」と指摘した上で「必ず、それ相応の対応をする」と、ロイター社の質問に答えていた。中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」電子版も同様のことを伝えていた

しかし、記者会見ではロイター(路透)社の質問が最後にあったので、回答が不十分だと思ったのだろう、また例によって「誰かが質問した」という形を取って、翌日、改めて執拗に報復措置を考えていることを表明している

23日に外交部が発表したのは、その報復措置を指し、以下の7つの個人と組織が制裁対象に含まれている。

  1. ウィルバー・ルイス・ロス(トランプ政権時代の元商務長官)
  2. キャロリン・バーソロミュー(米連邦議会「米中経済・安全保障問題検討委員会(USCC)」委員長)
  3. ソフィー・リチャードソン(国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ)
  4. ジョナサン・スタイバーズ(中国問題に関する米連邦議会「行政府委員会(CECC)」の元スタッフディレクター)
  5. ドユン・キム(全米民主国際研究所のメンバー。香港の民主活動家と直接の接点)
  6. アダム・キング(米国国際共和研究所の香港代表)
  7. 香港民主委員会(Hong Kong Democracy Council=HKDC、海外香港人団体)

◆25日にシャーマン米国務副長官訪中――アラスカ会議直後の対中制裁に対するお返し

今年4月15日のコラム<ウイグル問題制裁対象で西側の本気度が試されるキーパーソン:その人は次期チャイナ・セブン候補者>に書いたように、バイデン政権の米財務省外国資産管理室(OFAC)はEUなどに合わせて、3月22日に新たに新疆生産建設兵団の王君正共産党委員会書記と、新疆公安局の陳明国局長の2人を制裁対象となる特別指定国民(SDN)に指定した。SDNの制裁内容は米国内資産の凍結と、米国民との取引禁止となる。

これは米中外交関係者が3月18日から19日にかけてアラスカで大論争を行った直後に相当し、このタイミングであったことに中国は腹立たしい思いでいただろう。

今般、明日25日にアメリカのシャーマン国務副長官が訪中し、天津で王毅外相と会談することになっているが、23日の対米制裁の発表は、アラスカ会議直後の対中制裁に対するお返しと解釈することができる。

シャーマンに「勝手な真似はさせない」とクギを刺したと考えるのが妥当だろう。

◆EU対中報復「北京冬季五輪ボイコット」の二の舞か?

しかし、アメリカによる16日の対中制裁に比べて、今般の対米制裁のなんと広範囲なことよ。

これは正に7月15日のコラム<習近平最大の痛手は中欧投資協定の凍結――欧州議会は北京冬季五輪ボイコットを決議>に書いたように、アメリカから「大きなしっぺ返し」が来る可能性を秘めている。

たとえばEU(の欧州議会)と同じように来年2月の北京冬季五輪への「外交的ボイコット」をバイデン政権として正式決定する可能性を否定することはできないだろう。

もし仮にそうなった時には、日本はアメリカに準ずる方針を取れるのか?

明日の米中外相会談の結果とともに、アメリカの「お返し」と、それに続く日本の選択から目が離せない。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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