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習近平はなぜ米主催の気候変動サミットに出席したのか?
2021年4月24日
4月22日にオンラインで開催された気候変動サミット(写真:ロイター/アフロ)
4月22日にオンラインで開催された気候変動サミット(写真:ロイター/アフロ)

4月22日、習近平は米国主催の気候変動サミットに参加したが、参加の決断は16日に下しており、19日迄にプーチンにも誘いをかけたと判断される。パリ協定「出戻り」の米国に主導権を渡すまいとした狙いが見える。

◆「歓迎する」という言葉が欲しかったケリー特使

4月13日のコラム<ケリー特使訪中――アメリカ対中強硬の本気度と中国の反応>に書いたように、ケリー特使(気候変動問題担当)が就任と同時に中国の解振華・中国気候変動事務局特使と連絡を取ったのは、「パリ協定」に戻ることを「歓迎する」という言葉が欲しかったからだ。

リー特使が4月14日に上海に行ったのは、同日、アーミテージ元国務副長官やドッド元上院議員等がバイデン大統領の要請で台湾を訪問したからで、その埋め合わせをするために「習近平のご機嫌」を損ねないためだった。

中国としては喜ぶべき話ではなく、中国共産党系の新聞はこぞって「歓迎しないわけではないが、大きな成果は得られないだろう」と冷淡だった。「パリ協定」を脱退しておきながら、「出戻り」のアメリカに「中国に参加しろ」などと言う資格はない、どの面ぶら下げてそんなことを言っているのか、というトーンが散見された。

したがって上海に着いたケリーは、15日、16日と上海のホテルの部屋から出ることなく、「王毅外相や楊潔チ中共中央政治局委員(兼中央外事工作委員会弁公室主任)と会談する可能性がある」と噂されながら、一向にその気配も見えなかったのである。

ところが16日、いざ帰国となったころに、突然、実は習近平が韓正国務院副総理(副首相)をケリーとリモート会談をさせていたことが判明した。

この時点で、習近平はバイデンが誘いかけてきた米国主催の気候変動サミットに出席する意向を固めていたものと推測される。

◆韓正の言葉と習近平の言葉が一致している

なぜなら、「ケリーと韓正のリモート対談における韓正の発言」と、「4月22日に気候変動サミットに参加した習近平の発言」が、非常に類似しているからだ。

したがって、韓正をケリーとのリモート対談に応じるよう指示を出した時点で、習近平の心は決まっていたものと判断することができるのである。

加えて、韓正は香港マカオ台湾などを管轄するとともに「自然資源部」(部は日本の「省」)や「生態環境部」などをも担当する任務を負っている。王毅や楊潔チよりも職位がずっと上だ。何と言ってもチャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7人)の一人なので、習近平の直接の指示があって動いたものと判断される。

韓正と習近平が発した言葉の共通点を列挙すると、以下のようになる。

韓正の発言

  1. アメリカが「パリ協定」に戻ってきたことを歓迎する。アメリカが「パリ協定」を守り、それ相応の責任を果たし、それ相応の貢献をすることを期待している。
  2. 気候変動問題に対して共同の責任を守らなければならないが、先進国と発展途上国の責任は異なることを認識しなければならない。
  3. 中国は米中双方が各自の優勢を発揮し、対話を続け、すべての参加国と協力して、「パリ協定」の実施を推進することを望む。

習近平の発言

【1】中国はアメリカが(一国主義をやめて)多国間と協力する機構問題処理プロセスに再び戻ってきたことを歓迎する

【2】気候変動問題に対して共同の責任を負わなければならないが、先進国と発展途上国の責任が異なるという原則を堅持しなければならない。

【3】我々は国際法を基礎に置き、国連を国際システムの核心とみなして、「国連気候変動機構公約」を遵守し、「パリ協定」の目標と原則を遵守する。

このように韓正に言わせた言葉は、習近平が米主催気候変動サミットでいう言葉と重なっており、特に「1.【1】」にあるように「中国はアメリカが戻ってきたことを歓迎する」という、「主導権は中国側にある」あるいはせめて「米中は対等な関係にある」というメッセージが基調にある。

「アメリカさんよ、あなたが主催するなんて言ってるけど、本当は資格なんてないんだよ。何と言ってもあなたは出戻りなんだから。こちらが前々からいる主人公だ!」という声が聞こえるようではないか。

◆プーチンを誘った習近平

「こちらが前々からいる主人公だ」ということを強調するために、同じくバイデン大統領から「どうか参加してくれ」と頼まれていたロシアのプーチン大統領に、習近平が声を掛けたものと推測される足跡がある。

それは4月21日に中国共産党の機関誌「人民日報」の電子版「人民網」が発表したもので、20日にオンライン形式で開催された中露執政党対話機構会議に、習近平とプーチンが申し合せたように祝電を送っていることから明らかである。申し合わせをするには一定の期間がかかる。

習近平の方は4月16日に出席を決断しているが、プーチンはアメリカによるウクライナ問題に関する攻撃が激しいために、出席を躊躇していた。どんなにバイデンがプーチンと電話会談したところで、その翌日にはロシアへの金融制裁を発動している。「誰がバイデンなど信じるか、誰が出てやるか」という心理がロシア側にはあっただろうと推測される。それはプーチン側近とも親しい関係にある「モスクワの友人」からの便りからも窺(うかが)うことができる。「モスクワの友人」によれば、中露の親密度はかつてないほど高まっているという。

したがって習近平が「こちら側が前々から主人公だ」と主張したいと説得をすれば、プーチンも即座に賛同するだろう。中露執政党対話機構会議オンライン開催の前日にプーチンは参加の意思表示をした。

習近平は中国共産党の慣例に倣い、ギリギリまで「参加を表明しない」を貫き、4月21日になってようやく参加の意思表示をした。

5年に1回開催される党大会に具体的日時に関してさえ、中国共産党はギリギリ1週間ほど前にならないと、なかなか正式のものを公表しない。これは建党以来、当時の執政党であった国民党に開催を邪魔された経験があるからだ(詳細は拙著『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』)。外部からはなかなか見えにくい中国共産党のからくりの一つである。

◆米国主導には乗らないことを示した習近平のサミット演説

習近平の演説で最も興味深かったのは、バイデンが温室効果ガスの排出量を2030年までに半減させる新たな目標を表明し、各国に目標値をさらに引き上げるよう求めたが、習近平は応じなかったことだ。

そもそも習近平政権は、2015年にパリ協定が誕生した時点で「2030年には温室効果ガス排出量をピークアウトさせる(最近では2060年までにゼロにする)」と中国の数値目標を定めている。

今さら「出戻り」米国に要求されて変えるようなことはしないという姿勢を貫いた。

中国にしてみれば先進国と発展途上国では石炭や石油の使用量が異なるのは当たり前だというのが基本姿勢だ。米国は「パリ協定」から脱退しておきながら、突然も載ってきて、中国の経済発展を遅らせようという目的で、温室効果ガスの排出量削減を求めてきているという見方も散見される。

いずれにしても習近平が米主導の気候変動サミットに参加したのには、以下のような理由があると、まとめることができるだろう。

  • アメリカが「出戻り」であることを示すために「戻ってきたことを歓迎する」という言葉を使いたかった。
  • しかし米主導で世界は動いていない。国連の規則が世界秩序であり、アメリカの規則が世界秩序ではない。
  • 中国は2015年に「2030年までに排出量をピークアウトさせる」と宣言している。アメリカに言われて国家戦略を変えたりなどはしない。
  • 「人類運命共同体」を外交スローガンとしている習近平としては、むしろ今回のサミットを逆利用することはあっても、中国なしの国際社会はあり得ないことを示したかった。

概ね以上かと思われるが、一方で中国は脱炭素社会に向けて電気自動車やそれに必要な電池の開発などに集中的に力を注ぎ、世界の最先端を行こうとしている。そのために必要なレアアースなどの原材料は圧倒的比率で中国が握っている。

新しい産業構造に向けて、「中国に制裁を加えようと思う勇気があるなら加えてみろ」という構えだ。今後はこの点に注目していく必要があるだろう。

なお、中国ではバイデン政権の対中強硬策は来年の大統領中間選挙のための演出でしかないという見方が多いことにも注意を払っておいた方がいいかもしれない。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.