2020年9月22日、第75回国連総会の期間中に中国は、二酸化炭素(CO2)排出を2030年までにピークアウトさせることに全力で取り組み、2060年までにカーボンニュートラル(排出実質ゼロ)を実現するよう努力すると表明した。これは中国がカーボンニュートラル実現の時期を初めて世界に明示したものである。また、これまでに世界最大のエネルギー生産・消費国が排出削減に向けて行った最大限の誓約でもある。
2016年11月に発効した『パリ協定』では、2051~2100年に世界全体でカーボンニュートラル達成を目指すという目標を掲げている。同時に、世界全体の平均気温の上昇を1.5~2℃以内に抑えるとしている。中国が今回、2060年までにカーボンニュートラル実現への努力を表明したことは、『パリ協定』の当初の目標を自ら引き上げるものであり、地球温暖化の見通し改善に向けた中国の最大限の誓約である。今年は『パリ協定』発効から5年目を迎え、この時点で米国は協定からの離
脱を選択した。一方、中国は、カーボンニュートラルというビジョンを高らかに掲げ、大国としての風格と貢献意識、そして全人類に対して責任ある態度を示した。このことは中国、ひいては世界がエネルギートランスフォーメーションを推進する上で重要な意義を持つが、その難度も高い。
一、中国のCO2排出の現状
2014年以降、中国のCO2排出量は97. 6 億トンとなり、世界最大となっている(当時の世界全体のCO2排出量は355億トン)。2019 年には中国のエネルギー消費構造は既に大きく変化し、非化石エネルギー(水力発電+再生可能エネルギー)の発電設備容量が全体に占める割合が 42.0%に達し、発電量が全体の 32.7%に達した。2019 年における各種エネルギーの設備容量の増加率は、水力発電が 1.5%、火力発電が 4%、原子力発電が 9.1%、風力発電が13.5%、太陽光発電が17.1%だった。中国の「カーボンニュートラル」目標が掲げられた後、新エネルギーの発展ピッチはさらに加速するだろう。とは言え、現時点の排出総量を見ると、中国は世界最大のCO2排出国であり、その排出量は米国の2倍超、欧州連合(EU)の3倍超となっている。発展段階では、世界最大の発展途上国である中国は依然として経済の上昇期にあり、CO2排出のピーク期にあるとも言えるだろう。一方、米国やカナダ、スペイン、イタリアなどの諸国は2007年前後に既にCO2排出のピークアウトを実現し、カーボンニュートラルに向けて動き出してから現時点で10年余りが経過している。中国が今後40年間内にCO2排出のピークアウトからカーボンニュートラルへの転換を完了させるということは非常に困難であり、社会全体に大変厳しい努力を求めることになる。中国のCO2排出は現在、3つの問題に直面している。1つ目は、製造業が国際的な価値連鎖において依然としてミドルレンジまたはローエンドの位置にとどまっていることだ。製品のエネルギー消費や材料消費が高い一方、付加価値率が低く、経済の構造調整と産業の高度化という課題の実現が非常に困難である。2つ目は、石炭消費のエネルギー消費全体に占める割合が依然として50%を超えており、炭素集約度が世界平均水準を約30%上回っていることだ。エネルギー構造改善という課題の実現は至難の業である。3つ目は、エネルギー集約度が世界平均レベルの1.5倍、先進国の2~3倍となっており、過度に高いということだ。低炭素型経済システムの構築という任務は極めて重要であるが、実現への道のりは遠く、容易ではない。中国は長期的にCO2排出産業チェーンのローエンドに位置しており、国際的な炭素排出市場における発言権がいまだに弱い。説明を要する点としては、中国は輸出が経済全体の20%を占めており、生産に伴う排出のうち20%が各国向け生産のために行われているということである。すなわち、この数字を気候変動という枠組みでとらえるならば、中国のCO2排出のうち20%は実際上、他の国の消費者のために排出されたものということになる。世界各国が中国の品質が良く廉価な商品を享受する一方で、カーボンフットプリントは中国に残されたのである。
二、中国によるカーボンニュートラル目標実現の難易度と実現可能性
我が国が2060年にカーボンニュートラルを実現するという排出削減目標とその難易度は、先進国による2050年のカーボンニュートラル目標とその難易度をはるかに上回ることになる。その理由は、欧米にはCO2排出のピークアウトからカーボンニュートラルに至るまでに50~70年間の過渡期があるのに対して、中国にはわずか30年間しかないからである。最近では、中国が約束した、2020年に非化石エネルギーが一次エネルギー消費に占める割合を15%にするという目標は既に前倒しで実現された。2030年にはこの割合が20%にまで引き上げられる。中国の多くの専門家は、この目標を2025年に前倒しで実現する必要があるとしている。長期的には、2050年に中国は非化石エネルギーの実現において絶対的な主導的地位を占めることになるだろう。グローバル・エネルギー・インターコネクション発展協力機構(GEIDCO)は、2050年に中国の水力、風力、太陽光の発電設備容量がそれぞれ7.4億キロワット、19.7億キロワット、23.6億キロワットに達すると予測している。クリーンエネルギー発電設備容量が発電設備容量全体の89%、発電量全体の91%を占め、一次エネルギー消費の74%を占めるようになるという。前述の目標を順調に実現できた場合、2060年のカーボンニュートラル目標は現実のものとなるだろう。中国によるカーボンニュートラル目標達成の実現可能性に関しては、次の点が挙げられる。1つ目は、非化石エネルギーの利用コスト低下がその普及に追い風となり、利用範囲の拡大が可能だということである。例えば、電気自動車(EV)のエネルギー消費量はガソリンなどを燃料とする従来車のわずか4分の1にすぎない。現在、EVの普及率が年々高まっており、ガソリン車の淘汰が加速している。2つ目は、建築暖房用の電気ヒートポンプに必要なエネルギー消費は標準的なガスボイラーの12%にすぎないということである。3つ目は、セメント製造への二酸化炭素の回収・貯留(CCS)の導入が可能だということである。4つ目は、長距離・大型交通についても実現可能な脱炭素案が存在するということである。そして、5つ目は、ゼロカーボンの電力価格とグリーン水素のコストが今後引き続き低下するということである。2050年には石炭と石油の消費量がいずれも90%以上、天然ガスの消費量が30%以上それぞれ減少することになるだろう。
三、中国はいかにしてカーボンニュートラル目標を実現するのか
中国がカーボンニュートラルを実現する上で、中国の経済構造の最適化、産業効率の向上、そしてクリーンエネルギーの重点的な利用は避けては通れない道となる。中国がいかにしてカーボンニュートラル目標を実現するかについて、政府の政策や学者の観点を総括し、4つの主な措置または方法として以下に具体的にまとめた。まず1つ目は、省エネ・環境保護産業と循環経済を発展、成長させて、環境保護技術や設備、新型省エネ製品、省エネ・排出削減に関する近代化サービスのレベル向上を加速することである。工業や産業においてCO2排出削減に向けた省エネ化への転換を推進する。2つ目は、クリーンエネルギーの直接利用である。中国の一次エネルギー消費における化石エネルギーの比重は85%以上に達している。工業の省エネ化に向けた転換ではエネルギーの支えが必要となるが、水素エネルギーなどの二次エネルギーによって間接的にクリーンエネルギーを利用する。そして、エネルギー供給を保証するという前提の下で、クリーンコールなどのクリーンエネルギーを利用してCO2排出を削減する。同時に、水素エネルギーやクリーンコールなどのクリーンエネルギーの研究開発への取り組みを強化する。3つ目としては、長年に渡る太陽光・風力発電の開発に伴い、産業チェーンが徐々に成熟しつつある。1キロワット時当たりの発電コストが低下し始めており、現時点で既にグリッドパリティの域に近づいている。発電コストは市場での調整を経ることで、更なる競争力を持つことになる。また、風力や太陽光は開発可能なエリアが広大であり、各省が相次いで風力・太陽光発電設備に関する政策を打ち出している。国際エネルギー機関(IEA)は、2050年に中国の風力・太陽光発電設備の総容量が全体の70%超になると予測している。4つ目は、CO2回収・有効利用・貯留(CCUS)などといったCO2回収技術の普及と採用である。
四、中国のカーボンニュートラル目標がもたらす投資チャンス
中国が2060年にカーボンニュートラルの実現を目指すということは、2030年頃に排出ピークアウトを達成した後も30年間引き続き排出削減を急速に進めていく必要があることを意味する。このことは必ずエネルギーや交通、工業、建築、農業に強制的な転換を迫ることになる。また、このことは新たに行われる投資について強いシグナルを発しただけでなく、投資の方向性を導く重大な意味を持つものでもある。今後は各種の系統的な支援政策が打ち出されることになるだろう。省エネ技術や省エネ設備、新エネルギー車の産業チェーン、太陽光・風力発電の産業チェーンなど、そして技術の研究開発や特許保護、カーボンプライシング体制、再生可能エネルギーを主体とした持続可能なエネルギー体制の構築などはいずれも、投資家たちが今後注目する分野となる。新エネルギーや蓄エネ、省エネ業界の大部分が発展を享受する春を迎えることになるだろう。これらの業界への投資は長期的な収益を得ることになる。一方、CO2回収・有効利用・貯留(CCUS)の産業チェーンが成長のブレイク期を迎えるのは10年後となるかもしれない。もっとも、それは必ず充分な投資や就業、そして関連の産業チェーンをもたらすことになる。例えば、造林や農林業系廃棄物の利用、ごみの資源化利用といった業界も成長期を迎えることになるだろう。
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