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中国輸出管理法――日本がレアアース規制対象となる可能性は低い
中国輸出管理法が実施(写真:AP/アフロ)
中国輸出管理法が実施(写真:AP/アフロ)

輸出管理法がレアアース規制を含むのか、その場合日本が対象国となり得るのか否かに関して日本企業の不安が大きい。しかし「環球時報」情報と同法条文を見る限り、対象国は選別され日本は対象外となる可能性が高い。

◆「環球時報」英文情報を読み解く

今年11月26日付の中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」(英語版)はConcerns about export restrictions drive up rare-earth prices (輸出規制の懸念がレアアース価格を押し上げている)というタイトルで専門家の観点を掲載している。専門家の名は中国の商務部直轄の民間組織「中国五鉱化工輸出入商会」の元副会長だった周世倹(Zhou Shijian)だ。レアアースに関する輸出入の現場のプロである。

中国政府としては明言しにくいメッセージを、こういった政府系ではあるものの民間組織のプロに発信させるというのは、環球時報の常套手段である。しかも英語でのみ発信されているというのも心憎く、「いいですか、アメリカさん。よく読みなさいよ」というニュアンスを醸し出している。

彼は環球時報の取材に対して以下のように語っている。

――日本、アメリカおよびヨーロッパ諸国は、高度な製造業にレアアースを必要としているため、中国から大量のレアアースを購入している。だから新しい規制(輸出管理法)が導入され後、中国からのレアアースの購入が非常に困難になるのではないかと恐れている。

しかし日本やヨーロッパの一部の国が、今後は中国産のレアアースを購入し続けることに関してあまり心配する必要はないだろう。

なぜなら中国は基本的に、ファーウェイ(Huawei、華為)をターゲットとしたアメリカのチップ禁止への報復として、レアアースを「報復の道具」として使用する可能性を考えているからだ。(引用ここまで)

要するに輸出管理法の規制対象としてレアアースを使用する可能性はあるが、それはあくまでもアメリカに対する対抗策であって、日本がアメリカと肩を並べて「ファーウェイ制裁」をしてくるのでなければ、「日本は大丈夫ですよ。レアアース規制の対象国にはなりませんよ」と言っているわけである。

これを逆から読めば、「日本の皆さん、いいですね?分かりましたか?あなたがファーウェイ制裁をするならば、あなたの国もレアアースの規制対象になるんですよ」というメッセージを日本に発し、日本を牽制しているということにもなる。

◆輸出管理法の規制は「国・地域ごとによって異なる」と条文に明記

この環球時報におけるメッセージを裏付ける条文をご紹介しよう。

今年10月17日に全人代常務委員会で最終的に可決した「輸出管理法」には「国と地域によって異なる」という趣旨の条項がある。それに相当した条文を拾ってみたい。以下の条文は中国語の「出口管制法(輸出管理法)」からの引用で、それを私なりの日本語に訳してみた。

  • 第八条 国家輸出管理局部門は関連部門と協力して輸出管理政策を策定し、その内の主要政策は国務院に提出して承認を得るか、もしくは国務院と中央軍事委員会に提出して承認を得なければならない。国家輸出管理部門は、管理対象品目が輸出される国と地域に対する評価を行い、そのリスクレベルを確定し、それに応じた管理措置を講じることができる。
  • 第十条 国家の安全保障と利益保護に基づき、不拡散など国際的義務を履行する必要性に鑑み、国務院の批准、あるいは国務院と中央軍事委員会の批准を得て、国家輸出管理部門は、関連部門と連携して、関連する管理品目の輸出を禁止したり、特定の目的国や地域および特定の組織や個人に対して、関連する管理品目の輸出を禁止したりすることができる。
  • 第十三条 国家輸出管理部門は、以下にある要素を総合的に考慮して、輸出経営者による輸出管理品の申請に対して、許可あるいは不許可の決定を下すことができる。
    (五)輸出目的地の国あるいは地域(筆者注:列挙してある項目の中の関連項目)
  • 第四十八条 中華人民共和国の国家安全と利益を害するために輸出管理措置を濫用した如何なる国・地域に対しても、中華人民共和国は、実情に基づいて、その国・地域に対して対等の措置を講じることができる。(引用はここまで)

概ね以上だ。

これにより何が言えるかと言うと、たとえば日本が恐れているレアアースの場合、日本がファーウェイなどに関してアメリカ並みの厳しい制裁措置を取りさえしなければ、日本は(おそらく、決して)レアアースの規制対象国にはならないだろということが言えるのである。また、特定の組織や個人が対中制裁的な行動を取った場合や(他の項目にあるような)香港民主化運動などを応援したりなどした場合は、ピンポイントに規制対象となる場合もあるということも意味している。

◆だからと言って尖閣問題などは別問題

だからと言って、11月30日付けのコラム<日本の外交敗北――中国に反論できない日本を確認しに来た王毅外相>に書いたような、領土問題に関する譲歩までをしてしまうのは、明らかにまちがいだ。

これではまるで「レアアースが欲しいので、領土に関しては反論しません」と白旗を挙げているような意思表示になる。金のために魂を売ったようなものだ。

日本の領土である尖閣諸島は、中国にとってはアメリカから中国を守るための防御線である第一列島線の最大の根拠地に相当する。台湾を自分の政権の間に統一したいと思っている習近平国家主席は、あらゆる手段を使って「尖閣諸島を取りに来る」だろう。

それを見抜けず習近平を国賓として日本に招聘しようという、一部の政府与党のもくろみは、日本の国益と尊厳を甚だしく損ねる。

中国輸出管理法第一章「総則」の第一条には、「中国の国家安全と利益を守るため」とあるが、この「国家安全」に領土問題を含めるのは違反であり、またさすがに中国も輸出管理に領土問題まで含めるとは書いてない。

尖閣諸島が日本の領土であることは中国建国の父・毛沢東も認めているので(詳細な資料は拙著『チャイナ・ギャップ』p.138~p.150参照)、毛沢東回帰をしていると言われる習近平には、「あなたの尊敬する毛沢東が『尖閣諸島は日本の領土だ』と認めていますよ」と優しく諭してあげるといいのではないだろうか。拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』に書いた通り、毛沢東は「皇軍」に感謝し、死ぬまで「抗日戦争勝利記念日」を祝賀したこともなければ、いわゆる「南京大虐殺」を教科書に載せることも許さなかった。その事実を日本は直視し、領土に関しては一歩たりとも譲ってはならない。

◆日本はTPP11というカードを持っている

中国がTPP11に加入したいという強烈な希望を持っていることは11月23日付コラム<中国TPP参加意欲は以前から――米政権の空白を狙ったのではない>や11月27日付け論考<中国TPP参加表明の本気度――中国側を単独取材>等に書いた通りだ。

なんとしてもアメリカがTPP(元のTPP12)に戻ってくる前にTPP11に入りたいと思っている習近平は、TPP11の中でGDP規模が最も大きく、またTPP11成立に懸命に努力した日本を、TPP11のリーダー的存在だと見ているので、実は「日本のご機嫌伺い」をしなければならない立場にある。

このようなチャンスは滅多に巡ってこない。

だから日本はこの強烈なカードを最大限に発揮して、中国の輸出管理法から日本国と日本企業を守らなければならないのである。

「なんでしたら、TPP11に加入する時の交渉を厳しくしますよ」ということをちらつかせて、他のTPP11のメンバー国と緊密にタイアップすることを強化していかなければならないのである。

こうして中国に圧力を掛けていく。

その姿勢でなければ菅政権は日本国民を守ることはできないということを肝に銘じるべきだろう。

中国輸出管理法に関してはさまざま書きたいことがあるが、今回は「日本がレアアース規制対象国になるか否か」に関してのみ述べるに留めておきたい。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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