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中国TPP参加表明の本気度――中国側を単独取材
2020年11月27日
APEC首脳会議で習近平、TPP参加「積極的に検討」(写真:ロイター/アフロ)
APEC首脳会議で習近平、TPP参加「積極的に検討」(写真:ロイター/アフロ)

アメリカ離脱とともに表明してきた中国のTPP11参加の本気度に関し懐疑的な論調が目立つ。そこで中国は本気なのか、本気だとすればTPP11の要求をどのように満たすつもりかを中国問題グローバル研究所の孫啓明教授に聞いた。孫啓明教授は中国政府側の意向と現状も分析しながら回答してくれた。

孫啓明教授は南京信息工程大学浜江学院および北京郵電大学経済管理学院の教授で多くの中国の国家級および地方政府級のシンクタンクにも携わっている。専門は経済学だが、デジタル人民元など中国の金融問題を始め、中国の経済自由化と大国間のパワーゲームなどに関する研究に秀でており、それに関する著書も多い。

孫啓明教授を取材した結果を、以下、Q&Aの形でご紹介したい。Q:遠藤、A:孫啓明教授

◆中国の本気度は?

Q:習近平国家主席はAPECの首脳会議でTPP11への参加意欲を表明していますが、言ってみただけなのか、それとも本気で実行するつもりでしょうか?

A:本気で実行するつもりです。その証拠に王毅外相が訪日したはずです。

中国はアメリカが2017年1月にTPP(TPP12 )から離脱した瞬間からTPPへの参入を表明しています。李克強総理が今年の5月28日にも意思表明し、このたび習近平国家主席がTPP(TPP11=CPTPP)への参加に対する意思表明をしましたが、これは中国の真剣な政治姿勢を表明したもので、本気に決まっています。この意思表明の系統だった、下から積み上げていったプロセスからも、お分かり頂けるでしょう。わずかなりとも虚構の要素はない。TPP11は、今後の中国の発展にとって絶対に必要不可欠のものなのです。

Q:アメリカとの関係においてはどう考えていますか?

A: トランプ政権になってからというもの、アメリカはひたすら国際社会から後退していき、中国が国際社会、特にRCEPを組織するための絶好の空間を与えてくれました。中国はトランプ政権のお陰で国際化を躍進させるチャンスと国際社会におけるより大きな発言権を獲得するチャンスを手にすることができたのです。中国がこのチャンスを逃すことはありません。

中国は全世界に向けてTPP11参入を望んでいる強烈なシグナルを、強固な意志を以て発信しているのです。そうでなければ習近平が意思表示をすることはありません。

その決意の裏には大々的な対外開放の決意だけでなく、中国の国内を改革する強大なシグナルをも発していることを見逃してはなりません。

◆なぜ今なのか?

Q:では、なぜ今なのですか?

A:それにはいくつかの理由があります。

まず、TPP12が要求している自由化の度合いはレベルが高く、アメリカが入ってからは中国を除外する目的でレベルを高くしていきましたね。しかし今現在のTPP11にはアメリカがおらず、アメリカが強く要求していた厳しい条項が20項目ほど凍結されているので、中国にとってはハードルが低くなり、非常に入りやすくなっているのは周知の通りです。このことはTPP11の定款をご覧いただければ明らかで、世界中の識者、関係者が認めているところです。

しかしアメリカがTPPに戻ってきてしまった後では遅すぎます。アメリカが戻ってくる前に加入に挑戦しなければならない。この機会を中国が逃すことはありません。

Q:だとすれば今までだって、アメリカが離脱した後なら入ろうと思えば試みることができたはずですが、なぜ最終段階の習近平の意思表示が今になったのですか?

A:いい質問です。中国は2017年1月に外交部を通して意思表示したように、まずはRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の協定を成立させてからTPP11への参入に取り掛かる用意があると回答したはずです。

このたびRCEPが締結されました。だから戦略通りに次にTPP11への参入に取り掛かるのです。

Q:なぜRCEPが締結されないとTPP11への参入交渉に入らないのですか?

A:これも鋭い質問だ。それはRCEPにおけるGDP規模の最大国は中国で、中国とASEAN諸国との仲は非常に良いので、あとは日本との関係を良くしておけば、中国のRCEPにおける発言権が大きくなるからです。その上でTPP11のメンバー国と交渉すれば、当然中国には有利になります。

Q:だから王毅外相が、このコロナの中でも、オンライン対話ではなく実際に訪日したのですか?

A:もちろんそれもあります。しかし、RCEPに関してはそれだけではありません。

RCEPが締結されたということは、RCEP加盟国内において、すでに中国は「最大限の対外開放」と「現有の国有企業の改革」および「知的財産権の保護」を認め、RCEP加盟国は中国のその改革と自由化の度合いを承認したということになります。その資格と発言権の取得を手にした上でTPP11のメンバー国と交渉に入るということが重要なのです。もちろん自由化の度合いはRCEPよりTPP11の条件の方がレベルが少し上で、すこしきびしくなっている。

しかし、TPP11のGDP規模最大国である日本はRCEPのメンバー国でもあるので、日本を説得することが肝要になります。交渉相手はアメリカではなく日本ですむのです。だから「今」しかないのです。

◆国有企業に関する問題点――「国進民退」は解消しているのか?

Q:では具体的な問題点に入っていきましょう。まず中国は「国進民退」(国有企業が前に出て、民間企業が後退している)と言われて久しいですが、この問題が解決しないと、TPP11の加入条件は満たされないと思います。これに関してどういう改革が成されましたか?

A:2008年の金融危機以降、およびこの度のコロナ禍以来、中国の国内外に「国進民退」を批判する声が出てきたのは不思議ではありません。たしかに2008年の金融危機以降、中国は4兆人民元を投資してインフラ建設と国有企業に重きを置きました。そうしなければ、あの金融危機を乗り越えることが出来なかった。しかし2010年辺りからは同時に中国が世界の工場でなくなりつつある現象とも相まって、中国の東南海岸沿いにあった中小企業は破産の憂き目に遭い、内陸部への移転を余儀なくされました。またこの度のコロナ禍によって零細企業は激しい打撃を受けていますが、これ等の現象を以て「国進民退」と非難することは必ずしも全面的に正しいとは言えません。

これは経済発展プロセスの周期性と段階性の一つに過ぎないという側面を強く持っていると個人的には思っています。

習近平は2018年11月、中国の民間企業は中国の全税収の50%以上を占めており、国内総生産の60%以上を、そして技術イノベーションの70%を民間が占めていると言っています。

一方、国家統計局のデータによると、2000年から2016年の間に、中国の全工業企業の資産に占める国有持株会社の資産の割合は67%から38%に減少し、全工業企業の主な事業収入に占める国有持株会社の主な事業収入の割合は50%から21%に減少し、全工業企業の利益に占める国有持株会社の利益の割合は55%から約17%に減少しています。

これらは、中国の民間経済が成長していること、国有経済の割合が相対的に低下していることを示すのに十分なのではないでしょうか。もちろん、中国の国有経済の改革をさらに深化させる余地はあります。たとえば、混合所有制の改革、国有資産を直接管理することから国有資本が投資・出資し、直接経営するのではなく株のみを保有することなどは、いずれも中国政府の市場経済の地位を強化するための決意と勇気を示していると言っていいでしょう。

◆越境電子商取引に関して

越境電子商取引(越境EC、cross-border e-commerce)とは国境を超えて行われる通信販売のことである。これに関して質問した。

Q:中国は越境電子取引に関して、今やアメリカの2倍以上になっており、これを政府(入管)の監視の下に置くのか否か、あるいは監視を緩めるのかに関してはTPP11に加入する時の非常に厳しく審査される対象になるだろうと思われますが、現状と展望は如何ですか?

A:2018年11月から12月までの間に、中国の関連部局は越境電子商取引の監督業務改善に関して4つの文書を出しています(長いので省略)。この4つの文書は、直接購入輸入モデルと保税ネット通販モデルの規制法規であり、越境電子商取引の混乱の一端を規制し、越境電子商取引の政策や法規制の不足を補うことを目的としています。

ところがこれらの法規は外国企業と商品の販売を構成する国内消費者との関係を規制しているとして、一時期、一部の外国企業から批判を受け、中国の税関監督はより厳格になったのではないかと錯覚(誤解)された経緯があります。実際には、以前の監督の欠如は改善されて、以前よりも標準化されているのですが、こういった誤解が生じたことは事実です。

だからTPP11メンバー国は、中国は越境電子商取引の監視監督の自由化が不十分だとして反発する危険性があるのを中国は承知しています。したがって、その誤解を解く努力をしなければなりません。

例えば、何を誤解されているかというと、越境電子商取引の違法輸入の増加傾向に対応して、「越境電子商取引企業の管理を登録制から許可制に変更したこと」、「越境電子商取引参加者を信用管理下に置くこと」、「越境電子商取引参加者に物流情報を共有するためのインターフェイスを開放し、中国税関の監査を受け入れ、違反行為を積極的に申告するのを要求すること」などが規定されているのですが、一部の海外関係者は、これらを全て「中国政府によるデータ収集とデータ管理の強化」と勘違いしているということが挙げられます。 実際には、これらはすべて通常の標準管理の一部であり、データ収集やデータ管理ではありません。

◆知的財産権保護に関して

Q:TPP11で凍結されている事項の中には知的財産権に関するものが多いですが、それでもTPP11メンバー国のみならず、世界の多くの国は中国の知的財産権に関して問題視していますし、また凍結されていないTPP11の条約の中にも知的財産権に関するものが、それなりに残っています。これに関して中国はクリヤーできると思っていますか?現在の中国における知的財産権の現状と展望を教えてください。

A:今年11月24日に中共中央弁公庁と国務院弁公庁は共同で「知的財産権保護を強化することに関する意見」を発表しました。これにより知的財産権侵害に対する罰則を強化し検挙率を高めようとしています。

2018年の中国の知的財産権保護に関する社会の満足度は76.88点に上昇し、世界知的財産権組織が発表した「2019年全球(グローバル)創新指数」では中国は世界の第14位になってますし、世界銀行が発布した「2020年営商(ビジネス)環境報告」では、中国は世界で第31位になっています。

2019年12月、米中双方は知的財産権保護に関して深く討論をしていますが、そのとき少なからぬ方面でコンセンサスを得ています。たとえば企業秘密保護、薬品に関する知的財産権、特許の有効期限の延長、電子商取引プラットフォームにおける海賊版や偽ブランドを駆逐することとその輸出入規制、ブランド名の悪意ある登記、および知的財産権の司法執行とプロセスの強化などに関して米中間でコンセンサスを得ています。

これらのさまざまな方面からの努力により、2025年までには国際社会が満足する一定のレベルまで知的財産権の保護が高められると考えられます。

以上から中国が高らかにTPP11への加入意思を表明したということは、必ず実現させることを表れだということができ、それを可能ならしめるための努力をデジタル化監視システムの導入とともに必死になって高めていると結論できます。

以上が取材内容だ。

既にあまりに長くなりすぎたので、これに対するコメントや評価分析は、又の機会に譲りたい。少なくとも言えるのは、「中国は本気だ」ということである。日本は構えをしっかりしなければならないだろう。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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