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「千人計画」の真相――習近平の軍民融合戦略で変容
2020年10月22日
五星紅旗が人材を集める(提供:Panther Media/アフロイメージマート)
五星紅旗が人材を集める(提供:Panther Media/アフロイメージマート)

2008年に始まった千人計画は人材養成のための外国人専門家募集事業だったが、習近平の「軍民融合戦略」が始まって以来、完全に姿と目的を変えてしまった。1996年に始まった帰国中国人元留学生との違いも明確にする。

◆1996年に始まった中国人元留学生を帰国させる計画

まずは1996年の第9次五ヵ年計画から始まった中国人元留学生たちの帰国誘致計画からご説明する。

中国では1966年から1976年まで文化大革命(文革)があり、その間、紅衛兵などの革命委員会が管轄する「工農兵学院」以外の全ての高等教育機関が閉鎖された。そのため多くの青年が学問を受ける機会がなかったので、1983年から私費留学生の海外留学が許可されると、堰を切ったように学問に飢えていた若者が海外に飛び出していった。

学問への渇望は尋常ではなく、二度と再び「あの恐るべき独裁国家・中国には戻るまい」と決意していた若者は多かった。特に1989年6月4日に天安門事件が起きると、アメリカなどではアメリカに永住できるグリーンカードを求める者が多く、当時のジョージ・ブッシュ大統領は積極的にグリーンカードを発行して中国人留学生を保護した。

ところが天安門事件によって西側諸国から激しい経済封鎖を受け、一党支配体制が崩壊しそうになったというのに、「中国を助けなければ」と必死になって動き始めた国があった。

日本だ――!

日本は中国の手練手管に乗ってイの一番に経済封鎖を解除しただけでなく、さらなる甘い言葉を囁かれて、なんと天皇陛下訪中まで許してしまった。

それを見た西側諸国は、このままでは日本だけが得をしそうだと見て、我先にと中国に投資するようになったのである。その結果、中国経済は飛躍的な成長を見せ、1990年代半ばには海外の大学で博士学位を取得し、すでに起業しているような中国人元留学生たちの心を刺激し始めていた。

一方、中国国内では文革期の人材欠損と有能な人材の海外流出によって、人材が枯渇し、それ以上の経済成長が見込めないような状況に達していた。

そこで1996年に出された第九次五か年計画(中国で「九五」と省略)において、海外にいる留学人員(留学した人々。元留学生を指す)を中国に呼び戻すプロジェクトが始まったのである。

たとえば、このページなどをご覧になると、その痕跡が残っている。

以来、2017年までに中国に帰国した留学人員の累計は313.2万人で、内231.3万人(73.8%)は習近平政権以降に帰国している。

この人たちは主として国家人事部が主催する「人材市場」に集まり、ベンチャーキャピタルとの契約を成立させたり、さまざまな税制優遇などを受けながら「留学人員創業パーク」で孵化期を経て社会で創業したりなどをして中国のハイテク化と経済成長に寄与してきた。私は当時留学人員の足跡と現状を追ってサンフランシスコやシリコンバレーはもとより、ニューヨークやパリなど、世界各地を飛び歩いて『中国とシリコンバレーがつながるとき』という本に実態をまとめた。

◆千人計画は別物:トップクラスの外国人研究者を大学等に

中国人の博士たちが祖国を目指して続々と帰国する流れを受けて、ノーベル賞受賞者のアメリカ国籍中国人である楊振寧博士が2003年に帰国した。帰国と言っても彼は1945年にアメリカに留学したので、中国での国籍は「中華民国」。そのときは「アメリカ国籍」を持っていた。彼は文革や天安門事件をアメリカで見てきたので、中国に戻ってもなお共産党一党体制に対する不信があったのだろう、アメリカ国籍を捨てようとはしなかった。当時の胡錦濤国家主席は楊振寧に清華大学の元学長室をあてがうほど、楊振寧を大切にした。

そしてあるとき、彼が高齢になってもなお、大学の学部生を相手に熱心に講義しているのを胡錦涛が見て感動し「なぜか」と聞いたところ、楊振寧は「科学者は自分の知識を次世代に伝えてこそ、その役割を果たすことができるのです。そうでないと、科学の発展は、そこで止まります」言ったのである。

この言葉に感動した胡錦濤は「千人計画」を提起し、「次世代を育てるために、外国人専門家を含めた海外人材を、中国の大学や研究所に派遣する」という事業を提起した。これは前項で示した第9次五ヵ年計画の留学人員帰国推進事業とは全く別の概念である。「外国人を含めた」と明記したのは、楊振寧のように外国籍をまだ捨てきれずにいた中国人研究者がいたからである。

ここから発展して「千人計画」は「外専千人計画」と呼ばれることもある。「外専」というのは中国に古くから「外専局」というのがあり、「外国人専門家」をヘッドハンティングしていたからだ。

2008年12月23日、中国共産党中央委員会(中共中央)弁公庁は、「海外ハイレベル人材を招致する計画に関する中央人材工作協調チームの意見」というものを発布した。担当部局は中共中央組織部と人事部(人力資源・社会保障部)で、以下の部局がその傘下で協力する。

――教育部、科技部、中国人民銀行、国務院国有資産監督管理委員会(国資委)、中国科学院、中央統一戦線部(中央統戦部)、外交部、発展改革委員会(発改委)、工業・信息(情報)化部、公安部、財政部、国務院僑務弁公室(僑=華人華僑)、中国工程院、自然科学基金委員会、外専局、共青団中央、中国科学技術協会

(詳細は『「中国製造2025』の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』)

◆習近平の軍民融合戦略で変容した「千人計画」

10月20日付のコラム<習近平の軍民融合戦略と、それを見抜けなかった日本>に書いたように、習近平は2012年11月の政権発足から、直ちに「軍民融合戦略」を練り始め、2013年から2014年にかけて阻害要素となっていた軍の利益集団を反腐敗運動によって撲滅させ、2015年から本格的に運用し始めた。

真っ先に姿を変えたのは「千人計画」である。

「民の衣を着て軍を発展させる」のだから、すべての「民」のハイテク技術は「軍民融合」の中に組み込まれていく。

軍民融合戦略は、中国全土の隅々にまで行き渡っているので、当然のことながら、前項で示した「千人計画」協力組織はすべて軍民融合戦略の中に含まれる。

その内、中国科学技術協会こそが、2015年に日本学術会議と覚書を結んだ組織であり、中国科学技術協会は2013年に中国工程院との協力関係を締結しており、かつ千人計画の協力組織には「統一戦線部」があることを見逃してはならない。外専局があるのは、「外国人を含む」からである。それは習近平の「軍民融合戦略」によって「外国人中心へとシフト」して姿を変え、「民の力を借りて、経済力と共に軍事力を増強せよ」という目的に変わっていった。

日本学術会議の元幹部や会員が千人計画の中に「個別」に入っていたとしても、背後にはこれだけの組織と戦略が動いていることを肝に銘じるべきだろう。

もちろん、日本企業も例外ではない。

習近平の軍民融合戦略は功を奏し、ついに中国の軍事力がアメリカの軍事力を凌駕してトップに立ってしまった。その事実をアメリカ国防総省(ペンタゴン)が“China Now Tops US in Shipbuilding, Missiles, and Air Defense, DOD Says”で認めている。

中国の経済力と軍事力増強のために徹底して協力し支援してきたのは、結果的に日本だ!

学者も政府もそしてメディアも、この真実から目を背けないで欲しいと心から願う。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.