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習近平の軍民融合戦略と、それを見抜けなかった日本
2020年10月20日
抗日戦争勝利70周年 北京で軍事パレード(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
抗日戦争勝利70周年 北京で軍事パレード(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

習近平は総書記になった瞬間から軍民融合戦略を打ち出して軍の利益集団を倒し、今では米軍よりも軍事力で優位に立っている。だが全てを権力闘争に結び付けた日本のメディアが中国の真相を見えなくした。もう遅い。

◆習近平の「軍民融合発展戦略」とは

2012年11月15日、第18回党大会一中全会で中共中央軍事委員会主席に選ばれた習近平は、その年の12月23日、軍事委員会常務委員会で「軍民融合は我が軍を建設する基本だ」と言い、12月26日の軍事委員会拡大委員会で過去10年間の(江沢民時代)の軍隊建設を振り返って、「われわれは何としても軍民融合の道を歩まねばならない」と強調した。

2013年3月11日および2014年3月11日、全人代の解放軍代表団全体会議で「軍民融合を国家戦略のレベルに引き上げなければならない」としながらも、「体制的障害と利益集団の存在が障害として立ちはだかっており、未だに融合できない状況が続いている」と、「軍民融合の難しさ」に警鐘を鳴らした。

「軍民融合」とは何かというと、「経済建設と国防建設を一体化して国家の繁栄と安全を守っていこう」というもので、建国以来のソ連式軍事力増強方法からの徹底的な脱却を図ったものである。

旧ソ連では米ソ冷戦の中、アメリカと対抗して短距離的に軍事力増強を優先したために膨大な国防費を使い果たし、かつ軍事産業に関しては専ら国営企業に頼っていたので、膨大な国費の消耗と、国営企業という非能率的な生産体制によって旧ソ連は崩壊したという側面を持つ。

またトウ小平は改革開放を始めると同時に中越戦争を起こし、「引き分け」に終わったとしているが、実際は「勝てなかった」=「敗北している」。そこでトウ小平は無駄な中国人民解放軍を百万人削減して、毛沢東時代に沿海の地を避けて建てられた多くの軍事産業基地を民間工場に転用した。その流れの中で軍民融合を図ろうとしたが、稚拙な産業基盤に、結局はソ連式にしか頼れなかったことから失敗している。

江沢民時代には中共中央総書記と中央軍事委員会主席および国家主席の三大権力を一身に持つに至ったため、政治界に関しては「ぽっと出」の江沢民はたちまち権勢欲と名誉欲そして何よりも金銭欲の虜になってしまい、救いがたいほどの利益集団を形成してしまった。新中国が誕生するまでの中国革命に参加したこともなく、父親が日本軍の傀儡「汪兆銘政権の官吏であった」ことなどから、三つ子の魂百までで性分は変えられず、たちまち金銭欲の虜になり、「軍を中心とした利益集団天国」を創り上げてしまった。胡錦涛政権は「チャイナ・ナイン」(中共中央政治局常務委員会委員9名)の内の6名を江沢民派が占めた上、軍事委員会はみな江沢民の利益集団によって独占されたので、胡錦涛は何もできなかった。

そこで習近平は、何としても中国経済を破壊することなく強軍大国・中国を建設するための阻害要素を取り除いた。

それが「反腐敗運動」である。

◆軍民融合戦略を完遂させるための反腐敗運動を権力闘争と叫んだ日本

習近平政権誕生とともに「トラもハエも同時に叩く」をスローガンに激しい反腐敗運動が展開されたのは記憶に新しい。逮捕投獄された公安の利益集団・周永康、軍の最大利益集団・徐才厚など、枚挙に暇がない。

日本の中国研究者、ジャーナリスト、メディアに至るまで、一斉に「権力闘争」と叫ぶ大合唱が始まった。たまりかねてNHKの懇意にしていた解説委員に「違いますよ」と知らせたら、それっきり縁を切られてしまった。また私が尊重していた(可愛がっていた)チャイナウォッチャーが「権力闘争が分からなければ中国の真相はわからない」という類の主張をし始めたので、「あなたの分析はいつも興味深いけれど、こればかりは違いますよ」と知らせたら「どうぞ、お構いなく!」という絶妙な返事が来た。見事だ。この切り返しは正直、うまいと思った。

「いや、権力闘争と見たが最後、中国の真相は見えなくなるんですよ」と言いたかったが諦めた。

もう官から民まで「習近平の権力闘争」という、実態とは異なる大合唱が日本を覆いつくした。

「そのような見方をしていたら、今に日本は痛い目に遭う」と唱える遠藤は「変わり者」として扱われたのか、一部を除いたメディアは私には話をさせないという状況を作り出したほどだ。

日本人の視聴者が喜ばないからである。

これが日本のメディアだ。いっときの日本人の「受け」でジャーナリズムが動くという、日本のこの恐ろしさよ――。

習近平としては実にありがたかっただろう。

何といっても彼の真の狙いである「民の衣を着た軍事産業」を覆い隠すことが出来たのだから。

◆軍民融合発展戦略の本格化と日本への勧誘

2014年に反腐敗運動もピークを越え、軍民融合のための最大の阻害となっていた「軍を中心として中国全土に根を張っていた利益集団」はほぼ牢獄行きとなったので、2015年3月12日、習近平は中央軍事員会主席として、「軍民融合発展戦略」を正式に発表した。これにより「中国の夢、強軍の夢」が実現されるのだと彼は声を張り上げた。 

「経済発展と国防建設を一体化する戦略」はハイテク国家戦略「中国製造2025」では民間の技術を活用することによって宇宙航空やミサイルあるいは潜水艦や空母などのハイテク軍事技術が増強されることも秘かに謳われている。

こうして日本を対象に考えるならば、民間団体である中国科学技術協会が日本学術会議と提携するなどの接近を、「シラーッ」という顔をしてサラリとやってのけ、またシャープパワーを駆使して日本の経済界や日本政府与党の重鎮にターゲットを絞って「やんわりと」、「にこやかに」、「疑われることなく」懐に入り込み、中国の懐に入れる動きに出始めている。

一方、日本の軍民融合産業は、実は表面にあまり出ない形で深く堅実に進んできた。

たとえば、安易にウィキペディアを引用して申し訳ないが、「軍需企業の一覧」をご覧になっただけでも、凄まじい量の日本企業が日本の軍事産業を支えている。

このページでは各分野ごとに主だった日本企業名が列挙されているので、その企業名を見ただけでも驚くべき数に上ると思わないだろうか。ほかにも日本国内の兵器の生産に関わる企業は戦闘機や戦車で1000社以上、護衛艦では2000社以上と言われている。

この中で特に中国で注目されているのは「日本の軍事ビジネス」にも書かれているように

  1. 三菱重工業(3165億 戦闘機・航空機等)
  2. 三菱電機(1040億 ミサイル・レーダー等)
  3. 川崎重工業(948億 潜水艦・ヘリコプター等)
  4. NEC(799億 レーダー・電子機器等)
  5. IHI(483億 エンジン等)
  6. 富士通(401億 ネットワーク等)
  7. コマツ(294億 砲弾・装甲車等) 
  8. 東芝(284億 ミサイルシステム等)
  9. 日立製作所(242億 情報システム等) 
  10. ダイキン工業(149億 砲弾等)

などで、アメリカではロッキード・マーチン社(軍需4兆円規模)、イギリスではBAE社(軍需2兆円規模)など、企業の売上の90%以上は軍需という巨大軍需企業が多いとのことである。

だから「中国が軍民融合戦略を推進しても何ら問題はない」というのが中国側の主張だ。

◆アメリカが目を付けた中国の軍民融合戦略のスパイ行為

習近平は2017年1月22日に中央軍民融合発展委員会を設置し(主任:習近平、副主任:李克強など)、同年6月20日に第一回全体会議を、2018年10月15日に第二回全体会議を設置した。その中で「民間の科学技術と協力し合いながら軍民融合戦略」を推進していくとしている。

特に注目しなければならないのは中央軍民融合発展委員会の全体会議を通した「通知」で、軍民融合プロジェクトには絶対に「中国、中華、全国、国家、国防、中国人民解放軍」などの文字を使ってはならないという指令を出したことである。「あくまでも、民の衣を着ていなさい」と命令したのだ。

この辺りからアメリカが警戒し始めた。

2019年9月25日にアメリカの非営利団体C4ADSが安全保障問題における中国の「軍民融合戦略」に関する報告書を発表し強い警鐘を鳴らした。

それにつられた日本も初めて警戒感を抱くようになり、経産省でも経済安全保障管理に力を入れているようだが、何せ、肝心の政権与党・自民党の二階幹事長が中国のシャープパワーの虜になり、何百人、ときには何千人の経済人を引き連れて北京詣でをしているではないか。その中に「軍需企業の一覧」に関係する企業がないという保証はない。

もちろん、日本学術会議の元メンバーが学問への渇望に燃えて、無自覚のまま中国の「表面からは見えない軍民融合に貢献していること」も注目には値するが、日本政府自身が「自覚しながら」中国の軍民融合戦略に「見て見ぬ振りをしながら」奉仕しているとすれば、罪はあまりに重すぎる。

本日、読売新聞の報道によれば、コロナで中断していた日中の往来が再開されるとのことで、「中国からのビジネス目的の入国者は約37万3000人(2019年)で、中国の日系企業数は約3万2000社(17年)。いずれも国・地域別で最多となっている」とのこと。

日本政府はアメリカのように習近平の「軍民融合発展戦略」に引っかからない企業の交易内容をチェックするのができるのだろうか。日本学術会議メンバーの無自覚の善意による中国への貢献と共に、そのことを危惧する。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.