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習近平に衝撃!岸信夫防衛相の誕生とクラック米国務次官訪台
菅内閣が発足 新閣僚の中の一人、岸信夫防衛大臣が会見(写真:ロイター/アフロ)
菅内閣が発足 新閣僚の中の一人、岸信夫防衛大臣が会見(写真:ロイター/アフロ)

菅内閣は台湾通の岸信夫氏を防衛大臣に据えるという凄まじい発信をした。加えて米国務次官が訪台。中国外交部の抗議のみならず国防部が「アメリカは死路あるのみだ!中国人民解放軍は黙っていない」と気炎を上げている。

◆菅総理、みごとな発信

新しく誕生した菅内閣は、その布陣において異論がないわけではないが、少なくとも岸信夫議員を防衛大臣に据えた事で、明確な姿勢を発信したことになる。

岸信夫議員は安倍晋三元総理の実弟で、小さいころに母親・安倍洋子(安倍晋太郎夫人)さんの実家(岸家)に養子として迎えられたという。

最初にお会いしたのは自民党本部で講演をしたときだったが、非常に誠実で控えめな人柄に深い敬意を抱いたものだ。その後、台湾問題に関係する集まりなどでも、何度かお会いしたことがある。

岸信介議員は、日華議員懇談会(日本と台湾との関係強化を目的とした超党派議員連盟)の幹事長でもあり、また自民党青年局などで構成される「日台経済文化交流を促進する若手議員の会」の会長としても活躍しておられるように、台湾との交流に熱心なことで知られる。

2015年には、まだ台湾の野党だった民進党主席の蔡英文氏の来日を実現させ地元の山口県で手厚く接待しているし、今年8月には日華議員懇談会による李登輝元総統の弔問団の一員として台湾を訪問している。

こういう人物を防衛大臣にしたということは非常に大きな脅威を中国に与える。

中国は尖閣諸島を中国の領土として譲らず、第一列島線の根拠地の一つとして台湾統一に向けてまっしぐらに走っている。

その意味でも親台議員を防衛大臣に持ってきたという菅内閣の布陣は、なかなかにみごとなものだと言っていいだろう。

◆習近平にはショックだろう

習近平国家主席としては、自民党の二階幹事長が続投で菅首相の背後にいる限り「日本はこっちのものだ」と高を括っていただろうが、なんと肝心の防衛大臣にタカ派で親台の岸信夫議員を持ってこられたのでは「日中友好」などと言っているわけにはいかなくなる。

かと言って香港問題にせよ台湾問題にせよ、他国が少しでも非難すれば「内政干渉だ!」として撥ねつけてきたのだから、まさか日本の新内閣の布陣に文句をつけるわけにはいくまい。。

9月17日付けの中国共産党機関紙「人民日報」の機関誌「環球時報」は、「岸信夫防衛大臣に 安倍の実弟入閣 家族の政治的栄光を守る」という、まるでイチャモンを付けるようなタイトルで岸信夫防衛大臣就任を報じた。せいぜいできるのは、このくらいだ。

家族を守るって、「あなたには関係ないでしょ?」としか言いようがない。

詳細に岸信夫氏の台湾や靖国神社参拝などに関する姿勢を伝えているが、それ以上は「内政干渉」になるので、攻撃は出来ないのである。

まるで習近平の歯ぎしりが聞こえてくるようだ。

菅首相は「桜を見る会」に関しては中止すると明言したが、どうか、「習近平国賓来日も中止します」と断言してほしいものだ。

◆クラック米国務次官訪台に対する中国の激しい抗議

9月17日、アメリカのクラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)が台湾を訪問した。かつての中華民国と米国が断交した1979年以降で訪台した国務省高官としては最高位となる。8月のアザー米厚生長官に続く米高官の訪台となった。18日夜には蔡英文総統と面会する予定だ。

クラック氏の訪台に関する中国側の抗議には実に激しいものがある。

まるで「江戸の敵(かたき)を長崎で」と言わんばかりに、岸防衛大臣に対して正面から抗議できなかった分、実行動に出たクラック氏に怒りをぶつけるという印象を受ける。

まず9月18日の環球時報は「クラック米国務副長官訪台、外交部:中国側は形勢の進展に応じて必要な措置を採る」という見出しで抗議を表明した。

そこでは「中国はこれに対して断固反対し、アメリカに対して厳正なる交渉を提出する」として「驚くべきことに米台経済と商業対話と謳いながら、実際は台湾に7種類の武器を売りに行っただけだ。それでも台湾はホルモン漬けのアメリカ豚を食べなければならないのだろう?」と皮肉り、サプライチェーンの台湾へのシフトなど口実に過ぎないと悪態をついている。

また「クラックの訪台目的が何であれ、訪台すること自体が悪行なのだ。それは一つの中国の原則を踏みにじるものであり、台湾独立を叫ぶ分裂主義勢力の傲慢を助長するものである。中国は絶対に許さない!」と激しい。

激しさにおいては中国政府の国防部(防衛省)も負けていない。

何と、使った言葉が「アメリカには死路一筋しかない」だ。

9月18日の中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVは国防部の任国強報道官の「死路一条!」と叫ぶ声を激しく報道していた。

「人民日報」の見出しにはないが本文には「注定死路一条」という言葉が書いてあり、また、たとえば「紅星新聞」にはタイトルに「注定死路一条」という文字がある。

これは「お前には死の道だけしかない!」というニュアンスの言葉だ。

それが何十種類ものサイトに転載されている。

国防部の報道官は国務院新聞発布会で以下のように叫んでいる。

――台湾は中国の不可分の神聖なる領土だ。台湾問題は中国の内政問題である。いかなる国も干渉することは許されない。最近、アメリカと(台湾の)民進党は結託して頻繁にもめごとを起こしている。台湾を以て中国をけん制するのか、それとも西側におもねて威張るのか知らないが、うつつを抜かした妄想に過ぎず、死の道一筋しかなく、火遊びをする者は焼身自殺をすることになる!

中国人民解放軍には「堅固な意思」と「十分な自信」と「十分な能力」があり、外部勢力の如何なる干渉をも粉砕し、台独分裂行動を打ち砕き、国家主権と領土の完全性を守る抜く!

◆東部戦区が台湾海峡で海空合同軍事演習

まるで、「目にもの見せてやる」と言わんばかりに、9月18日、中国人民解放軍の東部戦区は海軍と空軍の合同演習を台湾海峡で行うと発表した。国防部の公式サイトが伝えた。

東部戦区の報道官は「これらの行動は現在の台湾情勢に対する対応で、国家統一と主権の安全を守るための東部戦区の戦闘能力を高めるためのものだ。戦区部隊は断固として職責と使命を履行し、如何なる人であれ、如何なる勢力であれ、如何なる形式であれ、台独分裂を策動する活動を打ち砕く」と、これも激しく威嚇している。

実は東部戦区の軍事演習に関しては、先述の国防部報道官のメッセージの後半にも書いてあるのだが、別途東部戦区の報道官が発表したものを中国政府の国防部公式サイトでも報道したので、一部ダブっている。

いずれにせよ、中国は具体的な軍事行動によって、アメリカを威嚇しようとしている。

アメリカの国務次官の訪台と、台湾を重視する日本の岸防衛大臣の誕生が、タイミング的に奇しくも一致し、習近平には相当な衝撃を与えていることだろう。その焦りが、外交部や国防部および東部戦区など複数の報道官からの発信という形に現れているように思える。

習近平は日本の新しい防衛大臣の就任に戸惑っているにちがいない。

岸防衛大臣の今後の活躍に期待したい。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。7月初旬に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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