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安倍首相辞任表明、中国共産党系メディア「日米を離間させ、日本を取り込め!」
2020年8月30日
安倍首相が会見 新型コロナ対策と辞意表明(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
安倍首相が会見 新型コロナ対策と辞意表明(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

安倍首相は長期政権により国際社会における日本の信頼を大いに高めたが、最後の汚点は習近平国賓来日計画だった。中国の本音も見えた今、安倍首相辞任を機に次期首相は習近平国賓来日中止を宣言すべきだ。

◆米中が対立する中、日米を離間させ、日本を取り込め:中国共産党系メディア「環球時報」

8月28日午後2時過ぎに、安倍首相の辞任表明ニュースが日本で報道されると、中国のネットは速報で伝え、5時からの記者会見はライブでネット配信するという重要視ぶりだった。

しかし29日早朝に中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」電子版「環球網」が発表した社評(社説)「安倍執政を回想する 中日関係の複雑さを体験」は、実に辛辣で中国の野心を丸出しにしたものだったことに注目しなければならない。

同紙は冒頭で「多くの中国人は安倍が嫌いだ。最大の原因は2013年に靖国神社を参拝したからであり、日本の平和憲法第九条を改正する動きを進めていたからだ」とした上で、以下のようなことを書いている。

  1. しかしその後さまざまな起伏があり、ここ2年間ほどは中日関係に関して安定する方向に動き始めた。
  2. 中国は大国なので、アメリカが対中包囲網を全面的に展開して中国を追い詰めようとしている今、日本のような国は、必ずわれわれ中国が味方に引き入れておかなければならない国だ。
  3. 日本に日中共通の利害を強く認識させること。日本はたしかにアメリカの同盟国ではあるが、しかし中国は日本の最大の貿易相手国なので、対中問題に関しては、日米関係は必ずしも鉄則のような強い必然性で結ばれているわけではない。
  4. 日本が、極端化するワシントンの対中政策と距離を持つように持って行き、ワシントンの対中攻撃に日本ができるだけ協力しないようにさせることは、中国にとっては非常に価値のあることである。おまけにひとたびこの方面における効果が出始めると、中国にとっての日本の意義は、日中紛争によって得られる些細な損得の意義とは比べ物にならないほどの大きな意義を持つ。
  5. 長い目で見れば、日本はいずれアメリカのコントロールをより受けないような外交的独立性を必ず求めるようになる。だから日米同盟が存在する下で、米中間におけるある種の戦略的バランスを保つことは日本の利益に合致し、日本にとっての唯一の道となるであろう。
  6. 日本にはこのような方向に戦略転換することを阻止しようとする動きがあるだろうが、その動きが増大しないように中国は力を注がなければならない。そのために中国は、日中両国社会が絶え間なく接近する方向に動くためのファクターを積極的に作り上げていかなければならないのである。
  7. それを実現するには紆余曲折があるだろうが、しかしこの道にまちがいはなく、日中関係にとっての戦略的価値がある方向性である。

概ね以上だが、何という野心丸出しの社説だろう。

上記の「1」にある、「ここ2年ほど」というのは、2018年4月から二階幹事長や公明党の山口代表をはじめ経済界の大物などが中国共産党中央委員会対外聯絡部の策略に引っかかってしまい、完全に習近平を絶賛する側に立ち始めた時期と一致する。これに関してはこれまでのコラムで書きまくってきたので、ここで列挙するのは省く。

その辺りから安倍首相の国賓としての中国訪問と、そのお返しとしての「習近平を国賓として日本に招待する」という計画が動き始めた。上記の「2」から「6」までをしっかりご覧いただければ、中国がいかに政界や経済界は言うに及ばずマスコミ界までをも親中に傾かせて、習近平国賓訪日を戦略的に動かしているかが明確になるだろう。

◆CCTVでは日本の東アジア地域における安全保障への野心を解説

8月29日、中国共産党が管轄する中央テレビ局CCTVは安倍首相の辞任表明に関する特集番組を組み、解説委員が以下のように言った。

――日本の本来の狙いは憲法改正と東アジア地域における安全保障の強化にある。安倍政権は後半からは抑制的になり、中国との友好を重んじるようになったが、アメリカは黙っていない。アメリカは必ず中距離弾道ミサイルの配備などに関してアメリカと足並みを揃えて協力するよう日本に強く要望してくる。中国にとってはポスト安倍がアメリカの意向に沿って動くか否かを注視することが肝要だ。

すなわち最後の2年では、中国は安倍政権を親中に傾かせることに成功してきたと中国は見ているということだ。だから次に誰が総理大臣になるかを中国は強い関心を以て分析している。

日本では「中国でも安倍首相が良かった」と言っていると、非常に「好意的な心情」として伝えているが、もう心の底まで中国の戦略に嵌(はま)ってしまっているとしか思えない。

中国が「日中友好を重んじた良い首相だった」と評価するということは「まんまと中国の戦略に嵌って、中国に有利に働いた」ということであり、「中国の繁栄と強国化に手を貸してくれた」という意味なのである。そんなことに気づかない日本のメディアも真のジャーナリズム精神を失ってしまっているのではないかと悲しい。

◆中距離弾道ミサイルの配備

中国が最も警戒しているのが中距離弾道ミサイルの日本配備だ。8月27日のコラム「中国が台湾を武力攻撃した時にアメリカは中国に勝てるか?」でも示したように、トランプ大統領が突如INF(中距離核戦力)全廃条約から脱退したのは、中国が加盟していなかったために中国は全く無制限に中距離弾道ミサイルや中距離巡回ミサイルの開発をしてきたからだ。アメリカは我慢の限界に達し、中国のミサイル力がアメリカを凌駕しようとしていることに激しい危機感を覚えてINF全廃条約を脱退し、中国を抑えるためのポストINFミサイルを韓国や日本などに配備しようとしている。

だからこそアメリカの国防省(ペンタゴン)が気弱なシミュレーション結果を出したのだろう。それを以て「アメリカよ、頑張れ」そして「同盟国よ、現実を認識し、本気で協力してくれ」と叱咤激励をしたかったのかもしれない。

何しろ中国は2000基に及ぶミサイルを保有しており、前掲のコラムの「表2」に示した通り、ワシントンを含めたアメリカ全土をカバーできる射程距離15,000キロを出せるミサイルを保有しているのである。

それに対して日本の自衛隊が保有するミサイルの射程距離はせいぜい200キロ程度で、中国にも北朝鮮にも届きはしない。

だからこそ安倍首相はミサイル基地などを先制攻撃できる「敵基地攻撃能力」確保に向けて議論すると表明はしたのだが、しかしそのためにはアメリカのポストINFミサイルを配備する以外にない。つまり中距離弾道ミサイルを配備することだが、もしこれを実行したら中国との関係は一瞬で破壊し、習近平国賓来日の話は完全に吹き飛ぶ。

それを実行に移さなかった安倍首相は、中国にとっては「素晴らしい首相」だったのである。

◆中国にとって「喜ばしい」日本

8月29日、河野防衛大臣はグァムでアメリカのエスパー国防長官と会談し、中国が中距離弾道ミサイルを発射した南シナ海情勢について、一方的な現状変更の試みに反対していくことを確認した。アメリカはまさに中国のこの中距離弾道ミサイルの存在を最も警戒している。

河野氏は最近になって対中強硬的な発言をするようにはなったが、外務大臣だった時には何をしていたのか。中国外交部の華春瑩報道官とツーショットを自撮りして悦に入っていたのではないのか。

最初は2018年2月で、2回目は2019年8月だ。その記事のタイトルにもある通り、「好感沸いた」「日中友好を」と、両国で話題になった。

特に日本では、あのこわもての女性報道官が「笑い顔がステキ」とか「案外かわいい人じゃない」ともてはやされ、まさに「日中友好」という「中国の思う壺」にピタッとはまったのである。こうして「中国までもが安倍首相が良かったと言っている」ことを、さも「ありがたい」あるいは「誇らしいこと」と勘違いする日本のメディアが出来上がっていくのである。

◆習近平国賓招聘を中止すると宣言すべき

安倍首相が辞任を表明した理由が理由だけに、個人的感情としては「お気の毒だ」と同情するし、早く完治してほしいと本気で祈る。また安倍首相が長期政権を保ったことによって回転ドアと揶揄されて国際的信用を失ってしまった日本の信用を回復させたことは高く評価したい。だからこそ支援してきた。

安倍晋三氏自身は、個人的には良い人だと思うし、特に辞任表明会見は、覚悟を決めた人間の毅然とした気品さえ漂わせ、真摯で胸を打つものだった。「頑張れ!」と声を掛けたいほどだ。その意味で尊敬する。

しかし、それでもなお、習近平を国賓として日本に招く約束をした安倍政権に対しては「絶対にそうしてはならない」という意思表明を続けることは変わらない。

ポスト安倍が誰になるのかは分からないが、少なくとも習近平を国賓として招くことを「しないと宣言できる」人物に日本のリーダーになってほしい。

米中の天下分け目の闘いが展開されている今、あたかもその趨勢を決するような形で中国側に付く日本の姿など見たくない。

一部の自民党議員からは「こちらがご招待すると言いながら、こちらから断るわけにはいかない」という声が聞こえていたが(特に石破議員は「失礼に当たる」とさえ言っていたようだが)、安倍首相が辞任表明した今こそ、それを理由に断ることができるのではないだろうか。

次期総理大臣には、この二度とないタイミングを逃さないようにしてほしいと切望する。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.