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駐日米国大使「ファーウェイは国有企業」発言を検証する
2019年7月5日
2019年保守政治活動協議会におけるハガティ駐日米大使(提供:アフロ)

アメリカによる中国通信機器大手、ファーウェイ(華為技術、HUAWEI)排除の動きが激しさを増していた一方で、排除理由となっている「情報を抜き取って中国政府に渡している」とか「バックドアが付いている」などに関して、アメリカは未だに証拠を出していない。そのような中、6月14日夜のテレビ朝日「報道ステーション」はハガティ駐日米国大使が声を大にして「ファーウェイは国有企業なのです」と断言する画面を報道した。そこで今回は、「ハガティ発言」の検証を通して、米中対立の根本的な原因と論理的脆弱性を考察する。

◆ハガティ大使の具体的な発言

 6月14日夜9:54から始まったテレビ朝日の「報道ステーション」はハガティ大使を取材するコーナーを報道した。

 いつもは穏やかで上品な顔つきをしたハガティ大使が、「ファーウェイは国有企業だ」と言った時には、実に厳しい表情をした。

 念のため、「国有企業」と言った前後を文字化してみると以下のようになる(ザックリと文字化したものである。NAは「ナレーション」の略。富川は当該番組のキャスター)。

 NA:2週間後には大阪でG20が開催されます。注目は米中貿易摩擦に解決の糸口が見えるのかどうかです。

 富川:やっぱり期待が集まるのが米中首脳会談。これは行われるのでしょうか。

 ハガティ:G20で実現するかわかりませんが、大統領は近いうちに動きがあることを期待しています。中国が行動を改める時なのです。

 NA:米中の対立の象徴となっているのが中国企業ファーウェイの排除です。日本でも取引を停止する動きが官民で広がっています。

 富川:私はファーウェイの任CEOをインタビューしたことがあるのですが、彼はアメリカの安全保障を脅かすようなことは絶対にしていないと、スパイ行為もしていないと言っていますけれども、アメリカにとっては、それでもファーウェイというのは脅威であると?

 ハガティ:中国では政府が企業から情報を得ることが法律で認められています。ファーウェイもそうした企業で安全保障の明らかな脅威です。

 NA:ファーウェイ側は「政府から独立した民間企業だ」と主張していますが、大使は語気を強めて、こう断言しました。

 ハガティ:ファーウェイは国有企業なのです。国有企業は自由市場を汚染し不公正な競争をします。アメリカ市場だけでなく日本やオーストラリアなど、志を同じにする国からファーウェイを排除することで、公正で不正のないオープンな市場を創ろうとしています。

 以上が関係部分に関する番組内のQ&Aだ。

 国有企業の部分に関して、ハガティ大使は英語で“Sate-owned enterprise”と表現しており、これは間違いなく「国有企業」の意味で、通訳ミスはない。

◆「ファーウェイは国有企業だ」発言の正否に関して

 それでは、ハガティ大使が「ファーウェイは国有企業だ」と言ったことが正しいのか否かに関して検証してみよう。

 ファーウェイが「従業員持ち株制度」を実施していることは、関心のある方なら誰でもが知っている周知の事実だ。その株主の割合に関して、オランダの国際会計事務所であるKPMGが会計監査をしているデータがある。

 KPMGは1870年に設立された国際会計事務所で、今では世界4大会計事務所の一つになっている。現在の会社名はパートナーとして加わった設立者の名前の頭文字を取って付けられた(K:Piet Klynveld、P:William Barclay Peat、M:James Marwick、G: Reinhard Goerdeler)。

 中国政府が管理している公開情報「国家企業信用信息(情報)公示系統(公開システム) 」(National Enterprise Credit Information Publicity System)(広東省)によれば、ファーウェイの株の持ち主に関する割合は2018年12月28日の時点で、任正非が1.0100%で、ファーウェイの工会委員会(労働組合=従業員)の持ち株が98.9900%であることが明示してある(この割合は、年によって0.1%~0.4%前後で変動がある)。ここには明らかに「中国政府」の持ち株がない。

 これを監査しているのが、上記のKPMGだ。ファーウェイは2000年からKPMGの監査を受けてきたようで、これに関しては「ファーウェイ 2018年アニュアル・リポート(年次報告書)」の69頁、あるいは日本語でなら、2017年度アニュアル・レポートのp.73に書いてある。日本語で「外部監査人」という項目があるので、そこをご覧いただきたい。

 念のため、英語版の2019年3月27日付のKPMGによる記述部分を以下に貼り付ける。

 国有企業には、必ず中国政府の持ち株がある。KPMGが、中国政府の持ち株はゼロであるということを証明しているので、まあ、やはりファーウェイが国有企業でないことは、国際的標準で証明されていると言っていいだろう。

◆アメリカには不利になる

 それなのになぜ、米国大使ともあろう大物が、このような、誰にでもすぐに分かってしまう「事実と異なること」を堂々と言ってしまったのだろうか?

 まさか、テレビ朝日の報道局が、「国有企業とは何か」を知らないということはあるまい。知っていたら、「アメリカの名誉のため」あるいは「ハガティ大使の名誉のため」に、この場面をカットして報道するのが「親切」というものだろう。

 いずれにせよ、このような明白な虚偽の根拠に基づいてファーウェイを危険だとして排除しているということは、いかにもアメリカが根拠なしにファーウェイを攻撃しているかのような印象を与えて、アメリカにとっても不利となり、それが残念でならない。

 なぜなら、言論弾圧を続ける中国共産党の一党支配体制を崩壊させる力は、今のトランプ政権以外には、この70年間、誰も持っていなかったからだ。これは自由主義陣営と社会主義陣営の闘いであり、価値観の闘いでもあるとして、大きな期待をかけていた者も少なくないだろう。

 もっとも、中国政府は今でこそファーウェイを支持しているような格好をしているが、実は1990年代までは、むしろ中国政府はファーウェイを潰そうとしていた。その証拠は1993年と94年の国務院令に残っている。

 たとえば2009年8月17日の人民網に載っている「中国金融60年大事記 1993年」の4月の欄には国務院弁公室が、国家体制改革委員会と国家経済貿易委員会および国家証券委員会に発布した「内部職工による持ち株制を即刻停止せよ」という正式な国務院令の記録が残っている。従わなければファーウェイの任正非CEOを逮捕するというところまで事態は深刻化していた。

 中国政府に虐められて、中国の銀行からの融資を受けることができずに従業員(内部職工)に跪いて、従業員がどこかから融資を持ってきてくれることを頼んだのが、ファーウェイの従業員持ち株制度の始まりだった。

 だからファーウェイは中国を飛び出し、海外に発展の可能性を求めるしか道がなかったのだろう。海外の銀行がファーウェイに融資してくれた。ファーウェイがこんにちまで融資を受けた金融機関のほとんどは中国以外の国の銀行であって、中国の商業銀行からの融資の割合さえ、その値は極端に小さい。

 しかし今、トランプ政権からの激しい攻撃を受けて、中国政府とファーウェイの距離は縮まりつつある。

◆なぜトランプ政権はファーウェイを集中攻撃するのか

 トランプ政権は攻撃の相手を間違えているのではないのか。

 なぜトランプ政権は中国政府そのものであるような国有企業のZTE(中興通訊)やユニグループ(清華紫光集団)をターゲットにせず、中国政府と距離を置いてきたファーウェイを目の仇にするのか。それはファーウェイの技術がアメリカを超えそうだからだろう。

 特に5G(第5世代移動通信システム)の開発においてファーウェイは世界のトップに躍り出て、アメリカのハイテク界における王者の地位を脅かしている。5Gに出遅れた国は、スマホだけでなく、IoT(物のインターネット)やスマート・カー(自動運転)などの今後の通信社会インフラ構築において王者の地位を退かねばならなくなる。それは世界の覇者の地位からの転落を意味する。

 だというのに、ファーウェイは5Gスマホにおいて最先端を行っているだけでなく、その基地局のベンダーとしても世界一の地位を築きつつある。

 2018年末に発表されたモバイルインフラ市場のシェア(IHSマークイット調べ)によれば、2017年度の基地局シェアは「ファーウェイ27.9%、エリクソン26.6%、ノキア23.3%、ZTE13.0%、サムスン3.2%、NEC1.4%、富士通0.9%……」と、中国勢が圧倒的に高いシェアを誇っている。

 このデータの中で最も注目しなければならないのは、なんと、大手ベンダー企業の中に「アメリカ企業がない!」という驚くべき事実だ。

 アメリカがなぜ基地局事業から撤退したかに関しては話が長くなるので省くが(少なくとも技術的理由ではなく、商業的理由だったが)、結果的には5Gを中心とした次世代の通信社会インフラに関して、中国がアメリカを抜いているという厳然たる現実がある。

 基地局は2Gをはじめ3Gや4G時代のものが既に世界各地に設置されており、それをゼロから入れ替えるには多大なコストがかかる。それでもアメリカは何としてもファーウェイを倒したい。だから、どのような理由でもつけてくる。

◆アメリカのロジックに脆弱性を与えるな

 しかしもしアメリカが中国共産党による一党支配体制を打倒したいのなら、ZTEやユニグループのようなハイテク産業を主導している国有企業を狙い撃ちしなければならない。彼らは中国政府そのものであり、中国共産党と共にいる。

 ファーウェイを攻撃すれば、これまで中国政府と距離を置いていた民間企業のファーウェイも中国政府に近づかざるを得ないところに追い込まれる。中国政府側も、これまではファーウェイを虐めていたくせに、ここまで強大化してしまうと、国有企業にとっては「あまり好ましくない」民間企業でも、それが「中国の企業」であるが故に、支援せざるを得なくなっているのが現状だ。5Gにおいて最先端を行くとなればなおさらだろう。

 このロジックを理解しない限り、アメリカの戦略に脆弱性を潜ませる余地を与えることになる。それを憂う。

 なお、ハガティ大使が触れている法律(国家情報法)だが、ファーウェイの任正非CEOは、各国からの関連質問に対して「これまで中国政府から何も要求されていないが、もし情報を出せなどと要求されたら、ファーウェイという会社を閉鎖する」と何度も回答している。

 また中国政府は「国家情報法」は海外の情報に関して管轄権を持たないと言ってもいる。しかし、憲法に「言論の自由を保証する」と明記しながら、言論弾圧をしている国だ。

 法律の条項に何が書かれていようと、中国の法治を信じる人はいないだろう。ここには十分な疑問の余地が残っている。

 したがって、何としても一党支配体制を維持している中国を倒すという気持ちがアメリカにあるのなら、弁明の余地のない客観的事実を突き付けていかなければならない。それを望む。

 追記(6月29日):本論考は6月15日に書いたものだが、6月29日、G20(大阪)における米中首脳会談の後、トランプ大統領は記者会見でファーウェイに対して5月15日に宣言した(米企業はファーウェイに半導体などの部品を売ってはならないなどの)制裁を緩和し、これまで通り販売を継続することを認めると表明した。米議会における公聴会で多くの米企業がファーウェイ制裁にビジネス上の不満を述べたからだという。これが「国民の声」を反映する民主主義国家の力でもあり、「普通選挙」が存在する国家の「(ある意味での)弱さ」でもある。しかしトランプ大統領は、「安全保障上の問題がないものに限る」という条件を付けたり、「エンティティリストから外すか否かは今後検討する」ともしているので、当分の間は慎重に今後の動向に注目していきたい。

 なお、なぜトランプ大統領がそれまでの意向を変えたかに関しては、別のコラムで詳細に論考しているので、そちらを参照していただきたい。

(この評論は6月15日に執筆)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.