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トランプTikTok禁止令とTikTokの正体
2020年8月9日
TikTok(写真:ロイター/アフロ)
TikTok(写真:ロイター/アフロ)

6日、トランプはTikTokなど中国IT大手との取引を禁止する大統領令を出したが、TikTok創始者は、実はアメリカ礼賛が激しく中国のネットでは売国奴呼ばわりされていた。米中双方の真相を読み解く。

◆トランプ大統領がTikTokなど中国IT大手との取引禁止大統領令に署名

8月6日、トランプ大統領は安全保障上の脅威だとして、動画投稿アプリTikTok(ティックトック)を運営する「北京字節跳動科技(ByteDance、バイトダンス)」との取引を45日後から禁止するとの大統領令に署名した。中国の会員制SNS「微信(WeChat、ウィチャット)」を運営する中国のIT大手、騰訊(テンセント)との取引も禁止するとした。

TikTokを巡っては、トランプ氏がバイトダンスに対し、アメリカにおける事業をアメリカ側に売却しなければ、9月15日に利用を禁止するとしている。売却する相手としてはマイクロソフトの名が挙がっている。

8月4日のロイター電によると、なんとトランプはTikTokのアメリカ事業売却に関して、売却益の「分け前」を米政府が得るべきだと主張しているという。なぜなら大統領令を出したからこそ買収することができるのだからという、これはこれですごい論理だ。

TikTokに関しては、アメリカ政府は2019年12月、TikTokによる国家安全保障上のリスクを懸念し、アメリカ陸軍、アメリカ海軍、アメリカ空軍、アメリカ海兵隊と沿岸警備隊に対して、政府支給の端末でのTikTokの使用を禁止した。これは軍独自の禁止令に近かった。

このたびの大統領令は軍レベルではなく、一般のアメリカ国民に対する禁止令だ。

トランプが激怒し、かつTikTokの「威力」を思い知らされたのは、6月20日夜にオクラホマ州タルサで開いた大統領選に向けた選挙集会の会場で空席が目立ったためだったと複数のアメリカメディアが論じている。

選挙集会の様子に関しては、たとえば6月22日のForbes JAPANの記事「K-POPファンがトランプの集会を妨害、TikTokでいたずらが拡散」に詳しい。

トランプ陣営は開催前に「100万人を超えるチケットの申し込みがあった」と豪語していたのだが、実際にはわずか6200人しか集まらなかったことで、トランプは大恥をかいてしまった。トランプ陣営は翌日の声明で、数万人のTikTokユーザーやK-POPファンらが、集会を妨害する目的で偽の電話番号を用いて席を予約していたと述べた。

つまりTikTokを通した「いたずら」だったというのだから格好がつかない。

またトランプ自身が2016年に大統領に当選した時、お得意のツイートが大いに貢献したと言われているので、トランプとしてはSNSが持つ「威力」を嫌というほど知っているだろう。

10代そこらのTikTokユーザーに「遊ばれてしまった」という腹立たしさと、TikTokがアメリカ社会に与えるかもしれない「威力」を思い知らされたに違いない。

こうして大統領署名という米中対立を本格化する動きへと発展していった側面は否めない。

◆TikTok創設者はアメリカ絶賛型の「売国奴」として非難を受けてきた

2017年11月9日、TikTokの運営会社であるバイトダンスは、アメリカの10代をターゲットにした人気のソーシャルメディアプラットフォームを所有するmusical.lyを買収し、これを母体にアメリカのTikTokサービスを提供し始めた。

その際、TikTokの創設者である張一鳴はアメリカの信頼を得るために、涙ぐましいほどの努力をしてきたとのこと。その努力は中国国内で批判を浴び、売国奴と言われているくらいなのだが、それはあまり意味がなかったことになるとthe Atlanticが“Why America Is Afraid of TikTok(アメリカはなぜTikTokを恐れるのか)”というタイトルで報道している。サブタイトルには「創業者(張一鳴)はインタビューで(TikTokは)世界を見る“窓”になってほしい」と語っているが、共和党の上院議員は“トロイの木馬”だと言っている」とある。

では張一鳴はどんな努力をしたのか、the Atlanticの解説とともに、その概略だけ列挙してみよう。

●今年3月、TikTokは、ホーリー米上院議員などによるTikTokへのいじめを処理するために、ワシントンの政治ロビイストとしてコネのあるマイケル・ベッカーマン氏を雇用し、学識経験者やその他の専門家による諮問委員会を設立して、アプリのコンテンツをどのように審査するかについてTikTokの指導に当たってもらった。

●今年5月には、当時ディズニーの最高経営責任者だったケビン・メイヤーにTikTokの新最高経営責任者兼バイトダンスの最高執行責任者に就任してもらった。

●メイヤーらを加えたのは、「バイトダンスは、信頼できるアメリカ人の顔を、この中国企業にぶら下げようとしているためだ」と業界内からは非難されている。

●張一鳴によるこれら一連の努力は、ワシントンのタカ派をなだめることには成功していないようだ。この件についてホーリー上院議員と話をした時に、彼は張の顔芸を「ばかげている」とあざ笑い、「彼らは中国に拠点を置く会社だ。それが全てだ」と付け加えた。

●実際上、どこにサーバーを置こうとも、何人のアメリカ人エリートを採用しようとも、また管理職をどう組織したとしても、張一鳴一人だけの努力では中国に対するアメリカの信頼を再建することなどできない。なぜなら、中国の台頭に断固として反対することが、アメリカの左翼と右翼が今、唯一合意できることかもしれないからだ。

●TikTokのサクセスストーリーが悲劇に終わるとすれば、高まる北京の権威主義が中国の起業家の競争力を損なうことにつながるだろう。もっと言えば、TikTokの悲劇は、中国がテクノロジーのリーダーになる可能性を損ない、中国がアメリカと競争して世界に影響を与えるテクノロジーを生み出すことができなくなることを意味している。

ずいぶんと控えめな表現をしているが、the Atlanticの分析は非常に示唆的だ。

◆中国の反応

それに対して、中共中央政治局委員で中央外事工作委員会弁公室主任の楊潔チ氏は8月7日、「歴史を尊重し、未来を見据え、断固として安定的な中米関係を維持すべきだ」という声明を出した。中央テレビ局CCTVは特別番組を組んで、声明文を解説したが、その中で「中国の先端的な通信企業」とは言ったが、決してTikTokの名前は出していない。

アメリカは「新冷戦構造」を無理やりに作りたがっており、かつてソ連との冷戦構造で成功しているので、中国をも新冷戦構造の中に意図的に引き込み、中国の成長を抑えこもうとしていると解説している。その上でアメリカは中国企業に対する「いじめ」をやめよと主張していた。

米中両国が協力できれば世界中が恩恵を受けると指摘しているが、それは中国に都合がよすぎるというものだろう。対話に持って行きアメリカが柔軟な態度を取れば、中国は思いのままに世界制覇に向けて進むことができる。

日本の自民党や公明党の一部の政治家も又、「お隣とは仲良くすべきで対話が必要」などとして、習近平の国賓招聘を肯定したりする危なさを持っている。

◆日本は?

6月末にも「インド政府がTikTokなど中国企業の59のアプリを禁止すると発表」したばかりだ。「インドの国家安全と防衛を脅かす行為を行い、最終的にはインドの主権と倫理を侵害している」というのが理由だ。

また7月13日、「オーストラリア政府がTikTokを念頭にSNSの危険性に言及」しているという報道があった。

日本の場合は、官公庁などが公式TikTokアカウントを開設しており、日本でのユーザーが1000万人を超えている。そこで自民党の「ルール形成戦略議連」がTikTokだけでなく、中国製アプリの利用制限を9月にも政府に提出する方針を固めているようだ。日本では金融システムや保安検査などにおいても中国製品を使っている場合がある。なんと平和な日本だろう。

◆TikTokの正体は――?

まさかとは思うが、万一にも張一鳴が、孔子学院のスタッフのように、中国政府に操られているのだったら、どうするのだろうか。

日本のアニメはかつて中国の若者の心を鷲掴みにし、海賊版がその普及に貢献した。中国政府は若者の精神文化を侵害するとして躍起になって中国国産のアニメ制作に力を入れ始めた(『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』で詳述)。

もし中国政府が意図的にその逆襲をしているとしたらどうだろうか?

他愛もない動画をユーザーに自由に配信させアメリカだけでなく世界の若者の心を鷲掴みにしている。そこにわずかに「それとは気が付かない」微妙な要素を入れていけば、宣教師がキリスト教を広めたり、英語を公用語とすることによって英語圏の国々が力を持つようになったように、凄まじい「中国の文化力」が「知らない間に」世界に浸透する。

まつげの美容を披露する在米ウイグル人が美容の合間に中国政府によるウイグル弾圧のセリフを入れたら、すぐに削除したではないか。

その動画は日本語でこちらでも、あるいはこちらでも観ることができる。アメリカのユーザーからの批判を受けTikTokは慌てて削除を取り消したが、その取り消した理由も何とも怪しげだ。

このようなことを考えるのはCCTVでの扱い方に不自然さを覚えたからである。

もし張一鳴が親米のあまり売国奴とさえ罵られているのなら、なぜ中国はここまでの大々的な抗議声明を出したのか?

もし中国政府が敢えて「顔芸」を仕込んでいるとしたら、中国の強かさは尋常ではない。世界は危険な領域に達している。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.