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休業補償、中国の場合
2020年4月28日
新型ウイルス肺炎が世界で流行 緊急事態宣言下の東京
新型ウイルス肺炎が世界で流行 緊急事態宣言下の東京(提供:アフロ)

安倍政権は80%の外出自粛を呼びかけながら休業補償と抱き合わせではないため多くの日本国民は苦しんでいる。コロナ感染拡大から抜け出した中国では、企業活動停止指示に伴い、どのような補償をしたのかを考察する。

◆封鎖翌日(1月24日)に発布した休業補償通知

中国では1月23日に武漢閉鎖を断行し、武漢以外の湖北省の各都市や他の少なからぬ地区に対しても移動制限や企業活動の停止あるいは外出禁止などに踏み切っている(医療支援物資製造や生活インフラを確保する国有企業は特殊条件下でフル稼働したことは『FISCO 株・企業報 Vol.9』の特集記事「新型コロナウイルスとデジタル人民元の野望」で詳述した)。

そのようなことをすれば、生活できない人が急激するわけで、いくら一党支配といえども人民の不満は爆発するはずだ。コロナ脱出など成功するはずがない。

ならば中国ではどのような休業補償を実行したのかを考察してみることにした。

すると、以下のようなことが分かった。

まず、武漢封鎖をしたその翌日である今年1月24日に、中国政府はコロナ防疫期間における「労働関係問題に関する通知」を発布している。

大雑把にざっくり言うと、「コロナの影響で経営困難をきたす企業に関しては、従業員を解雇しない限り、企業に対して就業安定補助金を給付する」というもので、したがって「企業は従業員に対して、これまで通り給料を給付せよ」というのが基本である。企業の損失分を国が一部補填することになっている。

◆2月5日に追加の通知

2月5日になると中国政府は「防疫期間の就業活動を円滑にすることに関する通知」を発表した。

これは主として農民工や中小あるいは零細企業の従業および就職活動を控えた大学卒業生などを対象とした通知だが、その中で「工業企業結構調整資金」を就業安定補助金や生活費に充てることができるという指示もしている。

さらに2月7日の通知では就業安定補助金交付基準の緩和、工会経費・企業組織会費などの返却、2月20日の通知では中小企業や零細企業の社会保険料の免除が発表された。

2月9日には故郷における春節の大型連休を終え、それぞれが職場に戻るはずだった農民工に対して移動を禁止するわけだから、その補償が必要になる。

農民工を含めて中小企業や零細企業に対する補償に関しては、前年度納付した失業保険金の50%返却を基本として、「+α」の補助を行う。

どうやら、中小企業のリストラ率がある基準を下回ると、失業保険の還付金がもらえ、失業保険に参加している職員数が30人以下の企業なら、リストラ率が20%以下なら 失業保険の還付金がもらえるという計算になるようだ。

これは地方によって待遇が異なり、湖北省などでは「解雇率が5.5%以下の場合は、前年度納付した70%の失業保険金を返却する」となっており、最近は「5.5%以下なら100%返却、5.5%以上なら70%返却」になっている。また湖北省では、3月21日の時点で、雇用人数500人以下の企業10万社に対して雇用安定補助金5.58億人民元(84.5億円)を還付した。還付対象となる企業の雇用人数は230万人に達する。

一方、大卒生の就職問題に関しては、ネットで面接をして採用するように指示を出し、実際に実行された。

◆コロナ防疫期間のテナント代などに関して

飲食店を始め、多くの商店は大きなビルの一室をテナントとして借りて商売をしている。しかし営業をしてはならないとなれば、売り上げがゼロになるだけでなく、テナント代(家賃)の支払いは継続して発生するので実収入はマイナスになる。一ヵ月もしないで倒産へと追い込まれるだろう。

そこで全国レベルの政策としては、基本的に「国有不動産の場合はテナント代に関しては2月(あるいは2月と3月)を免除としする(実際上は4月まで免除となったケースが多い)、民間不動産の場合はテナント代を削減することを提唱する」となっている。

中国は国土が広大で地方格差が激しいため、テナント代の補償に関しては全国一律の政策が出しにくく、各地方政府によってさまざまな方法が試みられ、初期のころには混乱も起きている。

たとえば2月9日の人民網は湖北省で2月8日に試みられた「小企業および零細企業に対して、免除金額の50%以下を補助する」という政策を伝えている。また上海では「不動産側に対して不動産税・城鎮土地使用税の免除を申請できる」などとし、北京では「政策的優遇を提供する」としていた。

これに対して2月25日、李克強(国務院総理)は国務院常務会議を主催し、「民間不動産のテナント代削減を強要することが困難なので、削減する場合は城鎮土地使用税の減額・免除という方式で補助する」という方針を決めた。

それ以外にも電気代や水道代などの免除、税金の免除あるいは延期、融資の優遇、返済の延期や金利の優遇など、さまざまな施策が実施された。

中国にはまた、「住宅積立金」制度があるが、これは「個人」あるいは「個人が所属する企業」が国家に納付して、国家が代わりに保管し、不動産購入などの時に引き出すことができる経費である。

たとえば個人が1万人民元を納付したら、企業が追加して1万人民元を国に納付し、不動産購入とか賃貸あるいは内装工事などをする時に2万人民元の資金を取り出せるということになる。この積み立てた金額によって低金利ローンを組むことができる。また就業期間に使わなければ、定年後に一括して個人に還付されるという仕組みだ。

そこで、家賃の支払いが大きな圧力になっている一般労働者は、この「住宅積立金」から引きだして現在の家賃支払いに充てていいという措置も取っている。この特別引き出しを2020年6月30日まで行っていいことになっている。

この措置に関しては各地の行政区分によってさらに異なる優遇策も講じたようだ。

◆アフターコロナにおける影響

中国は人口が多く地方格差も激しいので、なかなか全国一律という保証はしにくいが、少なくとも武漢封鎖翌日には中国政府として全国レベルで「休業指示」と同時に「休業補償通知」を発布しているので、中国人民の間では、それほど大きな反対運動はなく、今では経済活動に復帰している。

もちろん言論弾圧に対する不満はくすぶり、もっと早く武漢の状況を公表していれば、こんなことにはならなかったのにという憤りは一時期激しかった。

しかしその後コロナが世界に蔓延し、アメリカの絶望的なまでの感染爆発を見るにつけて(外務省資料参照)、「中国は人民戦疫(戦役をもじって戦疫)に勝利したのだ」という「高揚感」さえ漂い、習近平は一極集中を強化している。

中央テレビ局CCTVでは、「いかに社会主義体制が優秀であるか」と日夜高らかに叫び、医療支援外交で中国に追随する130ヵ国ほどの国々からの習近平絶賛メッセージを報道し続けている(実際は少なからぬ国に対して礼賛メッセージを強要している。その中には日本からのメッセージも含まれていることを見逃してはいけない)。

このままではコロナ禍が去ったアフターコロナの国際社会で、中国が新秩序形成のリーダーになっていく危険性さえ秘めている。米中のパワーバランスに関して影響を与える可能性を否定できないのである。

なぜアメリカの感染者がこんなにまで爆発的に激増していくのか、それは別途解き明かしていかなければならない宿題だが、問題はその同盟国であるわが日本。

なぜここまで危機管理に弱いのか。

コロナ禍は日本の危機管理体制の絶望的な欠落を露呈してしまった。

何もかも後手後手に回り、右往左往しながら今になってようやく休業補償問題を論じているが(本日4月28日も国会で審議)、PCR検査の不備(保健所は医療制度改革により1994年の847ヵ所から2019年の472ヵ所にまで半減)、医療現場崩壊の危険性(安倍首相は再三再四にわたり過剰なベッド数の削減など指示)をはじめ、カビだらけで回収さえ始めているアベノマスクは世界の嘲笑の対象となっている。

これらはやがて「国力」として現れ、日本のマイナス点となって大きな禍根を国際社会に残していくだろう。

危機管理体制は何も軍事力だけの問題ではない。こういった衛生面における危機管理は、まさに国家の「安全保障」の問題だ。

安倍政権には猛省を求める。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.