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緊急事態宣言と医療崩壊の日中比較:日本を救う道はまだあるのか?
2020年4月6日
躊躇し続ける安倍首相(提供:AP/アフロ)
躊躇し続ける安倍首相(提供:AP/アフロ)

日本はようやく緊急事態宣言を選ぶ方針に入るという。中国では武漢封鎖後は瞬発的に外出禁止や方艙医院建築などで対応しコロナ拡散から脱出したが、安倍首相の場合は過剰なベッド数の削減さえ昨年指示したままではないのか。

◆緊急事態宣言の日中比較

東京都は3桁台の新規感染者増に突入し、日本全国でも新規感染者が激増していく中、安倍首相は「まだその状況にはない」を繰り返して、緊急事態宣言を出そうとしなかった。4月6日になって、ようやく緊急事態宣言を出す方針を固めるという、後手の連続である。

「国民の命が何より大事だから」と言っているが、それならなぜすぐに緊急事態宣言を出さなかったのか。

では、いち早くコロナ感染大拡大から脱出した中国の場合は、緊急事態宣言に関して、どのように動いたのかを見てみよう。

1月31日付けのコラム<習近平とWHO事務局長の「仲」が人類に危機をもたらす>に書いたように、まさに全人類にコロナ災禍をもたらしているのは習近平(国家主席)だ。しかし3月18日付けコラム<中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?>に書いたように、中国最高権威の免疫学者である鍾南山氏の警告(1月19日)によって、その後の中国は瞬発的な動きを見せている。

中国では緊急事態宣言を出すには、中華人民共和国憲法にある通りの手順を踏まなければならない。憲法では、たとえば「第六十七条の第二十項、第八十条、第八十九条の第十六項」などにある通り、緊急事態宣言発令する場合は「全人代(全国人民代表大会)と全人代常務委員会における決定に基づいて中華人民共和国国家主席が発令する」と決められている。戦争を起こすか否か等がその中に含まれる。

コロナが爆発的に感染拡大をしようとしている時に、「人が集まる」というようなことを出来るはずがない。

また、あまりに切羽詰まった「緊急性」を持っていたため、臨機応変に「突発的公共衛生事件第一級(最高レベル)緊急対応機能(メカニズム)」というのを発布して、各省・直轄市・自治区に緊急対応をさせた。

国務院(中国人民政府)は1月23日に武漢封鎖を命じた瞬間から、24時間以内に、すなわち1月24日までに「突発的公共衛生事件第一級対応機能」に対応せよという指示を出している。

この「突発的公共衛生事件緊急対応条例」というのはSARSが蔓延した2003年5月9日に発布されており、突発的な疫病の流行によって、瞬時に中国全土に実施を強制することが可能な緊急条例である。疫病の程度によって「一級」から「四級」まで区分されている。今回は最高レベルの「一級」発令となった。

これに即応して、中国全土の地方人民政府が、その地区の感染度合いによって対応の仕方を決めていく。

各地方人民政府がどのように実行しているかは中央に上げられ、国務院および中共中央が確認し監視する。

その具体的な内容や緊急対応の状況などは、たとえばこちらや、こちらなどをご覧になれば、雰囲気がお分かりいただけるだろう。

まるで戦時下の空襲警報が鳴ったような対応の仕方で、時々刻々進捗状況が報告されネットで公開された。中央テレビ局CCTVでも分刻みで緊急対応状況が報道され、まさに「いま津波が押し寄せています!」という緊迫感が中国全土を覆っていたのを窺がわせた。

それに比べた安倍政権の対応の「ゆったりさ」。

「躊躇なく」を声高に叫んではいるが、実施は優柔不断の「躊躇」の連続ではないのか。

◆医療崩壊阻止に対する日中比較 

先述のコラム<中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?>で述べたように、鍾南山は1月19日に武漢視察をした瞬間から新型コロナウイルスの危険性を察知し、20日に習近平に重要指示を出させるところに漕ぎ着けたが、同時に医療崩壊を来たすことを予期して方艙(ほうそう)医院を突貫工事で建築することを建議し実行させている。

その結果、6万床の重症患者対応も可能なベッドと4.3万人の医療従事者を武漢に集めることに成功している。

一方では2018年3月に設立した行政組織である「中華人民共和国 国家衛生健康委員会」も医療緊急対応体制を強化している。

片や、わが日本はどうなのか。

実は昨年(2019年)10月28日、安倍首相は「病院再編と過剰なベッド数の削減など指示」している

この情報によれば、厚生労働省が公立・公的病院の再編、統合をめぐり、診療実績が特に少ないなどの全国400余りの病院名を公表したことを踏まえ、「病院や過剰なベッドの再編は、公立・公的病院を手始めに、官民ともに着実に進めるべきだ」などと提言したとのこと。要するに安倍首相は「一刻も早くベッド数を減らせ!」と指示しているわけだ。

実は10月4日の会議で過剰なベッド数の削減に対して地方自治体は強く批判している。厚生労働省による400余りの地方の病院名公表は、地方自治体には知らせずに一方的に行われたようだ。

10月17日には<公立病院再編 国と自治体 意見交換会 反発の声相次ぐ>にあるように、橋本厚生労働副大臣は個別の病院名を公表したことは、「唐突だった」として「反省している」と陳謝している。これに対し自治体側からはデータの撤回を求めるなど、反発の声が相次いだというのに、それでも10月28日に安倍首相は前掲の「病院再編と過剰なベッド数の削減など指示」にあるように、「全国に13万もの過剰なベッド数がある。それを緊急に削減せよ」と加藤厚労大臣に厳しく指示しているのである。

いま安倍政権のコロナ対策基本方針には、「入院患者が多くなりすぎると医療崩壊を起こすので、あまり検査を行わないようにする」という、何とも「国民の命を二の次」に置いている感があるが、医療崩壊、医療崩壊と繰り返すのなら、「全国で13万床も無駄になっていて、一刻も早く削減せよと厚労省に迫っている過剰なベッド」を、コロナ入院患者に回すように工夫することは出来ないのか。

もちろん安倍首相の激しい催促によって、すでに消失したベッドや病院(診療所に変更)などにより、医療従事者の数も減少方向にあり、もはや取り返しはつかないのかもしれない。あるいは「過剰なベッド数を削減せよ」という安倍首相の催促に抵抗した地方自治体が何とか自分の地域を守っているのかもしれない。ただ、安倍首相が「前言を撤回します」というニュースもなかったように思う。

筆者は医療方面に関しては素人なので、具体的な提言はできないが、少なくとも日中の医療体制や緊急事態対応体制に関する違いを浮き彫りにして、日本人の命と生活をコロナ危機から守る一助にして頂ければと思い、比較分析を試みた。

(本論はYahooニュース個人からの転載である)

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.