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トランプ惨敗に対して習近平はどう出るか? 日本はそのとき
習近平国家主席とトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領側の与党共和党が惨敗した。トランプの、習近平国家主席に対する熱情により成立していた「米中蜜月関係」はどうなるのか? 習近平がトランプ惨敗をどのように受け止め、今後どのような方向で動いていくのかを考察する。

奇しくも今日は「高市発言」から1年。新しい米中関係の中で日本はどこへ行くのか?

 

◆中国政府:「建設的な戦略的安定関係」という米中首脳間の合意を守り、米中露首脳会談に向けて準備をしている

11月4日、中国外交部の毛寧報道官は定例記者会見で、記者の質問に対して以下のように回答している。

●ニューヨークタイムズの記者:中国は現在進行中のアメリカの中間選挙と、それが米中関係に与える影響を、どのように見ていますか?

●毛寧:中間選挙はアメリカ合衆国の内政問題です。 中国は引き続きアメリカと協力し、両国首脳の重要な合意を守り、実施し、コミュニケーションを強化し、意見の相違には適切に対処し、協力を拡大し、尊重・公正・平等に基づく建設的で戦略的かつ安定した米中関係を築くことを望みます。

▲AFP記者:フィナンシャル・タイムズによると、中国、ロシア、アメリカの当局者は、深圳で開催されるAPEC首脳会議中に三国間首脳会議の開催を準備しているようです。それで正しいでしょうか?

▲毛寧:中国は米中露首脳会談に関して関係各国と連絡を取り合っています。

                   (外交部のウェブサイトからの引用は以上)

すなわち中国政府としては、あくまでも、これまで「トランプ・習近平」間で交わされた合意に基づいて行動し、11月18日から19日にかけて中国の深圳で開催されるAPEC首脳会議(以後、深圳APEC)において米中露三ヵ国首脳会談を開催する方向で動いているということになる。

 

◆中国大陸側識者:米中関係に対する影響は大きくない

全体的な傾向として中国大陸側では、共和党の敗北が直ちに米中関係の悪化につながるとは見ておらず、トランプが習近平との関係安定化を引き続き重視するだろうとの分析が多い。上下両院で民主党が圧倒的多数を占めていても、外交政策に関してはトランプ個人の思い(特に習近平に対する熱い思い)を議会が否定するというようなことはできず、議会は台湾への武器販売却延期などに関して抑制することくらいしかできないとみなしているからだ。

一方、台湾への武器売却や対中技術規制については、民主党だけでなく共和党内の対中強硬派からも圧力が強まり、トランプの対中接近を制約する可能性もあると中国大陸側の識者は指摘している。

いうまでもなくバイデン政権時代を考えれば明らかなように、民主党はこれまで対中強硬派が多く、台湾独立を支援する傾向にある。したがって習近平としてはトランプ政権が続いている間に台湾問題を解決したいと思っているだろうし、それを可能ならしめるために、ともかくトランプの機嫌を損ねないように最大限の努力をするだろうと思う。

その最初のチャンスが深圳APECだ。

 

◆深圳APECを最大限利用しようとする習近平

トランプは米国内では、ほとんど全ての信用を失っている。残るは唯一外交において何かしら「トランプでなければできない」というレガシーを残すことしかない。

「トランプでないとできないこと」とは何だろうか?

それは米国歴代大統領が口に出したことのない「G2」構想」と、その路線に沿った一連の動きだと言っても過言ではない。

ロシアのプーチン大統領に寛大であるという姿勢も、トランプでないとできない。

さらに言えば、北朝鮮の金正恩総書記と会談したいと思うのも、今ではトランプ以外にないだろう。

となれば、トランプが選ぶ可能性の高いのが「トランプ・習近平」ペアによる「G2構想」だし、深圳APECにおける「米中露三ヵ国による首脳会談」だ。ひょっとしたら深圳APECに参加するついでに、金正恩と会う可能性も出てくる。

金正恩と昵懇なのは習近平であり、プーチンでもある。

習近平・プーチンと仲良くして、金正恩との接触を手助けしてもらう。

いずれにせよ、深圳APECで習近平やプーチンと非常に親密な関係をアピールできるような場面を、トランプは創り出したいと思うだろう。

ここまで考えたときに、トランプの残りわずかな「名誉を保ち、顔を立ててあげられる方法」として、習近平は徹底してトランプを礼賛し喜ばせる方法を選ぶにちがいない。言葉で礼賛するだけでなく、何としても米中露首脳会談を実現させる方向に動き、記念写真を撮る時など、たとえばトランプを真ん中に据えて習近平とプーチンは両脇にいるという構えを採用したりするだろう。プーチンもそのことには大賛成するはずだ。

ホスト国の国家元首が真ん中にいなくても、トランプが喜び、その結果、台湾問題に関して習近平側に立つ姿勢をトランプが示してくれるなら、習近平はまったく厭わない。

そうした上で、トランプが金正恩と会いたいと思うなら、深圳APECの前後に、どこかで金正恩とトランプが会えるような場面を創ってあげる。習近平とプーチンから依頼されれば、金正恩は拒否しないはずだ。

 

◆トランプは「米中戦争を起こさない」ことによって、案外世界平和に貢献している

昨年11月5日の論考<トランプが「中国を倒すのではなく協力することでアメリカは強くなる」と発言! これで戦争が避けられる!>に書いたように、トランプは「中国を倒すのではなく、協力することによってアメリカは強くなる」と言った。これを貫けば、人類最大の脅威となる米中戦争は起きないはずだ。

たしかにトランプはイラン戦争などを起こして人類に災いをもたらし、このたびの中間選挙でも惨敗を喫した。

しかし、もしバイデン政権のように対中強硬を貫き、中国が台湾を統一しようとすることを「力による現状変更」と位置付けて、万一武力による統一に北京政府が入ったときに「台湾有事」として米軍が介入すれば、世界は米中戦争に突入する可能性を否定できない。

それは全世界の人々に災いをもたらし、全人類的な災禍へといざなう。

視点を変えれば、トランプはその人類最大の災禍を避ける道を選んでいるとも言える。

対中強硬的戦略は、トランプでなくてもできる政策だし、民主党が得意とする政策だ。

したがってトランプが対中強硬策路線を選ぶことに大きな価値はない。

たしかにトランプは「世界の数多くの戦争を止めた」という理由でノーベル平和賞を受賞することはできなかった。なぜならイラン戦争を起こしたり、停戦になったガザ地区を執拗に攻撃するイスラエルのネタニエフ首相を許したりなどして、戦争を蔓延させていることに力を貸しているからだ。

しかし米中戦争を避けるための選択だけはしている。

これは非常に価値の高い選択である。

この視点に立ったとき、トランプは案外、世界平和に貢献していることになる。

 

◆「高市発言」はトランプ路線とは真逆の作用

翻ってわが国の高市政権は、根っからのバイデン政権路線を踏襲しており、完全にトランプ路線から外れている。

本日は奇しくも「高市発言」から1年が経つが、上述の分析から見ると、「高市発言」は世界の平和に貢献するどころか、米中戦争の可能性を前提としたものであり、そこに日本が武力介入しようという性格のものと、習近平には映っていることだろう。

そもそも「台湾有事は日本有事」と言うこと自体、正しいのだろうか?

日本は中国が台湾統一をしようとすることを「力による現状変更」と断罪するが、拙著『G2構想』の【終章 台湾統一へのカウントダウン】で詳述したように、中国にとって台湾問題はあくまでも1946年以降の国共内戦の延長線上にある。中国にとっては「他国の、台湾への武力介入」は内政干渉に等しい。特に第二次世界大戦で中国を侵略した唯一の国・日本に関しては、台湾に武力介入すれば戦後秩序を定める国連憲章の敵国条項に抵触し、軍事的制裁を受けるべき対象となる。

だから「高市発言」を許容している日本は、中国から見れば「新型軍国主義国家」と位置付けるべき存在になっているのだ。この視点が、米中露が共有している「米中露戦後秩序の構図」の枠の中に填め込まれており、それがトランプ惨敗後の新たな構図の中で、いっそう鮮やかに浮き彫りになる格好となっている。

日本はバイデン路線の思考回路から抜け出すことができないので、「台湾有事は日本有事」を当然だとする思考の中で生きている。これは結果的に日中戦争を招く要素を孕んでおり、トランプ的世界観とは相容れない。むしろトランプの世界観と完全に逆行し、米民主党のバイデン政権時代の思考の中に残されたままでいることに気が付かなければならない。

高市首相は6日、台湾を巡る「高市発言」から1年となるのを前に、総理官邸で日中関係についての記者からの質問に対し、「中国は重要な隣国だ。国益を守るための対話を進めて、建設的かつ安定的な関係を構築する」と述べたとのこと。この「建設的かつ安定的な関係」は習近平が今年5月のトランプとの会談で提起した米中関係を表すフレーズで、そのような文言をここに持ってきたことに違和感を覚えた。

おそらくこの期に及んでもなお、自分が1年前に何を言ったのか、いかなる国際社会の状況の中で発言したのかが、高市首相には何も分かっていないのだろう。トランプが習近平とともに創り出そうとしている世界とは「無縁」のところに彼女は立っていると、改めて痛感した次第だ。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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『G2構想 勝つのは米国か中国か』

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