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中国代表団の日本領土・北方四島訪問と迫りくる「米中露戦後秩序の構図」 トランプが「米中露首脳会議」提案
ロシア・サンクトペテルブルクの土産物店に並ぶ米中露首脳を模したマトリョーシカ(写真:AP/アフロ)

10月13日、「中国の黒竜江省代表団が北方四島の一つ択捉(えとろふ)島を訪問し市場視察を行なった」とロシアのサハリン政府が発表した。一方、シンガポールの「聯合早報」は現地島民の情報として、訪問した期間は10月9日~11日であると報道している。

この事実に対して高市首相は「適切に対応」と言っているが、事態はそんなに単純なものではない。

戦後の中国の北方領土に対する姿勢の推移を考察すると、習近平国家主席が日本を「新型軍国主義」と批判しながら狙っている「米中露戦後秩序の構図」に中に組み込まれていることが見えてくる。

特にトランプ大統領が11月18~19日に中国の深圳で開催されるAPEC首脳会議で「米中露首脳会談」開催を示唆している。

しかし高市政権には、習近平が狙う「米中露戦後秩序の構図」が全く見えていない。

 

◆中国の黒竜江省代表団が日本の領土である北方四島に市場視察

ロシア側(サハリン州政府)報道によると、黒竜江省代表団は政府関係者や企業の代表などから構成されており、中国の貿易会社の幹部は「ロシア企業と提携して水産加工場の建設をしたい」と発言し、観光産業への投資にも興味を示したとのこと。中国側による報道はない。

一方、10月14日、中国外交部の報道官・毛寧は定例記者会見で、中国の黒竜江省代表団が(日本の領土である)北方四島の択捉島を訪問したことに関して回答している。質問者と回答を以下に示す。

●共同通信社:報道によると、ロシアは黒竜江省の中国代表団が昨日、日本の「北方領土」を訪問したと発表しました。これについて中国のコメントは?

●毛寧:黒竜江代表団は最近、ロシアのサハリン州の州都である南サハリンスク州を訪問し、地元との友好交流活動を行いました。 訪問中に民間企業が行った商業活動についてはコメントしません。

▲AFP記者: ロシアと日本の係争中の島々への中国代表団の訪問について、日本の外相は本日、第三国がこれらの島々に入り活動を行うことは絶対に容認できないと述べ、昨日外交ルートを通じて中国に明確な立場を表明したと述べました。広報担当者の対応はいかがですか?

▲毛寧:先ほど、黒竜江省代表団の訪問を紹介しました。中国は一貫して世界の反ファシスト戦争での勝利の成果を尊重し保護すべきだと主張してきました。(記者会見からの抜粋はここまで)

 

中国側からの発表がないということは、これは主として民間企業の動きだからだとみなすつもりだろうが、しかし毛寧は「中国は一貫して世界の反ファシスト戦争での勝利の成果を尊重し保護すべきだと主張してきました」と回答しており、構えが大きい。

この姿勢にこそ、現在の習近平政権が狙う「米中露戦後秩序の構図」が潜んでいるので、中国が日本の領土である北方四島をどのように位置づけてきたか、その経緯を紐解きたい。それによって「現在の中国の主張」と「現在の日中関係の正体」が見えてくるはずだ。

 

◆北方領土問題に関する中国の姿勢の変遷

日本の領土である北方領土問題に関して中国は、1950年代はソ連を支持したが、60年代に入るとソ連との関係が悪くなり、日本を支持する方向に方針転換している。

1964年7月10日に、毛沢東は訪中した日本社会党代表団と会談し、ソ連が支配する千島列島の問題について言及した。ソ連による外モンゴル、極東地域、東欧などの領土獲得を批判する文脈で、日本の返還要求を明確に支持した。このことは日本語のデータベース<日本の北方領土返還要求を支持する毛沢東中国共産党主席の日本社会党訪中団に対する談話>にも書かれており、歴然たる事実だ。

ところが、図表1に示すように、いくつかの転換点があり、今では「反ファシズム戦争の勝利の成果を尊重すべき」となり、それが日本を「新型軍国主義」と位置付ける「米中露戦後秩序の構図」の中に組み込まれるようになったのを見逃してはならない。

 

図表1:中国の北方四島に対する姿勢の変遷と「米中露戦後秩序の構図」

公開された情報に基づき筆者作成

図表1に示したように、【転換点②】は、1991年末のソ連崩壊による中露協力開始にあり、【転換点③】はバイデン政権の「対中包囲網」戦略と「台湾に関する日米首脳共同声明」にある。そして【転換点④】は中国政府が北方四島問題に関して、ロシアに絡めてではなく、日本に直接「戦後秩序」の遵守を要求する段階に入り、10月1日の論考<WWⅡの同盟国・米中の敵国は日本 そこに潜む中国の恐るべき「新型軍国主義・日本とG2」構図>や10月7日の論考<習近平の「米中露戦後秩序の構図」は、日本を「新型軍国主義」と指摘することによって何を狙っているのか?>で述べた「米中露戦後秩序の構図」へと突き進んでいくのである。

ちなみに、2023年4月4日のサウスチャイナ・モーニング・ポストによると同年3月に習近平国家主席は、ロシアを訪問してプーチン大統領と会談した時に、「日露どちらの立場も取らない」と伝えたとのことだ。すなわち、「北海道沖のロシア占拠島々に対する日本の領有権主張を支持しなかった」という。これは、1964年に当時の中国指導者毛沢東が示した、係争中の4つの島は日本に属するという立場から中立へと転換したことを意味する。

そこから一歩進んで、2026年8月14日には、図表1の「18」および「19」の行動に関して、中国外交部の郭嘉昆報道官は定例記者会見で読売新聞の質問に対し、「中国は、世界反ファシズム戦争の勝利の成果は真に尊重され、守られるべきであると一貫して主張してきた。中国は日本に対し、カイロ宣言やポツダム宣言などの国際法文書によって確立された戦後国際秩序を遵守するよう強く求める」と主張している。

民間企業の活動だからと、素知らぬ顔を決め込みながら、実は「世界反ファシズム戦争の勝利の成果」を強調し、日本を「新型軍国主義」と位置付けて、もし日本が台湾有事に軍事介入すれば、戦後秩序を乱して、「敵国条項」に抵触する「侵略行為」を行なったと断罪しようという構えなのである。

 

◆ロシアは中国に依存しながら日露関係を決めている

一方、ロシアは中国が台頭するのにつれて中国への依存度を高めてきたが、ウクライナ戦争以降は日本が対露制裁を始めたために、いっそう鮮明に中国と連動しながら対日戦略をすすめるようになった。北海道新聞の日本人記者を逮捕するなどしているのも、その一環と見ていいだろう。

図表2に、2020年以降の日本の領土である北方四島におけるロシアの主たる活動内容を示した。

図表2:日本領土である北方四島における2020年以降のロシアの活動

公開された情報に基づき筆者作成

図表2の黄色マーカーで染めた部分に注目してほしい。

中国の黒竜江省代表団による択捉島訪問の発表と、同じサハリン州で北海道新聞の日本人記者が拘束された日時は一致している。つまり連動しているのだ。

その同じ日に択捉島で爆撃訓練をしていることが何を意味しているか、高市政権にはわかるだろうか?

 

◆トランプ大統領が11月の深圳でのAPECで「米中露首脳会談」を示唆

10月19日、トランプは米露首脳がともに習近平と三ヵ国首脳会議を開催する可能性に言及した。ワシントン発ロイター電が<トランプ大統領、来月習近平・プーチン両大統領との合同会談開催に前向き|ロイター>と伝えている。「核兵器と非核化について話し合うために会談を行うだろう」とトランプはホワイトハウス前で記者団に語り、「習近平国家主席が望むなら、私は会談に応じる。貿易など他のことについても話し合うだろう」とも述べたとのこと。

一方、<クレムリンは、プーチン大統領、トランプ大統領、習国家主席が来月中国で三者会談を行う可能性があると表明|ロイター>とのことなので、実現性が濃厚だ。

中露の接近だけでなく、米国が中露と接近しているとなると、日本は国際社会の中で、いったいどこに位置付けられることになるのか?

  

◆日本は国際社会の中で日本がどのように位置付けられ、何に巻き込まれようとしているかを認識せよ

図表1の「20」にある黒竜江省代表団による択捉島訪問は、この流れの中にあり、高市首相が「適切に対応」などと、常套句を言っている場合ではないのである。

たしかに茂木外相は「第三国の政府・企業関係者等があたかも北方領土がロシア領であるかのような形で北方四島に入域し活動することは決して受け入れられるものではない」と非難している。しかしそれでも、日本がいま国際社会の中で、どこに位置付けられ、どのような構図の中に巻き込まれようとしているのかを、茂木外相が認識しているとは思えない。

なぜなら高市首相の発言も、また小泉防衛大臣の「中国が日本を新型軍国主義国家と称することへの抗議」も、そこには習近平が狙っている「米中露戦後秩序の構図」を認識していると思えるようなファクターがないからだ。高市政権全体として、その認識に欠けている中での反論であり抗議であるとしか思えないのである。

もし、習近平が狙っている「米中露戦後秩序の構図」を認識しているならば、それに対抗でき得る論理構築と戦略性がなければならないはずだ。

しかし高市内閣にはそれがない。

この枠組みに「トランプ」がガッチリ入り込むとしたら、高市首相は梯子を外されたどころの騒ぎではない。日本を取り巻く国際社会の動向を俯瞰(ふかん)的に見る視点がないことのツケが現実として回ってきた。

日本国民を不幸にさせないために、国会議員はもう少し勉強して、グローバルな視点での国家戦略を立てていくべく、俯瞰的視点を持つべきではないだろうか。警鐘を鳴らし続けたい。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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