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共産主義者を追い出す
中国・習主席が訪米 国立公文書館を訪問(写真:AP/アフロ)

※この論考は9月30日の<Casting out the communists>の翻訳です。 

闇雲な警戒

「共産主義者、マルクス主義者、ファシストを追い出す」――ドナルド・トランプ

共産主義という統治体制が過去1世紀にわたってロシア、中国、北朝鮮などの国民にもたらし、今ももたらし続けている甚大な犠牲は、軽視できるものではない。ただ米国では、共産主義活動が大規模に発生し現実の脅威になったことはない。共和党の政治家たちは、支持基盤を固め愛国心を誇示する手段として、以前から民主党の対立候補を共産主義者と呼んできた。他の先進国から見れば滑稽な言いがかりだ。国民皆保険を支持するだけで相手陣営から共産主義者と呼ばれるのが米国だ。11月の中間選挙が迫る中で好材料に乏しいトランプは、民主党の勢いを食い止めるべくこうした根拠のない非難に走り、縮小しつつある支持基盤の回復を図っている。

共産主義者やマルクス主義者を追放するというトランプの主張(皮肉なことに、トランプと習の国内政策の多くは驚くほどファシスト的だ――両者とも決して認めないだろうが)は目新しいものではないが、トランプが中国共産党総書記である習近平をとりわけ豪華なレッドカーペットで歓迎してからまだ1週間も経っていない。習は紛れもなく共産主義者でありマルクス主義者だ。少なくとも彼自身はそう言い続けている。しかしトランプには伝わっていないようだ。彼は習を強権的な指導者と見なしており、自らが模倣したい人物であり、(少なくともトランプの頭の中では)無限の権力を持ち、自国を絶対的に支配している人物と捉えている。トランプ、習、プーチンこそが世界の偉大な指導者であり、その筆頭はもちろんトランプだ。彼の世界観では自分が二番手になることなどあり得ない。他の格下の独裁者や権威主義者も一目置かれているが、この3人には誰もかなわない。

前回から10年以上を経て実現した習の国賓訪米は、5月にトランプが北京を訪問したことへの返礼だ。国賓訪問や首脳会談は良好な外交関係に不可欠であり、米中間の安定は重要だが、習を歓迎しようというトランプの必死さが窺える。習は訪中したトランプを空港で出迎えなかったが、トランプは自ら空港に出向いた。中国の指導者の訪問に対して異例の行動であり、過去80年の間に数えるほどしかなかった厚遇ぶりだ。3日間にわたる習の訪問は有意義な成果をほとんど生まず、トランプが複数の報道機関に対して癇癪を起こし大統領に対する通常の代表取材を制限したことで、訪問の様子はほとんど中継されなかった。会談の唯一の成果が両国関係の一時的な安定というのでは、あまりにお粗末だ。関税は高いままだが対処可能な水準にあり、レアアースは供給されているが米国側が望むほど円滑ではない。5月と同様、トランプの個人外交は実質的な成果にほとんど結びつかなかった。

ウォール・ストリート・ジャーナルは今月中旬、中国が支配するレアアースの供給・精製網への依存を減らすために、レアアースなどの資源に関して一連の新たな取引が成立していると報じた。これは何年にも及ぶプロセスの重要な一歩だ。この分野で中国を優位に立たせてしまった米国の判断は極めて短絡的だった。その判断を後押ししたのは国家安全保障ではなく経済的利益であり、結果的に中国がこの分野を掌握することになった。中国への依存を減らしつつ中国にレアアースの供給を続けさせることは重要だ。ただ中国を巡るさらに大きな問題からすれば、それは重要ではあっても小さな部分に過ぎない。

5月の会談以来、イランを抑制してホルムズ海峡を開放するために習が何ら有効な手を打っていないのは明らかだ。5月の会談後、トランプは習が喜んで協力し、できることは何でもすると言っていたと述べたが、そうは思えない。トランプが習の話を理解していなかったか、自身の立場を強めるために嘘をついたかのどちらかだろう。いずれも情けない話だが、4か月経った今、中国は米国をほとんど助けておらず、長年のパートナーであるイランへの支援を続けているというのが現実だ。トランプの主張とは異なりイラン軍は破壊されておらず、ドローンの製造を続け、中東全域で米軍の基地・艦船を標的にしている。現代の戦争の経験則として、ドローンが関わっているなら、そのサプライチェーンのどこかに中国がいる。完成品を提供しているわけではなくても、部品を供給しているのは間違いない。また中国はイランに物資を提供するだけでなく、イランが米軍基地を狙うための詳細な衛星画像も提供していると思われる。実に不条理だ。中国は、米国と戦争しているイランが米軍を攻撃できるように積極的に支援しているというのに、米国の大統領は空港で自ら中国の指導者を出迎え、強固な米中関係を称賛し、習を偉大な指導者と呼んでいるのだから。

トランプは10年前、膨らみ続ける米国の政府債務を削減し、中国の脅威に対抗することを公約に掲げて大統領選を戦った。以来、国家債務は倍増している上、米国と戦争状態にあるイランを中国が積極的に支援する中で、トランプは習のために公式晩餐会を開いている。

米国に対中政策はあるのか?

そもそも国賓訪問で一方が大きな利益を得ることは珍しく、中国側はイラン問題で米国を支援すると公の場で約束したことは一度もない。だから今回の国賓訪問や、共産主義の脅威を煽るトランプの政治広告はいったん脇に置いておこう。その上で、共産主義者に強硬な姿勢を取ることと中国に強硬な姿勢を取ることはまったく別の話だ。米国には果たして対中政策と呼べるものがあるのだろうか。中国問題は議会で超党派の支持を得られる唯一の課題だろうが、上下両院の多くの議員が中国に厳しい姿勢を取りたくとも具体的な計画は一切ない。確かに中国には高率の関税が課されているが、昨年発表された数字からは大幅に引き下げられている。半導体の輸出制限もあるが、特に大手半導体メーカーの賛同は得られていない。そして中国による経済的威圧へのいかなる対抗措置も、米国とその歴史的同盟国の協調なくして効果はない。トランプが同盟関係を破壊し、ロシアや中国に対するよりもはるかに激しくカナダや欧州を威圧する中、特にEVやクリーンエネルギーの分野でカナダと欧州が中国からの輸出品を今なお受け入れているのは驚くことではない。カナダ、欧州、韓国、日本はいずれも米国という問題を抱えているが、中国がその解決策でないことは明らかだ。パックス・アメリカーナは終わり、従来の同盟諸国が以前と同じ水準で米国を信頼することは決してないだろう。だが経済だけを見ても中国が米国に取って代わることは不可能だ。

第一に、習は世界秩序において米国に取って代わろうなどと思っていない。習は確かに中国が覇権を握ることを夢見ているが、現在の世界秩序で米国に代わろうとしているわけではない。彼が考える中国の役割はまったく別である。覇権国でありながら世界の警察官とはならず、世界情勢に積極的に関与しない受け身の大国だ。第二次世界大戦後に世界の主流となった国際規範の維持や紛争の仲裁には積極的に関与しない。中国とロシアは親密とはいえ対等なパートナーというわけではない。しかし、両国の世界観と目的は共通している。国際社会での米国の指導的役割を弱め、あらゆる制裁や協調的措置から自国を守ることだ。その点で、両国はトランプが大統領であることを大いに歓迎している。トランプは日々、世界での米国の地位を弱めている。中東での「終わりなき戦い」から抜け出せないだけでなく、米国をこれほどまでの超大国に押し上げた同盟体制をも著しく弱体化させている。

習の訪問は米国にとって何の成果もなかったが、米国が対中政策をほとんど前進させられなかったという点で、中国側に有利な結果となった。習には懸念すべき課題が多い。中国の国内経済は控えめに言っても低迷したままだ。中国の債務状況は米国より深刻で、各地の地方政府は基本的なサービスや賃金の確保に苦慮している。指導部は他国と同様にAIについて懸念を抱いており、それは検閲の観点からだけではない。習の最大の関心事は党の権力維持にあり、AIを制御できなければ支配の根幹が揺らぐかもしれないからだ。中国はグリーンエネルギーの分野を主導しているが、気候変動から受ける影響が大きい。習としては、米国が国内問題に翻弄され、従来の同盟国と協力できないでいる現状こそ願ってもない状況だ。トランプは「中国を再び偉大に」しているわけではないが、中国に実質的な圧力をかけているわけでもない。過去を変えることはできないが、米中関係が今のようでなかったらと想像してみよう。米国の大統領がトランプ1期目やバイデン政権下の関税政策や対中規制を引き継いでいたら、先進国と発展途上国からなる広範な協調体制を築き、中国による低価格消費財やハイテクEVのダンピング、レアアースの供給ボトルネックといった中国の経済的威圧に対処できたかもしれない。だが、現実に中国と対峙するのは共通の懸念を抱く国々の同盟ではなく、ポスト・アメリカ時代に生き残りを賭けて経済政策を模索する国々だ。

香港の今

共産主義者が追放されていない場所の一つが香港だ。多くの観測筋にとって香港の現状は捉えにくい。香港の資本市場は停滞期を経て活況を呈している。今年に入ってすでに1兆人民元を超える点心債やパンダ債が発行され、ファストファッション小売大手シーイン――同社株はIPO以降大幅に下落したとはいえ――のような著名企業を引き寄せている。こうした資本主義的なビジネスの活況の中、香港政府は初めて五カ年計画を発表し、中国本土と歩調を合わせる姿勢を示した。何十年にもわたりヘリテージ財団に「世界で最も自由な経済」と呼ばれていたこの地が、いまや五カ年計画を発表するようになったのだ。

香港はもはや世界の国際金融センターとは言えず、中国のための国際金融センターとなった。中国の国内経済と共産党を守る資本規制の壁を維持し、管理された形で国際金融市場とつながる窓口となっている。

一方、港の対岸の西九龍では、毎年6月4日に天安門事件で亡くなった犠牲者の追悼集会を主催していた鄒幸彤(チョウ・ハン・トン)、李卓人(リー・チャクヤン)、何俊仁(アルバート・ホー)の3人が、国家政権転覆を扇動した罪で5年から7年3か月の刑を言い渡された。判決の中で、同団体が暴力や暴力による脅しに関与しておらず、中国本土での一党支配を終わらせるための具体的な計画もなかったと裁判所が認めているにもかかわらず、である。香港が何であれ、「香港は平常に戻った」という単純な見方は誤りだ。

皮肉なことに、2019年に香港でデモが起こった際、多くのデモ参加者は米国とトランプが香港・中国の両政府に対抗する助けになってくれると期待し、米国は実際いくつかの支援措置を講じた。だがそれもはるか昔のことのように思える。共産主義者にとって、トランプはいまや最高の大統領だろう。

フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.