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習近平の訪米:日本と台湾は米中交渉のどこに注目すべきか
5月、北京を訪問して米中首脳会談を行なったトランプ大統領と習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

※この論考は9月15日の< Xi Jinping’s US Visit: What Japan and Taiwan Should Watch in US–China Bargaining>の翻訳です。 

習近平の訪米は、米中政府間の対立構造を変えるには至らないまでも、当面の緊張を和らげるだろう。日本と台湾にとって重要なのは、米中交渉が同盟関係、経済安全保障、地域の抑止力にまで影響を及ぼすかどうかだ。

9月24日頃と見られる習近平の訪米は、米中関係が改善に向かうのではないかという憶測を改めて呼ぶことになるだろう。ただ実際には、戦略的な競争が激化し、制御が難しくなっている米中関係を、両政府が再びある程度管理できる状態に戻そうとしていると見る方が適切だろう。

ドナルド・トランプは5月の北京訪問時、習の訪米は自身の訪中に対する返礼訪問だとはっきり位置付けていた。首脳の相互訪問は定期的な外交チャネルを回復させ、対立がコントロールできなくなる前に両首脳が直接交渉できる機会となるが、競争の根本原因が解消されるわけではない。半導体、人工知能、重要技術、サプライチェーンの安全保障、地域への影響力をはじめとする対立状態は変わらない。

首脳級外交の価値は、どこに交渉の余地があるかを判断することにある。経済紛争の中には、交渉を通じて調整できるものもあれば、国家安全保障政策と密接に結びついているため再び交渉の対象にするのは難しいものもある。現在の両国関係は戦略的対立と選択的交渉がないまぜになり、和解でも全面対決でもなく、管理された競争関係という様相を強めている。

トランプは目に見える政治的成果を必要としている

首脳会談の時期を考えると、トランプには国内向けに具体的な成果を示したいという強い動機がある。米国の中間選挙は11月3日で、会談のわずか数週間後だ。習と何らかの合意があれば、すぐに国内の政治論争の材料となる。

米国産農産物の大量購入、新たな投資の約束、市場アクセスの拡大、あるいは一部の関税面での譲歩に中国が合意すれば、トランプにとって有権者に直接アピールできる成果になる。それを輸出、投資、雇用、市場の信頼と結び付けて説明できれば、特に経済問題が選挙に影響を及ぼす分野や地域では政治的価値が高まる。

トランプはこれまで、ハイレベル外交を自らの交渉力の有効性を示す場として利用してきた。習と実質的な合意に至れば、従来の外交では得られなかった成果を直接交渉によって得られたと主張できる。中国政府もこうした動機を認識している。経済面で譲歩することで、トランプに国内向けの分かりやすい成果を与えれば、他の分野で米国政府から柔軟な対応を引き出す余地も広がるだろう。

外交上の象徴的な成果だけではトランプは満足しない。この首脳会談の政治的価値は、具体的で測定可能な成果を生み、それを自身の働きかけによるものとして示せるかどうかに大きく左右される。

習が求めるのは予測可能性

習の優先事項はこれとは異なる。中国政府にとって当面の課題は、関税、テクノロジー規制、重要鉱物、安全保障上の競争といった複数の分野の不確実性を一度に抑制することにある。これらの分野で同時に事態が深刻化すれば、国内の経済運営と長期的な産業政策の両方が困難になってしまう。

予測可能性が高まれば、中国政府は米国の圧力が強まりそうな分野と交渉の余地がある分野を区別できる。より広範な戦略的対立が続いたとしても、この区別は重要だ。

相互的な首脳外交は、中国が望む大国間関係のイメージにも資する。習とトランプの直接対話は、相違を乗り越えて首脳間で交渉すべきだとする中国政府の主張にも合致する。

このような両首脳の違いがむしろ合意の余地を生み出す可能性がある。トランプが政治的価値のある目先の成果を極めて強く求めているのに対し、習は経済やテクノロジーでの圧力が同時に拡大するのを阻止したいと考えている。両者の目的は異なるが、中国が目に見える経済的譲歩を示す代わりに、米国が政策の安定性を高めるという形で一致を見る可能性がある。

取引で成果があっても構造は変わらない

首脳会談の成果で最も期待を持てるのが経済問題であることに変わりはない。農産物の購入、エネルギー契約、投資の約束、市場アクセスを巡る措置、特定の関税引き下げはいずれも、米中ともに広範な戦略的立場を維持したまま調整可能な分野だ。

とはいえ、その成果の意義を過大評価すべきではない。中国による米国産大豆の追加購入は経済面で緊張緩和に寄与するだろうが、テクノロジーでの対立は変わらない。特定の分野の関税を引き下げても半導体に関する規制は依然として残るうえ、新たな投資協定を結んでも、人工知能、輸出管理、サプライチェーンの安全保障を巡る紛争の解決にはほとんど役に立たないだろう。

現在の両国関係は分野によって政策論理が異なる。貿易や投資においては交渉の余地が残されている一方で、安全保障上の懸念から先端技術が制約を受ける傾向は強まっている。首脳会談後の状況は、どの問題を交渉の場に戻し、どの問題を妥協しないかに左右されるだろう。

こうした不均衡は今後も続く可能性が高い。戦略的産業を巡る競争と特定のグローバル問題での対話が両立するように、テクノロジー規制と経済的融和も両立しうるのだ。

管理された競争関係は日本に大きな影響を及ぼす

日本は、安全保障上の主たる同盟国と最大の貿易相手国との間で手に負えない対立が生じることを望んでいない。米中関係がより予測可能になれば、突発的な地域情勢悪化のリスクが低下し、貿易・投資環境の安定性が増すだろう。

日本政府が特に懸念しているのは、その安定がどのような条件で得られるかだ。東シナ海で中国軍が活動を活発化させ、地域安全保障環境が厳しさを増す中、日本は日米同盟の信頼性に大きく依存している。台湾海峡を巡る情勢も、日本の防衛計画や地域リスク評価において重要性が高まっている。

米中接近によって抑止力が弱まったり、米国による安全保障上のコミットメントが揺らいだりしない限りは、米中関係の緊張緩和は日本の国益に資するはずだ。日本政府は、東シナ海や台湾海峡など、米国による安全保障と対中関係の広範なバランスに影響を与えるあらゆる変化を注視する必要がある。

経済安全保障には別の懸念が生じる。日本は半導体サプライチェーンのレジリエンス強化、重要鉱物の調達先多様化、中国への過度な依存を軽減する取り組みに多額の投資をしているが、日本の産業界は依然として中国の市場、加工能力、戦略的投入資源と深く結びついている。米中間で選択的な経済合意があれば、貿易や景況感への圧力は和らぐが、日本が経済安全保障政策の再構築を進めてきた規制環境も変化するだろう。

したがって、米国のテクノロジー規制や重要鉱物の取り決め、投資規制の変更には、二国間関係にとどまらない重要な意味がある。日本政府としては、米国政府が主な対中政策について同盟各国と連携する姿勢を維持するのかどうかも注視したいところだ。

日本にとっては米国の政策がどこへ向かうか分からないことも、中国の出方が分からないのと同じくらい重要な問題だ。

台湾が直面するもう一つの境界線の問題

台湾も同じような状況にあるが、その戦略的立場はさらに脆弱だ。台湾政府の懸念は、首脳会談の共同声明に台湾への言及があるかどうか、台湾問題が直接協議されるかどうかにとどまらない。より重要な問題は、米国政府が対中政策のさまざまな分野でどの程度柔軟性を示すかにある。

首脳会談に臨む中国政府は、中間選挙を前にトランプが経済的成果を強く求めていることを認識している。したがって、農産物の大量購入、投資の約束、市場アクセスに関する譲歩は、その経済的重要性以上に政治的価値をもたらす可能性がある。台湾政府は米国政府がどのような対応を適切と判断するかを注視することになるだろう。

関税や通商規制については、首脳同士での調整の余地が十分にある。一部のテクノロジー規制についても多少の調整が可能だ。それに対し、安全保障政策は制度的な制約が大きい。米国の台湾政策は、議会、国防機関、官僚機構に加え、中国に対する広範な戦略的評価で決まるからだ。

こうした制約があるため劇的な変化が起こるまでには至らないだろうが、取引型外交に効果がないわけではない。政策は言葉遣いや実施順序、優先順位の変更を通じても変化しうる。中国政府との広範な合意を優先して、決定の先送りや規制の修正、あるいは対立の大きい問題を一時的に棚上げするといった対応も考えられる。

つまり現実的な懸念は突然の劇的変化ではなく、政策が少しずつ調整されていくことだ。首脳外交の本当の影響力は、従来の取り決めを正式に覆すことはないまま、どの政策を優先するかを変えられることにある。

台湾は、大統領の裁量で動く部分と、米国の制度によって守られている部分を区別して考える必要がある。

問われるのは友好ムードではなく交渉の境界線

9月の首脳会談は、表向きの演出よりも実質的な交渉内容から多くのものが見えるだろう。米中関係が過去数十年のように広範に交流する状態に戻る可能性は低いが、あらゆる問題で対立が長期化すれば、両政府にとって痛手だ。そのため、長期にわたる戦略的競争関係を維持したまま選択的な取引を行う可能性が高い。

トランプにとってそのような取引は、中間選挙を前に外交政策のディール(取引)を国内政治向けのアピール材料に変える機会になる。習にとっては、米国の政策の方向性がより明確になり、経済・テクノロジーの両面で同時に圧力を受けるリスクが低下する。

この新たな秩序に対して、日本と台湾の立場は異なる。日本は、米中の関係改善が、同盟の信頼性や経済安全保障上の政策協調と両立するかどうかを判断しなければならない。台湾は、米国の政策のうち簡単には変わらない部分と、中国政府との交渉次第で修正されうる部分を見極めなければならない。

首脳会談が成功すれば、緊張が緩和され、この地域に実質的な経済的利益がもたらされる可能性がある。問題はその交渉が及ぶ範囲だ。日本と台湾にとって地域の安定が持続するかどうかは、トランプと習の友好ムードでは決まらない。中国政府と個別の取引が行われたとしても、それが米国による長期的な安全保障上の約束を損なわない範囲にとどまるかどうかにかかっている。

陳建甫博士、淡江大学中国大陸研究所所長(2020年~)(副教授)、新南向及び一帯一路研究センター所長(2018年~)。 研究テーマは、中国の一帯一路インフラ建設、中国のシャープパワー、中国社会問題、ASEAN諸国・南アジア研究、新南向政策、アジア選挙・議会研究など。オハイオ州立大学で博士号を取得し、2006年から2008年まで淡江大学未来学研究所所長を務めた。 台湾アジア自由選挙観測協会(TANFREL)の創設者及び名誉会長であり、2010年フィリピン(ANFREL)、2011年タイ(ANFREL)、2012年モンゴル(Women for Social Progress WSP)、2013年マレーシア(Bersih)、2013年カンボジア(COMFREL)、2013年ネパール(ANFREL)、2015年スリランカ、2016年香港、2017年東ティモール、2018年マレーシア(TANFREL)、2019年インドネシア(TANFREL)、2019年フィリピン(TANFREL)など数多くのアジア諸国の選挙観測任務に参加した。 台湾の市民社会問題に積極的に関与し、公民監督国会連盟の常務理事(2007年~2012年)、議会のインターネットビデオ中継チャネルを提唱するグループ(VOD)の招集者(2012年~)、台湾平和草の根連合の理事長(2008年~2013年)、台湾世代教育基金会の理事(2014年~2019年)などを歴任した。現在は、台湾民主化基金会理事(2018年~)、台湾2050教育基金会理事(2020年~)、台湾中国一帯一路研究会理事長(2020年~)、『淡江国際・地域研究季刊』共同発行人などを務めている。 // Chien-Fu Chen(陳建甫) is an associate professor, currently serves as the Chair, Graduate Institute of China Studies, Tamkang University, TAIWAN (2020-). Dr. Chen has worked the Director, the Center of New Southbound Policy and Belt Road Initiative (NSPBRI) since 2018. Dr. Chen focuses on China’s RRI infrastructure construction, sharp power, and social problems, Indo-Pacific strategies, and Asian election and parliamentary studies. Prior to that, Dr. Chen served as the Chair, Graduate Institute of Future Studies, Tamkang University (2006-2008) and earned the Ph.D. from the Ohio State University, USA. Parallel to his academic works, Dr. Chen has been actively involved in many civil society organizations and activities. He has been as the co-founder, president, Honorary president, Taiwan Asian Network for Free Elections(TANFREL) and attended many elections observation mission in Asia countries, including Philippine (2010), Thailand (2011), Mongolian (2012), Malaysia (2013 and 2018), Cambodian (2013), Nepal (2013), Sri Lanka (2015), Hong Kong (2016), Timor-Leste (2017), Indonesia (2019) and Philippine (2019). Prior to election mission, Dr. Chen served as the Standing Director of the Citizen Congress Watch (2007-2012) and the President of Taiwan Grassroots Alliance for Peace (2008-2013) and Taiwan Next Generation Educational Foundation (2014-2019). Dr. Chen works for the co-founders, president of China Belt Road Studies Association(CBRSA) and co-publisher Tamkang Journal of International and Regional Studies Quarterly (Chinese Journal). He also serves as the trustee board of Taiwan Foundation for Democracy(TFD) and Taiwan 2050 Educational Foundation.