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トランプのイラン大規模攻撃計画中止の背後で、習近平はどう動いていたのか?
微妙な駆け引きをする習近平国家主席とトランプ大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

米東部時間8月1日、トランプが又もや「今度こそはイランをかつてないほどの激しさで大規模攻撃する」と言っていたのを翻した。攻撃をやめたそうだ。

その影に、今度もまた習近平が関与していたのだろうか?

周辺状況を考察して分析を試みる。

◆大規模攻撃を中止すると表明したトランプの投稿内容

米東部時間8月1日、トランプは自分のSNSであるTruthで以下のように書いている

――米国は、第二次世界大戦以来類を見ないほどの軍事的脅威、強さ、そして力を備え、イラン・イスラム共和国に対して即座に行動を起こせる態勢を整えている。しかし、合意の枠組みについて同意が得られたとの理由から、イランやその他の中東諸国より、攻撃を控えるよう要請を受けた。この合意には、ホルムズ海峡の即時かつ完全な開放、そしてイランによる核の脅威の終結が含まれます。この要請を受け、私は、世界の将来の利益のため、そして成功し繁栄するイランの存続のため、迅速な合意成立を条件として、攻撃を中止することに同意した。イスラエルもこの方針を支持している。関係者全員、直ちに取り組み、この件を成し遂げよ。本件にご注目いただき、ありがとうございます!

                         ドナルド・J・トランプ大統領

                           (Truthからの引用は以上)

またお決まりの「大規模攻撃」の「脅し」と「中止」のくり返しだ。ほぼ「自作自演」に等しい。おまけに「米軍にはもう武器がそれほど残っていない」ことは否定しなければならないので、冒頭に米軍の力が「第二次世界大戦後、類を見ないほどの強さを持っている」としているが、それはあり得ない。昨年4月にトランプ関税を全世界に宣言した時に、習近平がレアアースを中心として徹底した対抗関税を実行したために、今では新型F-35にはレアアース不足によりレーダーが欠落していたりする。イランの反撃により、米軍の迎撃ミサイルや精密誘導兵器などが枯渇していることを知らない人はいないだろう。

◆このたびのイラン攻撃中止に直接関わった国は?

表面に現れてきたニュース(たとえば8月1日の米メディア、アクシオスの<スクープ:ムハンマド・ビン・サルマン皇太子、トランプ大統領のイラン大規模攻撃計画に懸念を表明>など)ではあるが、今般のイラン攻撃中止に直接関わっているのは以下の国だと報道している。

●サウジアラビア
サウジのムハンマド皇太子は8月1日にトランプ大統領と電話会談し、イランに対する新たな大規模攻撃計画に懸念を表明し、「緊張を緩和し、攻撃を控えるよう促した」と、2人の米国当局者とこの通話を知る第三者の情報筋が述べた。さらに、その前にはサウジ国防相ハリド・ビン・サルマンが訪米し、バンス副大統領とトランプに皇太子の意向を伝えている。

●カタール、オマーン
カタールの仲介者が同日、イランのアラグチ外相、米特使ウィトコフ、オマーン当局者と個別に協議し、ホルムズ海峡再開の合意をまとめる作業を行っており、この協議に進展があった。

●UAEなどの湾岸諸国
UAE(アラブ首長国連邦)、カタール、トルコ、パキスタンも米国とイランの双方に緊張緩和を求めてた。

●パキスタン、トルコ、サウジ
8月1日のロイター電は<トランプ大統領、早期合意を期待しイランへの新たな攻撃を控えると表明>という見出しのニュースで「イランのアラグチ外相は8月1日、パキスタン軍トップ、トルコ外相、サウジ外相と相次いで電話協議し、米国の攻撃計画と地域の不安定化について話し合っている。

このように「サウジ、カタール、オマーン、UAE、パキスタン、トルコ…」など、さまざまな国の名前が出てくるが、では中国はこれらの国々と、どのように水面下で接触していたのかを見てみよう。

◆トランプの大規模イラン攻撃計画を阻止するために習近平はどう動いたか?

7月26日の論考<習近平はどう出るのか? イラン再攻撃をするトランプの背後でうごめいていた米軍の秘密戦略>の最後の小見出し【習近平「まずはオマーンを説得せよ!」 それを受けトランプがイラン再攻撃停止を指令】で述べたように、習近平はトランプの(7月初旬から始まった二回目の)イラン再攻撃を阻止するために、まずオマーンの説得から始めていた。習近平の指示を受けて王毅(外相兼中共中央政治局委員)は7月24日にキルギスで開催された上海協力機構外相会議でイラン外相と会談し、パキスタンの副総理兼外相とも会談している。もちろん2023年に習近平がイランとサウジを和解させて以来、中東では和解雪崩現象が起きて、上記のほとんどの国は互いに和解しあって、中国を軸とした経済貿易圏を形成しようとしていた。

このような経緯から、今年7月24日のロイター電は<パキスタンとイランは中国主導の推進で米国との新たな対話への道を模索していると関係者は伝えている>という見出しで、中国の関与を伝えている。

中国外交部も7月24日、<王毅外相がイランのアラグチ外相と会い交渉継続を要請した>と書いている。王毅は「湾岸諸国との関係改善を進めること」をイラン側に求めた
7月24日、王毅はパキスタンのダル外相との会談でパキスタンによる米国とイラン間の仲介を支持し、中国も地域の和平回復に向けて協力する方針を示した

7月24日、上海協力機構の枠内でもイランやパキスタンなどを含めた多国間協議で「武力行使や武力による威嚇を避け、政治・外交手段を重視する方針」を確認した

7月24日に始まったオマーンとイランのホルムズ海峡管理に関する協議を受けて、トランプは「イラン攻撃を中止する」と宣言したのだが、二転三転するトランプは、又しても7月31日に、「イランへの大規模攻撃を計画している」と宣言したわけだ。

7月30日のロイター電は、「湾岸諸国が中国にイランへの働きかけを要請した」ことを報道している。それによれば、サウジを含む湾岸諸国は、「中国がイランとの経済・外交関係を活用して、イランに緊張緩和とホルムズ海峡・紅海航路の再開を促すよう、非公開で中国側に求めた」とのことである。中国外交部も、各当事者との緊密な意思疎通を続けていると回答している。これらはトランプの新たな大規模イラン攻撃計画宣言があろうとなかろうと、関係諸国がトランプの不安定性を見込んで、習近平に期待をかけて動いている証拠である。

7月31日、中国外交部は定例記者会見で、「イランによるクウェート攻撃の際に中国企業の施設が被害を受けたこと」に関する記者からの質問に対して「民間人や非軍事目標への攻撃に反対し、関係各国に自制と対話を求める」と回答している。名指しは避けたものの、明らかに「イラン側にも自制を求めた」と解釈できる回答である。すなわち、「湾岸諸国が中国にイランへの働きかけを要請した」ことに対する「習近平の回答」と解釈することができるのである。

以上より、アクシオスなどが報道することによって表面化している中東諸国の現象は、実は水面下で習近平が背後から動かしていたことが明確になったと言っていいだろう。

◆トランプによるイラン攻撃を阻止したいが、イラン攻撃によるトランプの失点が自分の得点になることを認識している習近平

習近平にしてみれば、自分が和解をさせて中国との経済貿易を盛んにさせようとしている中東諸国が、米イスラエルの対イラン奇襲攻撃により紛争に巻き込まれて秩序が乱れてしまっているのは困る反面、トランプが受け続けている「世界的失点」に対しては複雑な思いがあるにちがいない。

すなわち、イラン攻撃によるトランプの失点は習近平の得点になっていくのである

その意味でトランプが愚かなイラン攻撃を続けていることは、習近平にとって悪いことばかりとも言えないという側面がある。このことに関しては『G2構想 勝つのは米国か中国か』の【第Ⅰ部 イラン攻撃が米中の力関係を逆転させた】の【第四章 トランプの失点が習近平の得点に】で詳細に考察した。

もちろん習近平としては、トランプが「習近平政権である中国」と「トランプ政権である米国」を「G2」と位置付けて米中関係を構築しようとしているチャンスを逃すわけにはいかない。何と言っても習近平政権内に「台湾統一」を成し遂げようと、政治生命を懸けているからだ。だから習近平は、トランプの「今のところまだ変化していない習近平への尊敬の念」(らしいもの)を崩さないように細心の注意を払ってもいる。

この微妙なバランスの中で、習近平としては「できるだけ目立たないように、イラン紛争の激化を一定程度阻止すべく水面下で動いている」というのが実情だろうと判断する次第だ。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
G2構想 勝つのは米国か中国か
『G2構想 勝つのは米国か中国か』

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