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「中国がイランにミサイル供与」は本当か?
習近平国家主席(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

7月29日、ロイター電が<イランは数週間以内に中国製の肩撃ち式ミサイルを入手する見込み、と関係筋が語る>と発信した。トランプ大統領はこの情報に関する記者の質問に対して「彼(習近平)は(イラン戦争に)参加しないと強く言っていた。(そのようなことをしたら)私が失望するということは分かっているだろう」と述べている。

中国の外交部は「事実無根だ!」と強く否定

果たして真実は那辺(なへん)にありや?

 

◆ロイター独占情報の詳細

冒頭に書いたロイター電は、独占情報として、「契約に詳しい匿名の3人」から以下のような情報を得たとしている。

  • イランが中国製の携帯式防空システム「QW-12」「FN-16」を300~400セット購入予定。
  • 契約額は6000万~7000万ドル。
  • 香港の中青宝上国際投資有限公司が仲介。
  • 新疆ウルムチからパキスタン経由でイランに運ぶ計画。
  • 数週間以内に最初の出荷が行われる見通し。

ただしロイターは、「契約書、発注書、輸送記録」などを提示していない。

またロイター電は、別の欧州安全保障筋は「複数の契約が協議されている」と認識しており、中東の安全保障筋は「イランが購入を求めていることは知っているが、契約成立は知らない」と述べていると報道している。。

すなわち、客観的に見れば、「イラン側の購入意欲については一定の裏付けがあるものの、契約締結の確認は成されていない」ということになる。

 

◆トランプの反応

7月29日のRoll Callによる書き出し記録<発言:ドナルド・トランプ、ダレス空港再活性化計画を発表>によると、トランプはこの件に関して以下のように反応している。記録の「質問00:35:06-00:35:20 (14秒)」の所に、「習国家主席は、中国はイランに武器を供与も売却もしないとあなたに伝えました。しかし、イランがパキスタン経由で中国から400基のロケットランチャーを受け取る予定だという新たな報道が出ています」という記者からの質問がある。するとこれに対してトランプは以下のように回答している(Donald Trump 00:35:20-00:35:35の所をご覧いただきたい)。以下、トランプの回答内の( )は筆者が説明のために加筆。

――(そいうことが起きたら)それは驚きですね。そういうことも起こり得るかもしれませんけど、(起きたら)驚きです。彼(習近平)は絶対に(イラン戦争に)参加しないと断言していましたし、(もしそのようなことをしたら)私がとてもがっかりすることも(彼は)分かっています。彼はまちがいなく9月24日にここに来る予定ですし。

                        (トランプの回答の引用は以上)

トランプの言うことは、24時間維持されることは少なく、ある日何か言っても翌日あるいは数時間後には真逆の事を言ったりしていて支離滅裂だが、こと習近平の話になると全く違う。習近平への「尊敬の念」らしいものを否定したことがなく、習近平と築く「G2構想」への夢も捨てていない。

この回答の中にも、何かしらそれを彷彿とさせるニュアンスが漂っている。

 

◆中国やパキスタンなどは完全否定

中国の外交部は7月30日の定例記者会見の中で、記者の「ロイター通信は、中国がイランに地対空ミサイル400発を供与する計画だと報じています。これに対する報道官の見解は?」という質問に対して、毛寧報道官は怒りに満ちた表情で以下のように回答している。

――われわれはこの問題に関して何度も立場を表明してきました。この報道は事実無根であり、いかなる根拠もないものです。中国の役割は常に平和を促進し、戦争を防ぐことです。(毛寧報道官の回答はここまで)

 

7月30日に更新された本稿冒頭のロイター電によると、中国国防部の蒋斌報道官は7月30日、「関連状況を承知していない」と回答しているとのこと。同じく7月30日に更新されたロイター電は、輸送経路とされたパキスタン軍も関与について「完全に捏造された虚偽」と明確に否定した。イラン外務省と仲介企業はロイターの照会に回答していない。

かかる状況から考えると、信憑性は低く、ロイター通信が報道した「匿名の3人」の存在も、なんだか怪しくなる。

 

◆真実は那辺(なへん)に?

では、真実はどうなのかを状況分析から検証すると、おおむね以下のようになる。

1. 戦局を変えるほどの兵器ではない

携帯式防空システムは低空の無人機、ヘリコプター、低空飛行する航空機への脅威にはなるが、米軍・イスラエル軍の高空攻撃、ステルス機、防区外兵器を阻止することはできない。

2.完全な軍用品なので言い逃れしにくい

ドローン用モーター、半導体、工作機械、通信部品…などであるなら、中国側は民生用途や第三国取引を主張できる。しかし、QW-12やFN-16は完成した地対空ミサイルシステムで、まぎれもない武器だ。輸出された現物やシリアル番号が確認されれば、「民間企業が勝手に売った」とか「用途を知らなかった」といった説明は極めて難しくなる。中国の輸出管理制度においても、軍用品の輸出には主管部門への申請と許可証が必要だ。「軍民両用品の黙認」とは、政治的責任の重さが全く違う。

3.現在の中東外交と矛盾する

現在、湾岸諸国は中国に対し、イランへの経済的影響力を使ってホルムズ海峡や紅海情勢を沈静化するよう求めている。中国自身も、湾岸諸国とイランの双方に接触し、「軍事同盟には入らず、経済と外交でのみ影響力を行使する」という立場を取り続けている。それによって中東に対する一定の力を維持することが可能になっている。この状況下でイランへ完成武器を供給すれば、湾岸諸国からすれば、「中国は仲介者を装いながら、裏ではイランの軍事力を補強しているではないか」ということになり、中国は中東に対する力を失う。

そうでなくとも習近平は2023年にイランとサウジアラビアを和解させ、中東に和解雪崩現象をもたらしている。それを力として中東における経済貿易を強化しようとしている矢先に米イスラエルがイランを奇襲攻撃した。この大きな流れの中で中東諸国はアメリカに不満を募らせ中国に期待を抱いている(このことは拙著『G2構想 勝つのは米国か中国か』で詳述した)。かかる状況の中、習近平が中東諸国を敵に回してイランに武器を供与するなどという愚の骨頂のようなことをするメリットは、習近平にとってゼロである。

4.台湾への武器売却を政治的に後押しする

もし中国がイランにミサイルを売るようなことをしたら、米国内で対中強硬論が燃え上がることは明らかだ。その結果、何が起きるか?

現在、台湾向けには最大約140億ドル規模の武器パッケージがトランプの承認待ちとなっている。今のところは米国側には対中交渉との関係で慎重論もあるが、中国が米国と交戦中のイランへ完成された形の武器を供与すれば、その慎重論は一気に吹き飛ぶだろう。台湾統一をこそ、政治生命の核心中の核心と位置付けている、あの戦略的な習近平が、そのような愚かしい選択をするとは考えられない。

5.金額が小さすぎる

イランに供与すると報道された中国製武器の契約額は6000万~7000万ドル(100億円)に過ぎない。国家レベルの軍需契約としては非常に小規模で、中国の対米関係、台湾問題、湾岸諸国との関係、制裁リスクを賭けるほどの商業利益ではない。何よりもトランプと習近平の間で交わされている「G2構想」を犠牲にする動機は皆無である。

 

以上より、交渉や条件付き契約が存在する可能性はあるが、ロイター電が報じた「時期・数量・輸送経路のまま実行される可能性」は極めて低いと判断される。

中国には「道に転がっている石でも、場合によってはビジネスのチャンスになる」と言われるほど、金儲けができそうだと思うような材料があれば何でもビジネス化する思考がある。したがって、ひょっとすると、ロイター通信が書いている「香港の中青宝上国際投資有限公司」とやらが、中国政府にばれないように秘密裏に行動して、こっそりイランに「既に使われなくなった(現役を引退した)中国製武器」を売って、一儲けしようと動いていた可能性はゼロではない。

こうしてロイターによってスクープされたことによって実行はできなくなり、中国政府はすぐさま当該企業の責任者を拘束し審査するだろうから、実行には移されないという解釈もできなくはない。

だとすれば中国政府としてはロイター通信のスクープに感謝するのみ、ということになろうか…。

事実は小説よりも奇なりと言うが、筆者にとっても実に興味深いスクープとその追跡であった。

なお、奇しくも7月28日、国家国防科技工業局は中央軍事員会の通達として<退役および解体された軍用装備の販売禁止に関する通知>を7月23日に発布していることを報じている。偶然だったのか、この通知が出たからこそ隠されていた事実が浮かび上がってきたのか定かではないが、いずれにしても何とも興味深い。

 

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
G2構想 勝つのは米国か中国か
『G2構想 勝つのは米国か中国か』

遠藤誉著(PHP新書)
台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相
『台湾機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』

遠藤誉著(新潮社)
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『CHINA STORED THE POWER TO SAY "NO!"-U.S.-China New Industrial War』

by Homare Endo(Bouden House)
Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army
『Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army』

by Homare Endo(Bouden House)
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