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習近平はどう出るのか? イラン再攻撃をするトランプの背後でうごめいていた米軍の秘密戦略
トランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

トランプ大統領が再び激しいイラン攻撃を始めている。ことのきっかけはイランが7月6日にホルムズ海峡のオマーン側を通る船舶を攻撃したことにあると日本のメディアはほぼ一斉に報道している。その分野の専門家までが「イランが先に停戦合意に関する覚書(以下、「覚書」)」を破ったからだという趣旨の解説をしているのを見て驚いた。

いや、違うだろう。

米軍が先に、イランが問題視していたオマーン側航路を通るよう他国船舶を「秘密裏に誘導したこと」から始まったはずだ。イラン側航路を通れと主張していたイランは、米軍による秘密裏の誘導に「覚書違反だ!」と怒り、オマーン側を通っていた船舶を攻撃したというのが実際の順番ではないのか。

しかし日本はその「前段階」を直視したがらない。

日本と違い、中国の報道では、明確に「米軍の秘密裏の行動」が何度も公開され、それこそがトランプによるイラン再攻撃の原因だと位置付けている。そのファクトはウォール・ストリート・ジャーナルが7月9日に<トランプ大統領がイランとの停戦合意破棄を決定した内幕>(有料)によって証拠づけられているが、中国ではそれよりも前から米軍によるこの秘密裏の戦略に目を付けている。日本では(筆者の知る限り)日経新聞がこのファクトを書いているようだ。

だというのに、日本の他のメディアでは、なぜそのファクトに触れないのか?そんなことをしていたら世界情勢を読み誤るのではないだろうか?

本稿ではウォール・ストリート・ジャーナルの報道と中国の報道を紐解き、習近平はどう出るつもりなのかを考察する。

それにより、本稿最後で触れる、習近平の「オマーンを説得せよ!」という指令で、トランプが「イラン再攻撃を一時中止せよ!」と反応した「からくり」を解き明かしてみよう。

◆米軍はイランを裏切り、秘密裏に125隻の船舶をオマーン側に誘導していた

もともと6月17日に締結された「覚書」の第5項には、航路の管理主体について曖昧な部分があるにはあった。「覚書」は、イランに航行再開の措置を求めるとともに、オマーンとの将来の管理協議と安全通航の保障を定めていた。このため、米国とイランがそれぞれ自国に有利な形で解釈したと考えられる。

  • 米国側の解釈:イランはホルムズ海峡を開放し、すべての航路について無条件かつ無料の安全通航を保障する。
  • イラン側の解釈:ホルムズ海峡を通る船舶はイラン側を通るべきで、イランがホルムズ海峡の船舶通航を管理し、将来の管理制度についてはオマーンと協議する。イランは「覚書」に署名する早い段階からひとえにこのことを主張し続けてきた。

これらを前提として、前述の7月9日(米東部時間7月8日 午後9時)のウォール・ストリート・ジャーナルの報道<トランプ大統領がイランとの停戦合意破棄を決定した内幕>の「内幕」に焦点を当てて要点を拾い上げると、以下のようになる。

  1. 米海軍は、オマーンの海岸線に沿って走る海峡の南ルートを船舶が通過するのを秘密裏に支援していたと当局者は述べた。米海軍当局者によると、これまでに125隻以上の船舶がこの(オマーン側)ルートで海峡を通過したという。
  2. 米海軍による航行支援は主に夜間に行われ、船舶は自動識別装置をオフにし、米駆逐艦が操舵室や船主の運用センターと無線で常時連絡を取り合っていた。
  3. 米海軍による商船への支援はテヘラン(イラン)の激しい怒りを買った。イランは船舶に対し、北(イラン側)ルートを利用するよう促し、南(オマーン側)ルートには機雷が敷設されていると早くから警告してきた。
  4. オマーン側航路に接近する船舶が、イランの通信員から無線で警告を受けた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が入手した録音によると、そのメッセージは「この航路は安全ではない。危険だ。ミサイルとドローンはいつでも発射できる状態だ」と伝えていた。
  5. その後まもなく、イラン軍は3隻の商船にミサイルを発射し、そのうちの1隻であるカタールのタンカーは機関室で火災を起こし、乗組員の避難を余儀なくされた。

これが、イランがオマール側を通る商船を攻撃するに至った時系列である。

米側が、「覚書」に関するイランの意図に反して「秘密裏」にオマーン側を通るよう誘導していたことは明白だ。図表1に「イラン側ルート」と「オマーン側ルート」を簡略化して示した。なお、地図に関しては2019年にドイツ語版Wikipediaの地図制作プロジェクト「Kartenwerkstatt」で、Wikimedia Commons利用者のNordNordWest氏が制作した地図「Karte Straße von Hormus」を基に、筆者が地名を日本語化し、現状の時事情勢を加筆した。

図表1:ホルムズ海峡における「イラン側ルート」と「オマール側ルート」

NordNordWest「Karte Straße von Hormus」(ドイツ語版Wikipedia Kartenwerkstatt、2019年、Wikimedia Commons、CC BY-SA 3.0 DE)の地図を基に、筆者が地名を日本語化し、航路および配色を加筆修正した

◆イラン紛争から抜け出したいはずのトランプがなぜ攻撃再開を決断したのか?

ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によると、トランプは7月6日夜、トルコへ出発する前に、ルビオ(国務長官)とヘグセス(国防長官)から、ホルムズ海峡のオマーン側航路を利用していた3隻の商船が攻撃され、その中にカタールのLNG船が含まれていたとの報告を受けた。これを受けてトランプは強く反発し、イランには「覚書」を遵守する意思がないと判断して、石油販売許可の撤回と軍事的報復に踏み切ったと、その後多くのメディアが報道し始めた。

思うに、ルビオとヘグセスは、もともとバンス副大統領よりも対イラン強硬派だ。その二人が、船舶攻撃の直後にトランプへ状況報告をした。その後、二人はトランプと共にトルコへ移動したのだから、移動中やNATO首脳会議の合間でもイランへの対応を協議できる状況にあっただろう。

一方、イランとの和平合意を積極的に進めていたバンス(副大統領)が、この重要な判断にどこまで関与したのかは分かっていない。バンスは7月8日に米国のミルウォーキーで演説しているため、少なくともトルコには同行していないことは確かだ。副大統領として大統領の留守を守らなければならないので米国に残ったということだろう。

そのため、トランプの周囲が一時的に対イラン強硬派ばかりとなり、攻撃情報の説明や提示された対応策が、軍事報復の方向に傾いた可能性はあると推測される。

このときにルビオやヘグセスが、「実は米海軍が秘密裏にイランの主張に反してオマール側の航路を通るように誘導したためイランが怒った」という事実は強調されなかったであろうことは想像に難くない。最初に「覚書」に違反したのは「われわれ米側だ」などということをトランプに対する説明で強調することは考えにくい。

このことから「その場の雰囲気に動かされて心が揺らぎ新たに即断する」というトランプの性格を考えると、この瞬間にトランプは「ルビオやヘグセスからの報告のトーン」に乗っかってしまったのではないかと思うのである。

そうでなくとも米国では「覚書」は「イランへの降伏状だ!」という批判があったので、ルビオ・ヘグセスはそれを跳ね返そうとしたということも考えられる。もう一歩進めて言ってしまうなら、バンスは「覚書」に関して走り回った人物なので、近い将来の「人事」のためにも、「副大統領」であるバンスの力は弱めておいた方がいいという力学も働いていたかもしれない。

◆米側の「秘密裏の戦略」を時々刻々把握していた中国

では次に、中国はこれら一連の出来事をどのように認識し報道していたかを考察してみよう。

中国政府の通信社である新華社は7月5日の時点で<ホルムズ海峡には「イラン管理の北部航路」と「米国が通航を支援する南部航路」があり、7月2~4日に南部航路を通った船が80隻だった>と報じている。すなわち、ウォール・ストリート・ジャーナルが報道する「125隻」の前から、米海軍がホルムズ海峡内の商船に対してオマーン側航路を通るように秘密裏に支援している状況を「80隻の段階で」個別に把握していたことになる。

その後、前掲のウォール・ストリート・ジャーナルの報道も中国語に訳して報道しているし、またウォール・ストリート・ジャーナル報道に言及しながら報道した記事などもあるので、中国では初期段階から「米海軍の秘密裏の戦略」に関して十分に認識し注目していたと考えていいだろう。

続けて、7月10日の新華社は、イラン攻撃再開を「イランの停戦違反」とは説明しておらず、米・イラン双方が「覚書」の解釈と海峡の主導権を争う「賭け」であると表現している。イランは海峡を核問題以上の交渉カードと認識し、米国はそれを認めなかったという分析だ。

7月14日の新華社は、南部航路を通った船をイランが攻撃し、米国がそれを理由に空爆を再開した経緯を詳しく説明しているが、イラン再攻撃の原因を、米・イラン覚書第5項の「解釈の違い」と明確に位置づけている

注目すべきは7月22日の中国共産党系の光明網が、西北大学国際戦略研究センター主任の言葉として「イランの視点から見ると、この覚書は実質的にイランの海峡主権と航路の管理権を認め2か月後に料金を課す権利を認めたことになる。一方、米国がオマーン側の航路を護衛し商船の通過を許可することは覚書の規定に違反し、イラン側の権利を脅かすだけでなく、イランが海峡の制御に失敗し、最終的に支配権を失う可能性も高まっている」と報道している。だからこそ、イランがオマーン側を通航する商船を攻撃した、という認識だ。

◆習近平「まずはオマーンを説得せよ!」 それを受けトランプがイラン再攻撃一時停止を指令

さて、それではトランプのイラン再攻撃に対して習近平はどう出るかを分析してみよう。

まず7月8日、中国外交部副部長がオマーン国家安全保障会議のイドリス事務局長と会談している

これは、習近平の「まずはオマーンを説得せよ!」という指令が出ていたことを暗示する。習近平の指示は中国外交の最高権威である王毅(外相兼中共中央政治局委員)に直接出される場合が多い。

その王毅は7月24日、キルギスで開催された上海協力機構外相会議でイラン外相と会談し、パキスタンの副総理兼外相とも会談している(7月16日にも会談している)。

同じ7月24日、オマーンの代表団がイランの首都テヘランに到着したイランが主張した通り、ホルムズ海峡通航案に関して新たな協議を始めるためだ。

さら同日夜、イラン外相とオマーン外相が電話会談を行なった

ここで何が起きたか――?

オマーン代表団がテヘランに到着した数時間後、トランプが「イラン攻撃を一時中止しろ」という指令を出したのである!

米メディアのアクシオスが報道すると同時に、中国の国営テレビ局であるCCTVが速報として伝えた 。

又しても、習近平の圧勝ではないのか?

トランプが始めたイラン攻撃に関して、今年4月7日に最初に一時停戦案を出したのも習近平だった。5月14、15日に予定されているトランプの訪中を可能にさせるためだ。習近平としては、トランプが中国の友好国であるイランを攻撃している状況でトランプを北京に招くことはできない。だから北京における米中首脳会談を実現させるためにも習近平は背後から手を差し伸べ、トランプをイラン戦争の泥沼から救ってあげたのである。このことは『G2構想 勝つのは米国か中国か』の第一章で詳述した。

今般もまた、習近平がトランプを救ってあげた形になる。

トランプとしては、70%近い米国民から反対されているイラン戦争から何としても抜け出したいのである。

トランプがなぜ突然、「イラン再攻撃を一時中止しろ!」という指令を出したのかに関しては、本稿でご紹介した「ホルムズ海峡における米海軍の秘密戦略」を熟知していないと解読できない。

オマーンがイランと協議し始めたら、トランプの負けだ。

これらのファクトを直視しない限り、イラン戦争のゆくえも米中が描く世界の新秩序も見えてこない。G2構想下でのイラン戦争で、誰が真の勝利者になるかも見えてこないと堅く信じる。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国長春市で中共軍による食糧封鎖に遭い家族を餓死で失う。1953年日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『G2構想 勝つのは米国か中国か』(7月2日発売予定)、『台湾軍事機密文書が語る中国「抗日戦争」の真相』、『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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