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基本操作
米国主導の秩序の終焉
ホルムス海峡とトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

※この論考は3月29日の<The End of the US Order >の翻訳です。

激動

ドナルド・トランプがホワイトハウスに返り咲いて以来、本コラムは主に中国に焦点を当てながらも、トランプ政権が国内外で進めてきた劇的かつ継続的な変化を注視してきた。これらの変化は、世界における米国の地位に実害を与えている。トランプは、欧州の昔からの同盟国や世界中の友好国に敵対的な姿勢を取っている。攻撃的な主張の中には一理ある場合も多く、欧州諸国は確かに自国の防衛費負担を増やす必要がある。とはいえトランプのやり方はNATO同盟国への脅迫であり、つい先ごろも事実上NATOの終焉を宣言した。

過去14カ月の紆余曲折を改めて列挙する必要はない。トランプは世界と対峙しており、本コラムではもう以前の状態には戻れないと警告してきた。世界は新たに危険な時代に突入しており、かつて第二次大戦後の国際秩序を支えてきた米国は、ならず者国家とは言わないまでも、歴史修正主義的な国家となった。問題は、米国の衰退によって中国が必然的に恩恵を受けることになるのかという点だ。それはまったく不透明で、中国は国内で多くの逆風に直面しており、国外でも新たな世界秩序を主導することに及び腰だ。中国は確かに国際社会に向けて主張を展開しているが、その多くは真の解決策を提示するというよりも、米国主導の秩序に不満を述べているに過ぎない。

シンガポールからの視点

シンガポールも他国と同様にパックス・アメリカーナがもたらす安定と成長から恩恵を受けてきたが、この小さな都市国家よりもはるかに巨大で強力な地域内外の大国との間で、常に慎重に微妙なバランスを取ろうとしてきた。国土が狭く人口も少ないシンガポールから教訓を得ようというのは、やや無理があるかもしれない。シンガポールではうまくいっても、農村部と都市部という環境の違いがあり、人口もはるかに多い大国には単純に当てはまらない場合も多い。だがシンガポール政府は、自国の成功が国際協定の発展や優れた世界秩序の上に成り立つことを強く認識している。

シンガポールのヴィヴィアン・バラクリシュナン外相は今週、ロイターの世界ニュース担当グローバル編集長マーク・ベンダイクによるインタビューを受けた。インタビュー全文に一読の価値があるが、特に2つの質疑応答は的を射ており、長文だが引用する価値がある。

ロイター:米国はもはや信頼できる安定したパートナーと言えるのか?

外相:米国は今や修正主義的国家だ。80年間、米国は国連憲章の原則、多国間主義、領土保全、主権平等に基づくグローバル化体制の担い手だった。実際、世界が繁栄と平和を謳歌する前例のない唯一無二の時代が到来した。もちろん例外はあった。言うまでもなく、過去80年のうち少なくとも半分は冷戦が続いていた。だが概して、共産主義国家ではなく、開放経済を採用し、先進国並みのインフラを整備し、勤勉で規律ある国民を擁する我が国には、かつてない機会となった。シンガポールの歩みを見れば、1965年の1人当たりGDPは500米ドルだった。今では、8万~9万米ドルほどに達している。この前例のない時代、つまり基本的にはパックス・アメリカーナであり、その後数十年にわたる中国の改革開放で勢いを増した時代がなければ、こうはならなかっただろう。まさに前例のないものだった。我々の多くにとって素晴らしい時代だった。実のところ、この80年を振り返れば、我々の誰にとってもそうだったと言えるだろう。しかし今、好むと好まざるとにかかわらず、客観的に見てこの時代は終わった。責任を転嫁したり、他者を蔑む言葉を使ったりすることに意味はない。何の役にも立たない。一般的な見方として、この世界秩序の担い手は今や修正主義者となり、破壊者と呼ばれることさえある。しかし、より大きな問題は、平和と繁栄の驚くべき時代を支えてきた規範、プロセス、そして制度の崩壊だ。その基盤が失われた。今起きていること、ウクライナや中東、あるいはアジアを含む世界各地で起きている戦争もそうだが、私から見ればこれらは根底からの地殻変動の兆候だ。大国だけでなく中小国でさえ、国益の定義が狭まっている。自らが手にするあらゆる手段を武器化しようとしている。通貨の武器化、テクノロジーの武器化、重要鉱物の武器化、貿易における相互依存の武器化を見れば、本来は相互の関係を平和に保つはずのものだったが、今では搾取のための新たな手段となっている。残るのは、戦略的信頼が失われた世界だ。誰もが最悪の事態を想定せざるを得ない。実際には相手が単に予防線を張って関与しようとしているだけであっても、悪意のある動機からだと思い込んでしまう。したがって、必要なのは責任を転嫁したり他者を蔑む言葉を使ったりするのではなく、ありのままの世界を受け入れることだけだ。

出典:https://www.mfa.gov.sg/newsroom/press-statements-transcripts-and-photos/transcript-of-minister-for-foreign-affairs-dr-vivian-balakrishnan-s-interview-with-reuters-global-managing-editor-for-world-news-mark-bendeich–23-march-2026/

 

シンガポールの閣僚による、驚くほど率直な見解だ。シンガポールはどちらかの側に立つことを好まず、誰かを名指しして批判するのも避けているのは明白だが、小国として自らが置かれた世界の中で生きていかなければならない。外相が言うように、パックス・アメリカーナの時代は終わった。シンガポールはその立場から、自らの役割を見出さなければならなくなった。

では、米国がもはや世界秩序の要ではなくなったとして、中国は、かつて米国が担っていた役割に相応しいパートナーや後継者になるだろうか?それが次の質問だ。

ロイター:シンガポールは現在、どこにパートナーがいると見ているか?中国か?

外相:違う。基本に立ち返ろう。先ほど話したように、シンガポールにとって変わらないのは、我々が小国であり、天然資源がなく、もちろんエネルギー資源もないということだ。今も貿易に依存している。シンガポールの対外直接投資(FDI)残高は、米国が桁違いで首位となっている。貿易を見れば、(物品では)中国が最大の貿易相手国だ。サービスでは米国が最大の貿易相手国だ。投資について中国側に尋ねれば、シンガポールは過去十数年間、中国にとって主要なFDI供給国だったという見方でほぼ一致しているはずだ。その点は中国側に確認してほしい。どちらかの側につくよう迫られることが国益になるだろうか?私はそうは思わない。我々は存在感を示し、貢献しなければならないが、どちらの側にも利用されてはならない。言い換えれば、シンガポールは時に米国にも中国にも「ノー」と言わなければならない。ただし、我々が「ノー」と言うとき、それは他国の指示によるものではなく、自国の長期的な国益を慎重に計算した上での行動であることを明確にする必要がある。また、どちらの国とも建設的で誠実な関係を保てる限り、それを維持するために最善を尽くさなければならない。そうすることで、我々は戦略的選択肢、戦略的自律性が得られる。公平を期して言えば、米国と中国のどちらの側からも、威圧的な調子で今すぐ選べと迫られているわけではない。

 

このインタビューは、今年初めにダボスでカナダのマーク・カーニーが指摘した論点のいくつかを反映している。カーニーがパックス・アメリカーナから得られる恩恵により否定的だったのに対し、シンガポールは、世界の多くの地域に目覚ましい成長と安定をもたらしたこの時代を躊躇なく受け入れている。だがどちらの場合も、古い秩序は過ぎ去り、新たなルール(それがどのようなものであれ)で動くことになると明確に認識している。

ほとんどのアジア諸国と同様に、シンガポールも中東産の炭化水素への依存度が高く、価格高騰だけでなく供給不安にも直面している。米国は波及効果をほぼ考慮せずにイランとの戦争を開始し、イランが現在実施しているホルムズ海峡封鎖の脅威を完全に軽視しているように見える。シンガポールは、進行中の戦争の結果を決定付けたり影響を与えたりする立場にはないものの、供給途絶によるさまざまな影響について、ほぼ間違いなくトランプ政権よりはるかに深く考えている。米国の無謀な行動はアジアでまったく支持を得られていない。昨年には(違法な)関税がアジアの輸出経済に大打撃を与えたが、今回は案の定ホルムズ海峡封鎖により各国の石油が今にも底を突きそうな事態に陥っている。しかも、現実の核保有国に対する防衛網であるこの地域の米軍戦力までが中東に再配置されている。

どこへ向かうのか?

パックス・アメリカーナの時代の後、どうなるかは分からない。まだ分かるはずもない。イランでの戦争は今週終わるかもしれないし、来月かもしれないし、あるいは数カ月先かもしれない。トランプは目標を定めていないため、何をもって勝利とするのかさえ明確ではない。とはいえ、イラン・イスラム共和国は崩壊せず、いずれ戦闘が終結すれば制裁が緩和され、これまですべての船舶に自由な通航が認められていた国際航路であるホルムズ海峡を直接管理することになる可能性が日ごとに高まっているように思われる。

しかし、バラクリシュナン外相が指摘しているように、最悪の事態を想定すべきだ。大国をはじめとする各国は国家間の関係について、より狭量で国家主義的な世界観を抱くようになるだろう。協力ではなく対立が常態化するかもしれない。少なくとも、先進国・発展途上国を問わず米国への信頼は失墜したが、皮肉なことに、この新たな世界秩序においても世界の2大経済大国から逃れることはできない。世界の工場としての中国は今後もその地位を維持し、あらゆる点から見て重商主義の道を突き進むだろう。なぜなら、そこから脱却して経済の均衡を取り戻すには国内の権力と富を再分配する必要があるが、習近平はそうした変化をもたらすいかなる措置も講じようとしないからだ。米国は、世界最大の企業群と、特にAIなどのテクノロジーで主要な牽引役を擁し、今後も世界最大の流動性と革新性を誇る金融市場から恩恵を受けて、世界最大の経済大国であり続けるだろう。米国はまた、戦争を止め、紛争に巻き込まれないことを公約に掲げたトランプ政権下でも、軍事力を行使して指導者を交代させ、他国を威嚇する意思が十分にあることを改めて示した。バラクリシュナンが言うように、あらゆる手段を武器化しようとする(米国のような)国々の姿勢には恐怖を覚える。

コロナ禍からわずか6年で世界経済は再び不安定化しているが、今回はトランプが引き起こした危機によるものだ。世界経済がこれほど繊細で、衝撃をうまく処理できないことには驚かされるし、望ましいことでもない。教訓を1つ挙げるとしたら、各国は将来の衝撃を緩和するために必需品や日用品の備蓄を始める必要があるだろう。貿易依存度の高い国々は、今後の経済的混乱を乗り切るための冗長性、余剰生産能力、そして複数の独立したサプライチェーンを構築する必要がある。そうした世界では、経済的リターンが低下し、(少なくとも理論上は)非効率性が高まるが、レジリエンスは向上する。

トランプの2期目以前から、パックス・アメリカーナの時代は揺らいでいた。中国のWTO加盟と、世界の貿易体制を組織的に悪用する姿勢が、すでに不完全だったモデルを歪めてしまった。世界金融危機は、世界経済の金融基盤が持つ弱点をさらに露呈した。そして、2014年のロシアによるウクライナ侵攻はほとんど問題にされず、その後のコロナ禍の中での全面侵攻を招く結果となった。あらゆる時代が過ぎ去って新たなルールや取り決めが生まれるが、主導的な大国がこれほど積極的に自ら崩壊を招いた例は稀だ。パックス・アメリカーナは完璧ではなかったが、完璧を追求しすぎて成果を見失ってはならない。シンガポールは、第二次世界大戦後の時代が経済成長とより平和な世界の両面でもたらした恩恵を理解していた。主にその秩序を構築して支えていた米国がもはやその秩序を重視しなくなったとしても、過去80年の成果から守り継ぐべきものは多い。

フレイザー・ハウイー(Howie, Fraser)|アナリスト。ケンブリッジ大学で物理を専攻し、北京語言文化大学で中国語を学んだのち、20年以上にわたりアジア株を中心に取引と分析、執筆活動を行う。この間、香港、北京、シンガポールでベアリングス銀行、バンカース・トラスト、モルガン・スタンレー、中国国際金融(CICC)に勤務。2003年から2012年まではフランス系証券会社のCLSAアジア・パシフィック・マーケッツ(シンガポール)で上場派生商品と疑似ストックオプション担当の代表取締役を務めた。「エコノミスト」誌2011年ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞し、ブルームバーグのビジネス書トップ10に選ばれた“Red Capitalism : The Fragile Financial Foundations of China's Extraordinary Rise”(赤い資本主義:中国の並外れた成長と脆弱な金融基盤)をはじめ、3冊の共著書がある。「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「フォーリン・ポリシー」、「チャイナ・エコノミック・クォータリー」、「日経アジアレビュー」に定期的に寄稿するほか、CNBC、ブルームバーグ、BBCにコメンテーターとして頻繫に登場している。 // Fraser Howie is co-author of three books on the Chinese financial system, Red Capitalism: The Fragile Financial Foundations of China’s Extraordinary Rise (named a Book of the Year 2011 by The Economist magazine and one of the top ten business books of the year by Bloomberg), Privatizing China: Inside China’s Stock Markets and “To Get Rich is Glorious” China’s Stock Market in the ‘80s and ‘90s. He studied Natural Sciences (Physics) at Cambridge University and Chinese at Beijing Language and Culture University and for over twenty years has been trading, analyzing and writing about Asian stock markets. During that time he has worked in Hong Kong Beijing and Singapore. He has worked for Baring Securities, Bankers Trust, Morgan Stanley, CICC and from 2003 to 2012 he worked at CLSA as a Managing Director in the Listed Derivatives and Synthetic Equity department. His work has been published in the Wall Street Journal, Foreign Policy, China Economic Quarterly and the Nikkei Asian Review, and is a regular commentator on CNBC, Bloomberg and the BBC.