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薛剣・大阪総領事に問う:毛沢東や周恩来は「尖閣諸島は日本の領土」とみなしていたのをご存じか?
薛剣・駐大阪総領事 大阪総領事館のウェブサイトより

11月10日の論考<高市総理に「その汚い首は斬ってやる」と投稿した中国の大阪総領事は国外追放に値するレベル>で書いたように、中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事はXで「敗戦国として果たすべき承服義務を反故にし、国連憲章の旧敵国条項を完全忘却した」と、日本国を口汚く罵っている。

それなら薛剣・大阪総領事に問う。

あなたは毛沢東や周恩来が「尖閣諸島は日本の領土」とみなしていたことをご存じだろうか?

ご存じだとすれば、「中国海警局に所属する船舶が、日本の領土である尖閣諸島周辺の接続水域内に入域あるいは領海に頻繁に侵入していること」を、どのように位置づけているのかに関して問いたい。

◆毛沢東は「尖閣諸島は日本の領土」とみなしていた

時は1953年1月8日。

中国共産党機関紙「人民日報」の「資料」欄に「アメリカの占領に反対する琉球群島人民の闘争」という見出しの記事がある。現在でもネットで閲覧することは可能だが、2016年辺りからだろうか古きデータはデータバンクに入らなければ閲覧できないようなシステムに切り替わっており、しかも有料だ。そこで2013年2月に出版した『チャイナ・ギャップ 噛み合わない日中の歯車』に掲載した画像をスキャンして図表に示す。ただし紙媒体は白黒印刷なのでネットに転載するときはやや見にくく、拡大した部分を赤で囲むなどの作業を加えた。

図表:毛沢東は「尖閣諸島を日本領土」とみなしていた(1953年1月8日「人民日報」)

『チャイナ・ギャップ』より転載

四角で囲んだ部分には以下のような事が書いてある。

――琉球群島は我が国・台湾東北と日本の九州の海面上に散在しており、尖閣諸鳥、先島諸島、大東諸島、沖縄諸島、大島諸島、吐喇(とから)諸島、大隅諸島等を含む、七組の島嶼から成る。各島嶼群には大小さまざまな島々が含まれており、合計で50を超える名前の付いた島と400を超える名前のない小島があり、総面積は4,670平方キロメートルだ。群島で最大の島は、沖縄諸島にある沖縄本島(すなわち大琉球島)で、面積は1,211平方キロメートルです。2番目に大きい島は大島諸島にある奄美大島で、面積は730平方キロメートルである。琉球諸島は1,000キロメートルに広がり、内側は東の海、外側は太平洋の公海に面している。(以上)

四角の囲みの後に続く部分では、「アメリカ帝国主義の占領に対して琉球人民が抗議し闘争していること」を紹介し、琉球諸島は琉球人民のものであることを強調し、「米帝は琉球から出ていけ!琉球人民よ、頑張れ!」と日本にエールを送っている。

ここで重要なのは「人民日報」が、日本の領土である「尖閣諸島」に関して中国の呼称である「釣魚島」を使わず日本的呼称の「尖閣諸島」を用いて表現し、かつ「尖閣諸島」を日本の「琉球群島」の領土の一部として定義していることである。

これはすなわち「尖閣諸島は日本の領土である」と認めているということになる。

「人民日報」は中国共産党の機関紙であり、1953年当時はまだテレビはなく、広報手段としては新聞以外に「中央広播電台」というラジオしかなかった。したがって「人民日報」は非常に重要な中国共産党の情報伝達手段で、1950年代初期に天津の小学校で学んでいた筆者は、校舎の最も目立つ掲示板に「人民日報」の各紙面が見られるように貼り付けてあったことを明確に記憶している。授業でもこの人民日報に沿って教師が解説する。授業では「毛主席の教え」として教わった。そのためのデモ行進にも参加させられた。いつも侵略戦争のため虐められていた筆者は、「毛主席」が琉球に関しては日本の味方をしているので、安堵感を覚えた記憶がある。

それくらい全国津々浦々に配布して全国人民に学習させる手段であったので、当然のことながらこの「資料欄」は「人民日報」編集委員室の総意を反映しており、「尖閣諸島」に関する説明は、中共中央のトップに君臨していた毛沢東の認識を反映していたものであるということができる。

その証拠に周恩来外交部長(兼総理)も同様のことを言っている。

◆周恩来:琉球諸島は日本の領土でなかったことがない

1951年8月15日に周恩来外交部長(兼総理)が「日本に対する米英 平和条約草案およびサンフランシスコ会議に関する声明」を出したことは2016年5月30日の中国外交部が公開している。これは2016年6月27日の人民網でも報道されており、さらに1951年8月16日の「人民日報」でも文字だけだが報道されている。これらによれば、周恩来はアメリカが「日本の琉球諸島を占領していることに関して激しく抗議し、日本のものは日本に返還せよ」と強調している。以下に尖閣諸島関連部分の一部を示す。 

――この草案は、米国政府がかつて国際連盟の委任統治下にあった太平洋諸島に対する信託統治権を保持することに加え、琉球諸島、小笠原諸島、硫黄島、西ノ島、沖ノ鳥島、南鳥島に対する信託統治権も取得することを保証しており、事実上、これらの島々を引き続き米国が占領する権利を維持している。これらの島々は、これまでのいかなる国際協定においても日本からの分離が規定されたことはない(=これらの島々は日本のものだ)。(中略)琉球は米軍の核武器基地となりつつあるが、琉球の愛国的・民主的な勢力は、日本への返還をますます強く求めている。沖縄の人々が団結して闘う限り、必ず目標を達成できる(=琉球を日本が取り戻す)と信じている。(以上)

注目すべきは、ここにある琉球諸島あるいは群島は前掲の1953年1月8日の人民日報にある通り「尖閣諸島を含んでいる」のである。尖閣諸島だけは除外するとは、どこにも書いていない。

◆カイロ密談で蒋介石は琉球諸島占領を何度も拒否

2008年1月16日、「中国共産党新聞網」(網はネット)に「蒋介石は琉球群島を占領するのを拒んだことを後悔した」というタイトルの記事が載り、同日、「新華網」も同じ内容の報道をしている。筆者が『チャイナ・ギャップ』を執筆した2012年末の時点ではリンク先があったが、今は切れてしまっている。今は中国新聞網で見ることができる。

その記事の内容は「1943年11月、カイロ密談で、アメリカのルーズベルト大統領が中華民国・国民政府の蒋介石主席に『日本を敗戦に追いやった後、琉球群島をすべて中華民国にあげようと思うが、どう思うか』と何度も聞いたのに、蒋介石が断った」という驚くべきものである。

この詳細は前掲の『チャイナ・ギャップ』に書いており、あまりに長いのでここでは省くが、要は「一緒に琉球を爆撃しようぜ。そしたら琉球群島は中華民国にあげるよ」とルーズベルトは言ったのだが、蒋介石はやんわりと断った。おそらく日本敗戦後は中国国内で国共内戦が激しくなるので、毛沢東率いる中国共産党軍をやっつけるために、そちらに集中したいと考えたのだろうと思う。

問題は蒋介石が、断った後にひどくその事を気に病み、同行していた部下の王寵惠(おう・ちょうけい)外交部長に「私が断ったことは絶対に誰にも言わないように。絶対にいかなる記録にも残さないように!」と強く念を押したのだが、帰国後、王寵惠が出張報告のためか、内部記録に残してしまったことだ。

ここで注目すべきは、蒋介石が「要らない」と断った「琉球」は、毛沢東や周恩来同様、「ただし、尖閣諸島を除外する」とは言っていないということである。尖閣諸島を含めて、蒋介石は琉球の領有を拒否したのである。

◆最初の「尖閣諸島」の領有権主張は在米台湾留学生から始まった

ではなぜ中国が日本の「尖閣諸島」を「突如!」、中国のものだと主張し始めたのだろうか?

それは在米の台湾留学生のデモから始まっている。

中国(中華人民共和国)がまだ国連に加盟する前の1969年5月、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)の報告書は、尖閣諸島のある東シナ海から黄海に関して「石油天然ガスの海底資源が豊かに存在する可能性」を指摘した。

するとアメリカにいる台湾からの留学生がデモを始めた。彼らは1943年の王寵惠の出張報告から、蒋介石が「琉球保有を拒否した」事実をつかんでいた。その頃にはすでに台湾にいる蒋介石が率いる「中華民国」政府が弱体化し、中国大陸の共産中国の方が勢いを増してきている噂が濃厚に流れていた。その事への怒りとともに、台湾留学生たちは「蒋介石に対する抗議デモ」を全米的に展開し始めたのである。筆者は後に、そのデモに参加した在米元台湾留学生を直接取材して、その実態を把握している。

この流れの中で共産中国である中華人民共和国が1971年10月25日に「中国を代表する唯一の国家」として国連に加盟し、国連創設に貢献した「中華民国」を国連から追い出してしまった。

そして1971年12月30日になって初めて、中華人民共和国は「国連海洋法委員会」で「突如!」、「釣魚島(尖閣諸島の中国の呼称)は古来より中国の領土」と主張し始めたのである。

「台湾のものは中国のもの」という主張が、共産中国で徹底し始めたわけだ。それがこんにちにまで至っている。

◆それに対して日本政府は何をしてきたのか?

問題は、それに対して日本は何をしてきたのかだ。

1989年6月4日の天安門事件に対する西側諸国の厳しい対中経済制裁をいち早く解除させただけでなく、10月11日の論考<自公決裂!組織票欲しさに二大宗教団体を利用した自民党のツケ 遂に中国の支配から抜け多党制に移行か>で触れたように、中国の国連加盟や日中国交正常化などに貢献してきた公明党と組んで長きにわたって自公連立政権を続けてきた。その間に「組織文化的」に「公明党的思想」が深く静かに自民党国会議員の中にしみわたり、尖閣諸島を管理する海上保安庁の所轄省庁である国土交通省の大臣のポストは、まるで公明党の指定席のようになっていた。だから尖閣諸島周辺での中国船の傍若無人の活動を禁止するという行動に出ることができないという状況に至っている。 

そのことは海上保安庁が公開している<中国海警局に所属する船舶等による尖閣諸島周辺の接続水域内入域及び領海侵入隻数>をご覧になれば一目瞭然だ。台湾有事という仮定の状況も重要だろうが、日本人は日本の領土内で日夜現実に起きている、この惨憺たる現状を、切迫した現実として直視すべきだろう

このような惨状が放置されたママになっているのは自民党が票集めのために公明党から離れられなくなったのが原因で、今でも公明党に培養されてきた「意識」=「組織文化」が影響し、中国に遠慮して、遺憾砲以外は何も行動に出ようとはしていない。

薛剣のような暴言を吐いても、「遺憾である」という反論の域を出ていないのではないかと思う。

違うのなら、ぜひとも薛剣を国外追放という形で厳罰に処するという行動に出て欲しいし、海上保安庁のデータにあるような中国船舶の傍若無人な行動を、実力で阻止していただきたい。日本政府はこの緊迫性に注目すべきだ。

と同時に「国連憲章」を持ち出しながらヤクザのような恫喝を続けている薛剣には、他国の領土領海に侵入する中国船舶に関して、毛沢東や周恩来のメッセージおよび蒋介石の拒否を軸として回答を求めたい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。内閣府総合科学技術会議専門委員(小泉政権時代)や中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『米中新産業WAR』(ビジネス社)(中国語版『2025 中国凭实力说“不”』)、『嗤(わら)う習近平の白い牙――イーロン・マスクともくろむ中国のパラダイム・チェンジ』(ビジネス社)、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She has served as a specialist member of the Council for Science, Technology, and Innovation at the Cabinet Office (during the Koizumi administration) and as a visiting researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “2025 China Restored the Power to Say 'NO!'”, “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.
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