なによりもまず、米中貿易戦争の発端は米国側にあり、最初に関税引き上げをし始めたのも米国であることを認識しなければならない。米中貿易及び米中貿易交渉全体を通して見ると、米国は常に強い、能動的な立場にあり、中国は常に弱い立場、もしくは受動的な立場に回っている。中国と米国は、世界の2大経済大国であり、米中関係は両国及び両国の国民の様々な利益に関係しており、また、世界の他の国の利益にも著しく影響を及ぼすであろう。
中国がボーイング1機を購入するために8億枚のシャツを輸出しなければならないとき、米国は中国の対米貿易が正常で、有益で、平等であると感じていた。その時期、米国は景気循環の拡張局面にあったため、ローエンドの消費は中国のような第三世界の国からの供給に任せて、米国は軍事と技術のハイエンド製品に集中すればよかったのだ。だから、米国にとってこのような貿易システムがバランス良く、快適であり、彼の世界の支配者としての地位を脅かしていないため、米国はこの貿易システムのバランスを維持したいと考えていた。
しかし今は状況が変わった、中国が台頭し、世界二位の経済大国になっている。同時に米国は景気循環の後退局面におり、深刻な失業問題が発生している。だから米国は、中国からの一部の輸入品が、米製造業の雇用に打撃を与えたと考えている。その結果、中国の「中国製造2025」に対して、製造業の国内回帰戦略を提出し、そして中国に対して貿易戦争を仕掛けてきた。実際、いかなるときでも、世界貿易システムは有機的な存在である。世界貿易システムのハイエンド・ミドルレンジ・ローエンドの分布は自然であり、不可欠であり、そして循環的な、互いを支え合うものであり、さらに当たり前のように回転と相互変換の関係も含まれている。
これを例えるなら、人体という有機的な生体である。人体の運転にはハイエンドの食品が口から入り、ミドルレンジの消化器官で転換され、さらにローエンドの肥料として排出される。そしてこれらローエンドの肥料が、土地というミドルレンジの変換によって、再びハイエンドの食品として口から入り、転換され排出される。これは一種循環のプロセスである。ハイエンドの技術も、ミドルレンジ・ローエンドの吸収転換も、この有機的な存在は正常な機能を維持する上で不可欠なプロセスである。世界貿易システムも同じように、ハイエンドの技術がミドルレンジ・ローエンドを先導することもあり、ミドルレンジ・ローエンドからハイエンドへの供給、吸収と転換も存在する。
実際、経済哲学の観点からは、ハイエンドとローエンドの間に高下貴賤の別はなく、ただ分業が異なり、相互依存しているだけに過ぎない。その観点から米中貿易戦争の現状について3つの見解を述べ、読者と共有したい。
第一に、第11回のワシントン交渉の前後から見ると、中国政府の態度が著しく変化したということを指摘したい。第10回の上海交渉までの段階では、中国政府は謙虚と寛容な態度を示していた。しかし第11回交渉では、強硬な姿勢と動かない最低ラインを明らかに示した。中国政府の交渉代表である劉鶴の強硬姿勢を以下のように表したことを確認しておきたい。まず、関税撤廃の問題を提示した。関税戦争を先に仕掛けてきたのは米国側である。問題を引き起こした人こそ問題を解決すべきであろう。だから米中関税戦争を避けるためには、まず関税を撤廃する必要がある。新たに追加された関税を全部撤廃すると、貿易戦争も終わり、他の問題も即座に解決されるであろう。そして、両国が互いの製品を購入する問題に関して、アルゼンチン会談で合意した数量を簡単に変更すべきではないとし、さらに、協議の具体的な内容とバランスに関して、その詳細を議論することはできるが、一方的に押し付けるのではなく、互いに向き合うことが必要である。
そのうえで第二に指摘すべきは、第11回交渉において、このような中国が強硬な姿勢を示し、あえて条件を提示し、最低ラインを死守することは、それ相応の自信がある証左だ。米中貿易戦争において、中国は総じて不利ではあるが、実は決して優位性がないわけではないのだ。
それを裏付けるものとしてまず、中国は世界最大規模の市場を有し、ハイテクの応用展開と転化を受け入れることができることがあげられる。米国の市場規模は中国ほど大きくはなく、そのため、一部のハイテクは国内のみで応用展開できない。例えば、中国は世界各国の高度な技術を吸収し、世界最大規模の高速鉄道を建設することができる。米国も高速鉄道の技術を所有しているが、市場規模が不十分であり、高速鉄道が建設されるその日から赤字になる可能性が高いため、高速鉄道を建設することができない。
そして、中国は完全な産業システムと多段階の熟練労働者を所有しており、彼らは様々なハイテク技術を中国国内に種をまき、根付かせ、開花させることができる。アップルの技術と中国フォックスコンの製造能力により、世界最先端の製品を生産することができる。米国は製造業の国内回帰を実現しようとしているが、アップルの携帯電話生産ラインを米国国内へ移すと、アップルの利益が急落する可能性が高いであろう。しばらく前に発生したアップルの株価の乱高下がそれを証明した。国によって産業の発展と生産能力が異なり、所有している天然資源も異なる。だから米国はいつも世界の支配者のように、他の国が援助に依存する、知的財産を侵害する、米国の恩恵を被るなどを、むやみやたらに批判するべきではない。国の政府としてそれを言うのは、弱い国いじめであり、研究者として感情的に色眼鏡で見ながらそれを言うのは、偏向的であり、大国の学者としての品格を下げることになるであろう。
中国の歴代の経験からすると、中国が豊かになり、褒められると、怠けて腐敗する。逆に圧迫され、支配され、包囲されると、抵抗する力が強くなり、創造力も強くなる。もともと世界の先進国が高度な技術を既に所有しており、中国がそれを導入し、移植し、吸収して利用しているだけなのに、それに対して、外部が中国を包囲して封鎖すると、逆に中国の創造力を刺激することになるであろう。
例えば、米国がファーウェイのチップを封鎖することは、客観的に鴻蒙OSの商業利用を後押しすることになった。米国がもし中国がGPSシステムを利用することを禁止すれば、中国の北斗衛星測位システムもすぐに実用化されるであろうと、私は信じている。
また、中国政府の経済・金融に対する集中管理は、実際に巨大な制度的優位性を持っていることがあげられる。ふたたび高速鉄道の例を挙げると、米国がもし技術と市場規模を有しても、州間高速道路を建設することは非常に困難である。連邦政府の各州に対する調整能力が弱く、調整に膨大なコストと時間がかかる。それに対して、中国の集中管理能力と調整能力は世界トップクラスである。広く批判されているが、個人的には、そのような政府が集中管理する体制だからこそ、中国の政治的な独立と経済の発展をもたらすことができる面もある。
実際に、政治体制に優劣はなく、どんな体制でも独自な長所と短所を持っている。ヘーゲルが言うように、「存在することは合理的である(理性的であるものこそ現実的であり、現実的なものこそ理性的である)」。世界各国の歴史や文化の伝承、経済発展の段階が異なるため、他の国は米国モデルに従って発展することも、もちろん、旧ソ連モデルに従って発展することもできない。
個人的に、中国のここ30年の経済発展における経験は、将来的に中国の道、あるいは中国モデルと呼ばれる理論に要約され、そして世界の多くの第三世界国家(全てではない)を分裂から統一へ、植民地から独立へ、貧困から裕福へ導くことができると思っている。そしてこの理論を提出できる人は、ノーベル経済学賞を受賞する可能性が高いであろう。
これまで二つあげてきた、米中貿易戦争の現状について指摘したい第三の点は、米中両国の政府は、ゼロサムゲームから脱却し、ウインウインの関係を築く必要があるということだ。両国の政府と学者もわかっているように、米中貿易戦争は共倒れでしかない。
それならばなぜ戦うことになるのか?
個人的には、長期的に見ると、最初(第1回目)の論考で述べたように、トゥキディデスの罠に基づいている。短期的に見ると、貿易戦争を仕掛けてきたのは、米国政府が政治的に即効性を求めすぎたためだと考えられる。さらに言うと、米国の選挙政治と一見正しく見えるが間違った推論によって引き起こされたことである。
トランプは選挙期間中から、雇用の増加を約束したが、彼は一方的に中国の輸出が米国の雇用を奪っていると思っており、中国製品の米国への輸出を制限すれば、米国は国内でこれらの製品を生産できるようになり、すなわちそれは自国の雇用を増やすことだと考えている。もしこの推論が成立していれば、貿易戦争は間もなく終わるであろう。
しかし実際には貿易戦争が米国に雇用をもたらすことはなく、逆に輸出に依存している一部の米国企業は、中国の対抗措置により、最終的に米国内の雇用が減少することになる。
このことから、推測の域を出ないが、私見では、米国内の有権者を喜ばすために、米中貿易戦争はトランプの中間選挙の前に緩和または終結すると考えている。もちろん、責任をもって言えるのは、貿易戦争が終わっても、トゥキディデスの罠ゆえに、その後の技術戦争、金融戦争は続くことだろう。
現時点で、中国は米中間の駆け引きにおいて、優位に立ってはいないが、米国に対して、中国は市場、完全な産業システム、集中管理という3つの優位性を持っている。中国経済には調整と改革が急務である部分もあるが、中国政府には香港の危機のような事件を適切に処理する政治力を持っており、国内の不合理な産業構成を調整する能力を持っており、そして地方債務と企業債務のリスクを解消する経済管理能力を持っていることを、私は信じている。端的に言えば、中国政府のリスクに対する耐性と制御能力は米国より高く、外圧によってイノベーション能力が徐々に高まっている。劉鶴副首相が言ったように、米中関係は極めて重要であり、経済貿易関係も、米中関係が安定するための重しと駆動力である。それは両国の関係のみならず、世界の平和と繁栄にも関係している。米中が戦うと、共倒れになり、勝者のいない戦いに終わる。
最後に、米国政府は手のひら返し、弱者いじめ、世界全員を敵に回すことをやめるように進言したい。長い間米国に追従してきた日本に対して、奴隷のように扱わないでほしい。米国に対して基本的な労働力を提供するメキシコ人に対して、むやみに排除し、封鎖しないでほしい。核兵器を軽く扱う北朝鮮の指導者を兄弟呼ばわりしないでほしい。そして米国のドローンを撃墜できる勇気のあるイランに対してとぼけないでくれ。さもなければ、このようなことが長く続くと、米国は大国としての品格と世界のリーダーとして地位を失うことになるであろう。
カテゴリー
最近の投稿
- 中国の無差別殺傷を「社会への報復」で片づけていいのか? 語源は日本のひろゆき氏の「無敵の人」
- 台湾の未来はいかに トランプ復活を受けた新たなレジリエンスと自治
- 南米をも制する習近平 トランプ2.0の60%関税を跳ねのけるか
- 習主席にとって石破首相の重要性は最下位 ペルー2国間首脳会談
- 中国珠海車暴走事件の容疑者は金持ちか なぜ動機は離婚財産分与への不満と分かったのか
- Taiwan’s Diplomatic Strategies: Balancing New Resilience and Autonomy Amid a Trump Return
- 日本はなぜトランプ圧勝の予測を誤ったのか? 日本を誤導する者の正体
- トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか
- トランプ勝利を中国はどう受け止めたか? 中国の若者はトランプが大好き!
- 中国CCTV:米大統領選_「札束」の力と「銭」のルール