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習主席にとって石破首相の重要性は最下位 ペルー2国間首脳会談
出典:CCTV4
出典:CCTV4

 11月15日、石破首相はAPEC首脳会議が開催されているペルーのリマで習近平国家主席(以下、習主席)と会談した。11月16日の中国の中央テレビ局CCTVは、リマにおけるリマ以外の出席国との2国間会談に関する報道をしたが、多くの国の中で、石破首相との会談は最後に報道された。

 会談冒頭の握手の際に習主席がにこやかに「下午好!」(こんにちは!)と大きな声で挨拶したのに対して、石破首相はニコリともせず仏頂面(ぶっちょうづら)を変えず、目を合わすことさえしなかった唯一の会談相手だ。それもあったためか、会談の時には、習主席は石破首相に対してのみ終始笑みを見せなかった。

 日本では、トランプ2.0の高関税が待っているので、まるで習主席の方から日本にすり寄っているような報道が目立つが、まったく事実に反している。

 習主席はトランプ1.0時代の制裁が中国の自力更生を促し、かえってハイテク新産業を世界一にさせてくれたため高関税は恐れておらず、極度に親中のイーロン・マスク氏もいるし、トランプ次期大統領はバイデン政権のようにNED(全米民主主義基金)を暗躍させて台湾独立派を煽ったりしないので、トランプ2.0を歓迎している。

 ペルーでの会談では外交経験のない石破首相の外交儀礼の非常識なまでの欠如と外交力の限界を世界に見せつけただけだ。

 本稿では、中国の視点あるいは客観的な世界の視点から見た各国首脳との会談の差をご紹介し、石破外交がいかに日本に不利をもたらすかをお見せしたい。

 

◆CCTVが報道した二国間首脳会談の順番

 11月16日午後1時(北京時間正午、12:00)のCCTV4(中文国際)(の冒頭から)および同日午後8時(北京時間午後7時、19:00)、CCTV4ニュース(の5分12秒から)では、11月15日にペルーのリマで行われた習主席と各国首脳との会談に関して報道した(11月14日に行われた習主席とペルーのボルアルテ大統領との会談に関しては、中国とペルーなど南米諸国との関係とともに別途考察する)。

 16日のCCTV4の番組で報道した各国首脳との会談の順番は、以下のようになっている。

  1.韓国の尹錫悦大統領との会談

  2.チリのボリッチ大統領との会談

  3.タイのペートンターン首相との会談

  4.シンガポールのローレンス・ウォン首相との会談

  5.ニュージーランドのラクソン首相との会談

  6.日本の石破首相との会談

 このように、石破首相との会談の報道は最後に回され、中国では重要性を最下位に見積もっていることが分かる。

 逆に韓国との首脳会談は、中国外交部の報道によれば、実際の時系列的には3番目なのだが、CCTV4の報道ではトップに持って行っており、日本との大きな差別化を強調している。その原因の一つは、石破首相の冒頭での挨拶場面にあったのではないかと考えていいだろう。

 習主席は「1~5」の首脳に対しては会談中も満面の笑みを浮かべて話し、「6」の日本の石破首相との会談の時のみ、一瞬たりとも、「ニコリ」ともしなかった。

 

◆習主席と各国首脳との会談に関する写真

 その証拠に、各国首脳との握手の場面と会談のときの習主席の表情を以下に示す。場合によっては、ご参考のために会談中の相手国首脳の表情や中国側の高官たちの表情もお示しする。

 

図表1:習主席と韓国大統領の握手場面と会談中の習主席の表情

出典:CCTV4

 

 韓国の尹錫悦大統領は最初の挨拶の時からにこやかな笑顔で習主席に近づいていった。そのためか会談中も習主席も笑みをたたえながら話をしている。習主席の両脇を固める中国側高官たちも、尹錫悦大統領の話に好意的に真剣に耳を傾けているのがわかる。

 韓国は米国と軍事同盟まで結んでおり、対中包囲網という点では日本よりも激しい状況にあるが、それでも首脳同士が会ったときには友好的な表情を見せるのが外交儀礼というものだ。いつもはあまり好意的印象を持てない尹錫悦大統領だが、こういう時には知性というものが輝いて見える。石破首相との違いが歴然としている一幕だ。

 

図表2:習主席とチリ大統領の握手場面と会談中の習主席の表情

出典:CCTV4

 

 チリのボリッチ大統領も笑顔で習近平に近づき握手を交わした。会談中、習主席は始終、笑みをたたえていた。

 

図表3:習主席とタイ首相の握手場面と会談中の習主席とタイ首相の表情

出典:CCTV4

 

 タイのペートンターン首相は習近平に近づくときに満面の笑顔とともに、タイ語と思われる言葉で挨拶をしながら握手している。もちろん会談中も真っすぐに習主席を見つめ、外交的に礼儀正しい。習主席の方も、もちろん会談中は笑みを絶やさず、横に並ぶ中国高官たちの顔も明るい。

 

図表4:習主席とシンガポール首相の握手場面と会談中の習主席とシンガポール首相の表情

出典:CCTV4

 

 シンガポールのローレンス・ウォン首相は最初の握手から始まり、会談中も満面の笑みをたたえていた。当然のことながら、習主席の方も、この上ない笑顔で応じることになる。

 

図表5:習主席とニュージーランド首相との握手場面と会談中の習主席とニュージーランド首相の表情

出典:CCTV4

 

 リンク先をご確認いただければ明らかだとは思うが、ニュージーランドのラクソン首相のはじけるような笑顔は、握手の時だけでなく会談中も続き、驚くばかりだ。ニュージーランドが米国側に付くか中国側に付くかは、習近平にとっては非常に大きい。

 

図表6:習主席と日本首相との握手場面と会談中の習近平と中国側高官の表情

出典:CCTV4

 

 さて、いよいよわが日本国。

 石破首相の一貫した仏頂面は、くり返すまでもないが、当然のことながらCCTV4の報道をご覧になれば明らかなように、会談中に習主席が一度も笑みを見せなかったのは石破首相との会談の時のみである。両脇を固める中国政府高官も、険しい表情を見せたのは石破首相との会談の時のみだった。

 図表1の韓国大統領との会談のときの中国政府高官たちの表情と見比べれば、どれだけ歓迎されていないかが一目瞭然。もっとも、すぐ消えてなくなる首相だという気持ちも働いているかもしれないが、ペルーにおける2国間首脳会談では、石破首相が最下位に置かれているというのが如実ににじみ出ている。

 

◆日本のニュースが報道する「日本人の願望」

 だというのに、日中首脳会談に関して報道する日本のニュースには「石破首相の表情が穏やか」とか、「習主席が日本に秋波を送っている」というような類のものが多い。あまりに多いので列挙しきれないが、一つだけ挙げると、たとえば時事通信社の11月16日の記事<中国主席、日韓に秋波 トランプ氏復権見据えなどがあり、そこには「対中強硬姿勢を示すトランプ次期米大統領の就任を見据え、中国との間で懸案を抱える近隣国に秋波を送った形だ」と書いてある。

 なんとまあ、日本に都合のいい解釈だろう。

 なお、石破首相が習主席に近づくときの動画は中国では報道していない。日本の動画では11月16日のNHKのこのニュースの55秒辺りをご覧になると、習主席が近づいてくる石破首相に「下午好(シャーウーハオ)!」(こんにちは!)と言っているのを確認することができる。また同じく11月16日、日本のFNNプライムオンラインは、かなり詳細に石破首相が習主席に近づいていくときの両者の表情を映し出しているので、これをご覧になると、本稿冒頭から書いている状況をご理解いただけるのではないかと思う。

 習主席は最初の瞬間、石破首相の、あまりの憮然とした表情に、握手した後はさすがに儀礼的笑みを浮かべるかと思ったのか、振り返って、もう一度石破首相の顔を確認している。そのときも石破首相は仏頂面を崩さず、目を合わそうとさえしなかった。各国首脳で、習主席と会う時に「目を合わさない」というのは、前代未聞で、石破首相が初めてではないだろうか。

 しかしそれでも、FNNプライムオンラインでは、「日本時間16日朝に始まった会談で、石破首相はあまり笑顔を見せなかったものの、習主席と穏やかな表情で握手を交わしました」と解説している。これには驚いた。日本人の目には、石破首相のこの異様な、外交儀礼から大きく外れた所作が、「穏やか」と見えるのだろうか? 埋めがたい違和感を覚える。

 

◆トランプ2.0で高関税をかけられても中国は怖くない

 11月7日のコラム<トランプ勝利を中国はどう受け止めたか? 中国の若者はトランプが大好き!>や11月10日のコラム<トランプ2.0 イーロン・マスクが対中高関税の緩衝材になるか>に書いたように、習主席はトランプ2.0の高関税を恐れていない。トランプ1.0時期における制裁や高関税があったお陰で、習主席は逆に中国人民に自力更生を呼びかけたため、今では新産業に関して中国が世界一になったからだ。2015年にハイテク国家戦略「中国製造2025」を発布したが、到達目標年である来年2025年を待たずして、中国はほとんどの新産業分野で世界のトップを走るに至っている。

 おまけに徹底して中国側についているテスラのイーロン・マスクCEOが台湾独立に絶対反対だし、その影響を受けてか、トランプ次期大統領は今年10月18日、「中国がもし台湾を武力攻撃したら米国はどうするか」という質問に「100%、いや200%の関税をかける」と回答している。

 習主席にとって、こんな嬉しいことはないだろう。

 最大200%の関税に耐えさえすれば、共産中国は建国前からの念願である「台湾統一」を成し遂げても、米国は文句を言わないということになるのだから。

 台湾のネットでは「なに?台湾の価値はたった関税200%分?」という皮肉ともつかない怒りが溢れているくらいだ。習主席がトランプ2.0の高関税を恐れて日本に秋波を送るなどということは、絶対にないと断言できる。

 なお、中国外交部の報道によれば、石破首相は習主席との会談で、「日本は、歴史を直視し、未来に向き合う」と言っている。拙著『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』そのままに、「歴史を反省します」と誓ったことになる。

 相手にひれ伏しているのは「どちらなのか」ということになろうか。

 

 この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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