双十節(10月10日)における台湾の頼清徳総統の独立志向演説を受けて、10月14日早朝、中国人民解放軍は大規模軍事演習「連合利剣ー2024B」を実施した。これは台湾独立派に対する警告で、台湾包囲作戦の一環であったが、同時に、石破首相の対中包囲網「アジア版NATO」に対する警告でもあったことが見えてきた。
中米の奇妙な接近も気になるところだ。
◆解放軍の大規模軍事演習は台湾包囲作戦の一環
10月14日午前8時(日本時間9時)の中国共産党機関紙「人民日報」姉妹版「環球時報」は<解放軍「連合利剣ー2024B」演習を展開、専門家:頼清徳「謀独(独立を謀る)」挑発は必ず懲罰を受けなければならない>という見出しで、おおむね以下のような報道をしている。
●台湾の指導者が独立を求めて挑発すれば、そのたびに人民解放軍は必ず反撃し、それもますます強力に行う。
●中国人民解放軍東部戦区は同日、陸軍、海軍、空軍、ロケット軍などの部隊を組織し、台湾海峡、台湾島北部、台湾島南部、台湾島東部で「連合利剣ー2024B」を実施し、船舶や航空機が多方向から台湾に接近し、あらゆる軍務と兵器を指揮した。
●これは実際の統合戦闘能力をテストするための包括的な制御権の掌握などが焦点となった。
●自国の軍隊が演習を実施するか否かは、国家権力の範囲内の問題で、我が国の憲法は、台湾が中華人民共和国の神聖な領土の不可侵の一部であると明確に規定している。
●1949年の国連の「国家の権利と義務に関する宣言草案」によると、国家は他の国の権力による命令や強制を受けず、あるいは外部の干渉を受けることなく、自らの意志に従って内外情勢を処理する権利を有する。したがって、国は国内法を通じて自国の軍隊の建設と使用を規制する権利を有する。
●わが国の「国家安全(維持)法」、「国防法」及び「反国家分裂法」に則り、人民解放軍は台湾が「台湾独立」分離主義勢力によって分離されることを絶対に許さないことを示すのみだ。分離主義者の挑発が大きければ大きいほど、反撃はより激しくなる。(午前8時の環球時報報道の概要は以上)
環球時報は10月14日午後3時51分になると、<「連合利剣ー2024B」演習は台湾島の主要港の封鎖を実施 専門家:台湾のエネルギー輸入を封鎖する能力がある>という見出しで、軍事演習が台湾のエネルギー源輸入を断つことにあることを説明している。
これは5月26日に書いたコラム<アメリカがやっと気づいた「中国は戦争をしなくても台湾統一ができる」という脅威>で述べた攻略法と全く同じものだった。
図表1に示すように、3回にわたる大規模軍事演習で、解放軍は台湾をほぼ完全に瞬時に包囲し、主要な港湾を封鎖することができることを軍事演習により体現したのである。図表の出典は中央テレビ局CCTVのウェイボー(weibo)だ。
図表1:3回にわたる大規模軍事演習で台湾をほぼ完全に封鎖
そして10月14日午後7時(日本時間8時)になると、中国人民解放軍東部戦区は「軍事演習は円満に完成した」と宣言した。
◆中国国防部:日本は排他的軍事同盟「アジア版NATO」をやめよ!
10月15日になると、中国の国防部は記者会見を開き、<日本は排他主義的軍事同盟と小グループを停止せよ>という見出しで、記者会見の模様を伝えた。それによれば国防部新聞局局長は、記者の「アジア版NATO」に関する質問に対して、以下のように発言している。
記者:日本の石破茂新首相は、西側諸国と団結して「中国を封じ込めるため」に「アジア版NATO」を設立する必要があると述べた。日本の防衛省当局者らは、中国とロシアによる日本の領空侵犯は地域社会と国際社会の懸念事項となっていると述べている。これについて中国はどう思うか?
国防部:日本は、国際社会の目を日本の軍拡からそらすために事実を無視し、ありもしない「中国の脅威」を誇大宣伝しているが、中国は断固反対する。周知のとおり、日本は近年、平和憲法と「専守防衛」政策の制約を打ち破り続け、軍備を大幅に拡張しており、アジアの近隣諸国や国際社会の高い警戒を引き起こしている。われわれは日本に対し、排他的な軍事同盟(アジア版NATO)や小グループへの関与をやめ、軍事安全保障の分野での言動に慎重になり、地域の平和と安定の維持に資するよう忠告する。
10月15日、国防部は引き続き<米日印豪「4か国機構」(クワッド)は、米国が中国を封じ込め、覇権を維持するための政治的手段となっている>という見出しで、日米豪印が10月8日からインド洋で「マラバール」連合訓練を行っていることを激しく非難した。国防部は以下のように言っている。
――中国は、関係国間の防衛・安全保障協力は第三者の利益を損ねたり、地域の平和と安定を損ねたりしてはならないと考えている。いわゆる「4か国機構」(クワッド)は、完全にアメリカが中国を封じ込め、覇権を維持するための政治的手段となっている。中国は、関係者がことあるごとに中国に難癖をつけ、陣営間の対立を生み出し、地域の緊張を高めることに断固として反対する。小グループは大きな変化にはなり得ない。アジア太平洋地域は、地政学的な駆け引きの舞台ではなく、各国が協力する大きな舞台であるべきだ。中国は関係国に対し、ゼロサム対立への執着を捨て、地域の共通の安全を守ることに貢献する行動をとるよう求める。(以上)
大規模軍事演習を終えた翌日の10月15日は、もっぱらこの国防部の報道でもちきりで、人民網・軍事チャンネルも同様の報道をし、また国防部はその動画も発信した。
日本の一部のメディアでは、大規模軍事演習の翌日がいやに静かで、軍事演習の話がピタリとなくなったのは、内部の権力闘争であるかのような分析があるのには驚いた。
翌日の15日には国防部が日米豪印の共同訓練を非難し、特に石破首相の「アジア版NATO」に焦点を当てることに中国は専念していたのである。
それは、大規模軍事演習が警告を発したのは台湾内の「台湾独立」派だけでなく、「台湾独立」をそそのかす日米に警告を発したということを傍証する動きであるとも言える。
◆習近平とバイデンが米中関係全国委員会晩餐会に祝電
10月15日には、もう一つ奇妙なことが起きている。
中国の外交部は10月16日、15日に<習近平国家主席とバイデン大統領が米中関係全国委員会2024年度授賞式晩餐会に祝賀の書簡を送ったこと>を報道している。
習近平は書簡の中で、なんと、「中国はアメリカとパートナーかつ友人になる用意がある」と述べているのだ。「米中の友好関係は、両国にだけでなく、世界にも恩恵をもたらすだろう」ともしている。
バイデンもまた同様に祝賀の書簡を送ったと、外交部は報道している。
これは、何を意味するのだろうか?
「日本ごときが、こともあろうに自ら率先して対中包囲網を形成するためのアジア版NATOを構築しようというのなら、なんなら中国はアメリカと仲良くしてやってもいいんだぜ」という、中国特有の皮肉を日本に投げかけているのである。「はしごを外してやる」という意味だ。
バイデンの方は何としても在任中に習近平に会おうと、あの手この手を使っている。たとえば今年8月29日、習近平は訪中しているアメリカのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)と会談しているが、これもバイデンと習近平の会談を実現させたいというアメリカ側の期待に応じたものだ。そのとき自民党元幹事長の二階俊博氏が訪中していたが、習近平は二階氏には合わず、サリバンとは会っている。
こうやって「御しやすい」石破政権から崩してやろうというのが、中国の10月15日の一連の行動なのである。
中国としては台湾の独立も香港の民主化運動も、「第二のCIA」と呼ばれているNED(全米民主主義基金)が暗躍しているためだという絶対的事実は熟知している。世界のいたる所で、対米従属的でない政権があったら、その反政権集団を育てあげて、選挙などの手段を用いて対米従属的でない政権を倒すことを、CIAおよびNEDは長きにわたり実行してきた。第二次世界大戦後はCIAがその役割を担い、1983年からは「第二のCIA」と呼ばれるNEDがその任務を担って、アメリカの一極支配を支えてきた。
今ではアメリカ国内でさえ、反トランプ陣営として選挙運動で暗躍している。だからトランプは「敵は米国内にいる」という趣旨のことを主張しているのだ。
対外的には明確な例がある。
トランプはNED系列ではないので、たとえばかつて北朝鮮の金正恩と会談して朝鮮半島問題を解決しようとしたが、NED系列のボルトン(元大統領補佐官)がそれを潰したことでも明らかだろう。NEDは武器で生きているので、朝鮮半島が平和になると困るのだ。戦争がなくなるとアメリカの武器製造業者である戦争屋が困るので、世界各地に戦争をばら撒いている。世界から戦争が消えない主たる原因は、1983年まではCIAのせいで、それ以降はNEDのせいだ。「世界の平和を守るため」という美辞麗句的大義を掲げて、世界各地に戦争を仕掛けていく。
この巨大な全人類を覆っている暗躍のネットワークを潰すのは容易ではない。
だから中国は潰しやすい日本をコントロールすることを狙っていたが、石破政権はその目的のためには格好の存在なのである。標的は「アジア版NATO」。中国はこのカードを使い尽くすだろう。
10月11日のコラム<石破首相、李強首相との会談で台湾問題に関し「日本は日中共同声明で定められた立場を堅持」と誓う>で書いた石破首相の言動は、その真っただ中にある。その舞台裏で蠢(うごめ)いてものは何か?
その謎解きは非常にスリリングなので、機会があれば別稿で考察してみたい。
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