言語別アーカイブ
基本操作
ペンス米副大統領演説と中国の反応を読み解く
2019年10月27日
ペンス米副大統領 シンクタンクで講演
ペンス米副大統領 シンクタンクで講演(提供:AP/アフロ)

25日、ペンス米副大統領は「米中関係の将来」の中で厳しく中国を批判しながらも、1年前よりは批判のトーンを落としている。中国外交部の激しい抗議と環球時報の「あれ?」という社説から米中関係を読み解く。

◆ペンス副大統領の演説概要

日本時間の10月25日、ペンス副大統領はワシントンにあるシンクタンクの一つ、ウィルソンセンターで「米中関係の将来」というテーマで演説した。

アメリカの国営放送VOA(Voice of America)中国語版は、現地時間24日にライブで全スピーチを放送したので、噛り付くように聞いたのだが、中国語の同時通訳がモタモタしていてイライラさせられた。中継中にも多くのネットユーザーからの不満が殺到し「英語の原文で放送し、中国語は字幕スーパーを付けろ!」と書き込んでいたが、ライブなので字幕を付ける時間はなかったのだろう。英語のを探そうとも思ったが、目が離せなかったので我慢して全スピーチを聞いた。

ペンス副大統領は冒頭、トランプ大統領を讃え、トルコの軍事行動などに触れたあと、中国に対

する批判に入った。以下、対中批判に関する骨子をまとめるが、筆者の解説(筆者自身の視点)も「筆者注」という形で加筆する。

1.20年間にも至らない短い期間の間に、「世界史上最大規模の富が移動した」。過去17年間の間に中国のGDPは9倍にも膨れ上がっている。これはアメリカの投資が可能ならしめたものだ。

2.北京はアメリカに4000億ドルにも及ぶ貿易赤字をもたらしたが、これは全世界の貿易赤字の半分に至る。われわれは25年間を使って、中国を再建したのだ。これ以上に現実を表している言葉はないが、失ったものは戻らない。

(筆者注:この「25年間」という言葉は2018年10月4日のハドソン研究所における演説の時にも用いている。これは1992年10月の天皇陛下訪中により、日本が天安門事件に対する西側諸国の対中経済封鎖を解除させてしまったことを指している。92年末から93年にかけて、世界中からの対中投資が一気に、爆発的に増加した。)

3.しかし「失ったものは戻らない」という言葉は、ドナルド・トランプ大統領により覆されるだろう。アメリカは二度と「経済的接触(という手段)のみに頼って共産主義国家・中国を自由な西側諸国の価値観に基づく国家に転換する」という望みを持つことはない。それどころか逆に、トランプ大統領が2017年の国家安全戦略で述べたように、今やアメリカは中国を安全戦略と経済上の競争相手とみなしている。多くの専門家が、中国が短期間内にアメリカ経済を凌駕するだろうと予測しているが、トランプ大統領の大胆な経済政策により全ては変化していくだろう。

4.知財権と我が国の国民のプライバシーおよび国家の安全を守るために、アメリカはファーウェイやZTEなどの違法行為を阻止するために世界各国の盟友たちに北京の5Gネットワークを使うなと警告してきた。

(筆者注:2019年4月3日に米国防総省の諮問委員会が発表した報告書「5Gエコシステム:国防総省に対するリスクとチャンス」では、「アメリカは5Gにおいて中国に敗けている」と認めている。この衝撃が今トランプ政権を突き動かしている。)

5.中国政府は中国人民の宗教の自由を圧迫し、100万人のウィグル・ムスリム(イスラム教徒)たちを監禁・迫害している。そのため先月、トランプ大統領は中国の監視等に関わる公安部門と8つの企業に制裁を加えた。

(筆者注:トランプ政権は今年10月7日、中国の監視カメラ大手ハイクビジョンや公安機関など28団体・企業をエンティティー・リストに追加した。その企業の中には中国のAI国家戦略の指定企業BATISの中のアイフライテックやセンスタイムが入っている。特にセンスタイムはAI顔認証に関して世界のトップに躍り出た企業だ。)

6.台湾は中華文化における民主と自由の灯台の一つだ。アメリカは、より多くの武器売却等によって台湾を支える。香港も数百万の民衆が自由と民主を求めてデモを行っている。香港民衆の権利は1984年の「中英共同声明」によって明らかにされている。アメリカは香港市民のためにメッセージを発し続ける。

7.それでもなお、トランプ大統領は、米中貿易協議が合意を見ることを希望している。われわれは、新しい段階において、中国がアメリカの農業に関して支持し、かつ今週チリで行われるAPECで両首脳が協議書に署名できることを希望している。

演説は以上の骨子の2倍は続くが、中国関係に関して、一応、ここまでにしておこう。

誰でもが「えっ?」と思うのは「7.」だろう。

ここまで強気で勇ましく中国を非難して、聴衆をスカッとさせておきながら、突如、まるで「米中友好」を支持するかのようなメッセージを発するとは、何ごとか?

中国共産党の機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」も「えっ?」「なに、これ!」と驚いている。

それを読み解く前に、勇ましい外交部の華春瑩(か・しゅんえい)報道官の抗議を見てみよう。

◆外交部の猛烈な抗議

外交部の華春瑩報道官は、えくぼのある、にこやかな笑顔の持ち主だが、時によっては戦士のような激烈さで抗議を機関銃のようにまくしたてる。

今回は後者だ。

中央テレビ局CCTV新聞も、新華網も、一様に彼女の長い抗議メッセージを報道した。定例記者会見における発言なのだが、記者からの質問に答えたのではなく、いきなり彼女の方から「敵意丸出しで」、一気に話し始めた。

怒りの骨子は以下の通りである。

一、新中国が誕生してから70年来、中国人民は中国共産党の指導の下に驚くべき偉大なる成果を収めてきた。8億以上の人民が貧困から脱却し、中国は世界最大規模の中間所得層を擁している。世界のGDP成長の30%を中国が担い、中国は今や世界最大の工業国であり貿易国である。如何なる力も中国人民の発展を阻むことは出来ない。

二、中国の人権状況の良し悪しを決める最も重要な判断基準は、中国人民が満足しているか否である。

三、中国では、2億人が各種の宗教を信仰しており、その内2000万人がムスリム(イスラム教徒)だ。

四、中国政府はどのようなことがあっても国家主権と、安全および発展の利益を守る。台湾、香港、ウィグルなどの事柄に関しては、全て純粋に中国の内政問題であり、絶対に如何なる外部勢力の干渉も許さない。ペンスを頭(かしら)とする一握りのアメリカの政治屋がこれらの問題において白黒(善悪)を逆転させ、四の五の言い、デマを飛ばして侮辱することは、まさに内政干渉以外の何物でもない。

五、中国の対外政策は正々堂々としており、中国は人類運命共同体を構築しようとしている。中国は絶対に他国の利益を犠牲にさせて自国の発展を達成しようとは思っていないし、他国を威嚇しながら発展するような真似もしていない。世界は中国の友人ばかりだ。

六、ペンス流の、他国に対して四の五のとケチをつけるやり方や、あの偉そうな態度は、逆にアメリカ自身が抱える様々な厳しい現状には目をつぶり、他国を侮辱することにより自国民のアメリカ政府に対する不満を他国に転嫁させることによってアメリカ政治の欠陥から目を背けさせようという目論見を露呈している。

「四の五の言うんじゃなーい!」と叫ぶ彼女の気炎はまだまだ続くが、これくらいにしておこうか。

◆「なんだ、中国と仲良くしたがってるじゃないか」:環球時報社説

10月25日付の環球時報の社説には類似の抗議はあるものの、「あれ?なんだかトーンが変わってきたぞ…」という疑問を呈しているので、その部分だけをご紹介する。曰く:

――ペンスは演説の後半で、中国と貿易協議の合意に達したいと望み、米中関係を改善したいという積極的な態度を示している。ペンスは中国とデカップリングしたい(中国共産党や中国政府や中国企業との接触を断ちたい)とは思ってないとさえ言い、かつ米中両国の指導者の個人的な友誼を強調している。おまけに米中関係が両国人民にさらなる福祉(と利益)をもたらし、美しい関係と未来を達成することを希望しているとまで言っているのだ。

――ペンスはさらに、「トランプ大統領は特に米中貿易協議が良い成果を出すことに非常に積極的で、中国とは経済的にも文化的に交流を続けたいと望んでいる」と強調した。

――ペンスはトランプが「米中両国は朝鮮半島非核化や中東問題などに関して協力を継続していくことは米中両国にとって殊の外重要である」強調したとも言っている。

以上、環球時報は「結局トランプは<中国との再接触>を望んでいるのではないのか」と疑問を呈している。

僭越ながら、11月9日発売予定の拙著『米中貿易戦争の裏側』は、まさにペンス演説の両面性を裏付ける考察をしたつもりだ。また前述の「筆者注」の詳細も、当該著作の中で検証した。

遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授、北京大学アジア・アフリカ研究所特約研究員、上海交通大学客員教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(2019年11月9日出版予定、毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中文版・英文版もあり)、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Chinese Issue Global Research Institute, Professor Emeritus, Doctor of Science at the University of Tsukuba. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Will be published in 2019/11/9, by Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Chazu Chugoku Kenkoku no Zanka (Japanese Girl at the Siege of Changchun) (including Chinese and English versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chaina jajji — Motakuto ni narenakatta otoko (China Judge: The Man Who Couldn’t Become Mao Zedong),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.