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5月の靖国神社落書き犯は2015年から監獄にいた犯罪者 日本の入管は何をしているのか? PartⅠ
今年5月の靖国神社落書き犯・董光明(出典:中国のネット)
今年5月の靖国神社落書き犯・董光明(出典:中国のネット)

5月31日夜に靖国神社入り口の石柱に登り英文字で「Toilet(トイレ)」と書き、6月1日に帰国した董(とう)光明容疑者は、実はこれまでに中国で度重なる犯罪行為を続け、2015年には賭博場違法開設などの罪で逮捕され服役していた。3年以上の懲役刑で監獄にいたが2017年に減刑され釈放されている。

その後も自身の猥褻な風俗歴を暴露してアクセス数を稼いだり、恐喝をくり返したりなどしていたので、彼のアカウントは2024年2月に使用禁止となったほどの、中国では名だたる「凶悪事件常習犯」だ。今年5月には恐喝で大金をせしめた直後に来日し、靖国神社で落書きし、それを動画配信して金儲けをしようとした(彼自身のアカウントは凍結されているので友人のを借りたものと推測される)。

8月27日に中国の杭州市公安局は5月の脅迫事件で董光明を拘束した。

日本ではこれを「脅迫事件を口実に、見せしめとして拘束し、靖国落書き事件をもみ消そうとしている」という類の情報が氾濫しているが、全く逆だ。

違法賭博や恐喝などで収監されたこともある「凶悪事件常習犯」を、日本の入管が調査もせずに日本に入国させたことの方が大きな問題ではないのか。

日本の入管の手ぬるさを抜本的に改善しない限り、日本における同類の犯罪は今後も必ず続く。

◆2015年に刑事事件で逮捕され監獄にいた董光明

董光明は、どれから説明していいか分からないほどの犯罪歴を持っているが、先ずは2015年に逮捕され監獄にいた状況を、裁判所の文書を基に説明したい。

中国には<中国裁判文書網>というウェブサイトがあって、さまざまな裁判における判決文を見ることができる。念のため、「中国裁判文書網」のトップページは図表1のようになっている。

図表1:「中国裁判文書網」のトップページ

 

出典:中国裁判文書網

出典:中国裁判文書網

 

ただし具体的な文書の検索や閲覧は、中国での「携帯番号、身分証明書、実名、顔認証」の提出など、多くの手続きが必要となる。そこで筆者はやむを得ず中国に帰国した昔の教え子に頼んで、董光明に関する判決文を探し出してもらった。

その結果得た情報を、以下にご披露する。

2015年11月7日に湖南省郴州市中級人民法院は「刑事判決文」として、図表2に示したような「董光明、賭博場開設と不法拘禁事件の二審刑事判決書」を発布した。

図表2:2015年11月7日に董光明に下した刑事判決文

 

出典:中国裁判文書網

出典:中国裁判文書網

 

図表2に書いてあるのは、おおむね以下のような内容だ。

 ――控訴人(第一審被告人)董光明、男、漢族、浙江省岱山県出身、大専卒業、無職。2014年4月20日に、賭場開設罪の容疑で刑事拘留され、同年5月16日に保釈された。2014年11月21日に監禁罪の容疑で刑事拘留され、同年12月26日に保釈されたが、2015年1月26日に逮捕された。現在は郴州市拘置所に拘留されている。

第一審被告人王強、男、漢族、湖北省崇陽県出身、高校卒業、無職。2013年10月30日に、賭場開設罪の容疑で刑事拘留され、同年11月26日に保釈されたが、2015年1月26日に逮捕され、2015年4月27日に保釈された。

◆判決文全文の概要

但し、図表2に示したのは判決文の冒頭部分に過ぎず、判決文の全文は非常に長い。しかし、日本の入管がいかに甘く杜撰(ずさん)であるかを認識していただくために、判決文の全文の概略をご紹介したい。

判決文は大きく分けると、「一、賭博場を開設した犯罪事実」と「二、不法拘禁の犯罪事実」の二つに分かれている。それぞれに関して、概略を示す。

一、賭博場を開設した犯罪事実

2013年6月と7月に、被告人・董光明と王強は、共同で投資してインターネットを利用した賭博場を開設することに合意した。その後、被告の董光明と王強は、QQを利用してインターネット上に「六六低調群」という名のQQグループを設立し、王某・邹某・程某(いずれも別件で処理)およびその他のスタッフを雇って、賭け金の受付や集計などをやらせた。

2013年7月から8月にかけて、李某・陳甲・陳乙・戴某らを組織して「六六低調群」に参加させ、被告人・董光明と王強は上記の人々と「闘牛」形式の賭博行為を行った。賭博では、董光明・王強は、李某・陳甲・陳乙・戴某らから総額310万元(約4900万円)の賭け金を受け取り、70万元(約1100万円)の不法利益を得た。被告人・董光明と王強はそれぞれ30万元(約470万円)と40万元(約630万円)を受け取った。

2014年2月、「六六低調群」が公安機関によって封鎖された後、被告人・董光明はQQを利用して「九楽牛牛群」と「九楽炉子群」を登録し、継続して賭博場を開設した。

2014年2月から4月にかけて、他のギャンブラーを誘い込み、「闘牛」などの方法で賭博を続け、計29万元(約450万円)の賭け金を不正に受け取った。

二、不法拘禁の犯罪事実

2014年9月、被告人・董光明は、賭博場開設の合弁事業中に何度も被告人・王強に債務を返すよう要求したが失敗した。その後、友人の「風拐(ふうかい)」(別件で処理)と食事中にその件を伝えた。すると友人「風拐」は被告人・董光明氏に、王強がお金を返さない場合は、王強をある場所に連れて行き、殴打などの方法を使ってお金を返済させることもできると述べた。

同年9月28日午前12時頃、被告人・董光明は王強と食事を共にする約束を取り付けたあと、「風拐」に電話して手伝うよう求めた。その後、「風拐」は被告人・董光明と王強を桂陽県のホテルまで車で送った。被告人・董光明はホテルの個室で王強から借金を返せと追及し、両者の間で争いが起きた。その後、「風拐」らはホテルの個室に突入し、被害者・王強を殴打し、借金の返済を強要し、ホテルから出ることを許さなかった。

同日17時頃、被害者・王強が友人に頼んで「風拐」が指定した銀行口座に3万元(約50万円)を送金した後、被告人・董光明、「風拐」らは、武漢広州高速鉄道の郴州西駅で王強を解放した。

◆董光明被告減刑保釈

2016年12月27日、湖南省郴州市中級人民法院は被告人・董光明に対する減刑「刑事判決文」を公布した。それを図表3として示す。

図表3:2016年12月27日に公布された被告人・董光明に対する減刑「刑事判決文」

出典:中国裁判文書網

出典:中国裁判文書網


図表3に書いてあるのは、おおむね以下のような内容である。

 ――犯罪人・董光明、男、1987年12月1日生まれ、漢族、大専卒業、浙江省岱山県出身。現在、湖南省桂陽監獄で服役中。

湖南省郴州市蘇仙区人民法院は、2015年4月23日に(2015)郴蘇刑初字第33号刑事判決を下し、董光明を賭場開設罪および違法拘禁罪で懲役3年6か月と罰金4万元(約78万円)(既に執行済み)に処した。また、不正所得30万元(約470万円)を追徴し、そのうち2万8402元(約47万円)が既に執行されている。董光明はこの判決に不服を申し立てたが、本院(本裁判所)は2015年6月5日に(2014)郴刑一終字第80号刑事裁定を下し、上訴を棄却し、原判決を維持した。判決が法的に確定した後、刑の執行が開始され、刑期は2015年1月26日から2018年5月23日までとなっている。

執行機関・湖南省桂陽監獄は、2016年12月13日に減刑の建議書を提出し、犯罪人・董光明に1年の懲役減刑を求める。(以上)

判決文は非常に長いので省略するが、最後の方に、「服役中の態度良好につき、刑期を2017年5月23日まで短縮した」旨のことが書いてある。

かくして、2017年5月23日に董光明は釈放されたが、その後の犯罪歴はあまりに長いので、本稿(PartⅠ)では、ここまでとする。続きはPartⅡで書くつもりだ。それも一つのコラムに収まり切れなければさらに続きを書くかもしれない。

◆日本の法務大臣および法務省入国管理局は何をしているのか?

日本の法務省への提言はPartⅡ(およびそれ以降)を書き終えてからにすべきかもしれないが、しかし、この段階でも、いかに入管が怠慢をしているかが明瞭だろう。

筆者は長年にわたって「中国人留学生の偽造書類の見つけ方」など、入国審査の際の注意点に関して入管のスタッフに無料で情報提供をし、実際にどこに偽造である証拠があるかを、手取り足取り、懇切丁寧に指導してきたつもりだ。

その頃の入管局のスタッフは非常に熱心で、謙虚に耳を傾けてくれた。

最近どのようになっているのか、直接の接触がないので分からないが、しかし本稿で書いた内容をご覧になっただけでも、本気で入国審査をしようと思えば、いくらでも「入国を拒否」できたはずだ。

事実、入管法では【上陸の拒否】の「第五条」に「次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に上陸することができない」として「日本国又は日本国以外の国の法令に違反して、一年以上の懲役若しくは禁錮又はこれらに相当する刑に処せられたことのある者」と書いてある。

これを忠実に履行してないという職務怠慢が日本の法務省にあり、その最終責任は、法務大臣が負わなければならない。

この職務怠慢にこそ問題がある。

このような悪質な犯罪者を見つけ出す努力をせず、日本に入国することを簡単に許可するなど、絶対にあってはならない!

法務大臣に告ぐ:せめて本稿で示した「中国裁判文書網」くらいは確認せよ!

そうでなければ日本国を守ることなどできない。

上川元法務大臣は自民党総裁選に立候補しているようだが、筆者にはいかなる個人的関係もないものの、総裁に立候補するということは総理大臣を目指しているに等しい。

現在自民党総裁選に立候補しているすべての自民党議員も、これくらいの自覚を持って日本国を守るべきだ。しかし靖国神社の落書きに関して、今のところ、どなたからも、このような建議がない。

本稿に書いた事実を直視せずに、日本国を守ることなど絶対にできないと断言できる。

本気で日本国を守りたいと思っているのなら、勇ましい言葉だけでなく、こういった基礎を認識し、着実に実行すべきではないのか。政府の反応を待ちたい。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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