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ハリス指名受諾演説、対中政策なく理念だけ トランプ氏猛口撃
アメリカ民主党党大会におけるカマラ・ハリス副大統領(写真:REX/アフロ)
アメリカ民主党党大会におけるカマラ・ハリス副大統領(写真:REX/アフロ)

現地時間8月22日、アメリカのハリス副大統領は民主党大会で大統領候補の指名受諾演説を行った。演説で“China”という言葉は1回しか出て来ず、それも理念を述べたのみで政策に関して語らなかった。するとトランプ前大統領が激怒してテレビ中継で批難。そのことが中国語のネットで大きく取り上げられている。

◆ハリス指名受諾演説で一回だけ出てきた“China”

米民主党の党大会最終日の8月22日に、カマラ・ハリス氏は次期大統領候補の指名受諾演説を行った。その中で中国に関して触れたのは、以下の文章だけである。

 ――I will make sure that: We lead the world into the future on space and artificial intelligence. That America — not China — wins the competition for the 21st century. And that we strengthen — not abdicate — our global leadership.(私は「私たちアメリカが、宇宙と人工知能の分野で世界を未来へと導くこと。21世紀の競争に勝つのは中国ではなくアメリカであること。そして世界のリーダーシップを放棄するのではなく強化すること」を約束し実現します。)

“China(中国)”という言葉が出てきたのは、この一個所だけで、それを実現するための具体的な政策には一切触れず、理念(=理想→希望?)を表現しただけだった。

すると、共和党の次期大統領候補者であるドナルド・トランプ前大統領が激しく嚙みついた。

◆FOXニュースで激しく嚙みついたトランプ氏

8月22日、アメリカの共和党寄りメディア「FOXニュース」が民主党党大会におけるハリス候補の演説を生中継していた。

どうやらハリス演説が終わったら、トランプ氏を取材してコメントをもらう段取りになっていたらしい。ところがトランプ氏はその時間まで待つことができず、FOXニュースに電話して、まだハリス演説を生中継している最中の生番組に途中から割り込ませて、喋り始めたのだとニューヨークタイムズが舞台裏を詳細に報道している

トランプ氏が強引に割り込んだ後の動画が世界に流れた。そこからの報道は、こちらでご覧になることができる。中継がつながると、トランプ氏は「息もつかない」ほどの勢いで喋り始めた。その中で、ハリス氏が中国問題に関して何も話していないという件(くだり)がある。

そこが責めどころと言わんばかりに、もう言葉が止まらない。

よくぞここまで淀みなく喋り続けることができるものだと感心するほど、ともかく一瞬たりとも「途切れ」がない。スピードも凄い。

司会者が途中で止めようとするが、「息つぎ」の瞬間を捉えることができないので割り込めない。強引に電話回線を切ってしまう以外にないので、最終的に「ここまでです」と司会者が言って中継のオンラインから「一方的に切ってしまった」。

FOXニュースは娯楽番組に切り替えたが、司会者は「今もトランプはまだ(オンエアされることなく一人で)話し続けていますよ」と、決定的なひとことで話題をさらっていった。

◆盛り上がる中国語圏のネット

すると図表1のようなスクリーンショットを貼り付けて、中国語圏のネットが盛り上がった。

図表1:FOXニュースでハリス演説の口撃をするトランプ

出典:FOXニュース動画の一場面(スクリーンショット)

出典:FOXニュース動画の一場面(スクリーンショット)

中国大陸側のネットも、香港のネットも、そしてVOA(Voice of America)中文版などのアメリカの中国語ウェブサイトも、ハリス氏が指名承諾演説で「対中政策」に関しては触れず「アメリカが中国に勝つ」という理念だけしか言わなかったこととか、トランプ氏が激怒して口撃したことなどを、これでもか、これでもかと報道しまくったのである。

そのどれを取り上げればいいか、多すぎて選ぶのが難しいが、そういう情報が湧いたという証拠に、いくつかを列挙してみよう。

 ●哈里斯正式接受民主党总统候选人提名并发表演讲,特朗普怒批:她都没谈到中国(ハリス民主党大統領候補指名受諾演説にトランプ激怒して批判:彼女は中国問題に触れていない)

 ●哈里斯接受民主党候选人提名 她都没谈到中国(ハリス民主党候補者指名受諾も、中国問題に触れていない)

 ●终谈外交政策,哈里斯开始画大饼:21世纪的赢家会是美国,不是中国(最後に外交政策に触れ、ハリスはパイを描き始めた:21世紀の勝者は中国ではなくアメリカ)

 ●美国民主党全国代表大会落幕 中国议题占几何?(アメリカ民主党全国代表大会閉幕 中国の議題はどれくらい語られたのか?)

 ●获民主党正式提名后,哈里斯亮明对华态度,放话不许中国赢下竞争(民主党の正式指名受諾後、ハリスは対中態度を明らかに 中国が競争に勝つことは許さない)

列挙はこれくらいにしておくが、思うに、ハリス氏が中国問題に深入りできなかったのは時間の問題ではなく、外交経験がないので、中国に関してはバイデン大統領が言ってきたこと以上の内容は何も持っていないからではないだろうか。そのため「中国通」のティム・ウォルツ氏を副大統領候補に選んだ。

しかし8月8日のコラム<ウォルツ米副大統領候補 教師として中国赴任後10年連続訪中>に書いたように、ウォルツ氏は実は中国が好きだ。今でこそ、そうではない振りをしているが、コラムでの図表2の喜びに満ちた笑顔をもう一度ご覧になっていただきたい。これは天安門事件後に訪中したウォルツ氏の笑顔である。

図表2:友人にもらったプレゼントを喜ぶウォルツ氏

 

出典:中国のWeibo

出典:中国のWeibo

 

トランプ氏はウォルツ氏のことを「嘘つきだ」と言っている。少なくとも対中姿勢に関しては筆者も「嘘をついている」とまでは言わないにしても「本当は中国が好きだけど、無理して嫌中を装っている」と思う。彼は正直ではない。

現に、VOA中文版は<哈里斯成为民主党总统候选人,中国学界民间看好(ハリスが民主党の大統領候補となり、中国の学界や民間人は喜んでいる)>と書いている。

この流れから行くと、9月10日に行われる大統領選公開討論会では、おそらく中国政策が大きなテーマになるだろう。

ハリス氏は8月16日の政策演説で、トランプ氏が提案した中国に対する輸入関税は、アメリカが他国から輸入する日用品に「トランプ税」を課すことに等しいと述べ、アメリカ国民の生活負担を増大させ、「アメリカ国民を破滅させる」とまで述べている

彼女は副大統領なのに、バイデン大統領が対中高関税を次々にかけていることを知らないのだろうか?

まさかとは思うが、たとえば「半導体に50%、EVに100%、太陽光パネルに50%」など、列挙すればキリがない。

このような調子では、9月10日のトランプvs.ハリス討論会においてトランプに対中強硬策に関して突かれたら、ひとたまりもないだろう。

もしハリス政権が誕生したときに、どこまで本気で対中強硬政策を立て実行していくことができるのか、じっくり観察したいものだ。

この論考はYahoo!ニュース エキスパートより転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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