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護衛艦「いずも」をドローン撮影した「犯人」は何者か?
「小号4」がドローン撮影した護衛艦「いずも」の画像(「小号4」のツイートより)
「小号4」がドローン撮影した護衛艦「いずも」の画像(「小号4」のツイートより)

3月26日に、中国の「Bilibili」という動画サイトで公開された日本の海上自衛隊の護衛艦「いずも」の空撮画像・動画が本物であることを、5月9日になって防衛省が認めた。ドローンで撮影できたこと自体、日本の自衛隊のセキュリティのあまりの「ずさんさ」を世界に知らしめてしまったが、本物であることが分かるまでに約1ヵ月半もかかったという防衛省の能力限界も驚きだ。

日本のセキュリティの甘さの裏をかき、ドローン撮影に成功したのは誰なのか?

◆護衛艦「いずも」のドローン映像

まずは事実関係を簡単に整理しておこう。

冒頭に書いた中国の動画サイトBilibiliに投稿した人物のアカウントは「这是我小号4」(これは私のサブ・アカウント4です)。今後この人物を「小号4」と称することにすると、「小号4」はその動画に「我开飞机降落日本航母(不是游戏!!!」(私は飛行機で日本の空母に降り立った)(これはゲームではありません!!!)と書いている。

公開されたのは海上自衛隊の横須賀基地に停泊中の護衛艦「いずも」をドローンから空撮したと称する動画で、これは中国のネット空間でたちまち注目の的となった。

なぜなら、日本の海上自衛隊のセキュリティがそんなに甘いはずがないと思っているので、「ドローンによる空撮など、できるはずがないだろう!」というのが、中国のネット民の第一反応だったからだ。

そこでネット民たちは「小号4」の動画の信憑性を判断するためにネットに出回っている「いずも」の画像と比較し始めた。「いずも」の画像はいたるところにあり、本来は船尾甲板に艦番号下二桁の「83」がある。

しかし「小号4」が公開した動画には「8」しかなく、「3」が見えないと疑う人が出ていた。そこで最初のころはAIのミスだろうとかフェイクだとかゲームから切り取ったのだろうというコメントが多かったが、4月2日に日本の情報<ヘリコプター護衛艦「いずも」を無許可ドローン撮影か、艦番号83の3が薄れて見えない特徴は実物と一致>が出ると、中国のネット民はようやく納得。

4月2日に「小号4」はX(旧Twitter)で動画を再公開した。それが図表1に示す画像である。Bilibiliサイトの動画はすでに削除されていた。

図表1:「小号4」による「いずも」ドローン撮影動画の一コマ

 

「小号4」による「いずも」ドローン撮影動画からキャプチャー

「小号4」による「いずも」ドローン撮影動画からキャプチャー

 

気をよくしたのか、4月3日に「小号4」は<More Izumo pictures>と題してもっと多くの角度からの「いずも」の画像を公開しており、同日、米軍横須賀基地に停泊している空母ロナルド・レーガンの写真も公開した。

まるで、「ほらね!本物だったでしょ?」と言わんばかりだ。

ごく最近では5月8日に「小号4」は「画像2枚+動画一つ」という形で空母レーガンの画像と動画を公開している。それを図表2に示す。

図表2:5月8日に再公開された空母レーガンのドローン撮影の画像と動画

 

出典:5月8日の「小号4」のツイッター

出典:5月8日の「小号4」のX(旧Twitter)

 

◆勘違いされている他のアカウントのドローン撮影動画転載情報

3月29日にアカウント名「现在不兴说这个楚晨official了」(今これを言うのは流行らなくなった 楚晨official)(@1024t66y)が「小号4」の動画の一コマを転載している

日本は何だか、この人を「小号4」と同類扱いして(中国大陸のスパイかもしれないとして)、大事な情報のように分析対象としているようだが(5月9日の自民党国防・安全保障調査会で防衛省資料として扱われているというネット情報も複数あるようだが)、勘違いしてはいけない。

そこに書いてある以下の言葉を注意深く見ていただきたい。

     A Chinese spy used a drone to fly over the JS Izumo

     中国のスパイがドローンを使っていずも上空を飛行した

     疑似一位支国间谍使用无人机飞越了出云号

3番目の中国文にある「支国」という文字は「支那(しな)の国」の意味である。つまり中国を「支那」という、日本では今は禁句となっている中国の蔑称を使っている。ということは、中国大陸(共産中国)をものすごく嫌っている海外にいる中国人の一人だということが見て取れる。だから「小号4」の行為はスパイだと断言している。

アカウント「现在不兴说这个楚晨official了」にある写真は「習近平の娘・習澤明」の顔写真で、「楚晨」は習澤明がアメリカに留学していた時に使っていた名前(匿名)だ。自分の住所として中南海の住所を使い、かつ

     Love NATO(NATOが好き)

     Love Five Eyes(ファイブ・アイズが好き)

     Love AUKUS (オーカスが好き)

     Taiwan Independence!(台湾独立!)

     Stand with UKR&ISR(ウクライナとイスラエルの味方)

と書いてある。徹底した反中の人ということが言える。

どうやら30歳未満の男性のようで、日本に住んでおり、大阪大学に入学したようだ。おそらく広東省付近から来ている(下品すぎる情報源なので、ここでは書かない)。

大阪大学の教務課か留学生センターなどなら、これだけの情報があれば、誰なのかを直ちに特定できるはずだ。特定されても、日本ではおそらく礼賛されるだけで、中国には帰れないだろうが、ここまでの強烈な反中なので帰国するつもりもないにちがいない。

ただ、日本の「専門家」、防衛省あるいは関連の自民党議員の中には、同じドローン撮影した動画が載っているために「小号4」の系列と同じだと勘違いして分析しているものが散見されるので、注意を喚起したい。

◆ドローン撮影をした「犯人」はどういう人物なのか?

それなら、実際に「いずも」のドローン撮影に成功した「小号4」は、いったいどういう人物なのだろうか?

その人物特定に迫ってみたいので、いくつかの情報を集めてみた。

1.金門島のドローン撮影もしている→福建省周辺の人か?

「小号4」は、実は4月5日に金門島を撮影したドローン映像を発表している。  

「ネット上に金門島をドローン撮影したものが多いので、自分も真似をして飛んでいく」と書いている。金門島まで行くのは、それなりに大変なので、直接行ったのではなく、大陸側からドローンを飛ばしたものと考えられる。となれば、金門島の一番近くは福建省だ。福建省周辺に住んでいる可能性があると考えられる。そこからドローンを操作するのは容易なことだろう。漁船事件があったので、民生用ドローンを飛ばして金門島を撮影する福建省界隈の人が最近は多い。

なお、日本でのドローン撮影はネットに公開するよりかなり前に実行したものと推測されるが、金門島撮影の場合は、撮影してから直ぐに公開したのではないかと推測される。

2.日本滞在時は短期滞在か?

日本で自衛隊の護衛艦が停泊しているような区域を撮影するのは違法だということは自覚しているようだから、日本滞在中にはネット公開しなかったのにちがいない。中国に帰国したら、日本の警察に逮捕されることはないだろうから、撮影して程なく帰国したものと推測される。本人は「もう安全だー、捕まらないよ」ともツイートしている。となると、留学生とか日本の会社で働いていた者ではなく、おそらく所属組織から追い出されるような危険性のない在留資格、すなわち観光などの短期滞在者だったのではないかと推測される。

3.プロのスパイではなく、遊びのためか?

「小号4」は中国政府のスパイとかではなく、遊びで「自慢したくて」撮影したものと推測される。

なぜなら、5月9日、日本の産経新聞の報道を引用しながら「おかあさん、私は中国外交部に取り上げられたよ!」と、X(旧Twitter)で母親に大喜びで報告しているからだ。

「小号4」のプロフィールには「ドローン盗撮芸術家世界首席」と書いてある。ここまで話題になったのを自慢しているので、その意味からもスパイとかではなく、ネットで評判になり目立ちたかったというのがうかがえる。

4.日本語がうまい

 5月11日になると「小号4」は、山田宏・自民党参議院議員のX(旧Twitter)に対して、「山田先生、岸田首相に伝えてください。これは純粋な個人的行為であり、中国政府とは何の関係もありません。ありがとうございます」とツイートしている。かなり達者な日本語だ。

以上から、日本の入国管理局は、短期滞在で昨年末か今年初めなどに日本に入国し、福建省周辺の住民で、今年3月前後に中国に帰国し、かつ帰国する際の飛行場での検査で荷物の中にドローンがあった人を検索していけば、ひょっとしたら「犯人」が誰なのかに、たどり着けるかもしれない。ドローンはネットでも購入できる20万円台くらいのものでも、十分に機能するはずだ。

今回の事件は、日本の自衛隊のセキュリティ管理がいかにお粗末であるかを露呈した。どのような手段で禁止区域に飛来してくる民生用程度のドローンをもキャッチして近づけないようにさせるかを研究するのは、日本に課せられた喫緊の課題ではないだろうか。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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