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アメリカの国内法は合法的で中国の国内法は非合法なのか? 台湾と尖閣諸島に関して
領有権を主張する中国(写真:ロイター/アフロ)
領有権を主張する中国(写真:ロイター/アフロ)

アメリカは中華民国と国交を断絶した1979年に、同時に「台湾関係法」という国内法を制定して、台湾への武器売却を大々的に継続している。それどころか、2022年9月に米議会は、台湾政策法案を賛成多数で可決し、同年末に国防権限法の中に盛り込んだ。米国による台湾への軍事支援を大幅に強化する内容のほか、中国が台湾に対し敵対行動に出た場合の対中制裁に関する文言も盛り込まれている。日本はこれを合法として非難することはない。

中国は1992年に「領海法」という国内法を制定した。北京在住の日本メディアの記者が日本の外務省に「大変だ!」と通報したが「まあ、法の整備でもしているのでしょう」として取り合わなかったという。

日本の内閣も江沢民の訪日や、天皇陛下訪中の是非を巡る議論やらに沸き立ち、中国が、「日本の領土領海である尖閣諸島」を中国の領土領海として規定した「中国の領海法」に無関心だった

今頃になって「法の支配を無視する中国」と非難して回っているが、なぜ領海法が制定された1992年には黙認したのか?そして今もなお、ここには目をつぶり、「中国の国内法」を「国際法を乱す悪魔」のごとく日夜喧伝して戦闘態勢に入ろうとするのだろうか?

◆アメリカの国内法は是認されて国際法扱いされている

12月1日のコラム<キッシンジャー「一つの中国」で国際秩序形成 今はそれを崩そうとするアメリカ>で、アメリカが1979年に入るとすぐ(1月1日)に「中華民国」台湾と国交を断絶したことを書いたが、その3ヵ月後の4月10日にアメリカは、国内法として「台湾関係法」を制定した。これは「中華民国」との国交断絶に伴い、それまで結ばれていた「米華相互防衛条約」が破棄されたので、それを補完するものとして制定された安全保障上の法律だ。1月1日にさかのぼって施行された。

怒ったのは中国だ。

これではまるで騙し討ちではないかと、中国は強烈な抗議を表明した。しかしアメリカはお構いなく台湾関係法に基づき「あくまでも台湾防衛用のみに限り、米国製武器を台湾に提供」し続ける姿勢を崩していない。

それどころか、バイデン政権になってからは台湾政策法を制定し、2022年12月には国防権限法の中に位置づけた。これは米議会上院外交委員長が本会議に提出していた「台湾強靭(きょうじん)性促進法案」を加味したものである。台湾の安全保障能力を高めるために5年間で最大100億ドルの支援を行うことなどが含まれている。

一方では同年8月にペロシ米下院議長が台湾を訪問し議会で演説などしたために、中国はアメリカへの抗議表明のために、台湾を包囲する形で、これまでで最も激しい形で軍事演習を行なった。

もちろん西側諸国によって非難されたのは中国で、アメリカは国内法が国際社会でも通じるという基本姿勢を貫いている。

◆中国の国内法を非合法として扱いながら、「領海法」を黙認した日本

アメリカは中国に対して「力による一方的な現状変更は許さない」と言っている対象には、台湾だけでなく南シナ海もある。日本もアメリカの言い分を呪文のように唱えて、「力による一方的な現状変更は許さない」を常套句のように使っている。

しかし、中国の立法機関である全人代(全国人民代表大会)常務委員会が1992年2月25日に、「中華人民共和国領海及び接続水域法」(以下、「領海法」)を採決し制定したとき、日本はいかなる反応もしていない。冒頭で書いたように「中国も法整備をしているんじゃないですか」と日本の外務省はすげない回答を日本メディアの記者にしたし、日本の内閣もスルーした。

同年4月に江沢民総書記の訪日があり、江沢民は天皇陛下の訪中を何としても実現したいと主張していたからというのも、原因の一つだろう。

しかし、領海法の第二条には以下の文言がある。

第二条  中華人民共和国の領海は、中華人民共和国の陸地領土と内海に隣接する一帯の海域とする。中華人民共和国の陸地領土は、中華人民共和国の大陸とその沿海島嶼、台湾および釣魚島を含む付属の各島、澎湖諸島、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島、および中華人民共和国に属する他のすべての島々を含むものとする。中華人民共和国の領海基線から陸側の水域は中華人民共和国の内水である。(引用はここまで)

ここで言う「釣魚島」とは「尖閣諸島」のことで、れっきとした「日本の領土領海である尖閣諸島」に関して、中国が「それは中国の領土領海である」という領海法を制定したというのに、日本はいかなる抗議もしていないのだ。

自国の領土が、他国の領土として法制定されているというのに、それに抗議をしない国というのがあり得るだろうか?

あってはならないことだ!

しかし、これまで何度も指摘してきたように、日本は天安門事件に対する対中経済制裁を解除することに必死で、日本のその甘さを見て取った江沢民は、1992年4月に来日して病院にいる田中角栄に会い、「天皇陛下訪中を実現すれば、二度と再び日中戦争時の日本の侵略行為に対する批判はしない」と約束して、1992年10月の天皇陛下訪中を実現させてしまった。おまけに天皇陛下の訪中が終わると、掌(てのひら)を返したように、1994年から江沢民は愛国主義教育を開始し、激しい反日教育を断行し始めたではないか。

日本は見くびられ、甘く見られているのだ。

こうして中国は中国領海法に基づいて、尖閣諸島領海に侵入するし、南シナ海の九段線と呼ばれる島嶼である「東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島」などを、中国の領土として、中国が使いたい方法で使っているだけになってしまったのである。

「法の支配を守るべき」などと、今さら言ったところで、1992年の中国の「領海法」制定に関して如何なる抗議もしなかった日本には、その資格はない。

これも、これまで何度も書いてきたが、1989年6月4日の天安門事件に対する経済制裁を解除させようとした時期から1992年10月までの天皇陛下訪中までの日本の総理大臣は、以下のようになっている。

   1989年6月 3日~1989年8月10日:宇野宗佑

   1989年8月10日~1990年2月28日:海部俊樹

   1990年2月28日~1991年11月 5日:海部俊樹

   1991年11月 5日~1993年 8月 9日:宮澤喜一

回転ドアと国際社会で揶揄された、目が回るような総理大臣の回転だったが、この間に中国に対する日本の相対的な力関係は決まってしまった。

今さら、アメリカの真似をして、突然のように南シナ海や台湾問題に関し「中国が力による一方的な現状変更をしようとしているのは絶対に許せない!」などと叫ぶのを見ると、滑稽でさえある。

それなら1992年の「領海法」に対する日本の姿勢の弁明を、日本政府にはしっかりして頂きたいと強く思う。

論理なきアメリカ追従というのは、実に恐ろしいものだ。

なお、詳細は拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の第五章に書いた。

この論考はYahooから転載しました。

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。「中国問題グローバル研究所」所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』(ビジネス社)、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(PHP新書)、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』(実業之日本社)、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか』(PHP)、『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤 誉 (著), 白井 一成 (著), 中国問題グローバル研究所 (編集)、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(毎日新聞出版)、『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版・韓国語版もあり)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。2024年6月初旬に『嗤(わら)う習近平の白い牙』(ビジネス社)を出版予定。 // Born in 1941 in China. After surviving the Chinese Revolutionary War, she moved to Japan in 1953. Director of Global Research Institute on Chinese Issues, Professor Emeritus at the University of Tsukuba, Doctor of Science. Member of the Japan Writers Association. She successively fulfilled the posts of guest researcher and professor at the Institute of Sociology, Chinese Academy of Social Sciences. Her publications include “Inside US-China Trade War” (Mainichi Shimbun Publishing), “’Chugoku Seizo 2025’ no Shogeki, Shukinpei ha Ima Nani o Mokurondeirunoka (Impact of “Made in China 2025” What is Xi Jinping aiming at Now?), “Motakuto Nihongun to Kyoboshita Otoko (Mao Zedong: The Man Who Conspired with the Japanese Army),” “Japanese Girl at the Siege of Changchun (including Chinese versions),” “Net Taikoku Chugogu, Genron o Meguru Koubou (Net Superpower China: Battle over Speech),” “Chugoku Doman Shinjinrui: Nihon no Anime to Manga ga Chugoku o Ugokasu (The New Breed of Chinese “Dongman”: Japanese Cartoons and Comics Animate China),” “Chugogu ga Shirikonbare to Tsunagarutoki (When China Gets Connected with Silicon Valley),” and many other books.

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